とラぶラックキャット   作:那覇ダイア

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#23.庇う宇宙猫

 

 ジェノス会話パートは手古摺ったんですが、バトルパートはまあまあ速度早いので次はもっと速度早められればと思います……。

 


  

 

 

 

 

 薄暗いバーカウンターでグラスを傾けながら、ミカドは思案する。

 ジェノスからの頼まれごとは、ミカドが思っていたよりシンプルだった。

 要するに、自分の生物学的な面でのブレーンになって欲しいと言う事だった。

 ジェノス・ハザード……「怪盗」ジェノスハザードは、大戦中含めここ十年前後で名前が広まって来た盗賊だ。

 時に法外な額を積まれて動く請負人として。

 時に少女の涙を拭うための愉快犯として。

 大掛かりなその泥棒家業の傍ら、悪事を暴くこともまた数多く。

 国家間のバランスでいうと、これまた多数の指名手配と同時にアンタッチャブルな扱いも受けている。

 

 ……クロあたりがこの場所にれば「ルパ〇8世?」と元ネタが微妙にわかるようなわからないようなことを言ったかもしれないが、それはさておいて。

 

『あんまり手を貸してると、そのうち一味扱いされそうな話よね』

 

 肩をすくめるミカドに「そうなってくれると個人的に嬉しいけどね♪」と軟派なジェノス。

 冗談言いなさいと肩をすくめるミカドであったが、彼女からしてもジェノスとのコネクションは有って損ではない。

 正直に言えば、自分のツテでイゴール・プランターの捜索をするのは限界に来ていた。

 フレシア財団関係のデータベースやら、()()()()()()()()警察関係の情報を漁っても引き出せない。

 情報屋に依頼しても難しい。殺し屋クロを引き当てたグリンですら「より大きな機関によって圧力をかけられているかもしれません」とお手上げ。

 

 その点、この怪盗を頼った場合にどれくらい情報が見込めるか。

 なにせ裏社会の更に裏側に君臨しているとされる“黙示の秤(クロロス)”……、殺し屋クロ(クロ・サーティーン)が所属していると噂される例の組織を相手にすら、やりあって生き残っているという話も聞くくらいだ。

 それなりに、あの組織が圧力をかけている情報すら抜き取れても不思議はない。

 

 だからこそ、もう一つの話とやらを……、もう一つといいつつ良い話と悪い話があると言っていたが、それが何なのかを確認したミカドである。

 ジェノスは特に勿体ぶらずに、すぐさま答えた。

 ミカドの気質を、二、三言交わし察したのかもしれない。

 

『君が殺し屋クロを出し抜いて、持ち出したナノマシン研究の集大成……、生体兵器の少女についてさ』

『…………ん?』

 

 どうやら、何かあらぬ勘違いをされているらしい。

 しばらくジェノスの()()を聞いた結果、ミカドが出した結論だ。

 いわく。

 

『例の爆破された衛星にあったとされる研究データが、バラバラに分散された形跡が無いと言うことは、それはより有機的でデータ自体とそのデータを有するモノとが不可分であるとみられる』

『実験施設で製造されていたと思われる生物群の粉々になった死骸の一部が、AI技術をベースに構造をサンプリングした結果、どれも()()のような形質を持っている』

『他にも色々と情報はあるんだけれど……、一通り並べて考えた時に、件の少女型兵器を君が持ちだしたと考えるのが、一番すっきりとしていないかい?』

 

 当然のように一般に公表されていない、それこそ組織(クロロス)にでも所属していなければ保有していないだろう情報を抜いて来ているジェノスに、ミカドは少し震える。

 情報屋グリンしかり、市井とて尋常ならざる実力者はいるものだと。

 

 そして、その事実を組織もうすうす勘付いているという指摘が、悪い出来事。

 

 ……流石に生物兵器(イヴ)の制作者であるティアーユがドジ踏んで囚われていたとは思っていないようだが、それよりもミカドが驚いたのは、殺し屋クロについて。

 ジェノスが組織から抜いた情報には穴らしい穴がないからこそ抱いた印象────今までの話はすべて、殺し屋クロが意図的にイヴを逃がした可能性を全く検討していない。

 組織は殺し屋クロがイヴを仕留めたと判断したが確証がない、惑星崩落に巻き込まれた、という程度の認識であるが……、それ以上を全く疑っていないらしいことに、ミカドの方が違和感すら覚えるほど。

 

 ふと、匂わせない程度に確認してみれば。

 

『あの殺し屋クロ(不吉の運び屋)が依頼を仕損じる? 流石に考えづらい。大戦中、宇宙猫の中でもとりわけ黒猫が恐れられたって逸話を聞いたことがあるかい?』

『さ、さあ……?』

『黒猫あるところ不吉が訪れる────大型宇宙艇は墜落し、要塞は崩壊する。脱出に辛うじて成功した兵士たちが、爆発する前に館内でものすごい速度で駆け巡る黒い猫の姿を目撃したってのは有名な話さ。

 その黒猫の目撃証言があった事件すべてが、当時無名だった殺し屋クロの犯行だったというのはもっぱら裏の業界じゃ常識ってレベルで噂されている。流石に迷信みたいなものだろうけどね。

 ただ迷信みたいなものとはいえ……、なんなら本来は十三番目の冥王(キュネー・サーティーン)と組織から呼ばれるはずだったのに、黒猫の噂が先行しすぎて十三番目の黒猫(クロ・サーティーン)なんて呼ばれ方になったとかすら、噂している奴もいる』

『誰よそんな話、噂に出来るのは』

『聞きたい?』

『……遠慮しておくわ。命がいくつあっても足りなそうだし』

『賢明だね』

 

 とにかく、そういうことらしい。

 

『彼女が本当に危険であれば、怪盗と言えど見過ごすことは出来ない。銀河の住人の一人として、何かしら手を打たないといけないだろう。でも誰も彼も好き好んで女の子に酷い目に遭わせようと言うのは、主義じゃない。だから一度会って、仲良くなっておきたい』

『怪盗といえどって何よ、十分小悪党じゃない』

『そこは正義の大泥棒! と言って欲しいね。俺もこういうことは、誰より誠実でありたいからさ』

 

 ウインクかましてくるジェノスはそれなりに様になっている。

 とはいえどこか三枚目な雰囲気も抜けてないので、ミカドも思わず苦笑い。

 勘違いはとんでもないレベルであるが、しかし中途半端に事実をついている。

 イヴは現在ミカドの病院で暮らしているため、言い訳らしい言い訳はできない。

 ……その上でクロのことについての言及がなさすぎるため、それはそれで彼の顔を知らないと言う事なのだろうか。

 いや、まあ、それと並列してティアーユのことについてもほぼ言及がないことから、現在の彼女がどう過ごしているかも把握されていないのだろうと。

 伊達にスヴェンは元・凄腕捜査官ではないのだと感心したりもしたが。

 それと別に一つ、気になることがあった。

 

『もしかしてだけど、あなたがあの子を追うのは誰かからの依頼?』

『…………うん? どういうことかな』

 

 この男とやり取りした回数はそう多くないが、嘘だ、とこれは判別がつく。

 瞬きの回数だったり視線の動かし方だったりから、彼女が持つ心理学的な知識をもとにそう判断した。

 

『まあ、そうね。色々疑惑は有るけど……、そう簡単に一介の盗賊が、裏社会を牛耳ってそうな組織から情報を抜けないでしょ。コミックとかじゃあるまいし。私ですら当事者として、後日延々とあの時の情報が出回っていないかここのツテすら使って調べてたし。それでも出てこない情報を持ってるってことは、情報自体は確度が高いんでしょうけど』

『そうかな?』

『後、さっきからずっと私の谷間ばっかり見てくるし。そんな器用な立ち回り、出来るって説得力ないわ』

『それ言っちゃうかい、気付いてても⁉』

『あら? 余裕なさそうじゃない。……意外と素は、チャラチャラとかヘラヘラしてるのかしら』

『い、いきなり容赦がないなあミカド()()()は』

 

 気が抜けた瞬間に飛び出たその「ちゃん」付けとか、そういうところがである。

 

『……さしずめ組織から情報提供してもらう代わりに、その組織の依頼を受けている。

 あの子の誘拐が目的、ってところかしら?』

『…………そうならなければ良いと、俺も思っているよ。だから、見極めたい』

 

 どこか物鬱気な声音のジェノス。

 これは嘘ではないだろうと……、隠し事は有るが嘘はつかれていないと、ミカドはそう判断した。

 判断したからこそ、乾杯とグラスを傾けたのだった。

 

『何! 怪盗紳士としては、女の子には紳士でありたいからね』

 

 彼のその言葉をどこまで信じて良いものか。

 グラスを傾けたミカドの視線を受けて、ジェノスは少しだけ雰囲気を張り詰めさせ。

 

『アダムとイヴが出会ってはいけない────偉大なる()()からの忠告があったしな』

(……アダム?)

 

 ミカドが聞き取ることを想定していないような、そんな独り言も口走っていた。

 

 

 

 さて。それから数日後。

 護衛だったはずのクロはクロで、どうやらジェノスの接触については勘付いていたらしいのだが。

 

()()()()()がしねーやつと二人で連れ立って動いていたから、何か情報収集の突破口でも見つけたのかってな』

 

 実際、帰って来たミカドが手ごたえありという表情をしていたのもまた影響していた。

 そしてまた、このクロからの情報も()()()()()()()()()()、その原因の一つとなった。

 トレインやイヴが時たま言う、血の臭い。

 専門ではないが色々話を聞けば、イヴがいうところの血のにおいは過分に彼女のトラウマも前提としている。

 

『取れないんです。……私の両手、ずっと、真っ赤ですから』

 

 特に何ら変哲もない少女の手。白い肌の、指が長い手。触れば少し暖かい、そんな手。

 自らのその手を見て、震えて、イヴはそう呟いた。

 この年代の少女が……、友人(ティア)に聞いていた限り笑顔の素敵な女の子だったイヴがこうなるまでに、一体どれほど殺しを経験させられたのだろうと。

 再びティアと再会することを拒否するくらいに心に傷を負っているイヴ。

 

 専門でないからこそ、それならば彼女は離れているべきだろうとミカドはそう思っている。 

 スヴェン・ボルフィードは逆に再会させたいという立場で、彼とは意見が正反対だ。

 とはいえ現在、彼にはリハビリ中のティアを任せている。

 彼女を伴っては自由に行動できないだろうし、意識が拘束されていた時の後遺症がいつ発生しても対応できるよう、必然的にスヴェンたちは近隣に拘束されている。

 

 それが今回、功を奏している面もなくはない。

 

『決心ついたか? って適当にそのうち聞いて、躊躇する素振りが有ったら雑に再会させりゃ良いだろ。いくら自罰になったって腹は減るし夜は眠くなるし、人が恋しい時だってある。そのくらいは、専門じゃなくてもアンタにだってわかるだろ?

 …………まだ大丈夫だ。最初から生物兵器として育てられてたとか、そういうのじゃねーんだろ? 心が揺れ動いてるってんなら、それはそれで良い事だろ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、雑に断言したのは、殺し屋クロ……、現在「ヤマト」を名乗らせてる、婚約者(ボディーガード)の殺し屋だ。

 イヴや、彼が連れてきた片思いしているらしい少女からはまた違った名前で呼ばれているが、流石にそれらを自分が呼ぶのはちょっと、野暮だろうと。

 特に決まった呼び名を付けていないミカドであったが……、クロの言葉には嫌に実感がこもっていた。

 

 最近のイヴは、多少は笑うようになっていた。

 どこか目に闇を抱えてはいるが、それでも少女らしく色々と楽しむ余裕がありそうな。

 最近は本を読むのにはまっているのか、色々と電子データを引っ張ってきたりしている。

 彼女なりに、自分を拾い上げて気にかけてくれているクロと、その隣の少女とを慕っているように見える。

 

 だから、そんなイヴならば大丈夫だと。

 そう思って、警戒を緩めていたのが良くなかったのかもしれない。

 

 その日たまたま、イヴの検診を終わらせた後。

 病院のすぐ近く、森の中で変身(トランス)を使い、自分の身体を変化させるイヴに、微笑ましくなっていたミカド。

 この場から離れて街中で、などとなれば目撃証言も増えるし、イヴの正体が特定される可能性は高い。

 だからこそ人の気配が少なく、また見えづらい場所で練習しているイヴが何だかおかしい。

 病院の屋上から、森の木々に紛れて何やら、ああでもない、こうでもないと背中と手元に視線を行ったり来たりさせる。ぶつぶつと手元の絵本や足元にある図鑑を読みながら、そこに描かれている天使を再現しようと、背中から鳥のような羽根を生やそうと四苦八苦していそうだ。

 タブレットのみならず、ミカドから借りた本も駆使して色々頑張っているらしい。

 もしかして先日、クロに言われた「結局な? 姫っちのそれって、雑なんだよなー変身した後のデザイン」とか言われたのを気にしているのだろうか。

 まあ、そんなクロの物言いは「失礼っスよ!」と怒られたし、イヴも「むぅ……!」と不機嫌になったりして、それはそれでおかしくってしかたなかったのだが。

 試行錯誤して、羽の色とか形とかのディティールを凝ろうと頑張ってる彼女が愛らしく、思わず笑ってしまった。

 

 ちょうどクロを連れて、あの少女が出かけているタイミングだ。

 行ってる間に上達して、彼を驚かせてやる算段なのだろう。

 少女らしいというか、子供らしい意地の張り方が愛しくて仕方ない。

  

 ────そんなイヴに、声をかける男が一人。

 

「ジェノス……? って、嘘!?」

 

 そして……、イヴにまた軟派な振る舞いで警戒を解そうとしていたらしい彼に、イヴは襲い掛かっていた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「こんばんは、お嬢さん」

「…………お嬢さん」

 

 不意に声をかけられ、イヴは“変身(トランス)”を解除。

 声のした木々の方を向き、目を細めた。

 目がくらんで、一瞬姿が見えない。

 車のバックライトに照らされた影は2つか、3つか。

 一人か二人は、サングラスをかけててこう、何か、()()()

 少し目を慣らして、こちらに歩いてくる誰かを見るイヴ。

 

(………………ねこさんより、格好良い)

 

 少女の判定はシビアだった。

 いや、別に()()()()が不細工だと言う訳ではなく、方向性が違うと言うか。

 何だかこう、彼はちょっと目つきの悪いお姉ちゃんみたいな顔をしてるというか。

 対する歩いてくる人は王子様みたいな感じというか。

 

(何考えてるんだろ、私)

 

 いまいち語彙が足らず、そのせいで、形容が雑なイヴである。

 そもそも()()()()()()()()()()()()()()ので、呼ばれ慣れない呼び方に反応している方が強いのだが。

 お嬢さんよりお姫様呼ばわりされる方が普通は珍しいというのは、イヴに対しては除外する。

 

「お嬢さん、お名前は? ……おいおい、どうして逃げるんだい?」

「…………知らない人から話しかけられたら普通、です」

「おっ、それもそうか……」

「食べ物をくれたら投げつけて逃げる、お金をくれたら殴って逃げる、これ鉄則です」

「何だか随分逞しくないかい、お嬢さん……?」

 

 ごく最近お世話になってるサヤ(変なお姉さん)の薫陶の賜物である。

 生き残るために余念がない……。

 

 とはいえ、これで調子が崩れる程「怪盗」ジェノス・ハザードも修羅場(?)をくぐっていない。

 

 お迎えにあがりましたよ、と。さながら王子様のように跪いてイヴの手を取り、甲にキスするような動きをするジェノス。

 咄嗟のことに驚いたのか、イヴも動きが静止した。

 

「どこに、行くんです……?」

「さて。少なくとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような、そんな場所だと思いますよ。もしかしたら()()()たちと、お友達になれるかもしれない」

「お姫様…………」

 

(おっ、これは好感触)

 

 何故かお姫様呼びの時だけ、少し頬が赤らむイヴ。

 ただ照れたのか、ジェノスの手をゆるやかに払って、数歩後退してもじもじとする。

 どうやら先ほど、自身の生体兵器としての能力の練習をしていた時の独り言のように、年相応か少し幼い女の子であるらしい。

 

 ────可愛い? 羽根……、違う、ムキムキすぎ。笑われる。

 ────飛べないと絶対馬鹿にされる……、また馬鹿にされたら、変なお姉さんに言いつける。

 

 いや、まあ、言ってる意味はよくわからなかったが。

 それでも年相応に何か悩んだり、怒ったり、照れたりしている様は、色々と将来性を感じさせてポイントが高い……、ジェノス的なポイントが(?)。

 

 そんなイヴに、気を付けろと注意してくるのは部下のM.J.(エム・ジェー)

 

「失礼な言い方は止めろ、相手は小さくてもレディーなんだぞ」

「しかし、相手は生体兵器ですが……、本気で施設に?」

「あそこなら()()()()も立ち寄る管轄だし、そもそも、な」

 

 ジェノスのひとまず今日の目的は、イヴを連れて一度、デビルークのとある政治家の親族がやっている孤児院…………、裏側で言えば組織(クロロス)の息がかかった施設に連れて行き、子供達との相性をみること。

 少なくとも今さっき観察した限り、少女の情緒面はそこまで問題はなさそうだが。

 多くの同年代の子供相手にコミュニケーションが問題ないのであれば、それは彼女の精神面が「正しく無害」であると言い切れる、一つの証左になるだろう。

 であるならば……組織内でイヴの有用性を説く必要はあるだろうが。

 彼女の()()()であるミカドと交渉し、組織(クロロス)の方で預かることも不可能ではあるまい。

 人格面に問題がなく、能力がそれなりに仕えるとあらば、将来的に組織の人員として()()()()のも問題にはならない……、はずだ。

 当然、表面上はそうと分からないようにする必要はあるだろうが。

 

(ベルゼーがちょっと石頭だから、そこは色々根回しが必要だろうけど……、ボーナムの爺様とか)

 

 ただそれが、結果的にそれが少女の救いになるかもしれないと。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()男は、そう確信している。

 

 なお件の施設はセフィ・ミカエラ・デビルーク王妃(セフィリア・アインス)もたまに立ち寄るのだが、その身の安全については全く考慮していないジェノスである。

 そもそも彼女が宇宙最()の実力者の一人であるのは事実なので、考えるだけ意味はないかもしれないが。

 

「ひとまず、君の保護者に相談したいんだけれど……、いいかな? お姫様」

「保護者…………?」

 

 なお、イヴの脳裏に浮かんだのはミカドではなく、サヤ・メロディベル・ミナツキの顔。

 ウインク一発イヴにお見舞いする位の茶目っ気を披露する彼女のイメージが重なり、ジェノスの言葉への理解がちょっと遅れる。

 なお、当然のようにトレインはその判定を受けていない。

 

(ねこさんも……、変なお姉さんに保護されてる?)

 

 むしろ、被保護者のイメージである。

 少女の判定はシビアだった。

 

 ただ、だからこそ少女自身驚いてしまった。

 

 

 

 ──さし出されたジェノスの()()()()()()漂った、さっきまで全く感じなかった()()()()()に、思わずその手を大きく払ってしまったのだから。

  

 

 

 意外そうな顔をするジェノスに、イヴとて予想外と言う顔。

 どうしてか咄嗟にその右手が、地球で言うタロットの死神が持ってそうな鎌のような刃に変形しており。

 それを受け流す、いつのまにかジェノスの手に見慣れないグローブがされていたことも驚きだ。

 流石に腕力が足りないから弾きはしなかったものの、かなりの硬度を誇る鎌を前に傷一つなく躱したのは尋常ではないと言える。

 

 そして、咄嗟に攻撃してしまったイヴに銃を向けるジェノスの部下らしき男にも、モーニングスターのように変化させた手で反射的にぶっ飛ばしてしまったイヴは。

 バケモノめと、恨みがましい声を耳にして動きが鈍り。

 

(やっぱり普通の女の子だねぇ。……だけどまあ、その力を無意味に攻撃に使うと言うのなら、俺はともかく()としちゃ対応しないといけないんだけど)

 

 そして、慌ててこの場に駆け付けたミカドは。

 

「ごめんよ。だけど、君がそのまま大人しくしていてくれれば、()()これ以上は痛いような真似はしないで済むから────()()()()()

「……!」

 

 空中で、まるでマリネットか何かのようにぶら下げられているような……、月明かりに反射してわずかに見える数多の紐のようなものでからめとられ、身動きが取れなくなったイヴと。

 

「あの、刻印────」

 

 ジェノスの持っていたグローブの手の甲、金属の装置なのか手甲的な部分なのかは不明だが。

 X・(クロロスの刻印)がされているのを、見てしまった。

 

 あらら、とこれにはジェノスも困ったように苦笑い。

 

 右手を握るように動かし、その度にイヴの身体が締め付けられているのが見える。

 

「ごめんよ? いきなりこうするつもりは無かったんだけど────」

「……怪盗のジェノス・ハザード、武器として用いるのはワイヤー。太いワイヤーを使ってビルとビルの狭間を行ったり来たりし、戦闘においても相手を縛ったりするのに使うとはネットにも情報が噂であったけど。

 そんなものじゃない……あなた一体何? それに、その刻印は────」

 

 ミカドの話の途中で、ジェノスは()()()()()()()()の、人差し指をくいっと動かして、まるでボタンか何かを押すような動きをして。

 

 それだけで、ミカドはその場から吹き飛ばされ、奥の木に背と腕を付け、身動きが取れなくなった。

 まるで肘や腰ごと、まとめて木に縄か何かで括りつけられたかのような……。

 だが、そんなことよりもミカドは必死の形相で叫ぶ。

 

「ちょっとジェノス! イヴをどうするつもり⁉」

「うーん、ちょっと見込み違いだったかな……。ロボットみたいに言われたことだけ遂行するとか、完全に安定した精神だとか、そういうのなら素直に色々進められそうだったんだけど」

「あなた何言ってるの⁉」

「これもすべては銀河の平和のため……、殺すようなことはないように努力するから、そこは安心してもらいたいんだけどさ。ただ()も、そのためにはついて来てもらわないと。

 平和的に進められるならそれが良かったんだけど……、ゴメンね? ミカドちゃん」

 

「────、嫌っ! いかない、です!」

 

 がんがん、と。

 何度も空中で刃を振るうイヴだが、ある程度の所まで行くと金属同士が接触した音と火花が散り、そこから先に進まない。

 

「悪いね。この糸はオリハルコン────宇宙最硬の金属で作られた、私の意のままに動く糸だ」

 

 右手を構えながら左手を動かすジェノス。

 さながら弦楽器を爪弾くような親指の動きに合わせて、鈍く何かが震えるような音が聞こえ。

 それと同時にイヴの右手もまた突然縛り付けられたようになり、完全に動きが封じられる。

 

「この周囲一帯には、私の腰のエクセリオン・β(ワイヤー射出機)から放たれた無数のオリハルコンの糸が漂ってる。普段は何の効果も無い只の糸くずみたいなものだが、私のエクセリオン・α(グローブ)で触れることで、コイツ等は意志を持ち、私の意図に合わせて動いてくれる」

 

 その言葉が本当かどうかすら、判断する術はイヴにもミカドにもない。

 ひとつわかるのは、ジェノスがいる周囲においてその気になればすぐにでも命を奪われてしまうと……、ただその、理不尽なまでの(テリトリー)が展開されているということ。

 徐々にイヴの拘束を締めるジェノス。

 呻く彼女に、ジェノスは甘く、何も変わらず囁く。

 

「……さあ、だから。一緒に来ると言ってくれないかい? お姫様。君の命を、助けたいんだ────」

 

 

 

「────いや立場上色々話せねーのは判るけど、絵面最悪だからそこだけもうちょっとどうにかしろよ?」

 

 

 

 えっ? と。

 イヴがその声に振り返り。

 同時になった()()()()()()と同時に、イヴの周囲の木々の枝が撃ち抜かれ。

 

 立ち位置的に頭上から落下してくる長枝をジェノスが避けると、つられていたイヴの手足の自由が利くようになり。

 

七番目の蜘蛛(ランジュラ・セブン)だったか、糸使いの“黙示の番人(クロロ・ライダーズ)”は」

 

 クロロ・ライダーズの呼び名にミカドが目を見開いて言葉を失う中。

 

 現れ出たのは、未だ少年らしさを残した青年。

 黒いチノパンにバックルが小さいベルト。

 白いタンクトップの上から薄手の青いジャケット……、胸元に何か変な円形の大きなボタンのような何かがついているのがアクセントになっている。

 首には、これ見よがしに付けられた宇宙猫用の首輪と鈴。

 ぼさぼさの髪に、金色に輝く強い意志を秘めた目。

 

 何より、手に持つ薄い装飾銃に刻まれた────「X・(クロロス)」の刻印。

 

「……これは驚いた。こんなところで、十三番目の黒猫(クロ・サーティーン)に会えるとはね」

「…………違ェよ。()()()()

「へぇ、そうかい? じゃあ誰かな、君は」

 

 少し面白そうに様子を見るジェノスに、青年は少し悩んでから言った。

 

 

 

()()()()()()()()()()。えっと、賞金稼ぎ……、えーっと、見習い、だな」

 

「見習いねぇ」

(……ねこさん、照れてる?)

 

 

 

 そう名乗った殺し屋クロは──トレインは、何故か少し表情をしかめながら、言葉に詰まった言い方をしていた。

 

 

 

 

 

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