とラぶラックキャット   作:那覇ダイア

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ついに気づきます。


Vol.3
#30.ようやく気付く宇宙猫


  

 

 

 

 

 デビルーク星系のとある惑星、ヨンブルグ。

 特定の人種が存在しない、つまりもとから知的生命体(ヒト)が生息していなかったこの惑星。

 現在では開発が進み……、規模を一つの州などに縮小するなら、ちょっとした()()()くらいの規模と環境であるこの惑星。

 そこにある、とある植物園。

 湿度は九十パーセントを超えており、むしむしと空気が粘つく。

 おおよそのヒトは汗をかき不快感を覚えるだろうその場所で、かさり、と。とある大樹の木の枝がわずかに揺れる。

 

 ひらりと舞うスカートのシルエット────その下では、デビルークの治安局が()()へと絶叫していた。

 

『落ち着けイゴール・プランター! 交渉の用意はできている、即座に発砲することはないから少女を解放しろ!』

 

 どこかデザインが禍々しいアーマーやらバイザーに身をくるんだ、黒く細い尾をもつ幾数人の特殊部隊が、盾と銃を構えて警戒している。その後方で、現場指揮官なのかメガホンを片手に大声で彼へと呼び掛けていた。

 ……呼びかけ方が少しおかしいが、部隊がデビルーク人なのでそれも仕方ない。そもそも全員が並の異星人より頑丈な身体を持っているので、発砲せずともいざとなれば取り押さえられるという大前提にのっとった発言だ。

 

 もっとも、呼び掛けられる相手、イゴール・プランターは意に介した様子もない。

 麦わら帽子にオーバーオール。

 手にはじょうろを持ち、どこにでもいそうな花屋といった風体だ。

 

「うるさい……! 花を、草木を踏みつけるな────!

 この子も草花の痛みを分かってくれないから、だから()()()()あげないといけないんだ…………、痛みがなければ学んでも身にはつかないのだから」

「…………っ」

 

 ただ左手にはピンクブロンドの少女の首を肘で締めるように抱えていたり。

 じょうろを振り回して放射した水が地面に接触すると、まるで男の意を受けたように地面から次々と蔦が生えてきて、部隊の人間たちを薙ぎ払ったりする。

 

 なお軽く音速を超えた衝撃(ソニックブーム)が出ているが、吹っ飛ばされた彼らもアーマーこそ破損すれど「痛いな」「労災は、これくらいじゃ無理か……」などとぼやき乍ら後方に回り装備を変えたりしている。

 やはりこの程度では致命傷になっていないようなデビルーク人たちであった。

 

 とはいえ、抱えられてる少女は違う。

 彼らの特徴といえる独特の尻尾が生えておらず、なんならイゴールと呼ばれた男の腕力でだんだんと息が詰まってきているのか、顔色が悪い。

 拙いと判断はできるが、だからといってすぐさま打つ手はない。

 流石にデビルーク人の軍ではない彼らは、このままイゴールを刺激せずこの状況を打破すること────少女を傷つけないように男を確保することが、難しかった。

 

 地面から生えた無数の、うねるワーム型生物のような触手めいた蔦。

 それらが重なり牽制し、イゴールたちと特殊部隊との間にバリケードを作ろうとした、その時である。

 

 

 

「────時間稼ぎには充分でしたね。では、失礼します」

 

「……何ッ!」

「えっ!?」

 

 

 

 男の頭上、背後の大樹から降りてきたシルエットが、()()()()()()()()()()()()形状の何かを、ぶんと振るい男の肩を殴り飛ばした。

 痛みで一瞬マヒした腕から、少女がその場に落ちる。まだまだ幼い少女故に、イゴールに抱えられていた時点で地面に足がついていなかったのだ。

 さて、反射的に振り返ったイゴールの目に映ったのは。

 

「370万=¥(イェンビリー)の賞金首、確保します」

 

 黒いワイシャツに、赤いチェックのミニスカート。

 ひらひらとしてるそれを押さえながら着地した……、頭の両サイドに縛った金髪の、その先端が「銃のような形」を大きくスケールアップしたようなものに()()させていた、赤い目の少女だった。

 ぶん、と。

 少女が睨めば、イゴールめがけてそのうちの片方が振るわれる。…………見た目は銃器だが、扱いは鈍器であるらしい。

 もっとも強度はそれなり、かつハンマーよりも形状が薄いせいか、意外と高速で振られたその一発をイゴールは見事に腹に食らった。

 

 弾き飛ばされるイゴールに目もくれず、現れた少女は幼い少女の体を起こして背を撫でる。

 大丈夫? と聞く彼女に、うんと幼い少女は答えた。

 もっともストレスと緊張のせいか、その両手両足はがたがたと震えている。

 

「もうちょっと待ってて。今、お姉ちゃんが助けますから」

「お姉ちゃん、大丈夫なの……?」

 

 ぶい、と。無表情ながら口元だけ少しほほ笑み、右手のⅤサインを突き出す少女。

 そのまま彼女は立ち上がり、イゴールの方へと歩いていく。

 

「化け物め……!」

 

 植物の蔦でできたバリケードに()()()()()()イゴールは、少女をにらみつける。

 植物が編まれ、まるで巨大な人体のように変化していくさなか。彼女は特に恐れるわけでもなくニュートラルに彼と目を合わせて、会話を続けた。

 

「連続殺人犯、イゴール・プランター。……花とか木が好きなんですか? 人間より」

「ああ、よくわかるね……」

「この世で花ほど美しいものはない。…………ハルバードアカデミアの論文、ちょっと読みました」

「ほぅ?」

 

 少女の発言に、少しだけ険のある表情を緩めるイゴールであったが。

 

「植物が大事だからといって、ヒトは殺しちゃいけない」

「…………! 君も、あいつらや政府の連中の仲間なのかい?」

「違います」

 

 そう言って少女は…………、びし! びし! と、独特のポージングをいくつか流れるように決めて、最後に右手の人差し指と親指を立て銃をつくるようにしてイゴールへと差し向け。

 

「賞金稼ぎ、です。………………見習いですけど」

 

 ……特にポージングに意味はなかったようだ。

 後方で、幼い少女が「かっこいい!」と言ってるのに、少しばかりご満悦なのかニッと口元だけ微笑む少女。

 どうやら、色々と()()()らしい。

 

 だが、そんな彼女の様子など気にした風でもなく、イゴールはぶつぶつと言葉を重ね声を荒げていた。

 

「木々が、森が、自然が怒っている……君たちには聞こえないのか? 無理な開発のせいですでにこの惑星をはじめとした周辺一帯の生態系は滅茶苦茶だ。ヒトのエゴが、これを引き起こすというのなら、誰かが自然の代弁者にならないといけないんだ。

 大丈夫怖くない、()()()()()()()()()()()()()()ね────!」

 

 そう言いながらイゴールは、イゴールと融合した植物の巨人は、その手を少女の方に差し向ける。

 手のひらから大量の弾丸のような何かが砲撃されるのを、少女は背後をちらりと一瞥して走り出した。

 

変身(トランス)───天使の羽(ウイング)

「……! お、お姉ちゃん、天使さま……!?」

 

 次の瞬間には髪はただのツインテールへと戻り、少女の背中には真っ白な羽が生える。

 そのまま幼い彼女をかかえて、少女は空を飛んだ。

 

 イゴールが射出した弾丸は、地面に激突すると同時にその場で()()()

 芽吹いたそれらは急速に成長し、大樹よりも大きな花に。

 毒々しい匂いをまき散らすその花の出現と同時に、さきほど彼女が隠れていた大樹がいっきに枯れた。

 

「養分でも吸い取りましたか。……というか、こっちが飛び道具使えないのに反則です」

「お姉ちゃん?」

 

 何でもありませんと言い、少女はデビルークの特殊部隊の方へと飛ぶ。

 一方の特殊部隊たちは、巨人となったイゴールの背中に発砲していた。当然というべきか全く効いている様子はないのだが……。

 

「隊長! ()()()撃ちますか!」

「止めろ、俺たち程度では話にならない……、それにしてもあの少女は……?」

 

 抱えていた幼い少女をバリケードの内側に下すと、そのまま彼女は再び()()()()()

 今度は足首から先が、まるでバッタの後ろ脚のような異形へと変じていた。

 

 化け物め、と毒づくイゴールに、少女は目を細める。

 

「だから────賞金稼ぎです。

 スヴェン!」

 

 

 

「おっしゃ! 行くぜ()()──────!」

 

 

 

 そして少女の、イヴの掛け声と同時に。

 枯れた大樹の陰から、白い紳士服に帽子の、眼帯の男がアタッシュケース片手に現れ。

 何人で来ても同じことだと叫ぶイゴールめがけて、男は()()()()ケースから出た銃口を構えて、トリガーを引いた。

 

 空中に散布される、薄い黒のガスのような靄のような何か。

 それを浴びた瞬間、イゴールの巨体を形成していた蔦たちが猛烈に枯れ始めた。

 

「な、何が起こってる……!?」

「そいつはナノテクのある権威特製・ダークマター製の除草剤だぜ?

 瞬間的に遺伝子組み換えを行い植物の動きを操るそのクスリといえど、外部から供給されるエネルギーに耐えられなきゃ腐ってポトリ、だぜ?」

「…………! ま、まさか、ルナティ────────」

 

「えいやっ!」

 

 そしてスヴェンに気を取られてる隙に、イヴはツインテールを再び装飾銃の銃身のよう変身(トランス)させ。

 猛烈な勢いで振り切り、イゴールの顎をたたいて意識を刈り取った。

 

 

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「ありがとうございます、ありがとうございます……! イーリス、嗚呼イーリス……!」

「お姉ちゃん、ありがとうございます!」

 

 さきほどのピンクブロンドの少女と、神経質そうなその父親。

 無事助かった娘の姿に抱きしめて感涙する彼の胸を軽くたたいてから、少女はイヴの方を見てニコニコとお礼を言った。  

 と、お礼を言われたイヴもイヴでまんざらでもないのか、目を見開いて顔が赤い。

 

「え、ええ。……お元気で」

 

「じゃあねー!」

「ええ、本当にありがとうございました。じゃあ行こうか、イーリス────」

 

 その場を立ち去る親子を見送り、イヴは調査局から出てくるスヴェンを見た。

 ん、と言ってとことこと小走りで近づいてくるイヴ。

 ()()()()()色々と個性が出てきた彼女に、スヴェンは苦笑いしてから帽子を被りなおした。

 

「賞金、ちゃんと出そう?」

「おお。今回こそは大丈夫だろう……、ギャンザ探しに行く前に軍資金はしっかり準備しとかないとな」

「ん。……でも、ツケの返済には追い付かないから大半が消える」

「そ、そういうことはもうちょっとフワっとしていこうな? な?」

 

 弁明はせずとも慌ててごまかすスヴェンを「じー」と半眼で見つつ、イヴはこくりと首肯。

 決して腕が悪い訳ではないのだが、このスヴェン・ボルフィードという賞金稼ぎ(ハンター)ギルド所属の男は、妙にお金と縁がないのだ。

 

 閑散とした田舎町(ダウンタウン)の中では大きい建物。銀河連邦の警察組織がまだギリギリ手をまわしきれていない地域ではあるが、特殊部隊そのものは脱獄事件があったこともあって警戒していたらしく、この調査局を中心に周辺宇宙を調査していたらしい。

 その甲斐もあってか今回、たまたま件の賞金首を見つけて、それが刺激となり事件が発生。

 イヴやスヴェンはこれ幸いと、その賞金首であるイゴール・プランターの捕縛に乗り出したのだった。

 

 さて。半眼でじーっと見ながら、イヴはスヴェンに淡々という。

 

「ターニャさんからまた言われる……」

「とはいってもなあ……、俺たちみんな、ちゃんと食事は取らないと死んじまうし」

「ティアの卵焼きは? あの、()()()()()

「栄養価はちゃんと高いらしいが、前に口にしたら気絶したからなあ……」

 

 レディーの手料理に失礼だから、というスヴェンに、チャレンジャーだね、とイヴは半眼のままだった。

 

「ま! とはいえだ、こんなギリギリの生活ともしばらくオサラバ!

 設備投資とツケの返済をしても一週間くらいはちゃんと飲み食いできるくらいの金額は残る予定だし、ちょっと奮発してレストランにでも行くか? ()()()

「それでも一週間なんだね……」

「あぁ……、ゴメンな? イヴ。これだったら、まだアイツのところにいた方が良い生活できたか…………?」

 

 アイツ、と。スヴェンの言った誰かを指す言い回しに、イヴは目を閉じる。

 

「ねこさ………、()()()()が可哀そうだから、それは良い」

「お、どういうことだ? そいつは」

「私がいたんじゃ、変なお姉さんと()()()()()とかやり辛いだろうし………、いや、関係なかった。トレインは変態」

「一体何やってんだアイツは…………」

 

 イヴの教育に悪いことするなよ、とブツブツ愚痴るスヴェンであるが、知識の大本は違うところにあるというのは予想できていない。もっと言えば、その「変なお姉さん」が誰のことを言ってるのかもわかっていないスヴェンであった。

 とはいえ、けっ、と半眼で毒づくイヴを見てスヴェンは苦笑い。

 

「しっかし、結構仲良くなってたみたいだなーイヴも。イゴール殴った時のアレ、アイツの銃だろ?」

「…………」

「ん、でもどうして銃弾を撃たなかったんだ?」

「撃てない」

「えっ?」

「私、そういうの出来ないから」

 

 あの銃の原理とか分からないし人体とつながってないものの変身(トランス)とかできないし、と。不満げなイヴに「そういうものか」と他人事なスヴェンだ。

 

「それにトレイン、銃ですごい殴ってたし。練習の時も」

「銃の使い方としてそれで良いのかアイツも……、いやまあ確かに結構ぶん殴ってたけど」

「だから使い方は間違ってない、はず。うん、我ながら正解」

 

 どこかの民族衣装か浴衣の誰かさんのようなことを言うイヴである。

 そこはかとなく影響を受けている。

 確かに現在のイヴは、裏社会から掬われてすぐの、久々に取り戻した日常が原体験の一つになっているようだった。

 

 そのあたりについて詳しくは知らないスヴェンだが。それでも、あえてイヴが殺し屋クロの使っていた銃をモチーフとして変身(トランス)していたことに、何か察するものがあったようだ。

 

「で? ()()()()()()()()()()()()()()?」

「…………わかんない、けど。頑張る。頑張る、ます」

「そこは、頑張りますだな」

 

 はは、と苦笑いするスヴェンに、ふんすと強く鼻を鳴らしてやる気をみなぎらせるイヴ。

 

 

 

 ちょうどそんなタイミングで、調査局の事務所……、警察署のようなそこから、巨大な木が生え、建物を内側から粉砕した。

 

 どごーん! と、爆発音めいた音が鳴り響き、思わずイヴもスヴェンも飛びのいてそちらを見る。

 

 

 

「……スヴェン、あれ」

「な、何だこりゃ……? まさかイゴールの奴か? 逃げるつもりなのか…………って、えっ?」

 

 イヴの指さした先。

 現れ出た巨木の、その上部の枝の先。

 目を閉じた安らかな顔をした男の、干からびた顔がめきめきと音を立てて枝から幹へと飲み込まれていき、後には枝の貫通した麦わら帽子だけが残っていた。

 

「自決でもしたってのか。……こう見ると哀れだな、あいつも」

「…………スヴェン、賞金」

「……………………あっ」

 

 そしてホシがこの有様では今回も賞金は下りないのではないかと、スヴェンはその場で真っ白に燃え尽き、立ち尽くした。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 いきなりの話で悪いが、ヴァルタザールのオッサンが死んだ。

 ()()で、だ。

 セフィリアいわく、クロノ星系のヘイスト人としては珍しくはない死因だそうだが、いくら何でも早すぎやしないかと少し困惑する。

 アレか? もともと身体が弱いという感じだったが、それって単純に身体が老化してたとかそういう理由だからか? 老化が早いってのもよくわからないが、死因からすればそういうことになるんだろうか?

 色々思うところは有ったが、まあ、だからといって葬儀に出てやるような親密さでは全くない。アダムとかいったか、あいつの養子からも苦笑いされるくらいには、ヴァルタザールはこう、色々と()()()()生き方をしていた。天涯孤独とは言わないが、昔から仲間を作らず、あるいは作れず、流浪の民として宇宙をさまよっていたらしい。

 そんなこんなで葬儀は家族葬といいつつ、組織から多少人が回る程度。

 セフィリア(仕事モードのセフィ)もまあ、同情する感じでアダムを手伝っていた。

 いわく、ヴァルタザールとは「一応は古なじみだから」だそうだ。

 あのプライドが凝り固まったようなクーデター精神旺盛だったオッサン、どうもセフィリアがまだ幼いころからの知り合いだったらしい。……もっともその頃から熱を入れてたところで、すでにギド公とは出会った後だったらしいからまあ、()()()()()()だ。

 

 …………そういうこと考えるとふと我に返って、本当に自分とサヤとの関係が大丈夫なのかって謎の疑心暗鬼に陥りそうになるからそのあたりは考えないことにする。

 

 俺個人として一番意外だったのは。

 なんとなく「もう居ない」という事実に、自分が一抹の寂しさを覚えていたこと。 

 

 寂しさを覚える要素なんざ欠片も無いはずなんだが、まあ、どういう感情なのか自分でもよくわかっちゃいねぇ。

 

 確かなのは、もうあのオッサンの鼻に詰まったような癇癪の強い声を聞くことはないだろうって、ただそれだけだ。

 

「仕事の引継ぎは終わってるからまあ良いんだろーが」

 

 そんなことをつらつら思い出しながら、俺はデビルーク星のあるファミレスにいた。

 窓際のカウンターみてーになってる席で、外を見て目を細めてやれば科学省のでけぇ建物が目に入ってくる。

 何をやってるのかと言えば、護衛の予備隊みてーなもんか?

 ちなみに依頼者はクリード……、というかザスティン。

 何でも、要人警護みてーな仕事をしているんだが相手がすばしっこくてすぐ逃げたりするから、いざというときに捕まえるのを手伝ってほしいとか、そんなことだそうだ。

 

「サヤは民族服の修理が今日終わるからって引き取りに行ってるし、暇だ…………」

 

 で、当のザスティンとその要人とが。こっちに来るのが遅れてるせいもあって俺は暇していた。

 今日は科学省に出向いて何かの会議してるらしく、それが長引いてすでに夕方。

 昼飯は経費で落ちるからしこたま食べたが、このまま待機だと迷惑客まっしぐらすぎて涙が出てくる。

 というか「殺し屋クロとして」の人生的に、ほぼ無趣味だったものだから本当に何もやることがねぇ。ネットサーフィンくらいしかやることがなく、そのネットサーフィンも何か興味があるわけでもないし。

 ちょっとした悟りでも開けそうな心境になりながら、つらつらと最近のことを思い返すくらいだった。

 

 

 

 半年、イヴがスヴェンたちの元に行ってから大体それくらいはたった。

 以上。

 

 ……それだけかって? そうだよ。それ以上にトピックスが無ぇ。

 

 

 

 一応、サヤが手料理とか頑張ってみちゃいるが、現在の俺の舌をうならせるような感じにはなっていない。実際味は美味いと感じるし上達してきてるんだが、何かこう、これじゃない感があるっつーか。

 もしかしてグールーメ人だから舌、本能的に肥えてるとかじゃないっスよね? とかサヤに言われてもお手上げということで。

 

 あ、いやでも一つあったな。トピック。

 

 例のハレンチ症候群、茶髪リンスの予言通りというか本当に洒落にならないレベルになってきた。

 前後の状況を考えずに具体的に言うと、お互いの()()にお互いの頭から突っ込んで間近でガン見したり触ったりするようなレベルが頻発、というくらいだ。

 あんまりにもあんまりすぎて「まだ早い!」とか言ってたサヤですら「だんだん行きつくところまで来た感じっスね……」と、動揺なのか困惑なのか遠い目をしてるし、俺も俺で最近は「する」側の現象だけじゃなく「させる」側の現象みたいな? 受けというか、俺の体に対してサヤがだいぶアレなことになるような、そんなことも多くなってきていて全く洒落にならない。

 

 ……それでいてギリギリ()()()()一線は超えてねーのと、同居の解消っつー話にならないのが、まあ、何と言うか俺たちらしいのかどうなのか。

 唯一の救いが、人前で出る頻度は減ったっつーことなんだが……、室内で出るようになってきたからむしろ悪化するようになったのか何なのか。

 

「………………」

 

 流石に()()()()が挟まれる形になって「これは何っスかね?」という感じの困惑した笑顔を向けられた時のことを思い返して頭の中がフルスロットルになりそうなのを自制して。

 ドリンクバーのミルクをぐびりと飲み、あくびを一つ。

 

 と、ちょうどそんな時だ。

 

「────あれ? パパ、どうしてここ来てるの? また遊んで……って、あれ? 違う? 何かパパより黒い……?」

「んぁ?」

 

 予想外の形で声を掛けられ、とりあえず体を横に向けて振り向く。

 そこにいたのは……、紫と黒のゴシックなワンピース? ミニスカートなそれの上からちっちゃい白衣をまとった、ツインテールのオコサマ。

 目は(みどり)

 表情はやわらかく、天真爛漫っつー感じか?

 俺をじろじろ見て不思議そうにしてても全体的に表情の作りが笑顔のまま。

 

 そして何より一番驚いたのが。

 

 

 

「…………セフィリアと同じ色?」

「あっ、()()と知り合いの人だ! ママのことそう呼ぶ人って、あっちでも少ないもん」

 

 

 

 ニコニコと俺の言葉に笑顔を浮かべる、イヴと同じか少し下くらいのちびっ子。

 その髪の色が、ピンクブロンドとかですら全くない鮮やかで鮮烈で妙に印象に残る、とんでもねぇピンク色であることで。

 

 というかママとか言ったか?

 えっアイツの娘……!?

 

 そだよー、とちびっ子はにこにこしながら。

 

()()()()()()! ……って、もしかしてザスティンが言ってた友達の人?」

「────────」

「あー、でも何かパパよりかわいい感じの顔だー! よろしくね!」

 

 楽しそうに人の顔をじろじろ見てくるこのちびっ子。

 その姿と、声と、名前とを見たとき、不意に俺の脳裏よぎる記憶の渦。

 

 あれはいつだったか……、前世的なアレの記憶なのは間違いないが。

 記憶の中の俺は、テレビのチャンネルを雑多に回していて。

 何かの再放送だったか衛星放送だったか今となっちゃ全く思い出せないんだが。

 そこでこう、茶髪で背の低い感じの男の子の目の前に、ちょうどティーンエイジャーくらいのスタイル抜群な桃色の髪の女の子が「どーん!」という感じで急にワープしたみてーに出現して。

 どういう流れか、タイミングが悪かったのか男の子に胸揉まれるような流れになっても、むしろ堂々としていて男の子の方がダメージ食らって風呂でぶっ倒れて────。

  

 当時あまりの恥ずかしさにすぐチャンネルを変えた覚えがあるが(確かまだ小坊(小学生)だったし)、チラ見するようにチャンネルを時々もどして、それが何というか、例のアレの漫画のアニメだというのを初めて知った。

 継続視聴とかは色々な意味では出来なかったが(たまに再放送? と時間が被った時にチラ見する程度)────その時のヒロインの顔と、声と、全体の印象は覚えてる。

 それは連載していた漫画版の拍子のイメージと重なって、うっすらとだが俺の中にも記録として残っていたらしい。

 

 その女の子のイメージが、目の前のセフィリア(セフィ・ミカエラ・デビルーク)の娘の印象と重なり────俺はたぶん、世界の真実に気づいた。

 

「そっか…………、“To LOVEる(とらぶる)”だったのか」

「トラブル?」

 

 不思議そうににこにこしてるセフィリアの娘……、ララ・サタリン・デビルークから目をそらし、俺は空を仰いだ。

 

 

 えっあれって只のえっちなラブコメじゃなかったのか!?

 宇宙規模で考えてこんな普通にバトル漫画っつーか薄暗い感じな世界観が下地にあったてのか!? というか主人公トレインでもなかったのにラブコメ主人公めいてラッキースケベしまくってる俺の立場いったい何なんだよ!!?

 

 

 

 

 


 

Q.(レベルアップな感じで)とらぶった?

A.(レベルアップな感じで)とらぶった。割と普通に描写まで書こうか悩んだけど、ちょっと生々しいレベルになってきたので自重。

 

※追記

・PSゲーム版よりイーリスと父親については、本作では上手いこと巻き込まれるのを回避できた感じです。リリスは現在にメアに搭載…。

 

 

 

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