とラぶラックキャット 作:那覇ダイア
思えばこの世界がブラックキャットっつーか、
とらぶる……、まあこっちも正式には「To LOVEる」とかの表記が正しいみてーだが、面倒だからひらがなで統一する。ブラックキャットの後に連載してた同作者の漫画、らしい。らしいっつーのは俺が良く知らないからだ。
何せジャンルはだいぶエッチなラブコメ漫画。
連載してた単行本は親から借りられなかったし(恥ずかしくて)、アニメも直視できるレベルじゃない。
結果としてあっちはほぼ知らないんだよなぁ……。漫画としては
ただ、よくよく考えてみればそれも微妙に違うような気がするというか、違和感に気づいた。いやまあ単純に? とらぶるとブラックキャットとで漫画のジャンルが違いすぎることを前提とするとだ。いくら何でも、俺みてーなブラックキャットそのままな過去と背景と現在を生きている俺が、純粋にあのエッチなラブコメ漫画の住人なのかどうかっつー、そういう話。
ワンチャン背景設定とかには色々そういうのもあるのかもしれねーが……、例えば俺が前世に目覚めなければ、もしかしたらスヴェンと茶髪リンスとが遭遇することもなく、イヴの救出に向かわなかったり。
その場合、俺も何かよほど酔狂な感情でもない限りはイヴを見逃さないだろうし……、仮に見逃したとすると、イヴの行く先はそのまま殺し屋稼業が良い所だろう。
その点からいえば悪いことばかりではない、と、言ってしまいたい気分もあるっちゃあるんだが……。いやほら、イヴがスヴェンの元で賞金稼ぎ(
────えっちぃのは嫌いです!!
「何っつーか、あのフレーズに覚えがあるんだよなぁ……。声付きで。っつーか、まあ、多分アレだよなあ……」
「? どうしたの、
いろいろと転生先? っぽいこの人生、この世界について衝撃的すぎる事実の認識から自分への言い訳を重ねている俺を前に、桃色の髪のツインテ少女なララ・サタリン・デビルーク
おいしー! とやる仕草がいちいちフレッシュっつーか新鮮っつーか、まるで生まれてから初めて肉食ったみてーなリアクション取るもんだから、見てるこっちとしては「良かったねぇ」くらいしか言えることが無ぇ。
毒見の必要性? 言っちゃ悪いがすでに
こんなちょいと店内ボロボロ感あるシケたファミレスにも
いやまあ、情報交換とか会合をいかに人の意表を突く場所で、かつ秘密裏に行うかってのが縛りとしてある以上は、こういうところに手が回ってても変じゃ無いと言えば無いんだろうが。一応、
……っと、まあそうこう色々考えてるだけだと飽きられて
とりあえず改めて、四人掛けの席の対面にいる本物のお姫様をちらりと見る。
座席については一人席だったんだが、このお姫様「ザスティンの話聞かせてー!」とか色々言って手を引くものだから、仕方なく場所を移った。
で、移ってみれば何と恐ろしいことか! 今日、ザスティンと一緒に件の科学省で何か会議やってて、話が平行線になって予算の都合とか工面の話に推移し、全然進行がないわ利権やら天下りやら横やりが入りそうで面倒になったから、そのままエスケープしてきた! とのことだ。
そういえばあのアニメというか漫画だと発明家系キャラでもあったなこのお姫様
俺が知るこの世界のザスティンは、腐ってもクリード・ディスケンスだ。
人種がデビルークとどっかの砂漠の民みてーな星とのハーフらしいとか色々ブラックキャット原作とは異なっちゃいるが、その実力やら何やらは言うまでもない。
伊達や酔狂で俺の前に“
……ちなみにアイツが何で“
そんなかつてのクリードだったザスティンに、このお姫様はだいぶ懐いてるというか。
単純に、好いているとかそういうことじゃなく、お目付け役のような親衛隊に対する接し方なんだろうが。
それでも実際、アイツがどれくらい変わったのかというのを「仕事の面でも」多少は気になるので、俺はこのお姫様と話をすることにしたのだ。
もしまだイカれる余地があり、その延長上にブラックキャットめいたアレがあるのならば。
最悪、
後、ついでに言えばザスティンいわく「すばしっこくてすぐ逃げられる」という話だったので。この場で逃がすのも今頃あっちで頭抱えてそうなアイツに悪いかと、そういう気づかいみてーな気持ちもない訳じゃなかった。一応クリードとしてのアイツはまぁ
というか、まあ、要するにセフィリアよりもギド公に似てるんだろう。
でなければクリードからこんな余裕綽々に逃げおおせられるわけはない。
性格とかそういう意味じゃなく、身体の基礎スペックとか能力的な意味で。
まあそういう小難しい話はともかくとして。
「それでね? ママのスタイリストの
「あのだいぶ趣味が
「あ、リニアさん知ってるの?」
ちなみにリニアっつーのは、今回名乗った偽名だ。
トレインから、リニアモーターカーを連想しての名乗り。
当然のように「SPとかエージェントだから本名を名乗れない」と断りを入れた上で名乗らせてもらってるし、そういう対応に慣れてるのかララ王女もララ王女で「わか
ちなみに俺の口調については、下手にへりくだると本来の身分が明らかになってそれはそれでこの場で面倒に巻き込まれかねないということで、お忍びっつーことでお目こぼしだ。
ともあれセフィリアのスタイリストやってる、だいぶ
仕方ねーからこっちから話を振ってみれば、ぶー、と頬を膨らませてご立腹だ。
「だって、うるさいし」
「仕事だってのは判ってるんだろ?」
「それでもー! ボーナムのお爺ちゃんもやれお勉強お勉強ってうるさいのに、ザスティンまでうるさかったら息つまっちゃうもん! レンちゃんだって一緒だしー、少しくらい逃げてもいいじゃない!」
「いや、ダメだろ」
「でもザスティン、ドジだし。モモたちのイタズラもよく引っかかるし」
「それ関係ないじゃねーか」
こういうところは幼児っぽいなと、苦笑いと同時に少し微妙な気分だ。
やっぱり子供は苦手なんだよな……。イヴよりも幼いとなるとなおのこと。
根がやんちゃっぽい感じもするし、少しギドの面影みてーなものを性格から感じ取ってしまったのも、素直に可愛いと言ってやり辛いところではある。
というか、ルンちゃんとかモモたちとか知らない名前がポンポン出てくる中で知れっと
動揺をごまかす意味も含めて、俺は
「アイツが変なところでツイてねーってのは同意するけどな。ドジかどうかはともかく、目的以外のモンが視界に入らないっつー性格してるところあるし。おかげで変なミスも多い」
「ふーん。……リニアさんって仲良いの? ザスティンと」
「どうかねぇ? 知人っつーところじゃねーのか」
「そうなの? それにしては、うーん」
…………以前の完全に心がイっちまってた頃の完全な
本当、クリードに関してだけはこっちのセフィリアに感謝だ。じゃないとサヤと一緒に暮らすなんざ出来っこねーもん。
まあ、安心してラブコメ? できるっつーのも、この世界が本当にブラックキャットの世界じゃないっつーことなのかもしれないくて、微妙に気が抜ける話じゃあるんだが。
そのあと、クリードの仕事ぶり……、このララ姫の発明品とかで色々てんやわんやしたり、後始末を押し付けられたりして右往左往してるらしい姿を聞いて苦笑いが浮かぶ。
セフィリアの公務とかで、護衛をかねて同行することも最近は増えていたりと、なんだかんだ本当にキャラ崩壊を超えたキャラ崩壊をしているなあという苦笑いだが。
それと同時に、本当に性格的にまともになっているようで、安心できるっつーか。
総じて、
「でね! 今日も、ナノテクの会議に出てさ、ザスティンってば集合場所間違えてたから、あわや主催なのに遅れるところだったの! 前にママが
「猫は仕方ねえな……って、ハイヴ? 何だそれ」
「ハイヴはハイヴだよ。ナノマシンの…………、巣?」
あぁ? と、いまいち理解できない俺を見て、うーんとララ姫はうなった。
腕を組んで、ほんのり大きくなりかけの胸が強調されるポーズだ。
そして放たれたフレーズに、少し嫌な汗をかかされた。
「
否が応でも脳裏には、あの髪が妙に鮮やかに青い若作りしてる感じのオッサンの顔と、鼻詰まったみてーな高圧的な感じの声音が過る。
一応は、と多分ヘンな顔してうなずくと、ララ姫はやはり思案しながら、かみくだいて説明してくれた。
「昔、この宇宙って全部が超クロノ人さんたちのものだった、っていうのが
「オーパーツをっつーことか?」
「それもそうだけど、もし本当に超クロノ人さんたちが私たちの宇宙に昔暮らしてたんなら、ぜったいやってるって思ったことがあったの────────お病気の防止とか!」
「あぁ……?」
いや、俺が別に馬鹿だから怪訝な顔してる訳じゃねーんだが、それでも話に飛躍がある。
どうしても微妙な表情にならざるを得ない。
理解が追い付いてない俺を見て、ララ姫はやっぱり腕を組んでうんうんうなる。
頭が良いっつーのはわかるんだが、下手に年齢とその頭脳明晰さみてーなのがつりあってないせいで、ポンポン話題が飛んでついていくのが大変だった。
「リニアさん、不思議に思わない? この宇宙って、例えば
「何でいきなり死滅っつー話になってんだオイ……?」
「だから、お
こっちの学がないことを想定してか、例えばー、とララ姫は俺の顔を見ながら話を続ける。
「1つの星でもね? ずーっと外の国と接してない国とか? 民族とか? そういうところに貿易とかすーごいしてる国が入っていったりすると、接してない国って簡単に滅んじゃったりするらしいの」
「何でだよ」
「たとえ話じゃなくて本当の話なんだけど、あれあれ! 病原菌!
貿易したりしてる国って、その国でもすでに病原菌が流行したりして耐性がついてる人が生き残ってるけど、違う場合はそうじゃないでしょ?」
「それは、まあ、……なんとなくわかるような、わからねーような」
「だから、今の宇宙でもそれは起こるはずなんだけど、起こらないで、しかもみんなそのことにあんまり自覚してないってことは、それは
超クロノ人さんたちが仲介して、病原菌がばらまかれて、生き延びたのが今の宇宙の人たち!」
「嫌な話だなあ……」
でもきっとそれだけじゃない、とララ姫は言う。
彼らにとって、宇宙人の大半は価値を見出せなかったはずだから、と。
「生命エネルギーも精神エネルギーも全部扱えて、ナノテクなんて普通に使ってた人たちなんだもの、絶対それができない人は見下してるもん! 星系とか銀河の航海だって、壁画の書いてあるのを解釈すれば宇宙線は無視してたみたいだし、絶対零度並みの宇宙空間での磁場操作とかも絶対もっと効率良いし! 見下さないわけないもん!」
「やけに強く断言するなあ……」
「うん、パパもそう言ってるし! 『セフィもそうだが上下関係を作って支配したがるからよ。ま、俺様には関係ねーけどな!』って!
だからその人たちからしたら、みんな資源か奴隷なんだから、下手に絶滅されると困ると思うの。だから、それを管理するためにナノマシンを使ってたって思ったの!」
確かにギド公なら言いそうとかどうかでいえば言いそうだなという感想と、それはそうと話の展開がディストピアめいてきた。
「……あー、ナノテクって今の時代でもようやく一般に再現できるって感じになりつつあるってぐらいだと思うんだが、そんなハイテクなのを奴隷とかに使うか?」
「今はそうだけど、昔はそうじゃないもん!」
「もん! って」
「どっちにしろ、管理するためのナノマシンみたいなのがあると思ったから色々調べてもらってたの。そしたらちゃんと見つかったの────
そしてテンションを上げたララ姫は思わず! といった感じで立ち上がる。
頬を上気させてにんまりと微笑んでて、それはそれは楽しそうだ。
そのテンションの上がり方に、少しだけサヤを思い出して気圧される。
「今もちゃんと稼働してるなら、私たちが銀河をまたいで
「お、おーおー、とりあえず座って落ち着────」
「1つの銀河に最低1コくらいはあるかもしれないそれを見つけて制御できるようになったら、色々出来ると思うの! もっともっと病気だけじゃなくって────言葉の壁も完全に突破できるようになったら、もっともっとお友達ができると思うの!
翻訳機なしに一緒に暮らせるようになったら、もっとみんな仲良くなるんじゃないかなって、そう思うの! そしたらもっと、もっと楽しくなるんじゃないかなって!」
とにかく壮大なことを言ってるのはわかるんだが、壮大すぎて何言ってるかわからねー感じになり始めている。
要は、アレか? その超クロノ人のナノマシン使って何か星間国家の益になるようなことをしたいと。内容についちゃ子供が考えそうな話に聞こえなくもないが、実際この王女サマの発明やら何やらで色々と実用化されてるものがあるらしいっつーのをセフィリアから聞いているから、この話を簡単に笑い飛ばせねェ。
この辺り、考え方というか色々、セフィリアの責任の持ち方と少し違うな。
多分育った環境の問題だろうが……。戦時中の倫理観と平時の倫理観の違いかね? バルドルのやつなんか今でも何人どう殺したかとか、そういうのを武勇伝みたいに語る時があるし。
自分の優位性でマウントをとるんじゃなくって、もっと
ただ、どう考えても俺みたいなのに話すようなことじゃねーだろうというツッコミを入れたい。
せめてザスティンあたりに振ってやれっての。
「だってザスティン、全然話取り合ってくれないし! 話聞いても『ハイハイ』って感じでリニアさんみたいにちゃんと聞いてくれないし」
「……そこは少し、あっちにも言っといてやるよ」
ありがとー! と楽しそうに笑うこの本物のお姫様に、俺は俺で肩をすくめるほかなかった。
そしてちょうどそんなタイミングで、ララ姫は俺を見て「ほ?」とか「ぇ?」とか変な声を上げた。
どうしたと聞いてやれば、左の鎖骨と首のあたりを指さして。
「何か……、虫さん? ペット? 噛まれたの? 赤いの出来てるけど」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
「リニアさん?」
不思議そうにするお姫様に、どう考えても情操教育とか性教育上よろしくねぇ話だろうなと、俺はさすがにコメントを拒否した。
Q.噛み跡?
A.いえす噛み跡。トレインとらぶったレベルが段々とヤバめになってきてる関係で、サヤの方も「ご機嫌取りしたいなら……」と要求が段々エスカレートしている。