とラぶラックキャット 作:那覇ダイア
Q.そういえばヒミコバージョンのサヤのビジュアルって?
A.完全塗りつぶし黒目にぽつぽつと光がちょっと入ってるのと、真ん中分けで額が見えてる感じ。現在はふきんを頭に巻いてる。
衝撃発言に突っ込んだ俺に、
「ま、押しに弱かったんじゃな」
「どういうことだよ⁉」
「これこれ、話は最後まで聞くものぞ婿よ。といっても、大したことはないがの。
最終的に神官の中で生き残ったのが
「相応に体格とかも、ちゃんと育ったってことか……?」
「いやそこは……、いやほら、流石に、の?」
「やっぱり色々絵面がアウトだろ……」
なんとなく、頭の中に民族衣装なサヤのようなシルエットをした少女が、腰位の身長だろう赤い肌の男の子に組み敷かれるイメージ映像が過る。丁度そんなタイミングで「
「何てこと言いやがる⁉ お前、おま……、いや、マジで何考えてんだ!」
「ほほ♪ まあ所詮、婿も生まれるよりはるか過去の話じゃ。あまり気にせず良いだろう」
そんなこと楽し気に言われたところで、俺の脳裏のサキらしいサヤのイメージ映像は、胸元に這いあがって来る赤い肌の小さい子の懇願に唸りながら顔を赤らめ、ちょっと逡巡しながらも子供と目と目を合わせてまんざらでもなさそうな表情で、しぶしぶ首肯する、みてーなもう何と言うか色々なものが危険域に突入している映像しか見えないんだよ、どうしてくれるこの
色々いらいらしながら大混乱する俺に対して、ヒミコは額の汗を手の甲で拭って続ける。
「まあ仔細省略するが、この身体はそういう由来を持つ。……もっとも今風に言えば
ただ、血には残っておるからの。時折隔世遺伝のように」
「……サヤは普通だろ。お前の言ってる通りだとしても、別に
深呼吸を繰り返して気を落ち着ける俺に目を細めながら、ヒミコは自嘲気に笑った。
いや、自嘲気というより本当に自嘲してるのかもしれねーが。
「今の妾、この体の親はな…………、婿や妾のような地球人に似たタイプの異星人ではなかったのよ」
「………………」
「食性まで異なっているとなれば筋金入りじゃな。まあ、当時の惑星の法律から考えてギリギリのあたりまで育ててからは、そのまま親戚をたらいまわしよ。多少なりとも二足歩行直立型の宇宙人の家に引き取られたりもしたが、家々を転々としていて中々の。そこも良くはなかった。
8回以上は暴力が大半だったが、そこに着くころには身体も女らしくなり始めておった。まあ、
「…………」
連れまわされた家々で必ずと言っていい程暴力にさらされて、ようやく自分に似た姿の家に引き取られた時には性的に虐待されかけたってことか。こればっかりは肉体を苛め抜かれていた俺なんかじゃ、全く理解の及ばない世界だ。何言ってもたぶん、デリカシーに欠けたことしか言えねぇ。普段からあんまりデリカシーとか有る訳じゃねーだろうが、流石にここは空気を読んだ。
空気は読んだが……、胸が痛い。
サヤは当時のことを全くと言って良い程覚えていないのだから、それは、つまり。
「……幸い妾も
「粛清って何だよ……」
「まあ、お陰で多少なりともよくない噂もついて回ったが……、妾自身が
新たな人格が生まれても不思議ではない育ちであったからの」
「…………けど、記憶は?」
「そこが最後だったのよぅ。
何か妙な言い回しがあったが、それよりも気になることを聞けば。嗚呼、それは、確かに辛いだろう。
多分だが、結果的にサヤに残ったのは鬼子って言われて延々と
だから感謝しておるのよ、とヒミコは肩をすくめる。
「だからこそ、メロディベルの施設にはの。心を失った
「最後のそれ、どうなんだ一体……?」
「健康に過ごしておるということよ。故に、妾も気が楽になった。
そして今度こそ、ヒミコが何を言ってるか意味が解らなかった。
来世に向けて?
「そうよな。……妾、実はまだ死んでおらぬ過去の人間だからの」
聞けばそう言いながら、ヒミコは両手で何かを描くように、くるっくると変な形の円形のような何かを、ろくろみてーに回すような仕草で締めそうとしていた。
いや、わからねーって。
ジェスチャー、ヘタクソか?
俺の半眼を無視して、ヒミコは説明をした。
「妾の
「砕かれた?」
「ああ。お陰で
「パワーアップ」
「うむ。元は未来における妾の視点を獲得する、というだけの能力だったが…………、今のこれは、妾の死後もそれが可能となった」
「…………は?」
「うむ、つまり、過去から未来の特定の人間相手に意識を飛ばしておるということかの?」
「………………全体的にわからん」
「そこはこう、フワフワしてなんとなく察すれば良い」
上手い表現はわからぬがそんなところよ、とヒミコは笑う。
「何せ半年待たずに、妾は
「…………」
そういや、邪馬台国のヒミコってのは占い師だとか、小学校の授業か何かでやったような。
占い、超能力的に言えば未来予知になるか? スヴェンの
ん? いや待て、でもおかしくないか?
「未来がわかるってんなら、変えることはできないのか? お前、別にヨボヨボの婆さんとかでもないだろ。暗殺止めたら、そのまま生き残れるだろ」
「痛い所をつくの。……そうよな、まあ壁画には当時の基準で若く美しい女として描かれておったが、まあ、そこはそう違いはない。妾、若くて美人だったし」
「お、おぉ…………」
「そこは姿を見たことなくとも、素直に肯定しておけっ。一応妾、なんだかんだ言ってサヤ・メロディベル・ミナツキと同じ魂ぞ?」
むかーっ! と突然こっちに向かって両方の耳を両手で軽く引いてくる挙動に、なんとなくサヤっぽさを感じて変な気分になる。
とりあえず徹底抗戦してから手を耳から外させ、なんとなくサヤを後ろから抱きしめる様にして膝の上に座らせた。
「…………何故、妾相手にこう大胆になるのか、婿。せ、背中に鎖骨当たっておるではないかハレンチなっ」
「もうその
「………………」
「話したくないんだろ。けど、俺は少しでもサヤに関することなら、知れるだけ知りたい」
「……そのサヤには、妾をも含むと? やれやれ思ったより
くつくつと笑い、そしてヒミコは俺に顔を見せず……、俯いて語った。
「…………無理故よ。全て。信仰を、命の願いを、一つに束ね畏れを感謝とする、光り輝く
「太刀打ちできない、って訳じゃなかったんだな」
「ああ。一度は生き残りをかけて戦った。
だがその場合の未来では、滅んだわ! 妾たち皆」
「………………は?」
「五行仙……、当時は陰陽連と呼ばれておったが。奴らの招いた異大陸の
「──────」
良く判らない話から何だか聞き覚えのあるフレーズの名称が飛び出してきて内心少し動揺しているが、仕事中のノリで表に出さないように深呼吸する俺。
こっちのカモフラージュが上手くいってるのか、ヒミコも何か言ってくることはなかった。
タオ、
「それが出来るのは、格で言えば既に奴らに取り込まれておった
妾のような耳年増と違う、民草の立つ大地で生まれ育った……、しがらみを多く背負っておらなかった、次の巫女が────────あれを愛せる女が、
故に妾の死はどうあがいても避けられぬのよ、と。ヒミコは少し震えながら言う。
「だからこうして、のう? 無意味に、妾の死後にしっかりと連中の野望をくじき、国を一つにまとめ、
「…………」
「勾魂の力で、妾は血筋、
生まれ変わりでなければ隣で眺めているだけだが、妾と同じ魂を持つならこうして外で少しは遊ぶこともできる。……ほれ、妾が生きておる
何もかも忘れて、少しでも長く、心だけでも生きることができるのならば」
……スケールが何もかも違いすぎて本当の意味では絶対に共感できねー話だったが。
一つだけわかるのは、コイツも俺と似てるっつーことだ。
怖いし、嫌だし、何もかも投げ出して自由になりたいが────。
「妾には
故に妾の時代において、生きて、逃げることは出来ぬのよ」
────俺に守りたいものがあるからこそ殺し屋という今の自分を投げ捨てることが出来ないっていう、それと。
いや、まさか前世の方が、こういうところは共感できるとは思っちゃいなかったが。
それ故に苦しんでるのも、今のサヤがあーぱーに振舞ってるところに繋がってるのかね。
別に責任感が無い訳じゃない。むしろ同年代の女に比べたら、子供の世話だってあんなに簡単に引き受けてもしっかり手を抜かないあたりは、とても強いはずだ。
俺のことだってもっと適当に考えて色々選べば良いってのに、しっかりと、俺と対等になりたいからと色々考えて、本人なりに納得しようとしている。
……まあだから。
「そう言う所が好きなんだろうなぁ」
前世だろうが今世だろうが、そういうサヤに甘えたいっていう自分がいるのを、俺は否定できなかった。
少なくとも殺し屋やってる俺を受け入れてもらってるって言う、一番の甘えを許してくれてるのだから。
そんなことを考えてると、不意にヒミコの体重が重くなったように感じる。
……なったというか、力を抜いて全体重を俺に預けて来るようになったってところか。
どうした? と横顔を確認すれば。
「すぅ…………、すぅ………………」
「……寝ちまったのか。まあ、でもなあ」
はらりと解けたふきんが地面に落ち。
いつも通りのサヤが、澄ましたように寝息を立てている。
とりあえずサヤをお姫様抱っこして、部屋の戸を開ける。
そこにはさっきヒミコが何かやらかしたのか、ベッドでなく地面にこてんと倒れて眠ってる、もこもこなパジャマのイヴの姿があった。
こっちも後で運んでやらないとなと苦笑いして、先にサヤをベッドに寝かせてやって。
「……嫌ったり、逃げたりしねーよ。お前が、俺が殺し屋やってても何も言わないみてーに」
「…………」
匂い的に起きてそうな気もするが、多分うつらうつらしてるんだろうし。
最低限、言うべきことを言ってから。イヴを添い寝させるようにして、俺はサヤの部屋を後にした。
※ ※ ※
ミカド・ヘイルズ・ウォーカーは足止めを喰らっていた。
「立食会なんてしたくはないんだけれど……、マダムから頼まれたなら仕方ないと言えば仕方ないというか。
胸元が大きく開いた煽情的なドレス姿。しかしてグラスを傾けどアルコール
もっともそれ以上に「これ美味い!」とか色々雑にその辺の料理をかたっぱしから平らげており、これはこれで目立っている。
一応は護衛がてら連れてきている
まあそもそも、自分も彼も変装し別な名を名乗ってパーティーに出席しているのだが。変声機までは使ってないが、髪はウィグを使い、余計な所に人工ほくろをつけるなどして印象を変えていので、この場においてはよほどのことが無ければ襲われたりはしないだろうが、その上で面倒と言えば面倒でもある。
とはいえクロと、彼が連れてきた患者の少女をからかうのはそれはそれで楽しい。
彼等と自分が雑に世話することで、イヴも徐々に心が氷解しているように見える。
本人がティアたちに会いたくないといっていたイヴであったが……、日々雑な二人に振り回されてるうちに、そういう感傷的な心もそれどころではなくなってきてるのだろう。
だからクロの人格は、あの人格で必要なところもあるのだろうと……、
フレシア財団が主催するパーティー。この銀河の中で、それなり名の通ったビジネスの有力者が数多く名を連ねる中。全体的に美男美女が集う辺りは何かしらの遺伝子操作か手術を疑いたくなるところだが、これに関しては星系ごとの法律の影響も強いかもしれない。
一夫一妻とは限らないということは、つまり、美男美女を配偶者に多く選べる有力者こそが最も美男美女の子供を持つことになりやすい。
結果としてその中から優秀な層が何世代も減ることによって、時折バグのようなことが起こらなければ、そういった社会的格差は二極化していた。
それに何一つ思う所はないのは彼女、ミカド・ヘイルズ。
人型宇宙人に限った際の見方ではないのだが、とはいえ
(まあ、ティアあたりは色々怪しい気もするけれど……。絶対
半ば確信をもって友人に内心断言するのは、愚弄しているのではなく気安さと親しみと、心配故か。
しかし正直、ミカドにはやることがない。
顔を繋ぐにも基本的に政財界に手を伸ばしている面々相手に、売り込むメリットは「もはや」薄い。
それなりに名が知られ「死神」などとあまりに医者らしくない異名までついている彼女である。それでもそれなりに客足が絶えないのは、彼女でなければ診れない患者が
症状や状態と、社会的な理由で。
その点、あのフライドポテトをがつがつ摘まんでいる殺し屋クロは両方の意味でミカドを欲した。
組織のツテに自らの想い人をゆだねる危険性を意識していることと、その改善が並の医者では不可能であったこと。
実際ミカドが彼女に施した治療は、いわゆる
『さっき注射でとったあなたの血液サンプルからDNAを解析して2時間だけ何にでも変容しうるあなたの細胞を作ったから、これを傷痕に差し込んでいくわね』
『お、おぉっス……! よ、ろしく、って痛ッ⁉』
『ちなみに傷が閉じた状態からだと跡残っちゃうから、傷口
『四肢拘束された時から嫌な予感はしてたっスけど……! せ、せめて麻酔! 麻酔ないんスか⁉』
『移植後の違和感の確認も二時間しかできないから、そこはごめんなさいね』
『そういうの事前に言っといてもらわないと駄目っスけど~!』
『あら? 話したわよ?』
『……あ~~~~~もう、絶対
『?』
時々妙な言動はあったが、患者、サヤ・メロディベル・ミナツキは素直な女の子だった。
素直過ぎてわんぱくというか、6~8歳くらいの女の子を相手にしているような天真爛漫さというか。
それでいて大人としての気配りも忘れなかったり、かと思えば割とズボラだったり、気を抜くと楽な方楽な方に流れようとするところだったりと。
見ているだけで、殺し屋クロが一体誰の影響を受けたのか一目でわかるくらいには、サヤは
「そこが面白くもあるのだけど……、恋愛相談的にも」
これは流石に話すべきことではないだろうと思いつつも、ミカドはくすくすと笑いその場を後にしようとする。
自分がこの場を離れれば、ほどなく
今までもそうだったが故に、特に声をかけることなく歩き出すミカドであったが。
腕を掴まれ、耳元に甘い囁き。
カクテルでもおごりますよ
「い、急ぎますので……、仕事もまだ終わっていませんし」
「まあ、そう時間はとらせないからさ────────
やはり甘くささやかれる男の言葉に、自らの本名に、ミカドの視線は一瞬で鋭くなる。
有象無象を視界に収めながらも見ないようにしていた彼女は、意識的に目の前の誰かの観察を始めた。
もっともその結果、自分の記憶の中にある誰の物でも、カルテでも見覚えが無い誰かだと結論付けるのだが。
「……誰かしら、あなた」
殺し屋クロのような幼気さは残らない、整った甘い
長めの髪はホストを思わせるが、職業としてそう整えている訳ではなさそうな自然さがある。
そしてそっといつの間にか自分の肩に手をやり、逃がさないという意思なのか腰に手を回し、ほんの一瞬の瞬きの間に後ろから抱きしめる様な形に。
「俺は、『怪盗』ジェノス・ハザード」
「…………! 銀河連邦をまたにかける盗賊が何か用かしら」
「おっと、義賊と言って欲しいね。あるいは
ビジネスの話だ、と耳元で甘い声をかけて来る男の両手を、ミカドは自分の手で押さえる。
とりあえず手を振りほどいて、ミカドはジェノスのエスコートを受ける。
「ああ、
「変っ態ね」
「ここは、褒め言葉と受け取っておこう」
余裕ある微笑みで、のらりくらりとミカドの棘を躱すジェノス。
手馴れてると思わされる挙措である。
もっとも彼女が護衛に雇っているのが「不吉の運び手」「冥王」“
すなわち────殺し屋特有の、血のにおい、と言う意味で。
「このカクテルの名は、運命。お近づきのしるしに──」
「要件があるなら手短に言って」
「──フフ。……医者としての君ではなく、
「…………」
そしてジェノスとの会話と、続いて行われた取引の間。
ついぞクロは、彼の言葉通り現れることはなかった。
【サヤ、ベッドに運ばれた直後】
クロ「……嫌ったり、逃げたりしねーよ。お前が、俺が殺し屋やってても何も言わないみてーに」
サヤ「…………」
サヤ(こんな状態で「実は運ばれる最初から起きてたよ!」とか言えるか~~~~~~~~~ッ! ちょっと何やってくれてるのさ鬼さんさ⁉︎ もしかして私、トレインくんと積極的にくっつけようとしてるっスか……、いや、流石にそれはちょっと、えぇ……?」)
【
・本作時空の
・彼女の生きてる時代における、約半年前に陰陽連に暗殺されかかった際、とある男の鞭によって叩き折られ砕かれた。精神と生命エネルギーの塊である心具の破壊=死ゆえに生死の境をさまよっていたが、残ったパーツが命光輪により無理やり集められ形作られ、回復。
・杖時代は未来の自分自身に意識を飛ばして未来を観測する能力。現在は、自分に近い血族の血筋の誰か(ある程度術とかの素養が多少なりともある相手)へと意識を飛ばして、より広範囲の未来を観測する能力。イメージとしては、隣で状況を観測している形。
・またサヤのように、自分の流転先(転生先)であれば憑依して体を操ることも可能。この性質により、虐待で何度も死にかかっていたサヤの窮地を救ったり引き取り先の家を破滅させたりしていたが、そのたびに「あの子を引き取ると不幸になる」「鬼の子」と親戚一同から迫害されることに。
・現在観測できる先は、本作サヤ、地球にいる黒髪から青髪にカラーイラストが変化していった系のどこかの古参ヒロイン(?)。壱与の転生先も本来なら観測できるが、いわゆる「幼心」の彼女に「恥ずかしいから……」という理由で弾かれている。