とラぶラックキャット 作:那覇ダイア
イヴちゃん(ある意味)お労しや注意。
俺がイヴを殺したかどうかについて、馬鹿正直に組織へと報告してはいなかった。
だが、含みを持たせた形で殺したつもりであるとは言ってあった。
なにせあの衛星自体は、イヴが何かよくわからねーパワー全力でぶっ壊してるし、死体の照合どころかデータのサルベージすらままならない。
というか、一部の死体については何のものなのかすら原形がつかめない。
遺伝子情報を漁ろうとしてるのも上手く行ってないらしいし、正直どうしようもないっつーのが本音だろう。
ベルゼーも
ただ端的に言えば、研究されていたとされるイヴは外に出されていなかったためか、アイツの容姿については関係者でない限り細かくは誰も知らないっつーことだ。
なんならその辺でスヴェンが保護者やって図書館につれていっても、特に問題視されねーだろう。
とはいえ大前提となる情報自体はそろってるから、色々突き詰めていけばおのずと答えは引き当てられることになるかもしれない。
例え放浪していたとしても、イヴの素性が特定されて刺客を差し向けられるのも、まあまあ時間の問題ではあったっつーことだ。
ほとぼりが冷めるにはまだ早いしな。
さて。
それを踏まえた上で、子供が得意じゃねーからサヤにほぼイヴのメンタルについて丸投げした結果としては。
「…………ねこさんがあの人のこと好きな理由、分かる気がする。何かヘンな人だし」
「その評価はその評価でどーなんだろうな……?」
少なくとも本人に言ったら「トレイン君のせいでしょー!」とか言ってこっちの両方のほっぺ引っ張ってきそうなもんだ。
とりあえずオフレコってことにしとくぜ、という俺の言葉に、イヴは少しぎこちなくだが笑った。
茶髪リンスの宇宙艇の天面、つまりは屋上。いつの間にかついて来て屋上に住み着いてる白猫の様子を見にくると、数分もせず屋上のハッチが開けられた。
サヤかと思ったが匂いが少し違うし……、ハッチが開いた瞬間に猛烈な血の臭いを感じたので、誰かはすぐわかったんだが。
ゆらりゆらりと歩いてくるイヴは、サヤの趣味でツインテール、ややゴスロリっぽい感じの衣装にされていた。
イヴ本人はそこに頓着はあまりしていなかったが……、「可愛い」とかノリノリで言っていた辺り、やっぱり原作とは育ちが違うっつーことかね?
原作版だと「恥ずかしい……」とか言いそうなものだが。
そういうのは、もうちょっと情緒が育ってからというか、そんな感じなんだろう。
もともとある程度心が育っている以上は、たぶん育ての親があんまりそういうのに頓着してなかったんだろうが。
「……んっ」
「何だ?」
「んっ」
くるり、とその場で回り、この間サヤが見てたロボットアニメでやってたみてーな「召喚!」って変なポーズをきめるイヴ。
動きの端々が女の子女の子して可愛らしいとは思うが、お遊戯? しか俺としてはコメントのしようがないんだが。
「むぅ。……やっぱりねこさん、朴念仁という話は本当」
「難しい言葉知ってるな……というか、いや、え? 恰好とか褒められたかったか? 悪いが俺に期待しないでくれってそういうの」
なんなら「お遊戯?」とか言ったらここ一週間はずっと表では隠してる
原作を読んでる時のノリでつい気安い応対にはなってるが、あんまり揶揄いすぎても笑って(怒って)済ませられるくらいには、俺達はまだ親しいとは言えなかった。
俺としては妹分その1くらいの感じにはなってるが、イヴ側からどう思われてるかは知らないし。
やっぱり子供は苦手だ。……イヴはまあ、多少は別として。
案の定「むぅ」と頬を膨らませたイヴだったが、俺の足元から逃げていった白猫を目で追って不思議そうにしてた。
「あの白猫さん、どうして?」
「ん? どうしてって何が?」
「私、動物、あんまり好かれない。……血の、においがするから」
「…………俺だって血のにおいがするのに、好かれてるって?」
そのあたりどうなんだろうなあ。
別に飼い猫になるくらい懐かれてるっつー訳でもないみてーだし、単に何かミルクくれる奴くらいにしか思われてない気もするんだが。
どっちかっつーと、俺よりサヤの方に懐いてるんじゃないのか? あの猫。
ミルクやってる頻度も餌やってる頻度も最近はアイツの方が多いし。
「ま、猫は感情と秩序の調停者らしいからな。どっかの国の神話だと。何かしら察してきてくれたりするんだろうよ」
「っ! その話、ネットの図書館になかった」
「実物の図書館の方にはあるんじゃないか? 紙のやつ」
「でも……、猫、さわりたかった」
「それはまあ、ドンマイだな」
気にすんな、と笑う俺を見て、イヴはため息をついた後に空を見上げた。
昼だろうが夜だろうが基本的に円筒型コロニーなので空の色は変らないが、街明かりとかの具合で多少は見え方が違ってはいるので、今は一応夜。
衛星がいくつか月の代わりに見え隠れして、これはこれで風情がるような気もしないではなかった。
イヴを引き取って……というと語弊があるが、引き受けてから1週間とちょっと。
色々あったといえばあったし、それに応じてイヴも多少態度が軟化した気はする。
具体的に言うと、口調が丁寧語からタメ口みてーになったっつーか。
ま、これは俺だけじゃなくてサヤ相手にも「そう言う感じ」じゃなくなったってことなんだろーが。
サヤに関しては 俺からの依頼って体で、体調が回復してすぐイヴの面倒を見てくれと頼んだ。
俺がメインで動くわけにもいかねーだろうし(女の子だし)、そこまでお節介っつー訳でもない。
傷心の子供相手の態度なんざザギーネが俺にやったようなことくらいが限界だろうから、そこは拝み倒すしかなかった。
……流石にセフィリアの旦那とセフィリアがやったような変な飴と鞭みてーなのやったら余計こじれるっつーことくらいは、俺にだってわかる。
で、最初は「えぇ~? 子守とか専門じゃないし高くつくっスよ?」とか言っていたが。
専門じゃないと言いつつも拒否はしないあたり、サヤの気質がありがたい。
まあ、だいぶ悪戯っぽい笑われ方されて鎖骨を何度も指でつつかれたが。
その支払いについては、イヴが見てる前でアホみたいなことになったから一旦置いておいて。
『サヤ・メロディベル・ミナツキ‼ 復っ活──────!』
『ひぇっ』
『おーおー、未知の生命体見たみてーな反応してやんなよ』
サヤを初めて見た時のイヴは、タイミングが悪かったのか引きつった表情になりその場で硬直していた。
くるくる回りながら飛び跳ねたり奇妙な踊りを繰り返したりニコニコ笑ったり鼻歌歌ったり、とにかくご機嫌な様子で暴れ回るサヤ。
そこで「きゃっふー! 二日ぶりだから動きもキレキレっスよ~!」とテンションアゲアゲ(死語か?)のサヤは、たいそう可愛らしくて直視しちゃいられねぇ。
まあ、見ざるを得ないってあたりが惚れた弱みというか、人生桃色だと我ながら頭が痛い。
そんな俺に「トレイン君! トレイン君! 可愛いでしょ‼」と浴衣姿でくるくる回ってるサヤは、そりゃもう見ていて頬が緩みそうになる。
今の心境だとニヤニヤした感じになりそうだから、出来るだけ意識して無表情にしようとしてるが。
いや、なんとなく顔が熱いから成功してるかわからねーけど。
そしてそんな俺を、いつの間にかイヴがガン見してた。
『ねこさん……、本当にフラれてなかったんですね……!?』
『だからフラれてねーって言ってるだろうがッ』
おもわず「ていっ」とデコピン。
あうっ、と漫画なら目をバッテンにしてそーな感じで、イヴはうううと唸っていたり。
まあ、このあたりはまだ正気と言えば正気な話なんだろうが。
直後「うわっ何この美少女! お姫様みたい! 私、こういう妹欲しかったっスよ~!」とか脈絡なくテンション上げて可愛がりまくって「しゃー! がるるるる!」とかイヴに獣みてーな(?)拒否反応を示されたり。
翌日、俺もサヤも二人そろってまともに飯作れねーってことで生活力の無さが露呈して
茶髪リンスの持っていたブックタブレット(キ〇ドルとかみてーなやつ? だと思う)を使って、電子図書館でここのコロニーにある中央図書館の電子データをひたっすらあさりだしたりして、ちょっとした騒動が有ったり。
テレビでロボットアニメを見てるサヤが「イケイケ、ゴーゴー!」とかやってるのに感化されたのか、一緒に見様見真似と言う感じで「ごーごー?」とかやってる幼児そのものな姿だとか。
服買いに行くっスよ! というサヤの発案で、たまたま非番だったクレヴァー呼び出して運転手代わりにして買物にいったりして、サヤもイヴも二人してファッションショーして遊んでたりとか……、いやクレヴァーについちゃマジで悪いと頭を下げまくるしかなかったんだが。
まあ、他愛もないようなことが色々あったと言えば色々あった。
良くも悪くもサヤと二人きりの時は、お互い静かな時と変なことやって遊んでる時の周期が大体一緒なものだから特に気にしちゃいなかったんだが、見知らぬ同居人が増えるっつーのは中々忙しくて、疲れて、これはこれで楽しいと思えるものがあった。
案外、スヴェンも原作トレインもこういう感覚が嫌いじゃないから、イヴと一緒にいたんじゃないかって思ったりもする。
その結果、イヴに新たな一面が生えてきたりもしたんだが。
「こんなに
「オイ待て姫っち」
動物に懐かれないっつー話で雑に応対していたせいか、どうやらイヴの機嫌を損ねてしまったらしい。
半眼で口をすぼめて……、なんとなく「
否定できると思ってるんですか? みたいな目で見られても、そりゃ否定するしかないっつーか、俺の立場としちゃ。
そう、例の茶髪リンスが言ってたところの、ハレンチ体質だか何だか。
イヴが目の前にいようが何だろうが、当然のように
病状回復直後にテンションぶっ壊れてた時は、軽口で「そういえば背中、どうなったか見たいっスか?」と俺を揶揄ってたサヤが、1分もしねーうちにほぼ全裸に剥かれて、同じく全裸にされた俺にダイヴして正面からハグする形に。病棟? にあったロボットが誤作動したとかで、俺とサヤまるごとシャワールームに放り込まれてそんな惨状で、茶髪リンスも「流石にありえないでしょ!」と大爆笑。
調理もそろそろ終わるかって時になって、フライパンからちょと黒焦げ気味の肉が「あっ」と声を上げる間もなくイヴの手元から飛来し、ギリギリキャッチしようとサヤが無茶した結果、帯が解けて俺の目の前ではらりと……だからその恰好の時でも下着は着ろッ!
端末でイヴが本を読んでる時も、茶髪リンスの検索履歴を見て疑問に思ったのかそう言う情報を辿り、結果として俺のハレンチ体質だか何だかについて考えてた時の諸々……、要はR18的なアレコレの情報を前に、思考が停止したイヴの前でまた転びかけたサヤを庇う形で剥かれた胸に頭からダイヴする体勢になったり(?)。
ロボットアニメ見てた時はサヤの身振り手振りを何かの行動指示と解釈したロボットの手によって、俺も放り投げられ、三人とも頭からイロガーマとかいうやつの粘液を頭からぶっかけられて衣服がドロドロに溶けて……、イヴが可哀想だから二人でお風呂入っちゃいなさいとか呆れた顔で言う茶髪リンスに操作されたロボットで、これまた二人そろって一緒にシャワー室に全裸で放り込まれたり。
服買いに行ったときは、まあ、あんまり言うことはねーかな。水着試着してた時に「ちょっと手伝って」とか言われて室内に入って、水着の背中のボタンを締めてたら「ぷち」とか胸の表側が言って壊れたり(!)、慌てて弁償しなきゃだしどーしよ! とか騒いでるうちに下も脱げて、まあ、うん。
全体的に悪化傾向にある俺のこれに対して、サヤは「まだ早い!」というコメントと制裁。
殺しはしない程度には好感度があるということで、喜んで良いやらもっとフツーに仲良くなりたいやら。
イヴも最初はサヤと俺に起こってる現象の意味が理解できていなかったのか、2日くらいは鳩が豆鉄砲くらったような顔して呆然としていたんだが。
茶髪リンスの検索履歴で色々だいぶ理解しちまったのか、顔を真っ赤にして「えっち……、ねこさん、えっち……」とか半日くらいうわごとのようにブツブツ言うようになった後────。
『────
『そげブッ!? いやガチで
いや別に往なしきれない訳じゃねーんだが、流石に一日で5回も6回もやってたら疲れる所の騒ぎじゃねぇ。
お陰でイヴがいる間は、サヤとの距離について色々気を付けざるをえなかった。
……まあ、時々こっちとあっちに距離が開いてても、不意に何か事故的なことがあって無理やりに急接近させられるんだが。
流石にそのレベルのを見ると、茶髪リンスも大爆笑。「もう因果律とか運命とか操作してそうなレベルよね!」とか言われてるのが全くもって笑えねぇし、サヤはサヤで「流石にそのレベルでえっちなことしたいの……? えぇ……? いや、でもそういうレベルでトレイン君みたいな子が私相手とはいえそういう感情抱いてるって言うのなら、少しは心が良くなったと言えなくも……でも、えぇ~~~~ッ?」と色々名状しがたいひょうじょうになっていたりした。
ただそういうのは置いておいて、なんだかなぁ。
何かイヴの言ってる「えっちぃの」がどうこうっつーフレーズ、本当、どっかで聞き覚えがあるような気がするんだが……。
「えっちぃ人は、嫌い」
「いや俺別に嫌うのは良いけど、どっちかっつーと素でエロいのは茶髪リ……、ドクター・ミカドの方だろ? 恰好とか」
「………………」
「おい視線逸らすなよ。そもそも姫っちが意図せず学習した原因、あの女じゃねーか」
そもそもイヴが意図せず
まあ、だからといって別に俺とサヤがぐんずほぐれつなことになるのを止めに入らないイヴなんだが、このあたり一体何なんだろうな?
溶解液? で服融けた時は流石に無理だったが、イヴが俺とサヤの間に挟まるようにいる限りにおいては、俺のこのハレンチ体質的なものって発動しないみたいなんだよなあ……。
どうも、素でサヤと隣接するっつー状況
そのお陰でますます茶髪リンスの説の説得力が上がって────俺にとって本能的に異性と呼べる相手はサヤ只一人だっていう話────心中複雑になるんだよなあ。
「男の人ってみんなそんな、なの? ねこさん」
「いや勘違いして欲しくは無ぇんだが、俺もそんなにスケベっつー訳じゃねーからな? 男性全般に適用したとしても、むしろ枯れてる方だってドクター・ミカドは言ってるし」
「枯れて……?」
「スヴェンも
訝し気な目を向けながら自分の身体を抱くイヴに「だからオコサマにはキョーミねーのよ」とけらけら笑っとく。
それはそれで馬鹿にされた気がするのか、イヴはぶすっと不満そうだった。
そんな色々センシティブな話をしていると、サヤもまた天面まで上がって来る。
一応通路の上部にハッチがあって、内側からぐるぐると何段階か回してようやく開く仕組みになっているのだ。
ただ階段は普通に垂直なので、そんなものを浴衣姿のまま登ればどうなるか……。
「あーいたいた、二人ともやっぱりこっちに出てたっスね────って、どうしたの? トレイン君」
「…………、って、あらよっと!」
「えっちぃのは、嫌いッ!」
思いっきりガニ股になりかけて登ってるサヤを正面から見れば、当然着物はめくれて足元の付け根は丸見えになる訳で……。流石にふんどしは締めちゃいたが、汗かいてるのか若干透けててまあ、うん。
咄嗟に頭を抱えて手で顔を覆ったが(※左の視界は指と指の間)、イヴが案の定
流石にこれ相手には黒猫弾も使えねーので、俺も諦めてハーディスで拳をそらすしかないんだが……。
それはそうと、地面(宇宙艇)に対してダメージが無いように横方向にきっちり衝撃を逃がしてるあたりは、伊達や酔狂でティアーユ博士のクローンがベースになっちゃいねーなとイヴに対して思った。
まあそんな感じで暫くじゃれた後、サヤはミルク缶を「ちょいさー!」と一つ俺に投げてきた。
「おぅ、サンキュー」
「いやー、やっぱりミルクは欠かせないっスからね。
「…………フルーツ牛乳お願いします」
「おっ、姫ちゃんはフルーツ派っスか。中々可愛らしい趣味してるっスね~」
「むぅ」
多少は距離感が落ち着いたサヤを相手にするイヴは、素直に甘えるっつー感じじゃない。
やっぱりどこか捨て猫が徐々に心開いてるみてーな感じに、ちょっと距離感があった。
まあ、唸られないだけ進歩してるっつー感じだが、その割に俺相手にはフツーに話してるのは何なんだろうなコイツ……。
あっちなみに、サヤからのイヴの呼び方は「姫ちゃん」で落ち着いた。
理由はまあ、察してくれ。
「ミルク、ください」
「オッケー!」
「…………あの、これ、ホワイトミルクなんですけど」
「うん。ほら」
「持ってきてるの全部、ホワイトミルクじゃないですか⁉ どうして!?」
「「だってホワイトミルク派だし」」
俺とサヤの声が重なり、きょろきょろと俺とサヤの間で視線が行ったり来たりするイヴ。
びっくりしたような目は「裏切られた!?」という感じで、困惑が強い。
まあ、こればっかりはな。茶髪リンスってそもそもミルクは飲まないみてーだし、買って来てるのは俺とサヤくらいだし、そりゃ結果的にホワイトミルク一択になる。
今度買って来るからごめんねー! と軽く謝るサヤに、イヴはぶすっと可愛く膨れていた。
※ ※ ※
外宇宙、とある宇宙ステーションのバーにて。
薄暗い店内。
カウンターのみの客席。
マスターの男がグラスを時に磨き、時にシェイカーを振る。
地球で言うジャズに相当する楽器主体の音楽が鳴り響く中。
それに耳を澄ませる、黒いドレスを身に纏った女が一人。
ヒューマノイドタイプの宇宙人、髪の色は淡くゆらいでおり、顔立ちは美しい。
外見は無表情であるが、まとったドレスの材質が
────
今日は仕事を終え、とある重要機関から盗み出した情報を隠していた。
こうしてバーに入るのも、ステーションにただ滞在しているだけと言う
だから特に何の感情もない、それだけのはずだった。
「あちらのお客様からです」
「?」
女の手元に送られてきた、青とピンクのカクテル。
ふとそちらに視線を向ければ……。整った容姿に、シャツのボタンを第二まで開けた、甘いマスクの男。
あら良い男、と一瞬見惚れるが、咳払いしてい視線を逸らそうとするも。
「このカクテルの名は“運命”。私達の出会いに相応しい────違うかい?」
「ッ!」
いつの間にやら男は自分のすぐ隣まで来て、肩を抱く。
香る伊達男らしい香水のそれは仕事柄嗅ぎ慣れたものだが、そのマスクと、何より放たれた声の
瞳の中全てに、男の整った顔が映る。
男の目にも、自分の顔が、目が映る。
「美しい目だ……。強い信念が燈った光、私でなければ見逃してしまうだろう
「…………ッ」
「(静かに。別に何をどうしようという話じゃないさ。ただ……こうして出会えた今日の私と、君との運命に、乾杯)」
男の言葉が、まるで女の過去を見透かすような物言いだったこともあり、一瞬苛立つが。自分の持っていたカクテルをすっと彼女の口につけ、優しく飲ませる男に、女はどこかふわふわとした幸福感に包まれ────。
「よし。タルム、ガウィン、彼女を
男の言葉に、了解しましたとウェイター二人はともに応じて、すぐさまその顔に手をやり、どこからかサングラスを取り出す。
べりり、と剥いだ変装のマスクを捨て、皆一様にサングラスの黒服という恰好になって、たった今男の手によって
「いや、今回も鮮やかな手口でした。“
「
「相手の警戒をとくことにかけては、あなたの右に出るものはいませんから」
「まさか
言いながら男と会話していたマスターもまた変装を剥ぎ、サングラスをかけた黒服へ。
そして店の戸が開かれ────彫の深い、威圧的な空気を纏う男が現れた。
「ベルゼー? 珍しいじゃないですか、ナンバー2のあなたが来るなんて」
「たまたま近くで仕事があったからな、“
「そこは
軽い調子で応じる甘いマスクの男────ジェノス・ハザードに、ベルゼーと呼ばれた男はため息をついた。
次の仕事だ、と提示された紙の書類に目を通しながら、訝しげな表情になるジェノス。
「秘密結社“
「二週間、休みが申請されている。
「どういう理由ですか……? って、えっ? あの不吉の運び屋に彼女!? えっ、一体いつから!」
「……手は出すなよ? ただでさえ色々あの男に関してはややこしいのだ」
「いやいや、まさかそんな。ちょっとした野次馬根性ですよ。で? その生体兵器っていうのは────」
ジェノスの確認に、手元の携帯端末を操作して空中にホログラフィックの人物像を投影するベルゼー。
「もともとは
「このグラフィックは?」
「その開発者、ティアーユ・ルナティークと、衛星でその姿か確認されたミカド・ヘイルズ・ウォーカー。
「────ほう? これは、へぇ…………、なるほど。これも運命だ」
そして、ベルゼーから渡されていた紙をめくり続け、ミカドの姿を確認し。
その容姿を始めとした多くの情報を舐めるように確認すると、ジェノスは卓上にいまだ残っていた「もう一つの」カクテルに口をつけた。
「不肖! この“怪盗”ジェノス・ハザード……、今回ばかりは組織のエージェントとしてより、本気で、怪盗として動かせていただきます」
「…………その“今回ばかりは”は、一体何度あるのだろうなあ」
やや呆れたような顔をするベルゼーに、ジェノスはどこからか取り出した帽子をかぶり、にやりと微笑んだ。
Q.イヴは何を読んでしまった?
A.ヒューマノイドタイプのオスとメスの様々な■■■■■■■■■■■■■(※自主規制)。あまりにもあんまりな映像でそういうのを知ってしまったのでショックが大きい。段階?としては、ナナの「ケダモノ!」的な状態。
これにはさすがにミカド先生も「あっ(察し)」とちょっと胃を痛める。
えっちぃのは嫌いです!
Q.ランジュラ!? ランジュラってお祭りの時出て来たテキ屋の店長っぽいアレ!?
A.ランジュラ、イエス。といっても、本作だとあっちは変装の姿という感じになります。当初、ジェノスをそこに当てはめる予定だったらしいというのをそのまま回収しました。
つまり、本作ではジェノスです。