元捜査官の終着点   作:すとろまとらいたー

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第16話 澱み

璃奈はとにかく走った。進路場にある障害物は自らの赫子で排除、或いは捕食した。紅き眼に映る藍以外の全てを蹴散らしながら20区の地下へと逃げ込んだ。

 

「死んではダメ、まだ早い。あたし達の理想はここで潰える訳には行かないでしょ!」

 

そう呟いてその場に藍を横たわらせた。「キマイラ1/2」を脱がせ、止血していく。

 

地上ではまだ戦闘が続いているのか、激震が伝わってくる。当然、この場所に逃げ込む喰種は璃奈だけではなかった。ほとんどが負傷した喰種であり、回復するために新鮮な人肉を求めて藍に迫って来る。

 

「オイ、アソコに人間が倒れてるぞ!」

 

藍を指さして集まってくる喰種達。そして先頭の喰種が赫子を藍目掛けて伸ばした瞬間、その喰種は細切れになって崩れ落ちた。藍の傍にいた璃奈が攻撃したからだ。喰種達は驚きながらも璃奈に問う。

 

「独り占めか?」

 

「少しぐらい分けてくれたっていいじゃねェか。」

 

それを聞くと璃奈は冷酷に反論する。

 

「この人間は私の愛人だ。故に食べるつもりも食べさせるつもりも微塵もない。」

 

今この時、藍を守れるのは璃奈しかいない。それを自覚し、璃奈は赫者へと変貌する。

 

「この人間には指1本触れさせない!! 喰われる覚悟がある奴から来な。」

 

璃奈は藍の前に立ちはだかると、喰種を見て高らかに叫ぶ。

 

「人間を庇うとはイカれた喰種も居たもんだ。」

 

「お前も食っちまえば2人仲良く向こうで会えるぜ?」

 

「とにかくボクはお腹空いてるんだ。早く食わせてくれよ。」

 

などと口にすると、喰種達は一斉に璃奈へと赫子での攻撃を繰り出した。その攻撃を避けることなく受け止めると、口の付いた赫子を出現させ赫眼を光らせる。

 

「どっちが食べる側なのか、ハッキリさせてやる!」

 

璃奈はそう言うと喰種達の殲滅を開始した。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

数刻後、辺りには璃奈に捕食されて欠損した喰種の残骸が30体以上散らばり、辺りは血の海となっていた。璃奈は激しい空腹に襲われ、まるで禁断症状を起こしたかのように口から唾液を零しながら無我夢中で喰種の死体を食い散らかし始めた。

 

主食が喰種とはいえこれだけの量の喰種を短時間で食せば当然、身体中のRc細胞に異常が発生する。時間が経つにつれて体からあらゆる種類の赫子が出現し、暴走し始める。

 

(ぐぅ……! 赫子が暴れてる! ここで暴走なんかしたら……!)

 

そう思いながら藍の方に視線を向ける。その藍は一命こそ取り留めたものの、未だ眠ったままだ。その周囲には戦闘中に流れ弾を防ぐために張った赫子のバリケードが光っている。

 

(それだけはダメ! 耐えろ、耐えろ、耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ。)

 

暴走する赫子を抑え込もうと必死に蹲りながら意識を保とうと目を見開く。

 

そこへ新たに喰種が璃奈達が逃げてきた方向から現れる。

 

「ここからなら……。向かえるかな?」

 

やはりというかその喰種も負傷しているようだ。が、璃奈はその喰種を見て目を見開いた。その喰種のマスクは眼帯が着いたものだったからだ。この瞬間、(一方的に)見知った人物の顔をこの切迫した状況下で見て安心してしまったのか璃奈は意識の限界を迎えた。

 

「………あぁ。ぐぅ……いぃに…く。」

 

このタイミングで璃奈は限界を迎え、意識が混濁し、目の前の人物を獲物としか認識できなくなってしまった。そして再び喰種の死体を食し始めた。そんな様子のおかしくなった璃奈を眼帯の喰種は発見し、璃奈に近づく。

 

「これは……貴女が?」

 

眼帯の喰種は周りの死体を見てそう尋ねた。璃奈は死体を貪りながらその質問に答える。

 

「……うぇ。ぐぅぅぅ。だ…ったらな…に…?」

 

「いえ。それより、ここからV14まで行けますか?」

 

「……行けない。君はここで死ぬ…から。あ゛ぁぁぁぁ゛!!!」

 

璃奈は狂気的な目を向けると戦闘態勢に入った。眼帯の喰種はそれを見て焦りつつも赫者化し、応戦する意を見せる。

 

「僕はそんな事してる場合じゃないんだ。道を開けてくれッ!」

 

その言葉と共に眼帯の喰種は鱗赫を繰り出した。璃奈も尾赫を繰り出し、眼帯の喰種に向けて薙ぎ払う。辛うじてその薙ぎ払いを回避した眼帯の喰種は対話を諦め、全力で応戦し始める。

「いひ、いひひひひ…あ…いひ、痛いよォォ…。」

 

半狂乱になりながら璃奈は鱗赫も追加し、眼帯の喰種の鱗赫を受け止めつつ、尾赫で強烈な突きを放つ。眼帯の喰種は璃奈の突きが命中するすんでの所で3、4本目の鱗赫を前方に交差させて突きを防ぐ。数歩後ずさるも、眼帯の喰種は負けじと受け止めていた璃奈の尾赫を力ずくで切り飛ばした。

 

「痛い? いひ…痛いかな?」

 

「共食いによる意識混濁…。数週間前の僕を見ているようだ。」

 

もはや自らへのダメージすら知覚できないほどに暴走する璃奈。切り落とされた尾赫は再生し、先端に蕾をつけた。

 

「死んでよ、死なないでよ。いひ、いひひひひ。」

 

再び尾赫での攻撃を繰り出す璃奈。同様に突きを繰り出すも、そのスピードは先の攻撃よりかなり緩慢な動きだ。それを確認すると眼帯の喰種は防御に使う赫子を1本に減らし、残りの3本を目の前の錯乱状態の女の頭部を狙って伸ばした。互いが伸ばした赫子は交差しながらすれ違い、美しいクロスカウンターを描くように思えた。

 

「!?!?」

 

突如として眼帯の喰種に近づく尾赫の先端が花を咲かせるように開いた…かに見えた瞬間、開いた中心部からそれより細くて鋭い尾赫がバネのように伸びて眼帯の喰種の防御を突き破り、腹を突き刺し、体全体を打ち上げる。打ち上げられたことにより眼帯の喰種が繰り出した攻撃は璃奈に届くことなく、璃奈の数メートル前で上に上がっていった。

 

先の捜査官との戦闘で受けた尾赫クインケによる攻撃でのダメージと同等のダメージを受け、眼帯の喰種は地面に墜落する。そこへ璃奈が近づいていく。赫眼から放たれる光は妖しく輝き、口からは滝のように唾液が流れており、とても普通の喰種からはかけ離れた様子でいるのが眼帯の喰種の瞳に写った。

 

「いただきまぁす。」

 

璃奈は肩に食らいついた。食らいついた部分からの返り血が璃奈の顔に掛かる。当の璃奈はそんなことは気にも留めずに恍惚の表情を浮かべていた。

 

「美味しい…。いぃ、美味しいなぁ。ようやくお腹が満たされた気がするよ。」

 

その時、璃奈は前方に何者かの気配を感じ、羽赫を飛ばした。手応えは薄く、その姿を見ようと鱗赫で埃を薙ぎ払う。

 

「!? な、何であんたが…。」

 

璃奈の目の前に現れたのは先程捕食したハズの眼帯の喰種だった。眼帯の喰種は質問する。

 

「……僕はもう行きますが、最後に質問させてください。もしかして、前に『あんていく』にいらっしゃいましたか?」

 

それを聞いてハッと目を見開く璃奈。

 

「……芳村さんの関係者か?」

 

「いえ…。ただ、何処かで見たことがあった気がして…。では、またどこかで。」

 

そう告げると眼帯の喰種は走り去っていった。その背中を見送りながら璃奈は藍の元へ戻るべく歩み出す。戻る途中、璃奈は何かにつまづいて転びそうになる。

 

「?」

 

喰種の死体にしてはやや異なる触感に疑問を浮かべながらつまづいたものを注視する。

 

「!?」

 

目を向けると、璃奈の足元には()()()()()()()()、力なく横たわる藍がいた。

 

この瞬間、璃奈は全てを悟った。意識を失って暴走していたこと、眼帯の喰種と戦闘になったこと、そして………その挙句自らの想い人に手を掛けたことを。

 




璃奈は赫者ですが、短時間にものすごく大量の喰種を摂取すると暴走します。
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