梨花「誰だお前」   作:ゆっかもん

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 言わずもがなトランプの細工に気が付くはずもなく。敗北を喫した圭一の額には「朴念仁」という言葉が大きく書かれていた。

 

「こ、こんなことがあっていいのか…!?」

「流石にコレが出てくるとはおじさんも思ってなかったよ…」

「運が悪かったね、前原…」

「運が悪かったで済まされる内容じゃねぇだろ!?」

 

 額にある件の文字と、両頬に書かれたバカとアホの二文字をレナから借りた手鏡で繰り返し確認する圭一の姿は何処か滑稽で。

 がっくりと項垂れながら帰路に着く圭一を含めた四人の裏を、羽入はぺたぺたと足音を立てながら追跡していたのだった。

 事の発端は、なんて改まる必要も無く。勝敗が決し、次々と圭一の顔に文字を書いていく騒ぎの中で、梨花が羽入にただ「雪の帰りに着いていけ」と指示しただけの事で。シュークリームを人質に取られた羽入には断る権利も術も無かったのである。

 

「次は梨花ちゃんに仕返しできるといいねぇ~」

「仕返しする前にレナのかぁいいモードに邪魔されちまいそうだ」

「圭一くんかぁいいよう…」

 

 既に発作が始まりかけているレナの姿に、圭一は思わず肩を竦めた。

 落書きされた顔で項垂れる少年の何処に可愛い基準があるのか、レナ独自の感性にまるで理解が出来ない圭一だった。

 

「ハハッ、流石の前原でもかぁいいモードには相変わらずみたいだね」

「圭ちゃんじゃなくてもあれは対処できないでしょ~」

「かもねぇ。反則ありだったとしても僕はやりたかないよ。乗らない、この戦いには」

 

 ハナから白旗を上げておくよ、と微笑みながら呟き、手のひらをヒラヒラと振ってみせた。

 

(今のところ、怪しい様子はないのです…)

 

 後ろから眺めていて、今のところ羽入の目には何某の違和感を覚えることはなかった。

 放課後に友人と会話を楽しみながら帰る年頃の男子。少しばかり大人びた様にも見えないこともないだろうが、そこに説得力を持たせることは些か難がある。

 そう結論付けた羽入が、今晩味わえるであろうシュークリームに思いを馳せようとしたその瞬間。羽入と雪の視線が重なった。

 

「──────ッ!?」

「どうしたの雪?」

「……いや、何か物音が聞こえた気がしたんだけど。たぬきでも出たかな?」

「青かった?」

「まさか。気の所為だったみたい」

 

 風が枝を揺らした音か、はたまた本当にたぬきの足音か。兎角、羽入の存在にはまるで気が付いていないようではあったが、羽入は思わず息を飲んでしまっていた。

 これまでも同じような状況に出会さなかったわけじゃない。雛見沢症候群の末期患者はどうやら羽入の存在を感知したり、足音を耳にしたりすることがあるらしく、雛見沢症候群を発症した人間の様子を見に行くと偶に目が合うこともあった。

 しかし、それはあくまでも雛見沢症候群の症状による幻覚の延長線であり、羽入自身をはっきりと認識できている訳では無いのだ。

 こんなにもハッキリと目が合ったのは、梨花以来だろうか。無論、目が合ったと思っているのは羽入だけであろうが。

 

「そうだ、前原。日曜は暇かい?」

 

 羽入の存在など認識しているはずもない雪は、当然何事も無かったように視線を戻すと、おもむろに圭一に声をかけた。

 

「急になんだよ、デートのお誘いか?」

「ああ。そう取ってもらっても構わないよ」

「雪くん!?」

「ゆゆゆゆゆゆゆゆ雪ィ!?」

「っ、耳元で叫ぶなよ、し…園崎。全く何を慌ててるんだか」

 

 顔を真っ赤にするレナ、目を見開いたまま立ち止まる圭一、何故かは分からないが焦ったように雪に詰め寄る魅音。オマケに開いた口が塞がらない様子の羽入。

 三者三葉の驚き方を見せている現状に、理解出来ないとばかりに雪は首を傾げた。

 

「日曜に雛見沢を案内するんだよ。帰る前に北条から提案を受けてね、竜宮と園崎も来るだろう?」

「そ、それが、でぇと…?」

「前原の為に女子が四人も集まるんだ。デートと言っても問題ないんじゃないかな?」

「魅ぃちゃん…。薄々思ってたんだけど、やっぱり雪くんって……」

「ズレてる。昔からすんごいズレてる。ついに男に目覚めちゃったのかと思って、母さんになんて言おうか滅茶苦茶考えちゃったよ」

「君達は随分と言いたい放題だねぇ…」

 

 言いたい放題の原因はお前である、と。口にはしないものの、圭一と羽入は奇しくも同じ呆れ顔を浮かべて雪を見つめていた。

 

「じゃ、じゃあ雪くん。日曜日、良かったら私がお弁当作ってきてもいいかな?かな?」

「ああ、助かるよ。北条も喜ぶと思うし、胃袋を掴んでおくのも先手必勝でいいんじゃないかな?」

「ゆ、雪くん!!」

 

 更に顔を赤くするレナの様子に、圭一はどうやらピンと来ている様子ないらしく。梨花が書いた額の文字は案外その通りであったのだろう、と魅音は溜息を零すのだった。

 

 〇

 

 それから暫く。魅音達と一足先に別れた雪は、随分と機嫌がいいのか、鼻歌交じりに帰路を進んでいた。当然、裏には羽入が着いているのだが。

 一人になればボロを出すかもしれないと、より注意深く耳を凝らしてみたものの、聞こえてくるのは今流行っている歌らしきメロディが聞こえてくるばかりで。

 

「───あ、明日の午後カントクのとこ行かなきゃなぁ。めんどくさいなぁ」

 

 ふと思い出した予定を独りごちる少年の様子に、これ以上の収穫はないのかもしれないという起こり得る最悪の予感に、羽入はただ頭を抱えるのだった。

 

 その悪い虫の予感、というやつは非情にも起こってしまうもので。梨花が用意したシュークリームは、夕飯のデザートに、と沙都子に食べさせてしまっていたりして。

 

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