元捜査官の終着点   作:すとろまとらいたー

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今回は海野藍が黒鴉になった経緯の一部を明かします。



前日譚 黒鴉が生まれた日

その日、海野藍(14)は両親と妹とはぐれてしまった。家族で12区に来ていたのだが、どうやら乗る電車を間違えたらしい。しかし、藍は寧ろこの状況を楽しんでいた。というのも初めて目にする物が多かったからだ。好奇心に惹かれるまま、駅を出て気になる所があれば、片っ端から近づいて回った。あるアニメショップに入って

 

(うわー。これ欲しかったフィギュアだ。こっちには限定モデルのやつもあるぞ!)

 

とか、美味しそうな匂いに釣られて

 

(あのジュース屋さん、前テレビでやってたな…。買ってみよう!)

 

と、こんなことを繰り返していた。

 

しかし、地図もスマホもないのにそんなことをしていたら、どうなるか。当然、迷子である。

 

(困ったな。ここどこだろう。早くお父さんお母さんのところに戻らなくちゃ。)

 

おもむろに困った顔をしていると、自分に近づいて来る人影があった。

 

「やぁ。どうやら迷子みたいだね? お兄さんがお父さんお母さんのところに連れてってあげるよ。」

 

「知らない人にはついて行っちゃダメって習ったから嫌だ!」

 

「まぁまぁそう言わずにさ、君のお父さんの知り合いなんだよ、僕。」

にこやかに笑みを浮かべる20代くらいの男。

 

「僕のお父さん、知ってるの?」

 

「ここら辺では有名な喰種捜査官だよ。皆のヒーローなんだから、知ってるに決まってるでしょ!」

 

「へー、じゃあお兄さん、お父さんの所まで連れてってください。」

「勿論さ。」

 

そうして男について行く藍。そして30分程歩いたところで、人気のない裏路地に入り、なぜゆえか男は立ち止まった。

 

「どうしたの?」

 

「ごめんね、君を案内できるのはここまでなんだ。」

 

「え、どうして?」

 

「それはね…。」

 

次の瞬間、男の背中から緑色の赫子が突き出て、男の両目が赫眼に変化する。

 

「君にはここで死んでもらうからだよ!」

 

「ぐ、喰種!!」

 

慌てて藍は男から距離をとる。

 

「そうそう、君のお父さんと知り合いってのは本当の事だよ。この前、斬られたからね。」

 

「そ、そんな…。」

 

「ここには誰も助けに来ない。この『昼食い』の縄張りだからね。」

 

「しかし、顔がそっくりだったから人目でわかったよ。この前の恨みはあいつの子供を食うことで晴らせる。ククク、あいつどんな顔すんだろな、僕が殺ったって知ったら。」

 

壁側へと藍を追い込み、襲いかかる!

 

「じゃ、そういうことで、さような、らッ!!!!」

 

鋭い鱗赫が藍に真っ直ぐ向かっていく。が、藍の顔スレスレで何かに弾かれて藍に触れることはなかった。

 

「!? だ、誰だ、ここは『昼食い』の縄張りだぞ!」

 

その「何か」とは別の赫子だった。

 

藍がその赫子の元を辿ると、自分と同じくらいの歳の少女が立っていた。

 

「ガキが僕の食事の邪魔をするな! それに鱗赫じゃ、尾赫の僕には勝てない!」

 

そう叫ぶと、男はさっきより速いスピードで尾赫を伸ばして少女を突き刺そうとする。

 

「それはどうかしら?」

 

少女は鱗赫を用いて男の尾赫を弾くと回りながら地を蹴った。

 

「ハッ!回転して勢いでも付けりゃ、僕を倒せるとでも?」

 

男が気を取られていると同時に少女は()()()()()()()()()()()遠心力に従って勢いよくRc細胞を散弾の如く飛ばした。それらは男の目にも止まらぬ速さで男に突き刺さった。

 

「グハッ!? い、痛てぇ!!!」

 

(一体何が起きた!? しかも、何でたかだか鱗赫ごときにこんなダメージが!?)

 

男が動揺している隙に少女は鱗赫を引っ込めると尾赫を生やし、落下する勢いのまま、今度はその()()()()()()()()()()()()()()()()、痛みに悶える男をかかと落としをするかの如く、着地と同時に頭から叩き潰した。

 

辺りに轟音が轟き、地面が揺れる。

 

「…が…あ…ッッ。…ぎぃ…。」

 

男は押し潰され、圧死した。

 

そして少女は藍へ近づき、顔を覗き込んだ。

 

「ねえ、怪我は無い?」

 

「…無い…けど、どうして助けてくれたの?」

 

少女は恥ずかしそうに顔を赤らめて、バツが悪そうに言った。

 

「最初見た時は助けるつもりなんて無かった。でも、私は不要な殺しは嫌いなの。さっきの彼は、明らかに捕食以外の目的であなたを殺そうとした。だから、助けようと思ったのよ。」

 

「ありがとう!」

 

すると、少女は再び赫子及び赫眼を発生させ、不敵に笑みを浮かべて、

「うふふ、あたしは捕食するためにあなたを捕まえたかもしれないわよ?」

 

「え、あ…。」

 

藍はしばらく呆然とした。が、夥しい数の足音に気づき、ハッとした。少女もその足音に気づいたようだ。

 

「あーあ、白鳩が来ちゃったかー。じゃあ君のことは特別に見逃して「いいよ、食べても。助けてくれたから、そのお礼。」

 

「!? あんた、自分が何言ってるかわかってるの?」

 

藍は真剣な表情で

「生きるために命を奪うことは悪いことじゃないよ? どうして人間だけ特別扱いされるの?」

 

「……」

 

「人間だって他の生物を食べてるのにどうして人間が食べられる側になるとそれが悪いことになるのかな?」

 

「…わかったわ。じゃああなたのこと、食べるわ。痛くても知らないわよ。」

 

少女は赫子で藍の右腕のほんの一部を切り落とした。

 

「ぐぅッ…。」

 

そして踵を返して告げる。

 

「あなたのこと、気に入ったわ。生きてればまた会えるかもね。じゃ、またね?」

 

そう言って少女はビルの屋上へと消えていった。

 

その後、先の戦闘の轟音を聞き付けた捜査官達が駆けつけると、腕を捕食されたと見られる負傷した少年と、頭部が潰れた喰種の死体が発見された。

 

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そんな事件から数年後、海野藍はCCGの准特等としてクインケを振るっていた。正直、藍はCCGが正義という身勝手な大義名分の元、人の肉しか口にできない種族を殺す組織にしか思えなかった。故に喰種を殺すことについて忌避感がある。しかし、喰種を見逃せばそれはそれで社会的な問題になりかねないので、しっかりと仕事をしていたらいつの間にか准特等まで昇級していた。

 

しかし、決して喰種の肩を持つ訳では無いが、だからといって無闇矢鱈に殺す必要があるのか?そんな疑問が昔から藍の中に有った。

 

そんな藍に転機が訪れる。それが「キマイラ」と呼ばれる喰種しか食べないという喰種について単独で討伐を任されたことだった。

 

「君に『キマイラ』の討伐を頼みたい。受けてくれるかね?」

 

「1つ質問しても?」

 

「構わんよ。」

 

「どうして僕1人なんですか?」

 

「本当は合同作戦として討伐する予定だったんだが、どうも『キマイラ』はかなり頭が切れるようで、複数人で捜索してる時は100%遭遇しないのだよ。そこで君の出番という訳だ。」

 

そうして、藍は目撃が多数あった場所へ赴くと、運良く喰種の死体を持ち去ろうとする喰種を見つけた。顔には継ぎ接ぎのマスクをつけている。

 

「あんたが『キマイラ』か?」

 

「CCGの皆様にはそう呼ばれてるわ。」

 

「そうか、悪いがこれからあんたを殺す。」

 

「…。ねぇ、あたし達、どっかで会わなかったかしら?あなたの顔、見覚えがあるのよ。」

 

「オレに喰種の知り合いはいねェんだ、よ!!」

 

そう言いながら、甲赫クインケ[アルト1/3]を起動、そのまま斬りつける。キマイラも尾赫で応戦して鍔迫り合いになる。

 

「ねぇ、あたしがなんで『キマイラ』って呼ばれてるかわかる?」

 

「喰種ばっか食べてるからだろ。」

 

「違うわよ…。私はね、こうやって、」

 

すると、鍔迫り合いをしている尾赫から鱗赫が生えてくる。

 

「異なる種類の赫子を混ぜ合わさて戦うからよ!」

 

鱗赫を纏った尾赫によって[アルト1/3]が破壊され、そのまま藍の右腕を掠める。土煙が舞う中、藍はかなり驚いていた。

 

「び、尾赫から鱗赫が生えた!? 聞いた事ねぇぞそんなの。反則だろ反則!」

 

そして「キマイラ」も驚いていた。

 

「ね、ねぇ、その右腕の傷はどこで付いたの?」

 

「あ?てめぇには関係な「6年前、あたしが付けた傷よね?」

 

「…やっぱりあんたはあの時会ったあたしが生涯で1度だけ傷つけた人間……。」

 

「あの時の女の子が…『キマイラ』!?」

 

2人は戦闘を一時的に止め、話し始めた。

 

「まさかあの時助けた子が白鳩になってるとは…。」

 

「それで….。目の前にクインケを失った捜査官がいるのにトドメは刺さないのか?」

 

「前会った時も行ったけど、あたしは捕食以外の目的で殺しはしないわ。食べたことあるのも人間はあなただけよ。」

 

「……そうか。なんか、俺を殺さなかったあんたが言うと不思議と信じられるな。」

 

「私たちは根本的には食性の違いでしか区別できない、2足歩行の(ケダモノ)だもの。思考する事に種族特有の差が出たりはしないわよ。それをお互いに憎悪で塗りつぶして見て見ぬフリをしているだけ。相手が喰種と知るまでは互いになんの影響もない。だけど、相手が食べているものが自分たちの同族だと知った瞬間、というかたったそれだけで殺し合う。人間には食べ物の好き嫌いがあるんでしょ?」

 

「何が言いたい?」

 

「詰まるところ、自分が嫌いな食べ物を相手が好んで食べてるだけであんたらはそいつを殺せるのかってことよ。」

 

「それとこれでは話が「違わないわ、根本的には同じよ。……変わらないのよ、何も。『食べる』という行為は等しく命を奪う行為。人も喰種もそこだけは変わらないわ……。」

 

「あんた、中々深いこと言うな。……気に入ったよ。オレ、CCG辞めるわ。あんたと一緒にいれば、オレが望む世界が見れる気がする。」

 

「相変わらず突拍子もないこと言うところはまんま変わってないのね? 理由を聞いても?」

 

藍はしばらく黙り込んだ後、答えた。

 

「オレは生きるために他の命を奪う点では人も喰種も同じだと思う。なのに喰種は生きることが罪と呼ばれる始末だ。やってることはそう大差ないんだぜ? だったら、人として生きても喰種として生きても変わんねェよ。」

 

「そう。だったらまずはCCG辞めて来てくんない? そう簡単には信用出来ないわ。」

 

「ああ。だが、1つ欲しいものがあるんだ。お前の赫包を頂きたい。CCGの上部を騙しつつ、お前と行動する時に使うためのクインケを作りたい。」

 

「いいわよ。ところで…。」

 

「ん?」

 

「あたし達、まだ自己紹介してないわ。あたしは『キマイラ』こと、大橋璃奈。」

 

「CCGの准特等捜査官、海野藍だ。」

 

こうして、2人は行動を共にするようになり、現在へと至る。

 




「アルト1/3」
Rc type:甲赫、レート:A+
刀のような見た目だが、刃の部分が鋸のように小さな返しが沢山ついており、これによって、刺してから引き抜く時に大きなダメージを期待できる、近距離型のクインケ。命名者は海野藍では無い。
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