魔法使いの生きる道   作:イシヤド

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3 エウレカの宣誓

 

「うぉえっ……。」

 

 まずいと思いつつも、心のどこかで楽観していた。あのメガフィーなら生きているだろうと。しかし目の前の光景は、現実を突きつけてくる。言葉にできない感情がこみあげてきて、吐き気が止まらない。

 

 しばらくして、誰かの手が僕の背中をさすっているのを感じた。少し落ち着いて周りを見ると、獣とメガフィーの死体が凍りついていた。

 

「うっ……。」

 

 それを見てまた吐き気がしたが、何とか耐えた。

 

「すみません、ロア君。君にこんな光景を見せてしまった。すぐに君の目を塞ぐべきでした。それに、私がもっとしっかりと危険がないかを確認していれば、こんなことにはならなかった。」

 

「いや、そんな、エウレカさんのせいじゃ、ないですよ。」

 

「ありがとうございます、ロア君。お腹の怪我は治しておきましたが、違和感はありますか。」

 

 そう言われて腹を見てみると、いつの間にか獣につけられた傷が無くなっていた。治されたことに気づかないほど自然だったのか、あるいは僕が動揺していたのか。

 

「ないです。ありがとうございます。」

 

「どういたしまして。ではメガフィー君の遺体は、村まで運んで火葬しようと思います。飛んでいくのでこっちに来てください。」

 

「わかりました……。」

 

 エウレカさんは、僕を抱えて飛ぶ。揺れなかったし、下も見えなかったけど少し怖かった。

 

 

 

 村に着くと、大人達が村の入り口に集まっていた。恐らく、急いでエウレカさんの元へ行く僕の姿を見ていた人がいて、騒ぎになったのだろう。

 

「おお、エウレカさん、何かあった……。」

 

 村長のビレ爺が話しかけてきたが、エウレカさんが抱えているものを見た瞬間、驚愕した。

 

「そ、それは……。」

 

「ロア君から、魔獣に襲われたと聞いてすぐに向かいましたが、間に合いませんでした。すみません。」

 

 騒ぎはさらに大きくなり、今村にいるほとんどの人が集まってきた。

 

「嘘だろ……。」

 

「メガちゃん……。」

 

 大勢の大人が悲しむ中、一人の大人が叫んだ。

 

「アンタが殺したんじゃないのか!アンタが来た途端にこんなことが起こるなんて、どう考えても怪しいじゃないか!」

 

「確かに……。」

 

「そうだ、お前が厄を運んできたんじゃないのか!」

 

 それを聞いて次々と大人達が声を上げる。悲しみだったものが怒りへと変わっていく。それを見て、エウレカさんは前に出て、胸を右手で思い切り叩いて大声を出した。

 

「皆さんの言う通り、私はとても怪しいでしょう!私を疑うのも無理はありません。なので私は魔神イェヌラ様に誓います!私エウレカは、メガフィー君を殺してなどいないと!」

 

 大人達の表情が驚愕に染まる。それもそのはず、こういった公共の場で神に宣誓をすることは、もし宣誓の内容が真実と違えば、自分に何をしてもいいということを意味するからだ。

 

 それによって大人達は段々と落ち着きを取り戻していく。そんな中、ビレ爺が前に出てきた。

 

「すまなかった。儂もエウレカさんのことを疑ってしまった。今、貴方の子供たちへの思いが伝わりました。本当にすまなかった。」

 

 ビレ爺はそう言って、深々と頭を下げた。それを見た他の大人達も、謝罪を口にしながら深々と頭を下げた。

 

「気にしないでください。先程も言いましたが、私が怪しかったのは事実ですし。それよりも、メガフィー君のご両親はどちらに。」

 

 エウレカさんがそう言うと、メガフィーの父親が手を挙げた。

 

「私が、メガフィーの父です。シルフィー、妻は……家に居ると思います……。」

 

 メガフィーの父、メガハさんは地面に膝をついており、その目からは大粒の涙をこぼしていた。

 

「家はどちらに?」

 

「あそこの……赤い屋根の家です。」

 

「ありがとうございます。メガフィー君の遺体は、あなたが預かってくれませんか。」

 

 エウレカさんが、メガハさんに凍りついた遺体を渡した。遺体を受け取ったメガハさんは、メガフィーの遺体を包み込むように優しく抱きしめた。

 

「メガフィー……。」

 

 エウレカさんはそれを見た後、赤い屋根の家へ向かおうとする。それを見て、僕も行かなければいけない気がした。

 

「あの、僕も行きます。」

 

「わかりました。メガフィー君のお母さんにとっても、君が居た方が良いでしょうから助かります。」

 

 僕達は赤い屋根の家に向かって歩いた。ほんの少しの距離が、やけに長く感じた。家に着き、エウレカさんがドアをノックする。

 

「は、はい、何ですか。」

 

 少しして、シルフィーさんがドアを開けた。声が震えていて、少しぎこちない様子だ。

 

「私はエウレカと言います。メガフィー君とロア君の魔法使い適性検査を担当させていただきました。メガフィー君のお母さん、あなたに伝えなければいけないことがあります。」

 

「!そ、それは良いこと、ですよね?」

 

 シルフィーさんは、恐る恐るといった様子で確認する。

 

「いいえ、悪いことです。」

 

「わ、悪いことって、ち、違いますよね?メガフィーは死んでないですよね!?」

 

 シルフィーさんがそのことを知っているのは、エウレカさん達の大声が、ここまで届いてしまったからだろう。

 

「メガフィー君は、亡くなりました。」

 

 それを聞いた瞬間、シルフィーさんの様子が一変する。

 

「嘘よ……。そんなの嘘に決まってる!」

 

 そう言ってシルフィーさんは家から飛び出した。僕達はそれを追いかける。

 

 

 

 シルフィーさんは、村の入り口で立ち止まった。シルフィーさんは信じられないものを見るような目で、メガハさんが抱えているものを見た。

 

「それ、は……。」

 

「メガフィーの、遺体だってさ……。俺は、守れなかった……。」

 

「なんで……メガフィーは。」

 

 シルフィーさんの目から涙がこぼれる。そこでエウレカさんが前に出た。

 

「メガフィー君は、アナホリグマという魔獣の巣穴の中で死んでいました。アナホリグマに食われていて、私が着いた頃には既に死んでいました。」

 

「何で……魔獣が。」

 

「アナホリグマは、山の向こう側から来たのでしょう。山と平原の境目に巣穴の入り口があったのですが、その巣穴が山の向こう側と繋がっているのだと思われます。」

 

「そう、ですか。」

 

「アナホリグマは慎重で狡猾、そして獰猛です。もし、メガフィー君達が巣穴を発見していなかったら、アナホリグマは、私が居なくなったときにこの村を襲っていたはずです。そうなれば、この村は滅んでいたかもしれません。」

 

 その言葉を聞いて、シルフィーさんの顔が怒りに染まっていく。

 

「だから、なんですか!?メガフィーが死んで良かったとでも言うつもりですか!?ふざけないで!」

 

「いえ、私が言いたかったのは、メガフィー君はこの村にとって、立派な英雄だということですよ。」

 

「え、あ……」

 

 それを聞いた途端、シルフィーさんの顔から怒りが消え、目から涙が溢れ出す。

 

「すみません、変な勘違いして……。メガフィーは……いつも英雄になるって、言っていたんです。みんなを守るって、言ってたんです。木の棒を振り回して、怪人を倒すごっこ遊びなんかもしてました。あの子は本当に良い子で、家事を沢山手伝ってくれたし、何より笑顔を沢山見せてくれたんです。あの子の笑顔を見る度、私も幸せな気持ちになれた。なんで……死んじゃったの……。」

 

 聞き取れたのはここまでだった。それからも、言葉にならない悲痛な叫びが聞こえてくる。それを聞いて、僕が逃げてしまったあの瞬間を思い出す。

 

(もしかしたら、二人で生きて帰れたんじゃないか。例えば火で交互に注意を引きつけていけば、エウレカさんの元に辿り着けたんじゃないか?火をもっと明るくして見えなくさせたり、火の周りの熱で鼻を焼いたりすれば逃げ切れたんじゃないか?

 

効果があるかはわからなくても、何か策を考えて試すことはできたはずだ。それを僕は、考えを放棄して、自分だけ逃げるという楽な方法を選んだんだ。)

 

 その時、アナホリグマがメガフィーを食っている光景が浮かんできた。

 

「うっ……。」

 

 また、吐きそうになった。見た光景とは違って、死んでいるはずのメガフィーの頭がこちらを向き、「お前のせいだ」と言っているように感じた。

 

 すると、エウレカさんが心配そうな顔で話しかけてきた。

 

「ロア君、大丈夫ですか。すみません、思い出させてしまいましたね。ロア君はもう家に帰って休んだ方が良いでしょう。」

 

「わかり……ました。」

 

 僕がそう返事をすると、エウレカさんは僕の両肩に手を置いて言った。

 

「ロア君、君の判断は間違っていなかった。あれは、今の君たちの手には負えないものです。」

 

「ありがとう……ございます。」

 

「メガフィー君の葬儀は、明日行われるそうです。今日はゆっくり休んでください。では、また明日。」

 

「はい、また……明日。」

 

 葬儀には一度だけ参列したことがある。村で一番長生きしていた人の葬儀だ。当時の僕は四歳で、葬儀が何なのかよく分からなかった。でも今は違う。メガフィーが死んでしまったということを痛いほど理解している。

 

 

 

 家に着くと、母さんは椅子に座って寝ていた。それなら、さっきの騒ぎも聞いていないだろう。父さんは、狩りに行ってまだ帰ってきていない。家が静かだ。一人で居る時間が欲しかったので、安心した。

 

 自分の部屋に入ると、ベッドに倒れ込む。今年の誕生日、今日で十歳になるからと言われ、与えられた部屋だ。

 

 何も考える気が起きない。何分かボーッとし続けていたら、いつの間にか目を閉じていた。

 

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