闇の中を進んだところで嘉納の声が響く。
「これが私の研究の結果さ。」
その瞬間、部屋の照明がつき、部屋の全容が2人の目に入った。2人の目の前には2つの緑色の液体が満たされた培養槽と赤色の液体で満たされた培養槽があった。
そして、緑色の液体で満たされた培養槽の中には紫髪の女喰種と初老の男喰種が入っている。赤色の液体で満たされた培養槽には赫包が培養されている。
「なっ!? 店長!」
「嘉納さん、これは…何ですか?」
驚愕を隠せない璃奈を横目に藍は嘉納に尋ねる。
「赫包のドナーだよ。2人の赫包を人間に移植して人工的に喰種を作ることが出来るんだ。こっちの男の方はまだ結果が出ていないが…。」
そう言って嘉納は明後日の方向を見つめる。
「女の方の赫包移植は3人程成功例がいてね…。これを見てくれ。」
そうして3枚の診断書を見せた。黒髪の若い男性、黒髪の若い女性、白髪の若い女性の診断書のようで、2人の女性は髪の色が黒と白で正反対な点を除けば顔がそっくりである。
(こっちの男は…どっかで見たような気がするな。女の方はどうやら双子のようだ。)
難しい顔をして診断書を見つめる藍を見て思い出したように嘉納が話しかける。
「えぇっと、この男性の方なんかは知ってるんじゃないかい? 確か『眼帯の喰種』と呼ばれていたね。最近CCGでは彼の話題で持ち切りらしいよ。」
「眼帯!? それって…。」
璃奈は思い出したようだ。藍も何となく見当が着いたような顔をする。そんな2人のリアクションを確認した嘉納は笑顔で質問した。
「やはり有名なだけあって知っているみたいだね。どうだい、彼は? 喰種にしか見えなかっただろう?」
「……彼は元々人間だったのか?」
「そうだ。だが、何の因果か知らないが、喰種と共に事故に遭ってね。損傷が酷かったからその喰種の赫包を移植した。素晴らしい再生力だ。まぁ、彼女の赫包が特殊なだけかもしれんのだがね。」
2つの培養槽を眺めていた璃奈が嘉納の話を聞いておもむろに口を開いた。
「半喰種って具体的にはどんなのなの? アタシの友達に天然の半喰種がいるんだけど。人工との違いが知りたくて。」
「まぁ殆ど変わらないさ。強いて言うなら食性と耐久性かな。天然は人間の食事を摂ることも出来る個体がいる一方、私の作品は人間しか食べることは出来ない。どうも遺伝子レベルでのハーフにならないと食性は解決しないのかもしれない。耐久性に関しては、言うまでもなく後天的に喰種になっただけなんだから天然物より多少劣るがね。」
そう言うと嘉納は部屋の奥の扉へと歩みを進める。
「結果はまだ出ていないと言った男の方なんだが、今ちょうど実験中なんだ。良かったら見ていくかい? 数時間前に被験者の目処がたったんでね。」
2人は何も言わずに嘉納について行く。
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「うがァァァァァァッッ!」
藍と璃奈はガラス越しに見ていた。被験者が赫包を植え付けられ、空腹感に襲われ、人の肉を喰らっているのを。そして今しがた己が食したものが自分の親だと知り、絶望している。
「……趣味が悪いな、嘉納さんは。自分だったら自殺するかもしれない。」
見たくないものを見たと言う藍とは対照的に璃奈は
「でもアタシが人間になってもこうはならないわよ?」
などと能天気に呟く。
「…あのなぁ。」
キョトンとした顔をする璃奈にやや怒りがこもった声を出す藍。
「いいか、璃奈。お前が不本意かつ強制的にオレの肉を食わせられたらどう感じる?」
「吐き出すわよ、極度の空腹時でもなけりゃ。」
「それでいいんだ。それでいい。」
納得した様子を見せると藍は他の部屋の窓を覗こうと右隣の部屋の窓を覗く。そこにも黒髪の男性が被験者として囚われていた。が、その人物に藍は見覚えがあった。
(コイツは…亜門鋼太朗!? 何故彼がここにいる? ……………そういえば数時間前に被験者の目処が立ったとか何とか…。)
そんなことを考えているとガラス越しに被験者の男と目が合った。
side~亜門鋼太朗~
気がつくと亜門鋼太朗は見知らぬ部屋に寝ていた。パッと見たところ病院のように見える。朧気の記憶の中から自分が何をしていたかを探し出す。
(確か…俺は眼帯の喰種と交戦して……その後どうなったんだ?)
ふと自分の体を見ると、眼帯の喰種との戦闘で切り飛ばされた腕が戻っている…否、赫子になっていた。
(これは…自分の腕? いや、この色・形を知っている。これではまるで…。)
自分の身に起きた異変に気がつき、戸惑っていると部屋の出入口と思しき扉から初老の男性が入ってきた。
「目が覚めたようだね。君には梟の赫包を移植させてもらった。お陰で怪我は完璧に治っただろう?」
その瞬間、亜門の中で時が止まった。
「かく…ほう? 」
亜門は知っていた。赫包が、自分たち
「おめでとう。君は今日から喰種として新たな生を謳歌しなさい。」
そう言って初老の男性は部屋を出ていった。亜門は数秒の間虚空を見つめていた。
(人間が喰種になるだと!? そんな訳あるか! )
ガタンッ、と大きな音を立てて移動し、洗面台の前に立った。鏡には片方の目が赫眼となり、驚愕のあまり瞳孔を見開いた哀れな男の顔が映るだけだった。
「うがァァァァァァッッ!」
「この声は…滝澤!」
突然後ろの壁から聞き覚えのある声が響き渡る。そしてその声が聞こえた方向から誰かがこちらの部屋へと歩いてくるのを感じた。足音がだんだん近づいてくる。
亜門のいる部屋の窓にその人物が映った。そこに現れた人物は亜門にとって因縁のある人物の一人だった。
「……『黒鴉』! いや、海野!」
亜門鋼太朗(26)
使用クインケ:(甲)[ドウシマ1/2]→(甲)[クラ]
階級:上等
プロフィール:CCGの喰種捜査官。アカデミーでは首席だった。海野藍とはアカデミーの同期。藍の裏切りにショックを受けるも彼をコクリア送りにするために戦い続けることを誓う。20区掃討作戦にて、眼帯の喰種と互角の戦闘を繰り広げるも痛み分けとなり、アオギリの樹の喰種により嘉納のラボへと運び込まれた。