梨花「誰だお前」   作:ゆっかもん

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10.

 猫耳首輪スク水メイド弟系男子、前原圭一。渋滞した属性のオンパレードが誕生する為に多大な犠牲が払われた事をここに記す。

 メイド口調の体操服レナ、妹口調の沙都子、スク水魅音、猫耳梨花。その生贄を捧げ、それは誕生したのだった。

 

 〇

 

「驕る平家は久しからず。折角スタートは良かったのに、こんな終わり方をするなんてな」

「だとしてもおかしいだろありゃあ…。かぁいいモードだからって配られる手札まで左右されるのかよ…」

「レナのかぁいいモードは理屈じゃないんだよ、圭ちゃん。おじさん達の人智を超えた力があそこにはあるんだよ…」

 

 猫耳をつけたまま肩を落として歩く圭一を慰めるように彼の肩にそれぞれ手をかけた二人は、ニヤリと悪い笑みを浮かべていた。

 魅音の罰ゲームを皮切りに始まった部活は、最初こそ圭一の圧勝という形で雪以外の面々が順番に罰ゲームを食らって行った。のだが、最早件の言葉を理解することを一旦諦めた梨花の最終手段、お持ち帰りを条件として発動させたレナのかぁいいモードによって、圭一の天下は三日ともたず終了した。

 これはかの明智光秀が取った天下よりも、更に短い数瞬の間に過ぎ去ってしまった儚い夢であった。

 彼が引いた罰ゲームは「全て」。カレーから始まり、全てのコスプレ要素をその一身に引き受けた彼の眼には涙が浮かんでいたらしい。

 

「梨花ちゃんかぁいいよぉ…」

「一番辛いのは古手かもしれないけどね…」

 

 三人が横並びに歩く後ろでは、約束通り梨花がレナにお持ち帰りされる羽目になっており。沙都子に入れられる茶々に何かを言い返す気力すら無いようであった。

 

「てかよぉ、おまえだけ罰ゲーム全回避してるしよぉ…」

「最初は兎も角、後は普通に駆け引きしてただけだよ。一位を取れないならビリにならないように手札の使い方を考えるだけだって。そこさえ間違えなければ二着は安定するよ」

「まぁた難しいこと言ってぇ。お姉ちゃんはそんな子に育てた覚えはありません!」

「誰が君に育てられたんだっての。一日に二回も罰ゲームを受けるような姉が育てたらこうなるわけ無いだろ。ったく、園崎のスク水姿を見せられるなんて思ってもなかったよ…」

 

 雪の言葉に、脳裏を過ったあの魅音のスク水姿を思い出し、圭一の鼻の下は僅かに伸びた。

 段々と他称朴念仁となりつつあるとはいえ、思春期真っ只中の圭一にとって、中学三年生を遥かに凌駕した魅音の身体はとてつもないご褒美だったことだろう。もし、理性や法律が存在していなかったら飛びかかって嗜んでいてもおかしくは無い程度には豪華なもので。

 しかし、圭一が鼻の下を伸ばしているのに対し、雪はどことなく嫌悪したような表情で斜め下を見つめていた。

 

「前原、君のスク水のことも言っているからね。僕にはどちらも目の毒だよ」

 

 深い溜息を零し、誰が十数年姉として過ごしてきた人間のスクール水着に喜ぶんだ、と肩を竦めた雪を、圭一は理解することが出来なかった。

 もしや、雪はソッチの気があるのだろうか。はたまた沙都子や梨花のような年下が好みなのか。圭一に答えを導き出すことなど出来るわけもなく。

 

「と、言うか。どうして僕以外が書いた罰ゲームはコスプレばかりだったんだよ!?」

「折角用意したんだから着ないともったいないじゃん…?」

「じゃん?、じゃないでしょうが…。君は自分が年頃の女だって理解した方がいい…。自分がどう見られているのか、も加えてね!」

 

 もう一度深い溜息を吐き。絆創膏の上から首を軽く擦った雪は、圭一の顔へと視線を移す。

 

「朴念仁前原もだよ」

「なんだよそのひでぇ呼び方は!?」

「刺される前に身の振り方を考えた方がいいよ?」

「だから誰に刺されんだよ!?」

「そうだなぁ…。片思い中の妹の仮装をした姉、とかかなぁ?」

「何だそのピンポイントすぎる訳分からん条件は……」

「後は親しくなった年下にバットで頭をぶん殴られるとか…」

「もっと分からんわ!!」

 

 あからさまな冗談を呟く雪に、圭一は呆れを孕んだ苦笑いを浮かべるしかなかった。さも真面目なふりをしている彼なのだが、意外と普段からこんな調子で、結構な頻度であからさまな冗談を真剣な表情で呟くのだ。当然そんなことを知る由もなく転校したて、それこそ先週頭ぐらいまでの圭一はかなり苦汁を飲まされていた。

 付き合いの長い魅音や沙都子といった面々はこの雪の言動に慣れているらしく、圭一の様に一言一句拾い上げることもなく、またやってるよと言わんばかりの反応で終わるのだった。

 

(……意味が分からないわね)

 

 ───梨花以外は。

 レナにいいように抱えられながら聞き耳を立てていた彼女は、悟史の現状や今の会話に、ただただ理解が追い付いていなかった。

 雪が口にしたあの言葉は、別のカケラで圭一に訪れた惨劇の一つだ。園崎詩音が雛見沢症候群の末期症状にきたし、お魎や公由、そして梨花自身と対峙した後に沙都子を手にかけ───。

 

「そういえば雪、魅音に何されたんだ?」

 

 ふと、何かの違和感に気が付きかけたその瞬間。再び圭一が雪に向かって口を開いた。

 

「……何だったかなぁ。おはぎの中にタバスコを入れられたんだったか、スタンガンを当てられたんだったか」

「ちょっと!?そんなことしてないでしょ!?」

「流石にやりすぎだぜ魅音……」

「圭ちゃん!?」

 

 珍しく本気で慌てた様子を見せる魅音に、雪と圭一はお互いの顔を確認しニヤリと笑みを浮かべた。

 

「はははははっ!冗談に決まってるだろ!何を本気にしてるんだ園崎は!」

「まさか魅音の天敵が雪だったなんてな。困ったら次から頼らせてもらうぜ!」

「おいおい…。タダで働かせようなんて思ってないだろうね…?」

「か、金とんのかよ!?」

「一回に付きエンジェルモートのパフェ一個だな。園崎の相手なんてそれぐらいないと釣り合いが取れないって」

「なんかおじさん置いてけぼりなんですけど…!」

 

 男二人で盛り上がる圭一たちの様子に、むすっとした表情で。しかし何処か嬉しそうな視線で彼等を眺める魅音はわざとらしく口を尖らせながら圭一の脇腹をつつく。

 悟史が体調を崩し、入院して凡そ一年とそこらか。漸く雛見沢に訪れてくれた同性かつ年が近く、そして村の外から来たが故に()()の姓に偏見を抱かない圭一が雪と意気投合してくれたことに心の底から感謝しているのだろう。

 

「さて、と。僕はそろそろお暇するよ」

「あれ。早くねえか?」

「母さんから注意されたからね。痕が残る前にカントクの所に行って薬を貰ってこようと思ってさ」

「カントク……?」

「入江診療所の入江先生の事だよ、圭ちゃん。野球チームの監督もやってるから、カントク。わざわざ入江さんとか先生って呼ぶよりいい感じでしょ?」

「野球チームの監督、か、成程な。んじゃあ、また明日な」

 

 ああ、と一言だけ返した雪はひらひらと右手を振りながら一向とは別方向に向かって歩き出し。レナに抱えられる梨花に睨まれた羽入もまた、彼を追いかける羽目となってしまい。沙都子を診療所に連れて行かなければならないのだから、とレナを説得すればいいだろう、とは羽入の口から出ることはなく。そして何かの違和感を抱き続けている梨花はそんな視線に気が付くはずもなく。

 因みに、猫耳を付けたまま帰宅した圭一を発見した彼の父は、彼の肩を力強くつかみ、アトリエへと強制連行するのだった。

 

 〇

 

 ───ところで。

 

 圭一達と別れ、入江診療所に向かっていると思われる最中。周囲をきょろきょろと見回した雪は、誰一人として周囲に居ないことを確認すると、不意にそう呟いた。

 まるで誰かに呼び掛けているかのようなその言葉に、ビクリと体を震わせた羽入であったものの、突然始まった発言に耳を傾けようと。

 

「ここ数日僕の後を付け回しているみたいだけど、もしかして古手の指示だったりするのかな?」

 

 ふと立ち止まり、突然後ろを振り返った雪は、羽入の顔をじっと見つめながら口角を歪めるのだった。

 

「嗚呼、成程。これが魅音の見た()()()()か」

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