タクティカル祓魔師二次創作 森塚梢の事件簿3   作:泉 とも

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直接的な描写はなるべく避けたつもりだけどこれR-15で合ってる?


・朝帰り

 ――梢、梢。

 

 おばあちゃん。

 

 ――お墓の奥に行ったらいけないよ。お山の上に行ったらいけないよ。

 

 おばあちゃん。ごめんなさい。私ね、お墓の向こうに行ったの。お父さんたちが、またけんかしてたから。

 

 二人の声が怖くて。あそこにいたくなくて。静かな所に、行きたくて。

 

 ――お墓の奥で、誰かがいたら、口をきいたらいけないよ。名前を教えたらいけないよ。

 

 おばあちゃん。ごめんなさい。あの人は、私のことを心配してくれたの。私の話を聞いて、ここは危ないから、家まで送ってあげるって。

 

 でもね、おばあちゃん。あの人ね、私のこと、最初からぜんぶ知ってたの。

 

 ――梢、梢。

 

 そういえば。

 

 おばあちゃんって、いつ死んだんだっけ。

 

 

 サービス終了のお知らせ

 

 平素より『Devil or Daemon?』をご利用頂きありがとうございます。誠に勝手ながら諸般の事情により本サイト及びサービスを終了とさせて頂きます。これまでご愛顧、誠にありがとうございました。

 

「梢ちゃん……」

 

 桜之千春は携帯電話から、界異謹製のホームページを見ていた。夜宴の数時間前から連絡が取れなくなった森塚梢。

 

 その梢の携帯電話から、一度だけ着信があった。コール音が鳴る前に切れ、かけ返しても繋がらない。

 

 胸騒ぎを覚えた千春は、もしやと思いこのサイトを開いた。案の定、上記の文章と共に、あの無責任な儀式が使えなくなっていた。

 

「…………ダメか」

 

 願いと代償の投稿フォームに梢の無事を書いても、不受理のメッセージが表示されるばかり。

 

 未だに連絡がつかない。先日との怪物たちとのやり取りを踏まえれば、殺されることはないと思いたかった。

 

「梢ちゃん、早く帰って来てよ……」

 

 震える指先が、登録済の番号に触れる。

 

『もしも私が三日経っても戻らず、アプリも止まらなかったら、祓魔師の詰所に電話しなさい。いいわね』

 

 愛すべき友人はいつも、窮地には必ず、本職の大人たちへの導線を用意していた。

 

 本来なら真っ先に相談すべきだったが、この時世に他人を頼ることもまた危険だった。

 

 それでも、それでも最後の手段として選ぶ程度には、一縷の信心が残されていた。

 

「朝になったら、連絡するからね」

 

 言いつけを守りながら、千春は月ばかり眩い夜を見つめ続けていた。

 

 

 その頃、慈愛学園体育館では。

 

 

「はあ、はあ、はあ、あっく、うぅ!」

 

 人払いのされた体育館で、深夜から始まった夜宴は丸二日続いた。女悪魔の言葉通り、梢は男性用と女性用の儀式を、休むことなく。

 

 しかも両性具有である梢は、一度に両方を、二倍の時間することを課せられた。

 

(アレから何時間、一日目までは、何とか……)

 

 最早作業と化した性交に、梢の意識は消えかけていた。

 

 何度絶頂を迎え、また迎えさせたか数えきれない。性的快楽と不眠が恍惚と覚醒を与えたのは遠い昔のこと。

 

(私まだ、人の形、してるの、かしら)

 

 疲労はとうに頂点に達し、空腹の感覚は麻痺していた。ただ、得体の知れない雄や雌と

まぐわう度に、何か名状し難い力が、自身に流れ込むのを感じていた。

 

 睾丸も無しに吐精すれば、それは確かに男と同じ物で、梢に抱かれた誰かが歓喜の声を上げる。

 

 また自身を貫く誰かが絶頂を迎えて胎の内を汚せば、酷使され擦り切れたはずの中身が状態を回復する。

 

「素晴らしい、素晴らしいわ……!」

 

 他の者たちと交わりながら女悪魔、サマナの声がする。あの冷静で気取ったふうの界異は、闇の中で獣へと回帰していた。

 

 明けぬ夜などないと人は言う。されど、夜明けに朝日が昇るとは限らない。

 

 秋も終わり、冬が近付く中で、この場には誰も来ない。

 

「あっあっあっ、また出る、あぐっ!」

 

 狂うこともせず、泣き崩れることもせず、梢は情事に務めた。自他の流した白濁の汚泥、或いは眉の中で、彼女は着々と生まれ変わりつつあった。

 

 いっそ自我や自意識を失い過程を飛ばせたらどれほど良かっただろうか。

 

 常人であれば既に気をやり、儀式の効果は限界を迎え、流されるばかり。

 

(きっと千春は幻滅したでしょうね、それで離れてくれるなら、少しは安心できるんだけど)

 

「すごい、あなたとする度に、どんどん力が湧いてくるのが分かります!」

 

 穢淫らしき人影が称賛を口にする。カルトや世界宗教の唱える紛い物ではない。

 

 他者に活力を与える賦活の性質を実に帯び、この短期間での乱交で本物の房中術を身に着け、幾度と無く自身へフィードバックしている。

 

「人間にしておくのが勿体ないです。早く貴女も“こちら側”に来てください!」

 

「そりゃどうも」

 

 肢体を揉みしだく無数の手は、零れ落ちた精液を摺りこむかのように蠢き、注がれる体液は腸を焼き続ける。

 

 最初の内は悲鳴も絶叫も上げた。正気が消えかける度に、祖母や千春のことが、走馬灯のように駆け巡り、梢を人間の淵に押し留める。

 

「さあ、最後の相手は私ですよ」

「最後……?そう、最後、ね」

 

 そして何時しか、夜明けは近付いていた。

 

 邪神にしか見えない黒山羊と目が合う。女の体に山羊の頭。古の存在が、萎えることのない神聖な柱を飲み込み、歓喜に震える。

 

「さあ、最後の、仕上げ、です。そのまま、全てを吐き出しなさい! 出せっ出せっ出せっ

 

 夜宴のために全身に彫られた、見えざる入れ墨が怪しく輝く。

 

「他の女の顔を思い出しながら、目の前の女への劣情を受け入れるのです!」

 

 背徳感を煽るために唱えられた邪悪な言葉が、梢の魂を襲う。

 

 視界がちかちかと明滅し、背筋を絶えず熱感を伴った寒気が行き来し、下腹部が痺れる。

 

「千春……ごめんね、ごめん」

「そう、それでいい。あなたは堕ちることで、高みに上るのです!」

 

「それでも、私、帰るから……」

「なっ!」

 

 途切れの途切れの息、虚ろな視線で凌辱され続ける女の瞳の奥に、未だ燃え綴る光が在る。

 

 その光は絶頂が迫るに連れ、はっきりと強くなっていく。

 

「これで最後なら、お望み通りにしてあげるわ」

「あぐっ、そう、素晴らしい。もっと、もっと!」

 

 サマナを押し倒し、遂に上下が逆転する。

 

 込み上げる精を自らの意志で練り上げ、増やし、熱する。祓魔師たちが自らの術に対して持つ感覚と似た物が、このような形で結実する。

 

「出すわよ。欲しかったんでしょう。全部くれてやるわ、うぅあっ!」

 

「あぐっ!おっはあ!」

 

 サバトの最後に解き放たれたものは、邪神を調伏するに足るほどの力を持って、これを成した。

 

「はあっはあっはあっはあっこれで、終わり」

 

 体育館に置かれていた邪神の祠と魔法陣が、月明りの如き光は放ち、完了を報せる。

 

「そうです、夜明けが来て、貴女は、見事に宴をやり切った。これで儀式は終わり、そして、新しい始まり……ふっふっふ、ふっはっはっはっは! あーはっはっはっは!」

 

 サマナは気が振れたかのように笑うと、体育館内に満ちていた黒い闇が晴れて行く。

 

 周囲の気配は消え、梢の身形が整えられる。

 

『これからです。これからあなたは更に変わり続ける。またその内会いましょう。梢さん』

 

 サマナの姿は影が溶けるように跡形も無くなり、体育館の扉がゆっくりと開かれた。

 

 絶望的な言葉だったが、梢はゆっくりと身を起こすと、ふらつく足取りでその場を後にする。

 

「……まあ、そういう約束じゃ、なかったもんね」

 

 冬を控えた夜明けは雨空を戴き、太陽の無い夜明けを彼女に齎した。

 

 鼻を塞ぎ、肺を埋め尽くすほどの精臭も、中で行われていた狂態も、誰も知らない。

 

「どうなったのかしら、私」

 

 周囲には鏡も何もない。角も尻尾も羽根も生えていない。だが何かが違っていた。

 

 自分自身に。人間であることに、強い違和感を覚えていた。

 

 湧き上がる力と込み上げる不一致。

 

「ほんと、夢だったら良かったんだけどね」

 

 下腹部を抑えながら、梢は千春の家を目指した。胎の中には、得体の知れないモノに注がれた、汚液の感触が今も強く感じられていた。

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