魔法使いの生きる道   作:イシヤド

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2 洞穴の怪物

 

 ばしゃり、と水の球が地面に落ち、弾ける。

 

 僕達が検査で使った魔法だ。手のひらから出てくる水の球を見て、僕達が魔法を使えるようになったことを改めて実感した。

 

「イメージで色々できるってことはさ、土とかも作れるだろ!」

 

 エウレカさんが言うには、僕達の頭の中には魔法を創るための領域、創魔領域というものがあるらしく、そこで魔法のイメージをすることによって、魔法を使うことができるらしい。それなら、土のイメージができれば土も作れるはずだ。

 

 僕達は左手で土をすくい、そのイメージをしながら魔力を腕へと流していく。すると手のひらから土の塊が出てきた。魔法が放たれる速度は、魔力に込める力によって変わるらしい。今回は土のイメージに集中していたから、速度が遅くなってすぐそこに落ちた。

 

 それから魔法で色んなことを試した。作ってみたのは木と草とレドボンの実と人だ。木は中を再現するのが上手くできなかった。草はそっくりに作れた。レドボンの実は、最初は味が薄かったけど、意識したら味も再現できた。人は作ったけど動き出さなかった。

 

 そして魔法を使う中で、僕達が魔法に当たると、なぜか魔法が消えてしまうことに気づいた。例えば水の魔法だと、地面や草、服は濡れるのに、僕達は濡れない。いくら二人で考えても理由が分からなかったので、明日エウレカさんに聞くことにした。

 

 次は魔法を使ってメガフィーと勝負することになった。まずは水の球を五回飛ばして、一番遠くまで飛ばせた方が勝ちの勝負だ。地面に足で線を引く。

 

 まずはメガフィーからだ。

 

「ふんっ!」

 

 メガフィーが力むと、その手のひらから水の球が生み出され、前方へ飛んでいく。かなり遠くまで飛んだ。

 

「よしっ!めちゃくちゃ遠くまで飛んだぜ。」

 

 僕はメガフィーの魔法が落ちたところに線を引く。

 

「ふっ!」

 

 僕も負けじと水の球を放つ。それはメガフィーのより少し遠くへ飛んでいった。それを見てメガフィーが悔しがる。

 

「もっと遠くまで飛ばしてやる!ふんぬぬぬぬ……水弩砲(すいどほう)!」

 

 水弩砲は、神話の英雄カリエ·ブレイブが赤竜グレズを倒した時の魔法だ。神話の絵本では、ブレイブに勝てないと悟った赤竜グレズは、街に向けて炎の魔法、剛炎撃(ごうえんげき)を放つが、ブレイブの放った水弩砲に剛炎撃ごと呑み込まれ倒される。

 

水弩砲はメガフィーが好きな技の一つだから、真似してみたくなったのだろう。そうしてメガフィーが放った水の球は僕のより少し遠くへ飛んでいく。それを見て僕は更に気合を込めて水の球を放つ。

 

 そんなことを繰り返して、最終的には僕の方が遠くへ飛ばすことができた。少しの差だけど、かけっこでは僕が負けることが多かったから、けっこう嬉しかった。

 

「よし、勝った!」

 

「くっそー、負けた!」

 

 メガフィーは悔しがったが、すぐに立ち直る。

 

「次は土の魔法で自分の像を造ろうぜ。上手かったほうが勝ちだ!今度は負けないぜ。」

 

「それ面白そうだね。」

 

「だろ?後、造り終わるまで相手のを見るのは禁止だぜ。」

 

「わかった。」

 

 僕達は土の魔法で壁を造り、相手の方を見えないようにしてから自分の像を造り始めた。

 

 まずは足から造っていく。最初は自分の身体を見て、なんとなくで像を造っていたけど、それだと形が歪んでしまった。どうすれば歪まないようにできるか考えていると、良い方法を思いついた。

 

(魔力に感覚があるから、身体の隅々に流せば僕の正確な形がわかるんじゃないか?)

 

 早速やってみると、最初は上手く感覚をつかめなかったが、魔力を体の一部に集中させると、その正確な形がわかった。それをもとにして像を造り直していく。

 

 そして完成した像は、形が僕そっくりになっていた。満足したので、メガフィーに完成したことを伝えると、メガフィーもそのすぐ後に言ってきた。

 

「終わったよ。」

 

「こっちも丁度終わったぜ。」

 

 どうやら、ほとんど同じタイミングで完成したらしい。壁を崩して、二人でじっくりと両方の像を見る。

 

「うわ、これは負けたなぁー!」

 

「じゃあ僕の二連勝か。」

 

「ロアのと比べると、髪と指が変になってんなぁ。これでも直したつもりだったんだけど。明日は勝つからな!」

 

 メガフィーが造った像は、髪が太くなっていたり、指が変に曲がっていたりした。それ以外は特に変なところがなかったから、勝負を決めたのはそこだろう。

 

 僕がそう結論づけてメガフィーの方を向くと、メガフィーが目を細めて何かを見つめていた。

 

「どうしたの?」

 

 僕がそう聞くと、メガフィーが見ていた方を指差して言った。

 

「いや、あそこにけっこうでかい洞穴があるなって思ってさ。」

 

 メガフィーが指を差した先を見てみると、ヒタイラ平原の奥、デッカ山との境目辺りに洞穴があった。木で見えづらくなっていて、言われないと気がつかなかっただろう。

 

「今まであんな洞穴なかったと思うんだよな。なあロア、冒険の匂いがしねぇか?」

 

 メガフィーは、冒険する絵本が好きだ。いつも冒険したいと言っているが、この辺りで冒険できそうなところはないし、遠くに行くわけにもいかないから、冒険をしたことがないんだろう。だから珍しいことがあると、すぐ首を突っ込もうとする。

 

「いや、もうレドボンの実を採らないと。少なかったら怒られちゃうよ。」

 

 僕はメガフィーを説得するためにそう言うが、納得していなさそうだ。

 

「ちょっと怒られるぐらい良いだろ。俺、明日まで待てねぇよ。なあ、良いだろ?なあなあ。」

 

 そこで僕は良い案を思いつく。

 

「じゃあメガフィーだけで行ってきてよ。僕がメガフィーの分も集めとくからさ。」

 

「嫌だね。二人じゃないと駄目だ!それにロアだけに集めさせるって、そんなの英雄じゃねぇ。冒険して、しっかり怒られるのが英雄だ!」

 

 しかしそれでも説得できなかった。メガフィーは頑固なところがあるから、一度こうなると諦めるしかない。

 

「はあ、わかったよ。ついていくよ。」

 

「よっしゃ、じゃあメガロフィア探険隊、出発!」

 

「その名前、いつ考えたの?」

 

「へへ、今考えた。気を取り直して、しゅっぱあーつ!ほらロアも。」

 

「しゅっぱぁーつ。」

 

 そして僕達はその洞穴へと歩き出した。

 

 

 

「やっぱでっけぇな。」

 

 メガフィーが言う通り、その洞穴はかなりでかかった。遠くから見たときは、そこそこ大きいとしか思っていなかったが、近くで見てみると、しっかりとその大きさがわかった。その入り口は、恐らく直径三メートルはあるだろう。

 

「大きい方が冒険って感じがするから良かったぜ。」

 

「でも中真っ暗だけどどうするの。」

 

 僕がそう聞くと、メガフィーは自信満々に答えた。

 

「そりゃ、火の魔法を使うんだよ。」

 

「でも危なくない?」

 

「水で濡れないんだから火でも燃えねぇだろ。だから大丈夫だって。」

 

 メガフィーはそう言って腕を伸ばし、手のひらから火を出した。

 

「うわ熱っ!」

 

 するとメガフィーは急いで火を消した。

 

「大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だぜ。でも変な感じだった。火を出してるところは熱くなかったんだけど、その周りは熱かった。」

 

「やっぱ危ないんだよ、もうやめとこう。」

 

「いや、もう大丈夫だ。」

 

 メガフィーはそう言うと、今度は手のひらから離れた位置に火が出現した。

 

「ほら、これなら大丈夫だろ?行こうぜ。」

 

「まあ、それなら確かに大丈夫か。」

 

 そして僕達は洞穴の中を進んでいく。洞穴の中はやはり暗く、火があっても先はほとんど見えない。そこそこ歩いても、行き止まりの気配はない。

 

「この洞穴、かなり奥までありそうだ。もしかしたら宝とかもあるんじゃねぇか?」

 

「宝を集めるような何かは居なさそうだけど……。」

 

「わかんねぇぜ?ほら、魔物とかがこっそり宝を集めてるかもしれないじゃねぇか。」

 

「この辺にいる魔物なんてビーズンくらいでしょ。」

 

 僕がそう言った瞬間、何かの唸り声のようなものが聞こえた。今年行った狩りの見学で、今のと似たような声を聞いたことがある。

 

「何だ?」

 

「僕達が入ってきたところから聞こえたね。」

 

 僕もメガフィーも、危険を感じて小声になる。この辺に危険な動物なんているはずがないと思いながらも、胸騒ぎが収まらない。メガフィーは、こんな洞穴はなかったと思うと言っていたし、この辺りで何かの異変が起きているのではないかという疑念が芽生えたのだ。

 

 もしそうだとして、どうするべきなのか悩む。入り口から声が聞こえてきたということは、戻ると声の主と対面することになる。あの声の雰囲気からして、警戒していそうだから出ていく可能性は低いだろう。となると選択肢は一つしかない。

 

「とりあえず奥に進もう。」

 

「ああ、わかったぜ。」

 

 

 

 結構な間奥へと進んでいるが、あれから唸り声は聞こえていない。聞き間違いだったのかもしれないと思い、もう一回何か聞こえないかと壁に耳を当ててみる。

 

「何か聞こえるか?」

 

「んー、何も聞こえない。メガフィーの方が耳良かったよね。メガフィーもやってみてよ。」

 

「ああ、わかった。」

 

 そう言ってメガフィーがこっちを向いて壁に耳を当てようとしたと思った瞬間、火が僕の後ろに向かって放たれた。

 

「えっ。」

 

 僕が驚いて後ろを向くと、獣の姿が照らされていた。黒い体毛に身を包まれ、爪が発達していて、四足歩行にもかかわらず、高さは1.5メートルはある熊のような見た目をした獣だ。

 

「グルルァァァ!」

 

「「!!」」

 

 僕もメガフィーも、驚きのあまり声が出なかった。恐らくこいつは、音を出さずに近づいて、僕達を殺そうとしていたのだろう。しかし、獣はこちらの様子を伺っていて、まだ攻撃する様子はない。殺すのに失敗したことで出鼻を挫かれたからだろう。

 

(やばい、ヤバイヤバイヤバイ。どうすればいい、どうすればいい、どうすれば……。)

 

 僕は生まれて初めて、死の恐怖を体感した。獣の魔物を魔獣と言うが、ビーズンなどとは比べ物にならない。恐怖で考えがまとまらず、身体の震えが止まらなくなる。

 

 それを見て殺せると判断したのか、それとも我慢の限界が来たのか、獣が襲いかかってきた。すると、火が獣へと放たれた。獣は火を警戒したのか、飛び退った。振り返ると、メガフィーが手のひらを獣へと向けていた。

 

 それを見て、僕も土や木を放つが、獣に当たると消えてしまう。頼みの綱だった魔法が、役に立たない。

 

「ロア、逃げろ!俺はコイツを足止めする。」

 

「いや、でも……。」

 

 僕は逃げたくてたまらなかった。だからメガフィーのその言葉はありがたかった。しかし、それはメガフィーを見捨てて逃げるということだ。僕の心の中で、メガフィーを置いて逃げることへの罪悪感と、死の恐怖から逃れられることへの安心感がせめぎ合う。

 

「俺がここへ行こうって言ったんだ。それでこんなことになってる。なら俺が残らないと駄目だ。それに、俺の方が足速いだろ?少ししたら俺も逃げてやるさ。心配すんな、俺は英雄になるんだ!こんな所で死なねぇよ。」

 

 そう言いながらも、メガフィーの足は震えていた。

 

(なんで立ち向かえるんだよ……。)

 

 僕は獣を横切って逃げ出した。その時、獣が爪で僕の腹を引っ掻いた。血が出てきたが、そんなことは気にせずにただ走る。そんな僕を獣は追いかけようとするが、それをメガフィーによって放たれた火が止める。

 

「おい、お前の相手は俺だろ。」

 

 僕はひたすら逃げる。逃げて、逃げて、逃げて……気づくと洞穴を抜け出していた。僕は村へ走りながら考える。

 

(どうすれば、どうすれば、どうすればいい。……そうだ、エウレカさんなら。早く、速く!)

 

 

 

 走り続けて、やっとエウレカさんがいるテントに着いた。

 

「エウレカさん!」

 

 僕が大声を出しながらテントの中へ入ると、エウレカさんが居た。

 

「どうかしましたか?」

 

「えっと、メガフィーが危なくて、僕達魔獣に襲われて、僕逃げて……それで……」

 

 焦って言葉がうまくまとまらないが、何とか伝わったようで、エウレカさんの顔が険しくなった。

 

「なっ……、メガフィー君は今どこに!」

 

「あっちの……えっと、あの平原の奥の山があって、そこの間らへんの、洞穴です。」

 

「なるほど、念のためロア君も来てください。」

 

「は、はい。」

 

 僕が答えると、エウレカさんは僕を抱えて飛んだ。まったく揺れないし、上向きに抱えられたので怖くはない。それでも身体は震えていた。

 

 

 

 どうやらすぐ洞穴近くに着いたようで、エウレカさんが浮かびながら辺りを探し始める。

 

「ありました。この洞穴のことですね?」

 

「そうです。」

 

「ロア君は後ろから何か来ないか見ててください。では、行きますよ。」

 

 エウレカさんが僕を抱きかかえると、突然光が現れる。恐らくエウレカさんの魔法だろう。エウレカさんは浮いたまま、かなりの速さで洞穴を進む。少しして、妙な音がしはじめる。更に少ししてエウレカさんが止まった。

 

「メガフィー君……。」

 

 僕はエウレカさんの言葉を聞いて、浮かんでしまった考えを否定したくて振り返ってしまった。獣が食らっているものを見てしまった。

 

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