とラぶラックキャット 作:那覇ダイア
今回もまた文字長いんですが、キリが良い所まで突っ込みたかったんで、お願いします。
いやいや何考えてんだコイツふざけてんじゃねーぞ、と。
ほぼ今の肉体スペック一本だより、しかも1発ミスったら致命傷とかふざけんなッ!
イヴに対して怒鳴る話ではないが、こんな状況を仕組んだドクターは次会ったら一発以上はぶん殴る。
そう決心するくらいには、現在俺はギリギリで戦闘していた。
空飛ぶイヴは羽根を出現させるような
しちゃいないが、脚部のシルエットはどこかカンガルーのような……、いや、バッタか?
とにかく跳躍専門の形に変容し、両手は硬質の殻に覆われ指先一つ一つがカマキリの鎌をデカくしたみてーな趣味の悪い状態。
ブラックキャット原作終盤のナノスライサー(※要は超弩級の薄くてかたい刃)みてーなのはイヴ本人の自意識がないせいか、そこまできちんとした刃物ものは生成されちゃいない。
そもそもイヴの攻撃をハーディスで弾けている時点で、攻撃そのものは大味だ。
力任せの、獣のような攻撃。
問題は、
「────────!」
伸びたイヴの髪が至る所で円形のリングのように浮かんでたりその辺に散らばったりしてんだが、時折その輪の中に鈍い光が燈る。
その瞬間、イヴはその複数のうちのいずれかに
要するに、テレポーテーションみてーな能力だ。
原作のイヴってここまで滅茶苦茶やってたか……?
ナノスライサーがギリギリフィクションの範疇だとしても、こんな、まるで「空間を
これもやっぱり宇宙規模での話だから、能力だってスケールアップしてるっつーことかね。
俺の電撃とか、スヴェンの右目の
決して誰も彼も過小評価してたって訳じゃねーが、電気ビリビリびっくり人間レベルじゃこの先のパワーインフレに置いて行かれるかね?
まあ、
未だにそんなイヴ相手にかすり傷一つ負っていないし、これからも負うつもりはない。
これは前世というより、今世でのトレインとしての俺の自我。
地続きだからこそ、それなりにプライドがあった。
……ん、ちょっと原作トレインっぽいか?
意外とあれで、自分の銃の腕前とかには妙にプライドがあったみたいだし。
「ただ、ラチが明かねーな」
あの茶髪リンスがぼそっと話してたのが聞こえたが、要するにアレだろ?
イヴの中で、何かカプセルが解けたかして注入されたみてーになった薬品って、原作でトルネオとかその配下が打とうとして失敗してた注射のやつ。
やられたら完全な生物兵器になるとか言ってたか。
……その割には一回ミスって「
んー、だけどまあ。
「対処法が無い訳じゃないんだよな」
あのドクターを見て今のイヴを止める方法を思い出したんだが、いかんせん時間がねぇ。
それをみすみすさせてくれるような、そんな生易しい相手じゃない。
瞬間移動して、ざんばらりと斬られて終わりだ。
まあだから、どうしたものかと頭を悩ませていると、イヴのやつが口から煙みたいなのを吐き出しやがった。
タコとかの墨!? いや、正体は判らねーが、明らかに悪臭が……、オエッ。
「…………こっちがどうやってアイツの場所を割り出してるか、わかっちゃいねーだろうによくやる」
視界が黒一色で埋め尽くされ、なんなら一番強い感覚器官の鼻すら封じられた。
臭いに関しちゃ偶然なんだろうが、イヴにまとわりついてる血の臭いよりも強烈とかだいぶ異常だぞこれ。
仕方ないと、それでも唯一封じられてない聴覚に集中するために目を閉じる。
こつ、こつ、こつ。
足音と、風の揺れる音。
基本的には静かで、イヴの方も動的に動いてはいない。
多分だが、ハンターが獲物を狙ってる様な感じなんだろう。
そういう宇宙生物みてーなのがいるのか? 暴走してでも頭脳派みてーに動けるってことは、よっぽど
……いかに原作キャラ、なんなら
ここで殺しといた方が、本人のためにも良いのではないか────と。
「…………」
結論を、俺は決めかねていた。
そして、なんとなく俺の頭上に音の違和感を感じてハーディスを構え────。
「────背中だ、クロ!」
「────ッ!」
聴こえたオッサンの叫び声に、反射的にそちらにハーディスを構えて狙撃。
がきん、と、間近に迫っていたイヴの角にはじかれ、弾丸はあらぬ方向へ飛んで行った。
なるほど、頭上の違和感は囮か。
直に見た訳じゃねーが、瞬間移動は何も
その辺の石ころと言うか、建材の破片でも適当にワープさせたりして、こっちの注意を引くくらいはしても不思議じゃねぇ。
「────っ」
そしてこっちの銃撃で、イヴは顔をしかめていた。
頭から伸びているせいなのか、あの角を攻撃されるのはどうやらかなり痛いらしい。
その隙をついて
丁度そこには、腹を抑えて辛うじて立ち上がろうとしてるスヴェンの姿。
横に立ち並ぶように、俺もスヴェンもイヴがいる黒い煙の渦を見た。
「あんま無茶すんなって。死ぬぜ?」
「死なないさ! あの子を、遊園地に連れて行ってやるって約束したんだ」
それだけじゃないが、と苦笑いするスヴェンは、なんだかこっちへの警戒心がだいぶ薄い。
お前正気か? 俺、これでも
今の所任務達成率100%ぞ?
「そんな変な顔されてもな。
「あ……?」
「ま、それは置いといてだ。一時共闘といこうじゃないか、
「……何が?」
スヴェンは右の眼帯をなぞり、イヴのいる煙の方を睨んで口を開いた
続けられた話には、まー納得は出来る。
どうやらこの後、イヴが全エネルギーを攻撃に回すか何かして、俺も俺でそれを
で、そのまま周囲一帯すべてを薙ぎ払って、後には何も残らないと。
「いきなり何を言ってるかわからないと思うが、俺は────」
「
「そ、そうか……。呑み込みが早いっつーか、やっぱ雑っつーか…………」
何をもごもご言ってやがんだ。
話は早い方が良いだろ?
それに、俺としては本当にスヴェンの言ってることには納得してる。
宇宙規模で強化された
こう……、漫画的に?
現実と漫画をごちゃごちゃに考えてるとか、前世の経験のせいでこの世界の全てを漫画のようなものだと思い込んでるとか、そういう話じゃない。
いや、漫画がベースにある世界だってのは確信しちゃいるんだが、あくまでもこの世界はこの世界、物質世界。
だがそれはそうとして、そういう妙な
俺の全く思い出す気配のない前世的な何かは、たぶんそう判断してんだろう。
だからこそ、スヴェンの説明に違和感を感じない。
となると…………。
「あの姫っちのナノマシンを無効化する方を優先した方が良いな、こりゃ」
「出来るのか!?」
驚くスヴェンに首肯する。
首は縦に振るが、準備するのに時間がないと言う。
せめて十数秒、イヴを足止めさえできれば何とかなると言ったんだが……。
「足止め、か。……多分だが、俺のアタッシュケースにあるやつで、それくらいは何とかなるはずだ」
「そうなのか?」
「ああ。さっきお前とイヴが戦ってるのを観察してて、確信した。だが肝心のアレがなぁ……」
瓦礫に埋もれてるって話を聞いて、ふと、俺の脳裏にはサヤの声が過っていた。
────こういう時は、二人でやろう!
「…………」
「ど、どうした?」
こんな時までサヤのことが脳裏を過るかと少し自分に引いていると、スヴェンが困惑している。
何でもないと言って、スヴェンを庇うように、その前に俺は立った。
ハーディスをスクラッチし、弾丸を変更する────ゴム弾へ。
「……誰かを庇う様な戦い方なんざしたことねーから、何かあったら避ける・逃げる・離れる、他全部の判断はアンタに任せるぜ、オッサン」
「…………フッ。後、それからオッサンじゃない。
俺はスヴェン・ボルフィード──紳士だ!」
自己紹介それで良いのかよと内心苦笑いしつつ、俺は……やっぱりこの間、電撃ビリビリ大惨事だった時のサヤのことを思い出していた。
特に、アイツがハーディスを探すためにやったことを。
煙目掛けてゴム弾を放つ。
瞬間、イヴの髪が伸びてまた瞬間移動しようとしているのがわかる。
そんなものお構いなしに俺は
攻撃されてると判断したイヴは、転移を取りやめ盾を作り出す。
盾っつーより、ありゃバリアか?
……いや、髪が何かすんげぇ光って広がって、バリアっぽくなってるっつーか、こう。
その盾に弾かれて、地面にぶつかる弾丸。
だが、弾丸自体はそのまま跳弾し、周囲の他の瓦礫やら何やらに激突。
そういう風に、あえて意図的に周囲のありとあらゆるもの目掛けて狙撃。
スヴェンも、茶髪リンスも何やってんだって顔してるが、特に問題はない。
サヤの聴力は本人いわく「フツー」とのことだが、アイツに出来た芸当な以上は「普通じゃない」俺の聴力ならば────弾の反響音で、どこに何が埋もれてるか見当がつく。
「……見つけた」
「────────!」
いや丁度、イヴの足元の下の方かよ…………。スヴェンがイヴに話しかけて気を散らそうとしちゃいるが、そっちはそっちで雑にその辺の瓦礫とか投げられて、ギリギリ躱しきれてないし、それはそうと全く動く気配がない。
瓦礫自体はハーディスでぶん殴れば退かせそうだが、あの場から動かさないといけねーが…………。
……そういや、アレにはちょっと動揺してたな。
着地と同時にすぐさま弾丸を切り替えて、イヴに向けながら
ハーディスもSFチックになっているからこそ、残弾とかの概念がなくなっているからこその馬鹿みたいな速度での連射だ。
その結果の絵面もだいぶ馬鹿みてーだが。
『『『『『──────!』』』』』
「ねこ、さん……!?」
思った通りだ。
総勢十五匹の「黒猫弾」によって生成された猫共は、俺の思考を受けてイヴにジャンプして抱き着かんと「にゃーん!」とか甘えた鳴き声しながら飛び掛かる。
「わ、わわわ、わっ」
『『『『『──────!』』』』』
暴走状態だってのに目を白黒させたイヴは、寄って来る猫共から後退し、その場から10メートルくらい先にワープする。
が、この猫共は俺よりも素早い。一瞬で距離を詰められ、飛び掛かられ、抱きしめざるを得なかった。
足元にも数匹まとわりついて、喉を鳴らして懐いてる感じに
「…………かわいい、ねこさん」
本当に完全な殺戮兵器になってるってんなら、この一見可愛い黒猫だって問答無用でぶち殺して終わり。
だが……、イヴ、さっき黒猫弾相手に硬直して、攻撃する前に数秒時間を稼げたんだよな。
そして俺の予想は、上手く的中した。
自分に抱き着くようにまとわりつく猫共、甘えて喉ゴロゴロ言ってる猫共に、イヴは目を見開いて固まっている。
とはいえ動きを物理的に封じてる訳でもねーから、こっちが攻撃姿勢に移ればその瞬間にズタズタに引き裂くんだろうが。
とりあえず猫の視界を通して、イヴがまだ混乱してるっぽいのを確認しつつ。
俺は俺で、イヴがさっきまで居たところの瓦礫を雑にハーディスで
あー、あったあった。砂埃っつーかコンクリの粉みてーなのまみれになってるが、スヴェンが持ってきていた銀色のアタッシュケース。
そらよ、と投げ渡せば、スヴェンは「お前どうやって……!?」と驚いた表情だ。
そんなことより早くやれよと、そう言えば。
「よし……! 猫相手にああなってるイヴになら、多分効くはずだ!
いくぞイヴ!」
「────?」
そしてアタッシュケースが変形し、側面からえらく太い銃口が出てきたそれを向けるスヴェンと。
そんなスヴェン相手には、全く警戒している様子がないイヴ。
こっちが殺し屋だからとはいえ、対応に差がありすぎて泣けてくるねぇ。
いや、というより…………、
んでもって、狙撃されたその弾丸は…………。
「特殊弾シリーズ最新作……、名付けて“マシュマロ弾”。よーく噛んで食べるんだぞ、イヴ!」
「あま、い! あまい!」
「えぇ……?」
よくあるトリモチみてーな拘束用の弾丸みたいに見せかけた、なんか物凄い膨らんだマシュマロの塊だった。
頭からマシュマロを被る形になったイヴだったが、わけのわからない攻撃相手に動揺したのかちょっと口に入ったらしい。
それで、まー、テンション上げながら、黒猫弾で出た黒猫を一匹ぎゅーって抱きしめたままもきゅもきゅと口に放り込んで食べてる。
俺はともかく、茶髪リンスも「正気!?」って目でスヴェンのことを見ているが、一体何でわざわざマシュマロなのか……。
そしてイヴが色々とお子様を一分くらい堪能した後。
我に返って(?)俺の方めがけて駆けだした瞬間、勝負は決着した。
「────
「────、ッ!?」
俺の出した猫たちをわざわざ丁寧に下ろしてから向かって来るくらいの余裕っぷり(?)を見せつけてくれたイヴだが、お陰でこっちもしっかり射撃するための準備を終えることが出来た。
招雷弾は、あくまで「俺自身の電気を」直接相手に浴びせるための弾丸。
身体から雑に電気を放電して使う訳じゃ無く、弾丸にある程度の電気をチャージした状態で放つ必要がある。
……で、将来的にはともかく今の段階だと、俺自身まだ電気体質的なこれを使いこなしきれてない。
何せまだ、体質変化してから一日経っちゃいない。
原作トレインですら、安定するのには一日くらいは時間を要した。
で、この電撃の何が良いかと言えば。
「おい殺し屋クロ! 大丈夫なんだろうなイヴは!」
「強力な電撃は、
思ったより酷い攻撃方法だったのに驚いたらしいスヴェンが怒鳴ってくるが、これは特に問題がないだろうと確信しながら回答しておく。
なにせ、電撃でナノマシンを停止させ変身能力をマヒさせるのは、原作でドクターがイヴのことを拘束する際に使った方法だ。
ましてやあれよりはるかに強力な電気を発生させられる今の俺なら、調整くらいは訳ない。
というか……、ハーディスと殴り合えてる時点で人体の耐久性やら何やらが高すぎるから、俺の電撃でイヴ本体はダメージを受けないと判断していた。
結果として、今、イヴはその場に「ただの女の子の姿で」崩れ落ちた。
角も何もかも、きれいさっぱり消え失せてる。
変身能力の一時的な麻痺……、薬剤によって過剰に生産されたナノマシンの鎮静。
そして、おそらくだが。
「
「えっ?」
「? さっきあのドクターみたいなのが言ってただろ」
「いや、それは、操作するのは無いとか────」
「アレめちゃくちゃ嘘くせーし、そもそも
「え……?」
混乱するスヴェンだが、ま、これが俺の見解だ。
さて。このままイヴを殺すべきか、どうするべきか。
スヴェンが駆け寄ろうとするが、アタッシュケースを抱えながらその場に崩れ落ちる。
おいどうしたと、声をかけようとすれば────腹からスーツに染みる、鮮やかな、赤。
「嗚呼もう、だから死ぬって言ったじゃない……! 何でそんな簡単に命張ってるのよ、天然で生まれた命は一つしかないのにッ」
茶髪リンスが駆け寄って、スヴェンを寝かせてシャツを開く。
意識を失ったスヴェンの腹部には、切り裂かれた大きな傷と…………、それを覆う、気持ち悪いくらい真っ白な小さいカサブタみたいなのが、うろこみたいに大量に溢れていた。
そのうろこ同士の隙間から、鮮血がほとばしる。
治療用ナノマシンよ、と。茶髪リンスは言いながら、胸の谷間からおー出るわ出るわ注射器みてーなのの数々。四次元ポケットか何かか、その胸の谷間……?
「治療用って言っても、一時的に傷を塞いだりして、治療がすぐ出来ないときに一時的に抑えておくための道具。……予算が物凄くかかるからって、惑星じゃ本採用にならなかったシロモノだけど」
「何でそんなもの、アンタが持ってるんだ」
「ティア、あのイヴの
でもここまで傷が劣化してるとナノマシンが定着しないじゃない、と唸る茶髪リンス。
聞いた感じ、傷は塞ぐが絶対安静が必須、と。
アタッシュケースを取りにいくだけでもボロボロなあたり、よっぽどスヴェンが負った傷は深かったっつーことだな。
いや、マジで大丈夫か……?
茶髪リンスが次々に注射っぽいのを打ってるが、うろこみてーなのもどんどん増えていってんだが。
それでも、スヴェンから出る血が収まらない。
「考えなさい、考えなさいミカド・ヘイルズ・ウォーカー。道具は揃ってないけど、せめて私の宇宙船まで運ぶことが出来れば────」
「────私、が、やったんですか?」
そして俺も茶髪リンスも、聞こえた震える少女の声の方に向く。
自分の身体を抱きしめ、ふらふらとした足取りで……、イヴは目を見開き歩いて来た。
表情は青く、口の動きは小さく、身体は震え────見ただけでわかる絶望感。
「いや、嫌です、だって、そんなの、私、私────」
「ちょ、イヴ落ち着いて……! 今ティア起こすかr────」
「
そして涙を流し、イヴは絶叫して。
その頭部にはさっき暴走していた時の、角が二つ現れ。
イヴの全身から、熱と、光が迸り────。
これは拙いと
咄嗟にだが、茶髪リンスレットをまた抱えて、走る。
まだ治療がとか何だとか言ってるが、それどころじゃねぇ。
この直後、何が起きたか俺達は正確に理解できなかった。
足場が崩落した、と。当時はそう思わざるを得なかった。
実態は大きく違っていた。
後日ニュースで知ったことだが。
イヴの絶叫と、その光は────この研究衛星を
ともあれ、しばらく経ってから。
雑多に浮かぶ足場、と当時は思っていた
そのうち、辛うじてまだ建物が残っているところに茶髪リンスをいったん置いて、俺はイヴとスヴェンを探しに向かった。
光は既に落ち着いている。
つまり、イヴはもう泣き止んだか何かしたってことだ。
いや、正直意味わからなかったわ。何だあの惑星破壊兵器めいた一撃。
明らかにイヴの癇癪をトリガーとして発動してたのは間違いないが、これどう考えても原作参考にならねー案件だろ……。
ますますイヴのことを生かしておいて良いか、判断がつかなくなってくる。
全く…………、何だってこんな嫌な仕事ばっかりなんだろうなぁ俺も。
「早々、
前世らしきものを思い出してからの、俺の殺しの方針はそれだ。
まだ思い出してからはイヴの案件しか受けちゃいねーが、もう隠しようがないくらい気を抜くと頭の中はサヤで占領されてる。
流石に我ながら気持ち悪いっちゃ気持ち悪いが、そのせいで逆に殺し屋としての何かがかっちりハマっちまってる感じがしていた。
つまり……、あのイヴをどこかの悪どい研究機関なり武器商人なりが見つけて、手に入れてしまえば。この銀河中に何が引き起こされるか、と言う危険性の話だ。
イヴ単体ですら危険とかそんなスケールで語れないことをやらかしている以上、その時にサヤが被るだろう被害を無くすためには、どうするべきか。
殺し屋としての俺の思考は、それに脊髄反射でハーディスの引き金を引く。
未だに引いちゃいないのは、やっぱり将来のイヴを原作知識とはいえ、おぼろげながらに理解してるからだろう。
「……お、居た」
そうこう考え事をしているうちに、発見。
発見と言うか、イヴの足元に残っていた黒猫弾の猫ども数匹の視界と嗅覚を頼りに、こっちとの位置関係を逆算して辿り着いたって感じだ。
建物の一角だったそこは、ちょっとしたドーム状の何かに姿を変えていた。
ドームって言ったってデブリが集積した半球みてーな感じだが。
所々に金色の光がちらついていて、わざわざイヴがこの形に成型しているんだろうってのは想像がつく。
とりあえずそのうちのドームのところの隙間から、覗いてみれば。
イヴがスヴェンの腹をおさえて、こう、手を「ぴかーっ」って光らせて、何かやってた。
回復魔法か何かか……? いや、さっきの戦闘で魔法みてーなことはやってこなかったし、多分そういう素養がないタイプの人種がベースだと思うんだが、見た目はどう見ても回復魔法にしか見えない。
だってこう、スヴェンの腹の傷がもう8割方、消えかかってるし。
「真面目に考えりゃナノテクでどうのこうのって感じなんだろうが……、なんとなくゲームの中にダイヴしてた時のとか思い出すな」
他人の傷を治すなんて器用なこと出来たか疑問はあるが、今のイヴの頭には例の角が二本、立っている。
悪魔的シルエットが完全には消えていないイヴは、だが、さっきの暴走状態のような顔はしていなかった。
ただただ必死に、神にも祈るような。
父親の無事を祈るような、そんな…………ただの女の子の顔だ。
「………‥これで、だいじょうぶ。ティアのナノマシンが、おじさんの細胞が戻るまで、代理で、動いてくれる。
ありがとう、ティア……! 私、ずっと助けられてばっかりだね…………」
会いたいよ、と。
うつむき、足元に涙がこぼれる。
……なんとなく見てられなくて黒猫弾を一匹、女の子座りしてる膝の上に乗っけたが、全く反応すらしない。
そんなイヴの目の前に俺は降り立ち、ハーディスを構える。
イヴは俺を見上げて、ハーディスの銃口を見て。
「血の……においがします」
「…………」
「私が流させた、おじさんの、血のにおい」
「…………」
イヴの目からは、光が失われていた。
意志の光がない、絶望。
自分のせいで、自分を気にかけてくれた相手を殺しかけた、その事実。
それどころか俺が殺しに来るのも納得できるくらいの、この訳の分からない事態。
生きてはいるが、イヴの心は今にも死にかけていそうだった。
────多分だけど、殺し屋とか向いてないんだよ、きみ。
────それだけ。だから、私は私で私の接したいように君に接することに決めたって、それだけだよ?
「……もうやっちまったことは変らねーけど、いいんじゃねーか?」
「…………へ?」
俺はハーディスを懐に仕舞い。
しゃがんで、イヴの視線の高さに目を合わせて。
「だって今、このオッサン……、スヴェンを助けられたじゃねーか」
「……! ちがう、だって、そもそもおじさんを殺しかけたのは…………っ」
「それでも! それでも、ちゃんと生きてる。俺や、あの茶髪の姉ちゃんだけだったらどうしようもなかったスヴェンを、お前が! お前が、助けたんだ」
それは他でもないお前にしかできなかったんだぜ、と。
頭を撫でてやりながら、とにかく「気楽に見える様に」、笑ってやる。
どんな絶望の底にいても笑えなんて、無責任なことは言わないが。
「わたし……、わたし…………」
頭部の角が、ぱらぱらと崩れ落ちる。
イヴはしゃくりあげながら、俺を見て。
「わたし……、生きてて良いのかなあ…………?」
「決めるのは、お前自身だ。けど……、お前が死んだら、泣いちまう奴がいるんじゃねーのか」
そこのスヴェンも含めて、と。
そう言ってやると、イヴはうつむき。
スヴェンを起こさないように気遣ってるのか、声を押し殺して、泣いた。
【ステーション一角、マンションの屋上にて】
サヤ「たーまやー! ……って違う!? 花火とかじゃないっていうか、え、何、何起こってるの!? 絶対トレイン君関係してるやつじゃん! って、へ、へ、へっくしょぃ! …………うー、何? いきなりくしゃみとか。トレインくん大丈夫かなー、白猫ちゃん」
ネコ『────?』