とラぶラックキャット 作:那覇ダイア
とりあえず2話まで。
親からだいぶ昔に借りた漫画の世界に転生した。
以上、といって全部終わらせてしまいたいが、残念なことにこのスペースオペラっぽい世界で生きているのが俺だ。
自分の人生からは逃げられないので、改めて状況を整理しよう。
本名、トレイン。苗字はない、というか任務によってころころ変わる。
組織での暗殺者“
身体に入れ墨は……、彫られてない。
愛銃のハーディスにも「
年もいくつか、正直よくわかってない。
まだ十代な気はしてるが……さっきのスーツの賞金稼ぎのことを思えば、ざっくり十代中頃から後半ってところか。
読んだことがある人間は気付くかもしれないが、キャラクター的には「BLACK CAT」のトレイン・ハートネット
まあ、思い出した事と言っても漫画読んでたことくらいか……? 学校に通ってたとか、スポーツで卓球やってたとか、そういうのは覚えちゃいるが。前世の顔も形も、名前も全く出て来やしない。
記憶同士に違和感が出ないのって、そう言う事情もあるのかもしれないが…………、いや、でも違う様な気はする。なんとなくだが、多分「思い出せない」じゃなくて「塗りつぶされた」が正解だろう。
暗殺者クロとして、組織の
多分普通だったら、全く思い出す余地もなかったろう。
じゃあ何で自分の前世みたいなのを思い出してしまったかなんて言えば、目の前の彼女が原因だ。確信を持って言える。サヤ……、何か微妙に長い名前を名乗られた気がするが、もう一度確認する。
「あっ良かった! 急に黙っちゃうから、聞こえてないのかって思ったよ~。……ん、もう一回名乗ってくれって?
サヤだよ? サヤ・メロディベル・ミナツキ。サキ星系、
「そういう余計な情報は求めちゃいねーんだよなあ。……変な姉ちゃんだな」
「む、初対面なのに言ってくれるじゃない君。けっこう気安いのかな?
……って、そういう君は、何やってたの?」
腰に手を当てぷんすこと拗ねたように言って、でもすぐに楽しそうに笑う。
見てるだけで底抜けに明るいと
俺の知る彼女は、サヤ=ミナツキ。……表記が面倒だから以降は「=」じゃなくて「・」で統一するか。
職業は
ブラックキャット(これも横文字面倒だから以降カタカナな?)のヒロインって訳じゃないが、主人公のトレインの性格形成にかなり大きな影響を与えた女。前世で読んでた時の印象は「陰キャに優しいギャル」みたいな感じだった。
……我ながら語彙が無ぇが、そんなキャラクターだ。
恐ろしいのは、その優しいってのが本当の意味で表面的な優しさじゃなさそうってことだ。確か原作だと、彼女と出会ってからずっと
ぶっちゃけ、お互い特に気がなかったってのが信じられないくらいに、滅茶苦茶距離が近かった。
独り身の女が当たり前な顔して独り身の男の部屋に出入りしてるし、男も男で女によく招かれてたような感じだし。
そう、だから……、多分きっと、洋風の世界観に殴り込みをかけるような浴衣を好んで着ていた彼女に対して。
目の前の、どう見ても古代日本的な文化を想起させる服装な彼女が、容姿もありダブったのだろう。
それくらいで揺さぶられるのか、ということについては…………。
というか、騒いでいたせいか猫、どっか行ったな。
「また考え事? それとも星系またいだ電話の時差ボケ?」
「…………こだまくらにしとけ、そこまで時間はとっちゃいねー」
「あっ繋がったー! スタジオー! こちら中継のサヤ・メロディベル・ミナツキでーす! てへ☆」
「意外とそれっぽいな。……芸能関係とかか? アンタ」
「ざーんねーん! …… 一応、これでも賞金稼ぎ!」
言いながらどこからともなく取り出したそれは……、何だ? ショットガン? ハンドガンサイズだったそれが、銃身を引くと同時にぱたぱたと拡大して、かなり物々しいサイズに。とはいえ重量は軽いらしく、ひょいと持ち上げてくるくる回していた。
なんならテンションが上がったのか、ノースリーブ風な恰好で袴っぽい裾を揺らして、くるりと一回転。
……なんとなく見ていられなくて、視線をそらして缶を差し出した。
「飲むか?」
「えっいいの?」
「……どっか行っちまったから」
「やったー! って、私、来たから
…………でもミルクはありがとう!」
人生楽しそうに、差し出した俺のミルク缶を手に取り、蓋を開けて口を付ける。
ごく、ごく、と。首を上げて、目を閉じて、少し苦しそうに飲み干そうとしている。
少しは小分けにして飲めよと思いながら…… 一瞬触れあった手を、俺は気が付けばじっと見ていた。
ほんのりとミルクの臭いと、少女特有の
「ごっちそさまっ。
で、今気づいたんだけど、きみ名前、何て言うの?」
「…………」
「だんまり? 私、自己紹介したんだけど」
勝手に名乗ったんだろ、と言ってやりたいところではある。
一般的に、殺し屋なんて不用意に関りと持たない方が良いのは当然だ。
原作のサヤもまた、トレインと不用意に関り続けたから殺された、という側面が無い訳でもない。
それこそがトレインと……、彼女を殺したクリードとの決定的な終わりで、始まりだったとも言える。
ただ、横目に見る彼女は。
微笑みながら、不思議そうに首をかしげる愛らしい顔も。
宇宙時代らしく薄い布地の恰好からは、まあまあ煽情的な肉感が見られる。
…………あと、思ったより身長が低いな。いや俺もそこまでデケェ訳じゃないが。
「何?」
「…………命が」
「ん?」
「命が惜しいから、好きに呼べ」
「えぇ~? どういうことっスかぁ?」
そして人に気安いとか聞いてきた割に、サヤの距離感は明らかにバグっていた。
価値観のよく似た親友、とか原作のトレインはそう吹かしちゃいたが。
いや無理だろこれ。普通に好きになっちゃうわ。
物心ついて十数年、薄着の異性から友達距離感で接されたことのない人間なんざ、ガードが弱いどころかザルだぞこんなもん。何だこの
いかにクリードことザスティンがセフィリア……、この世界じゃセフィ・ミカエラ・デビルークか? あの人のボケボケっぷりと種族特性みたいなもんでメンタルぐっちゃぐちゃになって再構成されて、もはや別人になっちまったとしても……(気のせいじゃなきゃ声まで変わってる気がするが)。
どこで恨みを買ってるかわからない以上、距離感は慎重にならざるを得なかった。
……後こう、色々な意味で。主に、俺の下半身事情的なのを含めて。
※ ※ ※
「魔術犯罪者ディーク・スラスキー。アルケム星系の賞金首で、持ち前の氷属性魔術を使って多くの女性を殺害し遺体を冷凍保存。オンリーアライブ……、殺さずね」
「そ! 本当はエルフェン星系の方で手配が出てたプレタ=グールの方が良かったんだけどさー。何か先に依頼、とられちゃったらしくって。エルフェンの方が支払い太っ腹っスからね~、あー残念! 謎の紳士服のオジサマめー!」
「知り合いか?」
「謎のって言ったじゃないっスか。アレ、情報屋さんが依頼取っていった人、ぽろっとこぼしたの聞いたの」
なるほど、
まあ、おおよその当たりを付けて、俺は思わず苦笑いした。
場所は相変わらずマンションの屋上。
また猫を待とうと登ったら、今日はサヤが先客だった。
いつの間にやらツナ缶(宇宙でもツナっぽい魚がいて、ちゃんとツナというらしい)を持ってきて、あの猫を餌付けしていた。
『あの
『誰がぼっちだ』
『あ、クロネコ君!』
俺の姿を見て「おーい!」とのんきに手を振る姿は、まあ何と言うか……。
前世に目覚める前、特に何もなかったはずの俺だったら何も思わず無視してるところだが。
生憎と現在の俺は、そのきらっきらした笑顔を直視できない。
端的に言うと、固まる。
そんなこっちに「?」と微笑みながら不思議そうにして、「今日は連続っスね~」と笑っていた。
もともと気安いサヤだが、色々アウトすぎる呼び名含めてさらに気安くなっているのは単純な理由。
あれから、初遭遇の夜から。
サヤはこうして、ことあるごとに屋上に登って来ていたのだ。
結果、よく顔を合わせるようになって、微妙な距離感を維持している感じになっている。
『別に、君を探しに来てる訳じゃないっスよ~? こう何と言うか、私しかしらなかったベストプレイスが誰かにずっと占有されてるってのも、ちょっと癪というか……』
よくわからない理由を語る彼女に、よく知りもしないくせに相変わらずって感情と、不思議と嬉しいような感情が湧いてくると言うか。
あれだ、アレ。ちょっと気になってる子が学校帰りとかに、一緒の電車に乗って隣の席に座ってガンガンおしゃべりしかけて来るのにドギマギしてる様な、何ともいえない
思春期かっ!
……思春期だな、少なくとも身体的には。
ともかく、そんなサヤが得意げに語ったのだ。
今日これから、手配書をとった相手を探して捕まえに行くと。
あてはあるのか、と聞けば「行方不明になるエリアが決まってるっスよ!」と笑うサヤ。
「見た感じ、それなりに銃は扱えそうだが……、お前の手に負えるのか?」
「あれあれ~? 引き留めてる? それとも心配してるっスか~?」
「……近い」
「いいじゃないっスか~、ちっちゃい子じゃあるまいしぃ」
むしろ小さい子じゃない方が問題だらけなんだが?
薄汚い施設の臭いを消し飛ばすくらい間近に香る彼女の顔に、心拍数がバグりはじめてるんだが?
というかそのままの距離で両手を組むな、胸が寄せて上げてエラいことになってるじゃねぇか。
得意げに、ふんす! とか言ってんじゃねぇよ可愛いな。
宇宙文明的な技術力の繊維でいくら透けないからって、布地の薄さを自覚しろってのコイツ……。
一体何なんだお前……?
「まっ、心配しないで大丈夫っスよ! これでも私、けっこう強いっスから」
そう得意げに微笑まれて、何も言えず。
サヤの背を見送る俺は、とにかく迷うしかなかった。
いやだってな……。仮に俺が本当に原作のトレインだったら、サヤが「自分でやる」って言ったことなら「そっか」で軽く流して、帰ってくるのを信じて待って終わりなんだろうが。
下手に惚れた弱みのせいで内心が気持ち悪いことになりかかってるくらいにはアレな俺としては、どうしたもんかと気にかかる。
……い、いや、別にまだ惚れちゃいねーけど? 惚れかかりだし? うん、大丈夫。
「プライベートな話なんて全然してねーし、服が変だってことくらいしかしてねーけどな」
こっちの情報を全然話さないし、話題選びも全然なっちゃいない俺に対して。
あの気安いサヤは、なんでか色々と積極的に話しかけて
会話の流れで、なんとなくアイツは俺が
にも拘らず、能天気のように笑って、そう……世界は美しいのだと。
人生は素晴らしいのだと、歌うように笑っていて。
どうにも俺は、その笑顔が苦手で。
でもどうしてか、そんなサヤを見ていたいと思うのだった。
「やっぱ惚れてるじゃねぇか」
自問自答にしちゃアホ極まりないこと言ってるが、事前知識の
まあ、この「精神エネルギーを撃ちだす」ハーディスの性能に衰えはないので、一旦はそういうものなのだと割り切って行こう。
割り切って……、サヤの後を追う。
べ、別に、ストーカーじゃねーし。ちょっと心配だっただけだし。死なれても寝覚め悪いし?
で、まあ後を追ったら案の定というか……?
ビルとビルの屋根や狭間を飛び越えて、蹴り超えて、サヤの
出身星系の種族特性で、身体能力や視力、器用さ、後嗅覚が優れてるのが俺の身体だ。
そうこうして辿り着いたのは、
そして……、間が悪いことにバッティングしてた。
何が? 賞金首が。
両手両足を氷の鎖とかで拘束され、衣服は腐食してるのか微妙に溶けて足元とか胸元が若干きわどいことになりかけてるサヤは「不覚……!」とものすごく悔しそうに二人を睨んでいた。
「うぐぅ…………、まさか二人同時にくるとか思ってなかったっスけど。ひょっとして、つるんでる?」
「クッフフフフフ、お嬢さんは冗談がお好きなようだ……。このような品性下劣の男などを……、神が与えし力に選ばれたこの私を同列に語るなど……」
「黙れゴブリン! この女は俺の獲物だ。邪魔すんなら先に殺すぞ、あ゛ァ゛?」
「それも良いでしょうが、私を追っていた男の始末が済んでいない。二人そろって一網打尽というのも、芸がないでしょう?」
「はッ! てめぇのヘマまでこっちにおっ被せるなよゴブリン顔が」
「クッフフフフ、そういうところですよ」
二人とも手配書通りの恰好だ。
片方は帽子に両目が繋がったタイプの半透明サングラス。顔立ちは良い方だが言動が明らかにチンピラじみていて、言葉と一緒に冷気がほとばしる。感情に任せて自分の力を制御できちゃいねぇ。
片方はこう……、うん、ゴブリン顔という形容はそこまで間違っちゃいねぇな。禿げた頭、入れ墨の入った顔、異様に高い鼻と彫が深すぎる目元。エルフェン星系の人種らしく耳が尖っていて身体が華奢だが、その分手元の大きさとかが悪い意味でシルエットを崩していて、モンスターめいている。
ちなみにイケメンな方がディーク・スラスキーで、モンスターっぽい方がプレタ・グールだ。
どちらも戦闘の後らしく、服やら何やらはボロボロだ。プレタ・グールに至っては上裸になってる。
というか何だ何だ、あの口ぶりだとここスヴェンきてるのか?
少し鼻を利かせようとして、ステーション内の嫌な臭いから嗅ぎ分ける。
サヤみたいに
「……見つけた」
何かこう、微妙に離れたコンテナからステルスドローン(※光を反射しないベタ塗装で黒く塗られた半重力っぽいやつ)飛ばして、サヤが囚われてる様子を確認してる。「くそっ、ついてない……まさかあのタイミングで氷の棘の雨が注ぐとは」とか「紳士として囚われた子女は助けねば」とか、世界観が変わっても相変わらずな事を言ってるのが、ちょっとおかしい。
漫画の通りという意味で相変わらずで。
何と言うか、見ていて安心感がある。
「ほっとしてる場合じゃねぇけどな」
読唇術で何言ってるのかおおよそ推察できるが、要するにスヴェン……、多分名前は一緒だろうが、あの賞金稼ぎは隙を窺ってるってのは間違いないだろう。
俺としちゃ、サヤならこっちで隙を作ってやれば自力で何とかしそうな気もしちゃいる。
ただ、相手は二対一だから…………、俺とスヴェンで一人ずつ気を引けば、何とかなるか?
「いや一人で制圧しても良いんだが……」
出来るか出来ないかで言えば多分、出来る。
ただ、その際にサヤ本人の安全性を保障できない。
生憎、誰かを庇う様な戦い方は全然してきちゃいないからな。ザスティンは庇わずとも平然と
「後輩のクレヴァーはまだ全然投入できる力とか持っちゃいねぇし、やっぱりに見せかけてスヴェン巻き込んで頼るか」
と言う訳で、はい、ハーディス乱射。ついでにドローンも破壊しておく。
何だ何だとスヴェンが慌ててひょっこり物陰から顔を覗くくらいのタイミングで、俺は高所からあえて「目立つように」、再度ハーディスをプレタ・グールたちに連射した。
「
「いけませんねぇ……、弾丸など私の前では腐って、ポトリです」
これで決着がつくようなら、そもそもコイツ等も高額指名手配などされちゃいまい。
どちらもA級の賞金稼ぎが雁首そろえてようやくどうにかなるような、そんな連中だ。
余裕そうにこっちの攻撃を防いで……、片方は氷の盾みたいなのが全自動で出来上がって弾丸を防いで、もう片方は身に受けた弾丸をその瞬間に腐らせていた。
プレタ・グールの方は衝撃とか熱までは殺しきれなかったのか、若干身体に火傷の跡が残っている。流石に
サヤがこっちを意外そうに見ているのと……、同時に、スヴェンは明らかに焦ったようにこっちを見ている。
何者だ、とか今時クソみたいにコテコテな問われ方したので、思わず鼻で笑った。
「ンなことはどーでも良い。とっとと、そのヘンな姉ちゃんを解放しな」
「……ヘンな?」
俺の呼び方に、サヤは半眼になって「どういうことサ、君……?」みてぇな目を向けてくるが。
いやだって変だよな、という俺の問いかけに、賞金首二人も「うん、うん」と同時に示し合わせたみてぇに首肯して「ちょっと、納得いかないんだけど!?」と絶叫していた。
スヴェン「……“
Q.サヤのアレンジについて
A.アニメ版の「サキ」のイメージの恰好。圧倒的に邪馬台幻想記、もしくはあやトラ。
Q.ザスティン=クリード確定でおk?
A.本作ではそうなります。この世の終わりを見たような絶望が、テンプテーションと天然ボケとにぶっ壊されるのは……、ギャグで流してください笑
Q.惚れた?
A.惚れた。というか惚れない訳がなかった。