不敵に笑うのはここ東京都内で最も影響力が大きいとされる喰種集団「アオギリの樹」所属の「隻眼の梟」もとい芳村エト。
その視線の先には現状彼女が最も手を焼いている存在とも言える2人組の片割れ、「キマイラ」こと大橋リナ。
「久しぶり、リナ。」
やや睨みながらも璃奈は返す。
「いつぶり? 少なくとも2年は会ってないハズ。」
「その会わなかった間に色々あったみたいだけど、こんな所で何をしているの? 」
「何をするかはアタシらの勝手。早く帰りたいからそこをどいてくれる? こうしている間にも仲間が白鳩と戦ってるんだから。」
「何でもいいけど、ここを通すことは出来ないなぁ。ちょっと予定外だけど、君たち2人は
「それはつまり、アタシたちを殺すってコト?」
声を低くして、赫子を放出させ、警戒心を高める璃奈。そんな璃奈を見てエトは愉悦する。
「最近は結構大人しくしてたのもあってケンカとかしてないんだよ。ついさっきまで元気な白鳩と遊んではいたけど。だから不完全燃焼気味なんだよねぇ、お腹も空いてるし。」
璃奈は強ばる表情を緩め、微笑んで返した。
「あたしは貴女達とはまだ敵対したくない、そういう風に考えていたし、手を出すなと伝言を頼んだはずなんだけど? それについては聞き入れてくれなかった感じ?」
「伝言としては受け取った。けれど、約束を結んだわけでもなければ契約した訳でもない。ただの口約束に頼るなんて考え方がお子様なんだね。いや…。」
エトは再び4足獣の姿に本体をうずめ、1つしかない赫眼を向ける。
「どの道
その言葉と共に巨大な剣状の赫子が璃奈目掛けて迫る。璃奈はそれを甲赫で正面から受け止める。が、勢いを殺しきることが出来ず、真横のビルに突っ込んだ。
間髪入れずに振るったブレードから夥しい量の羽赫が放たれる。それを瓦礫の影に潜んでやり過ごすとエトの方を一瞥する。
「相変わらず大きいね。器は小さいみたいだけど?」
「君じゃ私には勝てないことは明確なのは前に証明したよね。早いとこ出てきてくんない? 私も時間ある訳じゃないからさ。」
璃奈が隠れている瓦礫に向かって赫子の剣が迫る。璃奈はそれを避けると一直線にエトへ近づき、頭部へ向けて羽赫の弾幕を放つ。羽赫を放ちながらも尚も振るわれる刃を躱しながら、続けざまに甲赫で刃と胴体との接合部分を狙って切り付ける。
「っ、浅い!」
璃奈の攻撃は命中したものの、致命傷には至らず、羽赫は赫者特有の赫子で防がれてしまった。次の手を考えながら羽赫の散弾を甲赫で受け止めていく。やはり赫者の羽赫となると威力は凄まじく、受け止めている甲赫も段々削れて璃奈の身体に傷がついていく。
「さっきまでの威勢はどうしたんだい? 」
楽しそうに声を上げるエトはダメ押しとばかりに甲赫を切り裂こうと急接近する。甲赫の影で悔しそうに歯噛みする璃奈は手段は選んでいられないと言わんばかりに甲赫を解除すると同時に赫者化する。璃奈の身体が赫子で包まれ、赫眼がより強烈に煌めく。
「ここからが本当の勝負。殺せなくても痛み分けくらいなら…。」
瞬間、璃奈の姿がエトの視界から消え、エトの攻撃は空を斬った。
「いいねいいねぇ。その姿勢は評価出来るよ。どこまで持つか精々楽しませてくれよぉ?」
エトは嗤いながら、周辺に羽赫を撒き散らす。周囲360°にある全ての建物が破壊されていく。建物は破壊され、瓦礫と土埃が舞い上がり、両者の視界が一時的に悪くなる。その土煙を掻き分けてエトの左斜め後ろから羽赫の雨を強行突破した璃奈が飛び出して来た。
「隙を突いたつもりかもしれないけど見えてるよ?」
エトはノールックで璃奈に斬り掛かる。璃奈はジャンプしながら右足に甲赫を巻き付け、左足でエトの攻撃を踏み台にして飛び上がる。その勢いを利用して右足でエトの胴体に蹴りを放った。その蹴りによって蹴られた部分の肉は抉られ、鮮血が吹き出す。当然、四足獣も痛みに悶えた。
「ギュア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
エトは咆哮し、憎々しげな視線を璃奈へと向ける。
「痛てぇなあ。半赫者化して暴走してたあの頃の璃奈はもう居ないんだね?」
「……ご覧の通り。」
エトの皮肉に対して澄まし顔で応える璃奈。エトはその答えを聞くと安心したように笑って肩の力を抜いた。体の向きを璃奈のいる方へと変える。
「じゃあもう
「!?」
璃奈は表情を凍らせる。エトは驚嘆と嘲りが混じった顔で尋ねる。
「もしかしてぇ、さっきまで私が本気で貴女の相手してたと思ったの? んな訳ないじゃーん!」
「クッ…。」
急にエトはふと振り返り、遠く離れたビルの向こうを一瞥する。するとその視線の先から人影が近づいてきて、エトに何かを伝えた。伝え終わるとその人影はまた雨の中に消えていった。エトはやや怯える璃奈の顔を見て再び話し出した。
「そしてぇ、そんなチャン璃奈にニュースがあります! 何だと思う?」
「え?」
突然の質問に目を丸くする璃奈。そんな璃奈を見てエトは愉悦を浮かべる。
「貴女の相棒君、白鳩と戦ってたらしいじゃない?」
「なんでそれを「死んだってよ? 今仲間から報告されたことはその事よ。という訳で貴女の帰る場所はもうどこにも」
言い終わらないうちに鬼の形相をした璃奈は四足獣の羽状の赫子に斬り掛かり、切断した。
「エト、私は小説家の貴女と違って趣味の悪いジョークはキライなの。」
「なーに? 相棒君の死体食べたくなっちゃった?」
「黙れ!」
その憤怒によって半ば赫子が暴走し、左腕に甲赫を形成した。すぐに迫ってくるエトの腕による薙ぎ払いをジャンプで回避する。着地した瞬間に地面を蹴り、エトの赫眼に左腕を突き刺した。が、コンマ数秒後に璃奈の左腕は胴体から切断される。
「ぐあっ!」
「くぅっ…腕がっ!」
エトは赫眼に突き刺さった璃奈の左腕を切り飛ばし、赫者化を解除した。右目を抑えながら楽しそうに璃奈を見るエト。
「早くしないと白鳩に死体持ってかれちゃうかもね?」
「はぁ、はぁ。ちく、しょう。」
一方璃奈は片腕を失ってかなり消耗しており、息切れを起こしている。と、そこへ先程の人影がやってきてまたエトに耳打ちした。それを聞くとエトは不機嫌そうに顔を顰め、璃奈を一瞥する。
「時間切れだって。今日はここまで。また喧嘩しようね、璃奈。」
そう言って2人は璃奈の前から消えていった。
静寂だけが残る。璃奈はその場に立ち尽くした。
失った左腕からはまだ血が滴っている。本来なら再生を優先するべきだった。だがそんなことすら頭から抜け落ちていた。
脳裏を支配するのはただ一つ。相棒のことだけだった。璃奈は雨に打たれながら踵を返す。
そして欠損した腕も顧みず、一目散に来た道を駆け戻っていった。
エトと璃奈の出会いの話もいつか書こうかなと考えています。