とラぶラックキャット 作:那覇ダイア
組織……、“
それでも、おそらくシャオリーが情報屋グリンという別な顔を持つことも踏まえれば、必ずしも国所属である必要はない。
そこを行くと、俺やクリード……、ザスティンと呼ばれる前のクリードの頃のアイツなど、表でも裏でもずっと
いや、まー“
そもそも生まれた時からデビルークの施設で戦場のための教育を受けて、第六次大戦で戦ってた根っからの職業軍人だし、それ以上に
何で俺が知ってるかと言えば、会うたび会うたび「よぅクロ坊、
この世界、というか宇宙か? ブラックキャット原作にあった、
規約はねーが、セフィリアがクソ面倒くさいくらい泣く。
お陰で暗黙の了解くらいにはなってるが……、まあ殺さない程度の
まあ、要するに何が言いたいのかと言うと────。
「トレイン・ハートネット。えっと、賞金稼ぎ……、えーっと、見習い、だな」
コイツはある種の吹聴ということだ。
……いや符牒だったか? あっいや、語彙あんまりねーけど。
厳密には、特定の取り決めたやり取りっつー話じゃないんだが。
組織への反逆というより。
それは、
そのあたりはどっかのルパ〇みてーなことやってるジェノス・ハザードも理解できるんだろうし、やり取りの後は俺のことをクロの名では呼ばなかった。
イヴは……、相変わらず俺と顔を合わせたら「ねこさん!」と呼び方を変えないんだが。
お陰で、ジェノスがちらりとイヴの方を見て「ふぅん」と何か納得したみてーに頷く。
「じゃ、見習い君でいこうか。君はどうして、私を妨害するんだい?
生体兵器の抹殺はもともと私ではなく君に下されていた任務だ。状況からして認識していない、という言い訳は通り辛いように思うけれど」
「おいおい、言い訳って何だよ────生体兵器を殺せと仮に言われてたとしても、
「け、結構アクロバティックなこと言うねぇ」
昔はもっとクールな子だと思ってたけど、とか言うジェノスは、俺との面識は数える程も無い。
おそらく一番確実にどっちの記憶にもあるだろう遭遇は、俺の
それだって当時の俺は、
この変化がここ数カ月のことだってのは、ひとまず置いておくとして。
俺の苦しい分を、あえてそのまま受け入れたように笑うジェノスは、やっぱりというかイヴを殺したくはないんだろう。
とはいえ、この場で俺に対して「ジェノス・ハザード」と名乗らず「
ちょっと面倒クセーなと思いながら、俺は茶髪リンスの方を見て肩をすくめた。
『トレイン君、服買いに行くっスよ! 服!』
『何でだ唐突にッ⁉』
『い、いや、だって何かこれ以上トレイン君の胸板ちらちら見えると私の理性が……』
欲求不満か! と思わず叫びたくなるようなことを冗談なのか本気なのかわからねーテンションで語るサヤに連れられ、夕方だってのに町の方にショッピングへ急遽出かけた俺とサヤ。
ホバーバイクに二人乗りで町の方まで、サヤが俺の後ろから抱き着くような形での移動……に色々と思う所はあったが(背中に感じる柔らかい感触とか)、幸運なことに例の症候群はその場で発動はしなかった。
その代わり、逆方向に後で発動したと言うか……。
衣装合わせで色々変えてる時、上半身裸で着替えてた時にカーテンの向こう側で転んだサヤ。
こっちの頭を突っ込む形で、下から思いっきり俺の上裸を見て、顔を真っ赤にしてその場にうずくまってしまった。
何やってんだよと色々言いたいことはあったが、そうこうしているうちに問題発生。
道中、まばらに撃った
黒塗りのホバーカーという点はそんなに不思議はないのだが。
かかってるエンジン音が市販のではないタイプの
そのままサヤと少し相談し合って、一足先に俺の方はその場から、とりあえず「これでいいよね!」とサヤが太鼓判を押した格好でここまで来たという流れだ。
青ジャケットに白いタンクトップと、色合い事体はブラックキャット原作のトレインを思わせる感じの服装で。
ここまで見た目が寄ってるならと、せっかくだから俺も俺で大きな摩擦接着バッジ(缶バッジみてーな感じので、針なしでくっつけるだけで固定できる奴)を
これ自体は、少なくとも肌色が包帯巻くより隠れてるからいいね! とのことだが……。
「
「知り合いっつー程の知り合いでもねーな。ま、予想通りだとは思うが」
「むしろ
「遊びも何も人の事騙しといて何言ってるのよ!? そう言う関係でもないし!」
「いやそもそも違ぇよ」
急にさっきまでの飄々とした笑いを消して真剣な目になって問い詰め始めるジェノスに訂正を入れる。
なんだかんだと茶髪リンス相手にこういう感じの振る舞いってことは、まあ、ブラックキャット的に違和感はないんだが、何だかなあ……。
別に俺も、茶髪リンスとはフラグとか立っちゃいねーってのに。
あっいや、婚約者もどきって感じにはなってるから、多少はフラグ的なのはあるのか?
どっちにしろ全く勃たねーけど。
……というか後、ジェノスのやつこっちの変装見破ってなかったな?
大丈夫かよ怪盗さんよォ。
「まっ、その辺は後で色々と話を聞くとして、だ。……そのお為ごかしを真に受けて、本当は逃がしてあげたいけれど、そういう訳にもいかない。
人格がそれだけ不安定で、ちょっとしたことですぐ衝動的に人を殺しかねないのだとするならば。俺としてはともかく、
怪盗ジェノス・ハザードとしての立場ではOKで、
……ジェノスについちゃその名前自体は、新聞で時折見ていたのもあったから、前世を思い出した俺はまず噴き出した記憶がある。
いや、怪盗って。
お前の方が盗賊やってんのかよ、と。
そこはリンスっぽいミカドが医者やってる段階で色々突っ込むのは野暮なのかもしれねーけど。
ブラックキャット原作だとこう、トレインとリンスにうっすらフラグを立てているのに対して最初期はやや鞘当て的な感じの出し方をされてた“
こっちのジェノスは、その活躍を見る限り単なるルパ〇三世というか……、宇宙ものだから八世の方か?
ただ俺の側は顔だけは知っていたから、間違いなく“
で、こうして今日変な形での対面となってる訳だが……。
空中、何もない所でハープでも弾くようにジェノスが指を動かせば。
それだけで、俺の頬や首に傷が一筋走る。
見えない斬撃……、いや月明かりで照らされているのは、糸か?
流石にハーディスが比較的原作通りだったのもあり、ジェノスも得物自体は原作通り糸であるらしい。
まあ、絶対そのままとかそういうことは無いんだろーが……。
「クールだね、これくらいの傷じゃ動揺すらしないか。
……でも正直、
「…………いや、そこは違ぇからな? というか流石に無理だろ、どうしろってんだ自分が立ってた衛星ごと粉々に吹き飛んだってのに」
「………………そう、だね言われてみれば。そこまでの余裕はないか」
そんなにこっちについちゃ疑ってねーのもあるんだろうが、やけにすんなりと言い訳が通っていた。
まあ馬鹿正直にこっちの言ってることを百パーセント信用してるって訳じゃないだろうし、報告の際は別なことを言われたりとかはあるかもしれねーが。
最低限「そこは」否定しとかないと、完全に組織への背信になっちまうからバランス感覚は大事だ。
俺はまだ、“
クリードは大人しくなったし……、その反動なのかヴァルタザールの変なオッサンがちょっと鬱陶しい時もあるが、それでも銀河レベルの範囲での危機を知り、対応できる立場は惜しい。
徹頭徹尾自分本位で銀河の平和も糞もあったもんじゃねーが、俺にとっちゃサヤが死んだりでもしたらその時点でアウトだ。
ある意味、銀河の平和を守っているとも言える。
まあそんな、自分への言い訳は置いておいて。
「それに、俺の別件(の任務)にも引っ掛かるんだよな。悪いが、ここで関係悪化させられると悪手だ」(※半分くらいは本当)
「お? とすると、やっぱり彼女がミカドちゃんが奪取したナノテクの情報バンクかい? 妙な因果だ」
「は? ……あー、いや、たぶん言いたいことが分かったと思うが、違ぇよ」
「ん?」
まー、多分アレだろ?
今の感じ、あの施設で情報の宝庫として使われていたのはティアーユ博士だったが。
流石にそれは予想ができねーから、イヴ自体を研究の素材として使っていたと、そういう風に見てるっつーことだ。
実際、イヴの遺伝子をさらに培養して増やしてクローニングして、色々と生体実験していたのも間違いではない。
その成果らしき
ナノテクの生体兵器利用をやってるイヴを捕まえていた組織の、関連施設への襲撃。
あの場にいた、イヴ以上に幼い言動の女の子を、俺は殺した。
顔立ちはまんまイヴだったが、髪が銀色で、目はイヴと同じく爛々と赤く光っていて。
そして、リリスは無邪気に残酷だった。
羽虫の羽根を捥ぐような感覚で、研究員を始めとして視界に入るものすべての腕や脚や首を捥いでその辺に放置して遊んでいた。
性質が悪いのが、切断した個所も中途半端にナノマシンで
その辺に投げ出されて生命活動を停止した胴体を、じっくりと見せつけられながら呼吸困難に陥らせられて窒息死していく研究員のオッサンの、あの顔は正直忘れられそうにねぇ。
本人に悪気はなく……、実験の影響か、
結局残ったのは背骨の髄と……。
いや、勝手に鬱ってる場合じゃねぇな。
ただ…………、原作イヴもこっちのイヴも、あんなものに比べたら可愛いモンだと思うのは、俺の生きてきた世界が色々と残酷極まりすぎてるかねぇ?
とりあえず、空中でもがいてるイヴを一瞥して、改めてジェノスを見据える。
「生まれは問題があったかもしれないが、そいつは単なる、ちょっと見栄っ張りな女の子だぜ?
シューティングゲーして負けたらムキになって何度も勝負を挑んでくるし、料理を黒焦げにしたら不満そうになって何度も何度も食材を無駄にしてむくれるし」
「…………ねこさん! もうっ」
「ははっ、ぶー垂れても事実だろ? 姫っち」
「むぅ……」
「随分打ち解けてるじゃないか、見習い君は」
頬を幼児みてーに膨らますイヴを揶揄いつつ。
肩をすくめるジェノスに、こっちも肩をすくめ返した。
「打ち解けられるってことが、そいつが大丈夫だって証拠だ。ニュアンスはわかるな?」
「…………人間として普通に存在する情緒、か」
「多少のトラウマはあるだろうが……、そういうのを克服していくのが
「……そうやって悠長なことを言えるほど、今の銀河連邦に余裕はないぜ? その多少のトラウマで、下手すればコロニーの1つや2つ簡単に消滅するかもしれない」
そこに関しては、正直同意見だ。
スヴェンの奴を殺しかけたことにショックを受けたイヴが、そのまま衛星を真っ二つにしたって事実を、軽く受け止めることは出来ねー。
ナノテクの生体兵器ってものにそれだけの危険性が潜んでるっていうのは、間違いなく事実なんだろう。
部分的にロストテクノロジーだったりとか、現代科学で解析しきれてねーやつを使ってるとか言ってもいたし? いやそこは詳しくねーけど。
ただ……、それをイヴが制御できないはずはないという確信も、俺にはあった。
ほかならぬ漫画の方での、主人公としてのヒロインを張っていたイヴを知っているのだから。
こっちのイヴがあっちと丸々同じって訳でないことも重々承知の上で。
それでも、こっちのイヴにも信じてやりたいと俺は思った。
だから。
「────────
「ッ! ……ねこ、さん?」
「おぉ! それは…………、頼もしいね」
揶揄うように言って来るジェノスだが、目が笑ってない。
こっちを冷徹に見ているとかじゃない。むしろ、警戒してるって方が正しいだろう。
まあ、何をやったかと言えば簡単で。
あの訳わからねー光でサヤを叩き切って、存在ごと蒸発させて跡形も残さなかったみてーな、そういう考えられる限り一番最悪な絵面を。
それだけで、いくらでも殺意が湧いてくるくらいには……イヴが怯えても全く気にならないくらいには、簡単に感情を操れる。
考えるだけで、当たり前のようにイヴを殺せるようになる自分が、流石に現金過ぎて鬱だった。
たったそれだけで生き死にに対して自由に動ける、活殺自在と言えば聞こえは良いが……。
少なくとも前世を踏まえた俺は、サヤにそれだけ首ったけだった。
重いわ! と一言で済ませられそうでもある。
「なら、どっちが決定権を持つか────賭けをしようか!」
そう言ってジェノスは飛び上がり
さっきから言葉も出てねー茶髪リンスも、イヴもそれには目を見開く。
仕掛け自体は簡単だろう。
良く見れば上空にいるジェノスの腰には、新品の腕時計でも入っていそうな微妙に細長い感じの箱みてーなのが取り付けられていた。
蜘蛛のようなレリーフのボタンっぽいのと、後は
見た限り、グローブの指先に紐がくっついてるみてーな原作版ジェノスとも違うし……。
おそらくだが、この空中にふよふよしてる視認すら難しいほど細い糸に、あのグローブで接触することで殺傷力を発揮したり、ああして足場にしたりと出来るんだろう。
どうりで「殺し屋」としてのジェノスの名があまり知れ渡っていない訳だ────この壮絶な血錆びの臭いからするに。
おそらくジェノスは、ターゲットたる対象を粉微塵に斬り砕いて捨てている。
死体が欠片も残らない……、ほぼ血痕だけのような状態まで刻み付けて粉砕するのだ。
さすがにこういうアレンジ(?)をされてるのは予想外だったし、俺も少し真面目に対策を練ることにした。
※ ※ ※
『活殺自在っつってな。こっちが相手より圧倒的に強い時とか、まるで相手の生き死にすら支配しちまったような感じになる時があるんだけど。そういうのに反抗して、あえてこっちがわが生きるも死ぬも自分次第って言いきれるのも、自由って言って良いんじゃねーかと思う』
以前、ここ1週間の間に
サヤが時々見ているテレビアニメーション(※厳密にはテレビと言わないが便宜上そう通す)。
ホログラフィックの立体映像で繰り広げられる、ロボットとロボットに乗った主人公たちの慟哭と戦いに、ほんのり胸を痛めるイヴ。
戦場に導入される兵器を操る子供、というシチュエーションが、どうしても自身と重なってしまうのだろう。
何を言ってあげあげたら良いかと悩むサヤと一緒に、ベッドの反対側に座ったトレイン。
二人してイヴを挟むような……、ちょっとした親子のような配置になって、彼は肩をすくめて言ったのだ。
『ま、結局は今いるところでどう生きるかって、それだけなんだろうぜ。やるもやらないも自分次第。
その上で選べるように、姫っちも頑張れってことだな』
『……トレイン君は、飼い猫だものね~』
『何だよ』
『別に? 姫ちゃんとちょっと状況は違うんじゃないかな~って思ってさ』
『うっせぇっての。大体、その気になりゃいつでも辞められはすんだよ。後が色々面倒クセーし、それに……』
『それに?』
不思議そうにしてる、ユカタとかいった変な民族衣装を着たお姉さん……、サヤはトレインに微笑む。
トレインはしばらく見つめ合った後、居心地が悪そうに視線を逸らした。
その時の頬の赤さから、なんとなく、彼が殺し屋を止めない理由が彼女にあるというのをイヴも察した。
(…………アニメでもやってる、主人公は大事な人を守りたいから戦場に行ってる。けど……戦いなんて嫌そう)
アニメの主人公の、友達と殺し合い泣き叫ぶ少年の姿を見て、やっぱりイヴは少し胸が痛む。
自分だけじゃない────
もしかしたら、それこそ自分以上にその場に長く留まっているのかもしれないと。
後ついでに、アニメの主人公の声がトレインの声に似ていたから。
トレインが聞けば「(声優さん)兼ね役か?」とか世迷言を呟きそうなのはさておいて。
「はっはっは! 凄い凄い、エクセリオンの金属糸を一本一本直に狙撃しながら、お嬢さんとミカドちゃんを庇って戦っているなんて! 全然様になっちゃいないってのに全く隙が無いとか、どんな芸当だい⁉
流石、伊達や酔狂で組織最凶の暗殺者じゃないね
「人の符丁無駄にしてんじゃねェぞ、このコソドロが!」
「おっと⁉ 悪いけど
(すごい……、何やってるか全然見えない)
ものすごい速さで二人が動いているからわからない、と言う意味ではなく。
ジェノスの攻撃がもともと見えづらいのに対して、トレインの銃撃もまたそれに応じて予想外の方向への狙撃から始まっていることが多いため、とっさに判断できないというのが正しい。
例えば今だって、嫌そうな顔をしながら地面に銃弾を一発放ったトレイン。……音は一回だったが弾丸は複数出ていたが、それらの弾丸が跳弾して3方に飛び、見えない何かに激突。その軌道が逸れて、イヴに向かっていた斬撃のようなものが簡単に地面に叩きつけられる。
ここまでされてようやく、そのあたりから血のにおいがするのに理解が追い付くイヴであったが。
(ねこさん、お鼻凄いのかな?)
未だ見えない糸でぶら下げられているイヴは、段々と応酬がエスカレートする二人をじっと観察するだけの余裕があった。
少なからず、トレインが救援に来てくれたことで落ち着きを取り戻したらしい。
……あるいは、揶揄われて一瞬頭に血が上った反動か。
(格好良い人にねこさん、攻め手が弱い)
森の木々を移りながら、空中で指揮者のように素手を振り回すジェノスに銃撃するトレイン。
しかしその銃弾が彼を掠めることはない。
到達前に三枚に下ろされ、更に粉々になり地面に叩き落とされているトレインの弾丸。
舌打ちをしたトレインは、スーパーヒーローのように三点で着地してから上空のジェノスを見上げる。
「こういう地形だとほぼ無敵じゃねーか、てめぇ。
「ま、その分準備に時間がかかるけどね」
肩をすくめるジェノスを睨むトレイン。
理屈はよくわからないし、何故それを今トレインが言ったのかも意味はわからなかったが。
どうやら苦戦していることは間違いないらしい。
(私も何か、出来ること…………、接近はだめだから、えっと)
色々言いながらも銃撃を続けるトレインにならい、とりあえず
銃の形に頭の毛の先を変化させられても、弾丸を射出するロジックも弾丸となるものも、そこには存在しないからだ。
かす、かす、と空撃ちの音ですらないものを鳴らすそれを見て、イヴは「むぅ」と不満そうだ。
銃口から電撃を放つトレインであるが、それもまたジェノスの方へ到達する前に何かの壁に阻まれる。
ほとばしる電光によって照らされたそれは、さながらスカスカした繊維で編まれた、ゆるい盾のようなものだ。
ただし密度がいかにゆるかろうと、その構成はオリハルコンの糸。
普段は現在のイヴの体感で単なるワイヤーくらいの強度のようだが、ジェノスの意志に応じて性質も大きく変わっているのだろう。
「無茶は止めなさい、イヴ」
「……ドクター・ミカド?」
「あらあら……、やっぱり私だけ本名呼びなのね」
苦笑いするミカドは、拘束されてるイヴの足元に来て、もがいている彼女に声をかけた。
その視線をトレインたちに移して、少し眉間にしわを寄せる。
珍しい表情だ、とイヴは気になった。
聞いてみれば、どうやらミカドもミカドでジェノスとは微妙な関係らしい。
「トレインよりも年上っぽいし、ジェノスはその辺もうちょっと上手く折り合いをつけてのかしらねぇ。……後、絶対この後どっちに転がってもノーカンってことでアドバイザー依頼みたいなのって継続してるわよね。
まあ、私も必要といえば必要なんだケド……」
「折り合い?」
「うーん、そうね。折り合いって言うのが一番近いのかしら。理想と現実との折り合いと言うか」
あくまでもミカドの予想という体ではあったが、猛烈にジェノスからの攻撃を人外じみた脚力で蹴り飛ばし走り避け続けるトレインを見ながら、彼女は言う。
「元々、殺し屋クロって言ったら本当なら確実に生存者ゼロなのよ。ジェノスに言われてから私も調べたけど、どこをどう裏側のネットワークで調べても生存者ゼロ……、目撃証言は多いけど、どれもターゲットのそれではない」
「……?」
「うん、だから、イヴは例外ね。状況から見てたぶん、最初の例外。
で、その前後でトレインはあのサヤちゃんに恋してるから、間違いなくこれが影響してる」
「………………」
一瞬何故か「へっ」と白けた顔になったイヴだったが、ミカドの話は傾聴している。
「多分それは、本当にあの子の人生を一変させるくらいの出来事だったと思うのよ。だから言ってることもやってることも目茶苦茶気味で……、ジェノスみたいな、遊びとそうじゃない面の切り分けができてない」
「切り分け…………」
「ま、そんなこと関係なく強いんでしょうし────」
そして、トレインが空中に再び電撃を放つ。
無駄だよ! と笑いながら防御するジェノスであったが。
「────多少メンタルが不調なくらいで、あの子が負けるところなんか想像ができないくらいには、私も実力を評価しているんだけど」
範囲が拡大し続ける電撃に対して、周囲の糸を寄せ集めたせいか。
体勢を崩し糸の盾がシルエットを崩したところに、そのまま大量の電撃が浴びせられた。
【エクセリオンα・β】
・本作仕様のエクセリオン。左右一対グローブと糸射出機を兼ねた縦長外付けバックル。
・元ネタというか、基本的にとらぶる原作のランジュラの能力に対応するのをアレンジしているので、構造がブラックキャットのものとは大きく異なっている。
・糸はグローブの指先接続ではなく、腰の糸射出機によって空中に散布。散布された状態の糸はお互いゆるく繋がっているが、エクセリオンのグローブで接触することで自由自在に動き回る強靭なワイヤー、あるいは殺傷兵器として姿を変える。
Q.ハートネットとか賞金稼ぎ見習いを名乗ったの何で?
A.理屈としては本文通り「別な立場で今この場所にいる」ということだけど、あえて賞金稼ぎ見習いとかハートネットと名乗ったのは本人のノリ。殺し屋止めないとか言ってる割に若干原作トレイン風ムーブっぽいことをやって、ちょっと照れてる。
実はハートネットの名前自体はクロ自身かつて名乗った偽名で使ったことが無いものだったり。
Q.仮にトレインが勝っても、これって大丈夫なやつ?
A.トレインの任務の進行の都合上今はやりたくない、衛星での戦闘はぶっ壊された時に見失ったという言い訳スタンス。後日、これからそれを上に訴え出ることになる。
なおジェノス的には好都合ではあるけど、お仕事はお仕事だしこれもまた仕方ないと割り切っていた。
Q.もしかしてイヴ、ちょっと気になってる……?
A.近所のよく遊んでくれる親戚の、いぢわる込みで可愛がってくれるお兄ちゃんくらいの距離感。