「作戦開始!!!」
ここは20区。現在進行形でCCGの車があちこちに止まり、多くの喰種捜査官が辺りを探索している。まだ時間帯としては全然朝ではあるが、どうしたことか、空は灰色の雲で覆われており、昼間にしてはとても暗かった。
突然、あちこちのビル屋上から2、30人ほどの人影が飛び降りてくる。その集団は猿のような仮面を付けていたり、黒い犬をあしらった仮面を付けていた。そのまま両集団は捜査官達と交戦を開始した。クインケと赫子がぶつかり合う音が辺り一面に響き渡る。そうして1人、また1人と倒れて数を減らしていく仮面の集団。
そして時を同じくしてとあるビル屋上にて巨大な喰種が現れた。その場にいる喰種捜査官と交戦し始める。20区の至る所で喰種とCCGの苛烈な戦いが起きていた。その様子をやや遠方のビル屋上にある貯水タンク上から観察する人物がいた。「
「どうだ、璃奈。今戦況はどうなってる?」
「喰種側が押され始めたわ。店長さんもちょっとずつだけど消耗し始めてる。あの子凄いね……。」
「誰だ?」
「ホラ、あの鎌みたいな大きいクインケ持ってる白髪の子。店長さんと打ち合ってる。」
「ンー、どれどれ?」
藍は双眼鏡を取りだして璃奈が見ている方角を覗く。
「おー、ありゃあ……。」
「知ってるの? かなりヤバそうだよね?」
璃奈が不安げに藍の顔を覗き込む。
「……誰だ? アイツ。」
「ってちょっと!!知らないなら知ってる素振りしないでよ、もう!!」
双眼鏡を通して覗いた先の景色では、怯える様子のない少年が血気盛んに不殺の梟に切りかかっていた。あまりに速すぎる打ち合いのため、その動きを双眼鏡で追う藍には何が起こっているのか分からなかった。
「……速い、速すぎる。アイツも特等クラスなのか?」
「要注意人物になりそう。ってあれは誰?」
そういって璃奈が見つめる先では鎧を着た捜査官と眼帯のような仮面をつけた喰種が戦闘している。
(何だ? この喰種。さっきからまるで殺気を感じさせない戦い方をしている。)
そうして観察を続けると、2人のすぐ近くで瓦礫が落下していき、近くで待機していたCCGの射撃部隊が巻き込まれそうになる。が、すんでのところで眼帯の喰種が瓦礫を赫子で弾き飛ばした。
「!? か、庇った!?」
双眼鏡の先のCCGの射撃部隊と藍は同じセリフを発する。
「変わった喰種だな……。」
そうして見ていると、鎧を着た捜査官のクインケが変化する。棍棒状だったのが、槍のようになり、棍棒部分と槍部分の間から弓状のクインケが出てきた。
「ねぇ、あれって……。」
「あぁ。恐らくキメラクインケだ。見たところ甲赫に鱗赫又は尾赫のどちらかを纏わせている感じだな。甲赫を軸としているクインケに纏わせている点を考慮すると恐らくあれは尾赫だな。」
「甲赫クインケが本来不利な鱗赫持ちの喰種に大きなダメージを与えるのが狙いってことね。実際目の前で戦ってる眼帯の子も結構負傷してるし。」
得意げに話す璃奈に対して藍は続ける。
「ま、オレ達はそんなふうにピンポイントな対策を講じる必要はないもんな。」
「そこで『オレ達』って言う辺り、アタシのこともちゃんと考えてるの嬉しい。褒めて遣わす!!」
「っと、どうも茶番はここまでらしい。仕事だ、璃奈。」
「そろそろ動くの?」
双眼鏡を覗きながら藍は返す。
「あぁ。どうもそろそろ決着が着いてきたらしいからな。クインケ、赫包、その他もろもろ貰えるもんは全部貰ってくぞ。」
「今日は美味しいのがいるといいんだけどなぁ……。」
2人は貯水タンクから飛び降り、仮面を付けるとビルを飛び移りながら戦いの中心地へと近づいていく。500メートル程移動したあたりで前方から轟音が響くと共に何かが吠えるような声がした。
「この声は!?」
「……エトだわ。何でここに……。」
「行ってみるか?」
「いや、アイツの所には恐らく強い白鳩が沢山いると思う。そこに突っ込むのは得策とは思えない。迂回するべきだ、藍。」
「そうだな。どこで降りる?」
璃奈は辺りを見渡す。
「もう少し進むと大通りに出て開けるからそこで探そう。」
そのまま高速でビルを飛び越えていく2人。一際大きなビルに上ると下を見下ろす。
「ここら辺かな。死体、死体、死体。
「これは……アタリだな!」
嬉しそうな藍の顔を見て璃奈は微笑む。
「邪魔が入る前に貰おうか。」
藍はクインケを拾っては必要だったらリュックに入れ、不要であれば破壊する。璃奈は辺りの死体の中から喰種の死体だけを見つけ、赫包を集めていく。赫包を抜き終わった死体は赫子で飲み込み、捕食していく。
「珍しく食べるな。ヤケ食いは体に悪いぜ?」
「この食べ方なら味を感じないから多く食べられるの。」
「じゃあこの前、アオギリの大男の赫子はどうして経口摂取したんだ? アレもそうやって食べれば良かったんじゃねぇの?」
「肉の一欠片食べるのに解体用の道具を使うのかって話よ、ソレ。」
そう言いながら璃奈は死体に食らいつき、肉を貪る。継ぎ接ぎだらけの仮面から覗く赫眼は煌々と輝いている。
「っと、これはまだ使ってないのか……。」
そう言ってアタッシュケースを[パッチワーク]で貫く。本来、クインケには使用者しか解除出来ない生体認証ロックが掛かっている。しかし、開封されたクインケであればロックは掛かっていない為、こちらの方法の方が手間が少なくなる。
藍はクインケの生体認証の外し方を熟知しているものの、やはり面倒であるため基本的には開封されたクインケを狙っている。再利用を防ぐため未開封・不要なクインケは基本的にこうして破壊している。と、藍が何かを感じ取る。
「……何かが近づいてくる。これは?」
「足音、人数、生体反応からCCGかな。藍、アレ持ってきた?」
「あぁ、バッチリだ!!」
そして20区の中心方面から現れたのは赤坂率いる山辺班だった。赤坂は無線を入れる。
「こちら赤坂……ビル屋上に見えた喰種と接触。『黒鴉』と『キマイラ』を確認。殲滅を開始します。」
赤坂は無線を切ると、薄黄色のアタッシュケースを受けとり、藍を睨みつける。
「今日は山辺さんは居ないのか?」
「……貴様が山辺特等の名前を気安く呼ぶな!! 人間を簡単に刺すような裏切り者は粛清せねばならない。」
「璃奈、ここは任せろ。璃奈は引き続き死体を漁ってていい。」
「……死んだら死体は食べていい?」
「そうしてくれると助かるな。…最もそうはならんがな。」
瞬間、[パッチワーク]を鱗赫で起動し、赤坂を不意打ちする。が、赤坂は持っていたクインケを起動する。アタッシュケースが外れ、鞭のようなクインケが出現する。
「!? [アヤネ弐式]を何故あんたが使ってるんだ!?」
「……山辺特等から頂いた物だ。……何故名前を知っているんだ? 喰種!!!」
赤坂は驚きながらも冷静に質問しながら不意打ちを防ぎ、藍を蹴り飛ばす。[アヤネ弐式]は山辺がつい最近赤坂に渡したクインケであるが故、「黒鴉」が知っているはずはない、赤坂はそう思った。
「ふぅ…。何でってそりゃあ知ってるだろ。」
一息ついてから藍はその質問に対する明確な答えを述べた。
「オレが作って命名したクインケなんだからよ。」
「……そうか。では貴様のクインケで貴様に引導を渡してやる!」
「アヤネ弐式」
Rc type:?、レート:?
鞭のようなクインケ。開発・命名共に海野藍。捜査官時代に作った物だが、藍自身は「アルト1/3」の使いやすさを気に入っていたため、試運用以外での実戦投入は今回の「20区掃討作戦」が初。