神風怪盗ジャンヌ vs鬼の第四機動隊   作:山さん

27 / 33
最後通牒1

東京都心、永田町。

総理官邸の奥深くにある執務室では、いつもと違う空気が漂っていた。

桜舞う春の陽差しがカーテン越しに柔らかく差し込み、革張りのソファと重厚なテーブルを淡く照らしている。

 

だが、その穏やかな風景とは裏腹に――

部屋の中で交わされる言葉は、国家の秩序と“少女の運命”を巡る重大な岐路にあった。

 

 

---

 

高城遼子――現代日本において初の女性総理にして、決断を恐れぬ政治家。

その瞳は鋭く、だがどこか母性すら感じさせるまなざしで、目の前の報告書をじっと見つめていた。

そこには“怪盗ジャンヌ”の名と、彼女が巻き込まれた数々の事件、そして――“悪魔”という現実離れした単語が躍っていた。

 

その横に立つのは、警察庁官房長・小野田公顕。

公安の最高責任者にして、数々の闇を摘発してきた男。

その存在は「冷徹」と表されることが多いが、その奥には、深い洞察と人間味が隠れている。

 

そしてもう一人、官邸のバランサー――官房長官・萩原真一。

緊張感が支配する中、総理が静かに口を開いた。

 

 

---

 

「……検察への指揮権発動は、今はまだ検討段階です。

ただそれは、“ジャンヌ=日下部まろん”を――白峰警視たちが、臨海美術館で確保したその後の話。

あの予告状が本物なら、彼女はまた来る。

そのときが、判断の時だと考えています」

 

 

---

 

小野田は無言でうなずく。

長年公安を率いてきた直感が、総理の言葉の裏にある“覚悟”を読み取っていた。

 

総理は続ける。

 

 

---

 

「……今の段階では、彼女を逮捕することはできない。

小野田さん、確認させてください。

現時点でジャンヌ=日下部まろんを、窃盗や不法侵入で起訴できる証拠はありませんね?」

 

 

---

 

「……ありません」

小野田の返答は簡潔だった。

だが、そこに含まれる重みは、国家の司法の限界をも示していた。

 

 

---

 

「彼女はプロの犯人ではない。

行動は綿密だが、悪意が透けて見えるような痕跡がない。

遺留品も防犯カメラの死角も計算されている。

さらに“霊的要因”――悪魔の影響下にあると推測されるため、物証がほとんど残らない」

 

 

---

 

総理は静かに天を仰ぎ、息を吐いた。

目を閉じて、言葉を選ぶように、口を開いた。

 

 

---

 

「……なら、彼女はまだ引き返せる。そうですよね?」

 

 

---

 

「……はい。これ以上、法を犯さなければ――逮捕はできません。

司法も警察も、“未来を選び直した少女”を責めることはできない」

 

 

---

 

その言葉に、総理はわずかに微笑を見せた。

それは政治家としてではなく、“一人の大人”としての表情だった。

 

 

---

 

「なら、最後通牒を出しましょう。

“今ならまだ引き返せる”と。

“これ以上法を犯し、人生を棒に振るな”と。

彼女が一線を越える前に、こちらから差し伸べる“最後の手”を出すべきだと思います」

 

 

---

 

小野田は少しだけ眉を動かし、静かに言った。

 

 

---

 

「……公安を通じて非公式接触を行いますか?

警告という形で、直接、彼女に伝えます」

 

 

---

 

だが、総理の答えは意外なものだった。

 

 

---

 

「いいえ――ここに連れてきてください。

官邸に、私の元に。私の口から、直接伝えます。

“あなたは国家の敵ではない”“今なら戻れる”と――それを私が言うのです」

 

 

---

 

執務室の空気が一瞬にして張りつめた。

 

萩原官房長官が驚愕の表情を浮かべる。

 

 

---

 

「そ、それは……! 総理、お待ちください。

官邸に“怪盗”を招き入れるなど、前代未聞です。

警備体制上の問題もあります。

何より、政権運営に致命的な傷を与えかねません」

 

 

---

 

だが、高城遼子の決意は揺るがなかった。

 

 

---

 

「……私は、“罪を犯そうとしている少女”を止めたいのです。

国家の指導者としてではなく――一人の大人として。

“怪盗”ではなく、日下部まろんという名の少女に、話したいことがある」

 

 

---

 

静かな口調に、逆に圧倒される二人の男たち。

 

総理は机の上の資料をそっと開いた。

そこには、白峰警視から提出された報告書の一節があった。

 

 

---

 

「……『初めての接触時、日下部まろんは白峰警視と共にひったくり犯を逮捕した』

――これが、彼女の“本当の姿”なのでは?」

 

 

---

 

小野田の目が静かに揺れる。

 

 

---

 

「……その通りです。

白峰の報告でも、“正義感があり、他者を救おうとする本能”が強いと書かれていました。

“ジャンヌ”としての行動も、ある種の“救済”なのかもしれません」

 

 

---

 

総理は続けた。

 

 

---

 

「“悪魔”と戦っているという事実――それも、私たち大人の世界では理解しきれない。

でも、彼女はその中で、懸命に“何か”を守ろうとしている。

だったら……私たちも、その手を取ってみる価値はあると思いませんか?」

 

 

---

 

沈黙が落ちた。

やがて、小野田がゆっくりと頭を下げた。

 

 

---

 

「……わかりました、総理。

私の責任において、日下部まろんを安全に官邸へ。

そして――彼女が“戻る”ことを、信じてみましょう」

 

 

---

 

総理は、微笑んだ。

 

 

---

 

「ありがとう、小野田さん。

この国の未来は、法律だけじゃなく、私たち一人一人の“選択”でつくられるのだと――

彼女に、それを伝えたいのです」

 

 

---

 

春の陽は、窓の外で揺れる桜に反射して、執務室を優しく照らしていた。

 

だがその光の中で、“ひとつの運命”が静かに動き始めていた。

それは、国家と少女――両方の未来を賭けた、最後の交渉だった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。