とラぶラックキャット 作:那覇ダイア
イヴ、お辛い注意です。
黒いボロボロのワンピース姿。
靴も履いちゃいねーし、何と言うか、そのまま適当に放り出されたみてーな、そんな孤児のような恰好。
衣服に頓着してねーのは社会性の喪失か、それ以前に自分自身の置かれてる状況から余裕がないのだろうか。
気絶したデュラムを俺が縛るよりも先に、イヴは髪をいくつかの鎌だかブーメランだか微妙な形状に
投げてきたといっても空中で高速回転して迫ってくるわけで、ぱっと見は飛行する丸鋸、ひも付きみてーな感じだ。
普通だったら接触致死、それだけでズタズタだ。
「ま、俺が相手な時点で運は無ぇんだがな」
もっともハーディスを振り回して叩き落とせば、イヴは「あっ」と目を見開いて驚いた顔だ。
アレか? 一応は髪を大量に伸ばして死角からも攻撃が飛ぶようにしたってのに、全部勢いつけて叩き落とされちまったから動揺してンのか。
俺からすれば
伊達や酔狂で
……その代わり全身の骨と言う骨を叩き折られた気もするが、ま、まあ、現代の再生医療は進んでるっつーことで、な。
だがそれはともかく、イヴの動きは所詮一般的な兵士レベルの殺害を想定してるっつーことか?
……いや、そうでも無ぇな。
空中に浮かんでる鎌は、すべてが俺に投擲された訳じゃない。未だに追撃できるように回転しながら浮かんで待機してる。
つまり、こっちの状況次第で攻撃もトランスも全然出来る余地はあるってことだ。
だっていうのに、コイツ……。
「────」
「形状は多少マシになったか? ……所々黒いヘドロみてーなの付いてるのが気になるが」
そしてイヴは、出刃包丁をデカくしたみてーな形に両手を成型して俺に斬りかかる。
前よりもちゃんと波紋とか、色とかも
振り下ろされる両手を雑に躱しながら跳躍し、距離を取りながらハーディスで狙撃。
当然のように、イヴは盾のように変化させて弾丸を受ける。
右手に剣、左手に盾……、ちょっとした勇者みてーだな。
姫勇者っち?
語呂、悪……。
「何で今更、俺狙うんだよ。戦う理由なんざもう無ぇだろ? お前を兵器として
とりあえず距離を取らせた上での確認に、イヴは胡乱な視線を向けて来る。
「好きに生きろ……、と?」
「死なない程度には生きろって話だな」
「そう、ですか。
────────人殺し以外の生き方なんか、もう、私にはわからないのに?」
もう、ねぇ……。
やっぱりまともな教育を受けてから兵器へと
むっとした感じのイヴは、一気呵成に俺を襲って来る。
とはいえ、あのワープとかしまくった角の有る姿には変身しない。
……しないっつーより出来ないってことか?
能力的にも色々問題が多そうだったから、制限がつきまとう能力だと言われればそれはそれで納得は出来るんだが。
「おっと」
「……! これも、避けますか」
ぼうっとしてたら妙な臭いを感じたから足元に狙撃して見たが、まあ何ということはない。
足元の地面に
「わざわざ罠の構造を再現するたぁ、本好きか? 姫っち」
「…………」
「ま、絵本くらいは読んでもらってそうだよな? 星型っぽいネックレスとかいかにも童話っぽいし。……って、アレどこやったんだよ」
「…………」
表情はすぐれないイヴ。
ただ、攻撃の鋭さが増したような気がする。
地雷踏んだかねこれ。失くしたか、あの後壊されたか。
どっちにしてもロクな状況じゃないなこれ。
ま、それはそうと最低限確認だな。
「……仕事はデュラムの始末か? 大方、無駄に目立って
「…………」
「……何か話しちゃくれねーか? 可愛い顔が台無しだぜ」
「……話して何になるっていうんですか」
「比較? 昔の俺と」
「昔の、ねこさん?」
イヴの表情が少し動いた。
ほんの少しだが瞳孔が狭まり、目を見開く。
その隙を狙って、弾種を
わわわ、と顔面目掛けて「にゃーん!」と飛び掛かり甘える三匹に、イヴは思わず足を止めた。
顔面に二匹、思わずキャッチしたらしい一匹は胸元。
頭にてしてしとミルクを要求するように「動かしている」やつと、落下しねーように頭によじ登ろうとしている奴を、髪を
そして……、イヴは俺を半眼で睨んでいた。
ちょっと顔を赤らめながら。
「ねこさん、卑怯です!」
「お、おぅ?」
「こんな可愛い子たちを囮に使うなんて、どうかしてます!」
「いやだって……、いや、なぁ?」
『『『──────!』』』
俺の声に合わせて、そろって「みゃー!」と鳴く黒猫共。
その揃いっぷりを見てやっぱり目を大きく見開くイヴだったが、こうして見るとやっぱ年相応だな。
さっきまでの絶望っぷりが、目の前のにゃんこ可愛さにどっかに行っちまってる。
腹抱えて笑ってる俺に、ぶすっと頬を膨らませたイヴは、手元の猫も髪の手に任せて両腕を組んだ。
「……昔のねこさん、とはどういうことです?」
「ん? 嗚呼。俺もまあ、ガキのころに拾われて仕込まれたクチだからな」
本当に軽くだが、イヴに俺のことを話してやる。
そう……、幼いころに両親を惨殺され。
その実行犯だった殺し屋が、何の因果か俺を気に入って引き取って。
親が殺されても悲しむよりすぐ復讐に銃を手に取ったところが良かった、とか言ってたか。
おそらく今の俺よりも銃の扱いに長けてたその殺し屋も、どういう訳かあっさりと殺された。
────親殺した俺が目標か。ハハ……。
────だったら、俺を超えて見せろ。一人で生きて、生きて、生き抜いて、そして何よりも強くなって生き抜いて見せろ。
生きる術と、
ザギーネ……、アイツの末期の言葉は、気が利いたセリフでも何でもなかったが、それでも嫌にこびりついている。
生きるために殺して奪って殺して奪って、気が付けば堅気じゃねぇ連中にとっつかまって。
下手に銃の扱いは長けていたモンだから、強盗の実行犯の一人に選ばれた。
ンでもって、その時に襲い掛かった身なりの良かった男こそ、セフィリアの旦那であるギド・ルシオン・デビルーク。
襲い掛かった連中は俺も含めて全員ボロボロにされたが、殺されはしなかった。
一応、自国民だからとか色々言ってたが、ありゃ
ただ、他の連中に比べて俺は長く粘った。
それが目に付いたらしい。
────この俺様を前にテメーぶち殺すだ? 死にそうになってもそれだけ言って俺に一発かませりゃ上等だ。
────お前、昔の俺にちょっと似てるな。丁度良い、ガンマンは空きがあったな……。
で、気が付けば当時ようやく“
そのまま数年しねーうちに戦地に放り込まれて、ハーディスと
途中、クリードに絡まれたりとか細けー話はあるが、それでも人生に色なんざついちゃいねぇ。
ただ生きて、強くなること以外の全てが存在しなかった毎日。
一通りそんな話をしてやれば、イヴは頭を傾げる。
「ねこさん…………、全然重なる要素ない気がします」
「そりゃ、お前と俺は別人だからな。人生そんなダブるようなモンじゃねーだろ。それに何をどう見聞きして、重ねて考えるかは俺の自由、だろ?」
「人生、ですか。……生体兵器にそんなこと言うなんて、ずいぶん優しいですね」
「だろ☆」
「褒めてないです」
半眼でジトーっとなるイヴに、にしし! とわかりやすく漫画みてーにウインクしながら大笑いしてやる俺。
ただ、肝心なところを少し間違えてる気がするから、そこは訂正してやる。
「いやでも、お前フツーに人間だろ」
「…………だから、私は──」
「少なくともお前の親は、お前をどういう風に扱って育ててた? なあ、
「………………」
いや、お姫様呼びで両手戻してほっぺにやって照れるなよ。
完全に幼児の仕草じゃねーかお前それ。
後、前にも言ったけど半分馬鹿にしてっからな? うん。
言ったらキレそうだから黙ってるが。
「……ティアは、私としては、年の離れた姉です。とても優しくて……、とてもここが、ぽかぽかして」
「…………ん」
「だけど私は…………、いっぱい、殺しました」
以前、黒猫弾で見た研究施設のアレな映像を思い出し、嘆息。
「……なるほど、
「…………」
「そりゃあな~、同情はする」
「……ねこさんに何が、判るんですかッ」
「いや判らん判らん、全然わっかんねーから」
しっし、とイヴの怒りの視線を適当に払いのけるような動きをして、改めてイヴの目を見る。
雑に扱われた怒りと同時に……、そこはかとないやるせなさが、目に浮かんでいる。
イヴにこびりついた血の種類の異様な多さにも、なんとなく察しがついた。
それだけの数の生物を集めてきたっつーより、イヴの劣化クローンをそうトランスさせて、
フツーに悪趣味すぎる。
せめてあの
本当、科学の力ってスゲー! と何度叫んだ事か……。
……後年の話になるが、回復用ポッドの顔面のクリアな部分、鼻先ちょっと前に何度クリードが瞬きしねーで目をかッと見開いて俺の顔を観察しながらニタニタ笑っている地獄みてーな目覚めを経験した事かってのを思い出して勝手にナーバスになってるが、いや危ねぇ危ねぇ。
「でも、嫌な気分だったんだろ?」
「…………はい。戦う前に、
「おっと、トラウマものだな」
「………………」
「そう睨むなっての。でも、だからお前は人間だって話だ」
兵器は感情を持つな、とまあ、そんなことをテンプレならトルネオだのドクターだのに言われるんだろうーが。
ザギーネもセフィリアも、俺に感情を消せと言ったことは無かった。
ま、ザギーネは「怒りはパワーだからいつでも一瞬で沸騰できるようになれ」とか言ってたし、セフィリアは「感情はパフォーマンスを左右するので必要に応じていつでも封じられるようになさい」とシリアスモードで言ってたりとか、色々台無しなオチはつくんだが。
それでもアイツらは、俺から人間的な感情の排除までは言わなかった。
……それを無駄にするくらい、サヤに出会う前の俺にはなーんも無かったんだが。
「だったらもう、良いじゃねーか。
今はもう強制されてる訳じゃないし、帰れる場所だって
「……………………」
「姫っち?」
「…………わかっては、います。私が自由だって」
だけど、と。イヴは俯きながら、拳を震えさせる。
原作スヴェンの受け売りな物言いをしてはみたが、やっぱりイマイチ響いちゃくれなかったかね?
「だけど……、だけど、だけど!」
のんきなことを考えてる俺をよそに、イヴは、こらえてた感情のダムを決壊させた。
「────何で私は、生体兵器なの……! どうして、ティアの本当の妹じゃないの! どうして!」
膝から崩れ落ちたイヴにかける言葉が、俺にはなかった。
髪のトランスも解けて、その辺に黒猫弾も放られ転がされる。
……普通はそりゃ、そうか。
復讐のためにザギーネに師事して生きるっつーのを、俺は自分で選んだ。
けどイヴは、そんな選択肢も初めから存在すらしなかった。
生きるために流されて、と言えるほどの自我すら、イヴには求められてすらいなかった。
だからこそ……背負わされた痛みや、苦しみや、
……もしかしたら当時は、培養された
その妹たちすら、多くを自分の手にかけて殺していたとしたら、そりゃ家族の元に戻るって、すぐに思えはしねーか。
情緒がしっかり育っているからこその、精神の防衛反応を突き抜けた……不条理への叫び。
まあつい先月とか、そういう連中の残党っぽい研究施設を何件か壊滅させて
「私は……、どうしたら良いの? ねこさん、私、私…………
イヴは、そんなことを言いながらひたすら泣いていた。
自分で納得できないことを叫んでいるイヴに、俺は特に手を差し伸べたりはしない。
ンなことしても薄っぺらいし、今はまず、自分がどうしたいかを見つめ直す時だろ。
だからしばらくして、少しイヴのしゃくりあげが収まったころ。
「
「何っつータイミングだよ」
「……ッ」
思わず苦笑いがこぼれるのは、この場に駆け付けた白スーツに眼帯の、本当に漫画通りなスヴェンの姿を見たから。
アタッシュケース片手に警戒するように、スヴェンはこっちに問いただす。
まさかアネットの知り合いの賞金稼ぎを襲った殺し屋ってのは……と、痛々しい感じにイヴの方を見て。
「違うっつーの、それは、あっちでスッ転んでる
「え? お、おぉ……? 状況が全然読めねぇんだが」
「んー、どうする?」
イヴの方に視線を振って確認すれば、両手で顔を覆いながら首を左右に振るイヴ。
どうやらスヴェンにも、自分がマフィアか何かの殺し屋としてこの場に来ていたってのは知られたくないらしい。
というかもしかしたら……、この拒絶っぷりは、マフィアに入ってから何人か殺しちまってるか。
血のにおいは相変わらずべったりで、スヴェンの接近にすぐ気づけないくらいの量なのに一切変りはないんだが。
まあでも、このままお通夜みてーな状態だとイヴにとっても針のむしろだろう。
再会するっつったって、このコンディションだと今じゃない。
となると俺が取れる手段は…………。
「……鎖骨、1日くらいで手を打っちゃくれねーかな?」
「は?」
取れる手段は一つ、
まあ、相手への報酬の検討に対してスヴェンがギャグ漫画みてーな顔して困惑してんのはちょっと笑えるが。
ハーディスで黒猫弾を複数射撃し、ニ十匹くらいの総数にして。
とりあえずワンピース姿が色々寒そうなイヴにジャケットをかけてやる。
……腹に包帯巻いてある以外ほぼ上裸になった俺に「な、何やってんだ!?」とか呻いたスヴェンは無視して、そのままイヴをお姫様抱っこ。
肩に担いだりしても良いんだが…………、そうすると体勢的に、泣き顔が見えちまうだろうからな。
武士の情けってやつだ。
原作のイヴを知ってるからこそ、世話することに責任は持てねーが、このまま放置するのも可哀想だった。
「そのうちこっちから連絡するから、ちょっと時間置いてやってやれ、スヴェン」
「は? いや、お前何で俺の名前……って、そういや名乗ったか」
「オッサン呼びの方が良いか? あ、個人番号教えてないのにどうやって連絡するのかとか、そういうありきたりなのはナシだぜ? 予想つくだろ」
「だから何でそんな気安いんだよ、お前……?」
困惑するスヴェンに、ニシシ! とさっきイヴにしたみたいな笑いを向けてやれば。
「イヴをどうするつもりだ?」
怖い顔すらせず、何っつーか本当
人に気安いっつーわりに、お前のその俺への変な信頼感みてーなのも一体何由来なんだって話だな。
「あー、組織には紹介できねーかな。少し衣食住の面倒見て、踏ん切りがつくよう、色々余計なことしてやるだけさ」
俺じゃなくてサヤが、と内心で丸投げする。
子供状態だった俺にあれだけ世話焼いて、未だに変に世話焼いてくるサヤのことだ。
万全に回復したら、イヴのこともそれはそれは可愛がってくれるだろうという確信がある。
それはそれは────普通の女の子を可愛がるように。
イヴにとってそれは、ある意味で辛いことかもしれねーが。
間違いなく、今のイヴにとっても必要なことで。
同時にティアーユ博士相手には、もう求めちゃいけねーと自罰してる以上は、すぐにどうこう決着がつくことでもないのだから。
ま、少なくとも
間違いなくイヴに優しくしながら、組織や王室に対する依存と忠誠を刷り込んで、よろこんで命を投げ出すように「自分の意志で」仕向けさせるだろう────たぶん
いくら何でもああまで病んでる訳でもない女の子相手に、そいつは酷だ。
だから、じゃあなと言って、個人用
ついでとばかりにニ十匹の黒猫団に引きずらせた、未だ気絶したままのデュラムごと。
…‥いやこいつ死んじゃいねーよな? いや、その、ハーディスの殴り加減ってけっこう難しいっつーか。
なまじ質量がSFチックに宇宙スケールなものだから、まあ、単なる鈍器って訳じゃないくらいの重さだし、うん。
そして茶髪リンスの拠点に、少しだけ居候させてもらいながら、二日後。
「ふしゃーっ! ふしゃーっ!」
「ご、ごめんねイヴちゃん……! お姉ちゃんちょっと、やりすぎちゃって」
「ふしゃーっ! がるるるるる……!」
「くぅ、……トレイン君もちょっと、何とかならない?」
「だぁから、そういう構いすぎなのが良くないんだろって」
……万全な状態に復活したサヤに猫かわいがりされたのが鬱陶しかったのか、イヴもイヴで何か猫みてーなリアクションをとって、部屋の隅で変なポーズ決めてた。
民族衣装は補修中らしく、浴衣姿でうずうずしてるサヤ。謝りはしてるが、全く反省してるように見えねぇ。
そんなサヤの動きを察しているのか、ますます叫びが猫になって態度が硬化するイヴ。
だからちょいちょい、言動が幼児なんだよなあ……。
そんな様子を、部屋の奥で珈琲飲みながら「まるで拾ってきた捨て猫ね」と、茶髪リンスは苦笑していた。
あっ、ちなみにデュラムの報奨金だが、サヤ経由で貰った金額はあのアパートと治療費のタシにもなりゃしなかった。
俺のポケットマネーでも問題ないし、組織に負担してもらうことも出来るが、それにしたって割に合わねぇなマジでさぁ…………。
Q.どうしてスヴェン駆け付けたの?
A.半殺しにされていたアネット(情報屋)の事務所から抜かれていたサヤの住所に向かってみれば部屋は破壊されてキープアウト。クロの姿がそこにあったと目撃証言を集め、特に隠れて行動していた訳でもないのであっさり行動範囲を特定したため。
人がいないことからサヤが重傷を負ったのだろうと判断し、友達(?)らしいので仇討ちにでも行ったのではないかと、見過ごせずに後を追っていった。復讐を止めろと言うかどうかとか、特に何も決めてなかったが、気が付いたら追いかけていた。
おっひとよし~。