眼帯の喰種(20)
Rc type:鱗赫
プロフィール:ご存知の通り、あの喰種。
「ここは………一体?」
目覚めた藍の目に最初に映ったのは無機質な白い天井と2本の蛍光灯だった。自分の体が仰向けであることに気がつくと、すぐさま上半身を起こした。
(怪我の手当て!? 璃奈にしては……随分と丁寧且つ正確な応急処置、いや、これは…点滴の跡!?)
藍は自分の体に適切な治療が施されていることに気づいた。そして周囲を見回す。
(ここは……病院なのか? だが、我々を受け入れてくれる病院なんてあるわけが……。)
疑心暗鬼になりながらもここはどこなのか、璃奈はどこにいるのか、誰が自分を助けたのかを知るため藍はベッドから降り、スライドドアを開けて部屋を出る。
(廊下…病院ってのはほぼ間違いなさそうだ。)
視界には廊下が広がっていた。どうやら角部屋だったらしく、目の前にまっすぐ続いている。藍は訝しみながらも少しずつ廊下を進んでいく。進んで行くうちに少しずつではあるが話し声が聞こえてくる。
「……とう。おそ………と思う。」
「……くら……当然……。」
藍の耳には断片的にしか聞こえないが少なくとも2人以上の人物が会話していることが分かった。声の高さを考えると片方は男、片方は女の声であることも分かった。
(喰種であることも否めないが…)
藍は苦々しげに己の両手を見つめる。現在、藍はクインケを所持していない。どうもここに連れてこられた時に剥奪されたらしい。故にこの状態での喰種・捜査官との戦闘はかなり厳しい。藍は冷や汗をかきながらも前に進むしかないと割り切り、歩みを進めた。
廊下先にある一つだけ明かりがついている部屋があるのが見えた。その部屋に近づいていくにつれて段々と話し声が大きくなっていく。と同時に藍も自分の体から出る呼吸音、足音、衣擦れを最低限に小さくしていく。そしてその声の源と思しき部屋の前にたどり着き…
…思いっきりその引戸を引いた。
そこには椅子に座った初老の男性と今最も会いたいと思っていた想い人、大橋璃奈がいた。璃奈は藍が部屋に入ってきたことに気づくと、両の手を広げて抱きついてきた。
「…お、おい。……ごめん。」
半べそをかきながら抱きしめる力を強くする璃奈に若干引きつつも、藍は恐る恐る抱き返す。
「よかった。…心配かけないでよ、バカ。」
「んで、この方は? …失礼ながら格好からして医者ですか?」
藍は初老の男性に質問する。穏やかな表情で2人の抱擁を見ているその男性は微笑んだ。
「申し遅れたね。私はここで医者をやってる嘉納明博だ。君の治療は私が請け負った。暫くは激しい運動は控えた方がいいだろう。」
そう言うと嘉納は立ち上がり、部屋を出て歩き出した。
「ついてきたまえ。君たち2人に見せたいものがある。」
「「分かりました」」
藍は部屋を出た瞬間、小声で口を開く。
「璃奈、どうやって助けてもらった?」
その表情には疑いがこもっている。
「……。」
璃奈はうつむいて暫し黙り込む。
「何か言いにくいことでもあるのか? だとしたら無理して言わn」
「何で…そんなに怪我してるか…知ってる?」
絞り出すように震える声で藍の声を遮りつつ璃奈は質問する。
「え、あの捜査官にやられたんじゃないのか? 意識がはっきりしてなくて、そこまでしか覚えてないんだよ。」
「じ、じゃあ、よく覚えていないのね?」
「あぁ。だからあの後どうなったのか教えてくれないか?」
「………分かった。」
バツが悪そうに頷くと、璃奈は話し始めた。
「アタシが藍くんの所に戻った時、アナタはあの捜査官にトドメを刺されるところだった。そこに間一髪で間に合ったアタシはその捜査官とは戦わずに、地下に逃げたのよ。」
歩くスピードを少し落として璃奈は続ける。
「その後、体力を回復させるために、地下に逃げ込んできた喰種を片っ端から捕食したわ。その時に…。」
「何かあったのか?」
「あの眼帯の喰種と接触した。短時間に喰種を過剰に摂取したアタシは暴走してそのまま戦闘になった。結局勝負はつかなかったけど………その戦闘中に藍くんを捕食してまった。その肩の怪我はアタシが食いちぎってできた怪我。」
藍は驚きつつも、ニヤつきながら璃奈の方を見る。
「もしかしてそれが理由で話したくなかったのか? 何だよ、意外と可愛いところもあるんだな。」
瞬間、曇っていた璃奈の表情が一気に真っ赤になり、目も赤黒く染まり……赫子を藍の首に突きつけた。
「ちょちょちょ、嘘嘘、冗談だってば。顔赤くするのは分かるけど、目まで紅くしなくていいって。というか、あの人に喰種ってバレるぞ!」
少し語気を強めて前を歩く嘉納の方に視線を向ける。璃奈は何が問題なのか分からないとでも言いたげな表情をした。
「あのなぁ…。」
半分呆れを混じえて諭そうと口を開いた時だった。
「嘉納さんはアタシが喰種ってこと知ってるよ? というかそれが分かってて助けてくれたんだし。」
「何!?」
衝撃の事実に驚く藍を尻目に璃奈は続ける。
「捕食を終えた後、アタシは藍くんを抱えて地下を彷徨った。その時に偶然ここを見つけてね。嘉納さんに治療を取引したんだ。」
「え、ここって地下なのか? 病院が地下に?」
「ここは病院じゃなくて、嘉納さんの秘密のラボらしい。喰種について研究しているとかいないとか。」
「……ってか、取引って何したんだ?」
「最初はタダで治療するって言うから見守ってたんだけど…。」
「何だよ、タダならいいことじゃないか?」
それに対して目を逸らしながら璃奈は答えた。
「藍くんの身体に赫包を移植しようとしているのを見て慌てて脅迫したんだよねぇ。」
「赫包!? それ移植したらどうなるんだ?」
驚きのあまり藍は目を見開く。
「嘉納さん曰く『成功すれば半喰種として生き延び、失敗すればRc細胞が人間の身体に適合せず、肉体が肥大化して理性を失い、死ぬと赫包に食われる。』らしい。流石に藍くんを喰種にする訳には行かないから、赫子使ってまで止めたよ。そんで取引ってことになって。」
はぁ、と一息ついて藍は質問する。
「何を取引したんだ?」
「アタシの赫包。」
「はぁ!? 何個やった?」
食い気味に藍が質問する。
「2個。そんで今残ってるのが4個。この前使った分がまだ回復しきれてない。」
と、そこで嘉納が振り返り、2人に声をかける。
「随分と仲がいい様で何よりだ。そういう訳で取引させてもらった。君の赫子は特別だからどういう利用ができるか楽しみだよ。」
そしてある部屋の前で嘉納は立ち止まった。
「私は喰種の再生力を人間の医療に応用できないかを研究していてね。君たち喰種にもCCGにも付かない者たちとして意見が欲しくてね。」
そうしてドアを開けて暗闇に消えていった。
「璃奈はなんだと思う?」
「人間の身体に赫包を埋め込もうとするイカレ医者の考えることなんか分からないわよ。」
そういいながら2人は可能の後を追って行った。
少しペースあげてみようと思っています。
今回は東京喰種の元凶(?)である嘉納明博が登場しました。個人的には彼の思想は医者よりも科学者に近いような気がします。まぁ、医療も犠牲がなければ進歩しないので間違ってはいないのですが…。