タクティカル祓魔師二次創作 森塚梢の事件簿3   作:泉 とも

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・時代は変わった

「という訳なのよ」

「また思い切ったね梢ちゃん」

 

 救助の済んだ夏を行政に預けると、梢は自宅同然の桜之家に帰還した。

 

 彼女の無事を祈って待っていた千春に、これまでの事情を説明すると、些か白い目を向けられてしまう。

 

「いやだって、神様の何かとか、絶対人間の命よりも価値あるでしょ」

 

「それはそうだけど。梢ちゃんいっぱい出すし」

 

 日頃の情事を思い出して千春は頬を赤らめる。後始末が大変なので、致す場合は最近めっきり梢の家でするようになっていた。

 

「それはまあごめんだけど」

 

「そこは良いのべつに。私もそっちのが好きだし」

 

 ねっとりとした視線が梢の下半身に注がれる。TPOを弁える理性が無ければ、千春は梢を押し倒している所だった。

 

 梢の性欲が週三程度だとすれば、千春の性欲は週六(梢限定)である。

 

「問題は代償の取り立てが、梢ちゃんの所に来ちゃうことだよ」

 

「まあね、でもこれはチャンスでもあるわ。ほら、この前の動画、アレよ」

 

 言われて千春は級友が、自宅に赤鬼を招いた配信を思い出した。

 

 軽度に猥褻なトークとボディタッチでお送りされた一本を。

 

「もしも話の通じる相手なら、この件について色々と聞き出せるかも知れない」

 

「うーん、千載一遇というか、貴重な突破口だとは思うけど……」

 

 千春は言葉を濁した。視線は再び梢の下半身へ向けられる。

 

 彼女が支払う予定の代償と、これから果たされるであろう行為を。

 

「これから来る人とするんだよね?」

「いや、一応場所は変えるよ」

「相手は誰になるんだろう」

 

 これまでに確認出来たパターンは全部で三つ。どれが来ても気分は良くないし身の危険がある。

 

「赤鬼か、山羊頭の女悪魔か、それとも夏の時みたいな何かか」

 

 赤い人影は、代償を取り立てに来る使いだろうと、梢は考えた。式神や使い魔の類は別段珍しくない。

 

 ただそれが来た場合、情報収集は失敗である。

 

「相手や方法をこっちで選べると助かるんだけど」

「私は梢ちゃんが他の人とするの、正直嫌だな」

「そうね、私も仕事でやってるけど、あんまりね」

 

 梢は両親が蒸発しており、生計を立てるために年齢を偽って体を売っている。

 

 そのことは千春も理解しているが、他人に汚される梢を見ていると、怨念と情念に意識が塗り潰されそうになるのだ。

 

 梢は社会人になればこの関係が終わると思っているが、千春は早く彼女をヒモの立場に置きたくて仕方がなかった。

 

「あら、誰か来たわよ」

 

 話も終わり際に差し掛かったとき、玄関のチャイムが鳴る。

 

 時刻は既に夕方で、閑静な住宅街は静まり返っている。

 

「おかしいな。うちにお客さんなんて」

 

 千春は壁に掛かっている、カメラ付きのドアホンを確認した。外の映像が防犯カメラを通して見られるようになっている。

 

「梢ちゃん、梢ちゃん!」

「どうしたの……!」

「これ!」

 

 ドアホンの映像には、二人組の姿があった。

 一つは法被姿の赤鬼。もう一つはスーツ姿の女悪魔。

 

「どうしよう、通報する?」

 

「いえ、下手に足掻いて心証を損ねても良くないわ。腹を括りましょう」

 

 家主である千春は表情にありったけの不満を浮かべたが、言葉を飲み込んで頷く。

 

 そして梢はドアホンのボタンを押し、応対することにした。

 

「もしもし」

 

「ああもしもし?こちら森塚さんですよね?アプリの代償の取り立てに伺いました」

 

「分かりました。今行きます」

 

 震えそうな声を通し、千春に一度だけ頷くと、梢は玄関に向かい、ドアを開けた。

 

「ああどうもどうも、お姉さんが今回の人」

「はい、夏の件はありがとうございました」

 

「ご理解とご協力頂けるようで何よりです」

「ええ、どうぞ上がってください」

 

 二人の界異を一階の応接室へと案内すると、千春が来客用のお茶と菓子を用意していた。

 

 これには三人共驚きを隠せなかった。

 

「千春、あんたは来なくて良いのよ」

 

「ここ私のうちだよ。ああ、私は付き添いですので、お構いなく」

 

「こりゃ最近のもてなしで一番だなおい」

「ええ、中々度胸がありますね」

 

 赤と黒の界異は上機嫌でもてなしを受けた。非現実的な光景だったが、両者共に強い存在感を放っている。

 

「それでかなまら様の逸物というのは」

「あの、ここでお見せするのはちょっと」

 

「ああすいません、不躾でしたね」

「俺は別に見なくても構わんぜ」

 

「でしたらそちらの」

「サマナです。一度部屋を出ましょう」

 

 黒い訪問者は来て早々に梢をトイレに連れ込んだ。まるでこの家の間取りを知っているかのように、自然に。

 

「さあ、見せなさい」

「はい……」

 

 個室に二人きりになるや、サマナと名乗った女悪魔が高圧的な声音で命じると、梢は穿いていたジーンズとパンツを下した。

 

 そこには男性の物などは見当たらない。

 

「ふう……はあ……」

 

 梢は精神を胎に集中すると、淡い光が一点に灯り、見る間に黒光りする棹へと変化する。

 

「はあ~~~~」

 

 羞恥と肉の変化する感触。静かな法悦に梢は身震いを起こす。

 

「おお正しく、正しく神仏の賜物!」

 

 サマナはごくりと生唾を飲んだ。俄かに息が荒くなり、熱くなる。

 

「これってその、価値があるんですかね」

「凡百の人命など取るに足らないですよ」

 

「そ、そうなんですか、あっ」

「今から楽しみですよ。貴方から搾り取るのが」

 

 サマナはそう言うと、お預けとばかりに彼女の脱いだ物を穿かせた。

 

 二人は個室から出て応接室へと戻る。

 

「よう、どうだった?」

「本物です。とんだ掘り出し物ですよ」

 

「ばっかおめえこれから掘るんだろ? それとも掘らせるのか?」

 

「両方ですね」

(両方なんだ)

 

 これから自分の身に起こることを宣告されて、若い祓魔師予備軍は内心で溜息を吐いた。

 

「あの、どうして二人で来たんですか?これまでは一人だったのに」

 

「俺は付き添いっつーか用心棒さ。早いもんで代償の踏み倒しを図る奴が出て来たんでな」

 

 鬼は笑いながら利用者の不実を語る。千春も梢もそうだろうな、という気持ちで続きを聞く。

 

「物騒じゃない願いで、ちゃんと代償を支払う気のありそうな奴のとこには、俺たちが直々に出向くことにしたのよ。他はまあ使いっ走りの下っ端だな」

 

 鬼の言葉に嘘は無さそうだった。秘密を隠しているというような様子ではない。

 

 というか愚痴に近い。

 

「お二人があのアプリを作ったんですか?」

 

「アレは私が作ったのです。現在あなた方の言う私たち、界異の一部では人間社会用の儀式を、新たに作ろうという試みが流行っていまして」

 

「お前らも好きだろ?ポケモンとかメガテンとかFGOとか。こっちが主役のマシンだと思いねえ」

 

 鬼の発言に梢たちは眉を寄せた。だいぶ遊び好きという雰囲気はしていたが、テレビゲームの類までしているとは思わなかった。

 

 しかしそこに着眼点を置かれたのは、不味いの一言だった。

 

「プログラミング、面白いですよね」

「勉強熱心な奴は怖いぜほんと」

「鬼さんはこの人とどういう関係なんです?」

 

 千春は梢を差し置いて、ズケズケと物を聞いた。本人たちに喋る気があると踏んで、行ける所まで行こうという考えだった。

 

「夫婦」

『ふうふ』

 

「古風な言い方をすると、夫婦」

『めおと』

 

 思わず二人はオウム返しをした。洋の東西は分かれているように見えるが、界異の中でも国際婚はあるのだろうか。

 

 そもそも人と神の異種婚が古来よりあるのだから、それくらいは普通にありそうだと彼女たちは思った。

 

「お互い人の世を渡り歩くのが好きでねぇ、気が付きゃ一緒になってたって訳よ」

 

「とはいえ暮らして行くためには、色々と試行錯誤の毎日でしてね」

 

 人の世で生きて行くために、人を食い物にする。人間社会ではごく当たり前の風景である。

 

「今の所これほど完成度の高い、科学と魔術を融合させた儀式装置は、他にありません」

 

 サマナが自慢げに言う。類似品は無い。今はまだ。

 

 咽喉から手が出るほどに求めていた情報が、いきなり転がり出た。

 

「あの、それなんですけどね、そのアプリ」

 

 梢は意を決して、本題をぶち込むことにした。

 

「お二人なら、サービスを終了させることも、可能ですよね」

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