「駅のトイレの3番目の個室」で、ドアを3回叩く。
『お願いします、あの子を消してください』と呟いて、また3回叩く。
憎い相手を心の中で思い浮かべながら――
成功すると、誰も入っていないはずの個室の内側から、3回、ドアが叩かれる。
そして、その相手は――
……よくある都市伝説。
誰かが流した、くだらないおまじない。
私は、そうとしか思っていなかった。
あんなことが起きるまでは。
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私がいじめに遭ったのは、高校2年の時。
いじめられていた子をかばったことがきっかけだった。
ターゲットが私に移った。
よくある話だ。
誰も助けてくれなかった。
教師も、友達も。
……あの、私が助けたはずの子でさえも。
それでも、私は構わなかった。
正しいことをした。そう思えていたから。
だから、私は耐えられた。どれだけひどいことをされても。
――そう思っていた。
でも、それは違った。
私がいじめに遭ったのは、“かばった”からではなかった。
あの子が、私を身代わりに差し出したからだった。
あの子は、自分の代わりに私をいじめるように仕向けたのだ。
私に手を出すように、彼女たちを唆し、そして金まで渡していた。
邪魔をされた彼女たちは、私への鬱憤を、
そして“支払われた金”に釣られて、すぐに手を汚した。
私は地獄に落とされた。
助けたはずの相手に。
身勝手な保身に。
……私は、どうしても許せなかった。
だから、あんなくだらないおまじないに、縋ったのだ。
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駅のトイレ。3番目の個室。
ドアを3回、叩く。
『お願いします。あの子を――消してください』
そう呟いて、もう3回叩く。
終わったあと、自分でも馬鹿馬鹿しくなって、
「何やってるんだろう」と呆れていた。
トイレを出ようとした、そのときだった。
――コン、コン、コン
誰もいないはずの3番目の個室の中から、確かに“3回ノック”された音がした。
私は恐怖に震えた。
思わず、ドアを開けた。
……そこには誰もいなかった。
念のため、他の個室も全て確認した。
やはり、誰もいない。
私は気味が悪くなり、急いで家に帰った。
布団に潜り込み、毛布をかぶって震えた。
「大丈夫、大丈夫……きっと聞き間違い」
「だって誰もいなかった」
「ドアが叩かれるわけがない」
私はそう自分に言い聞かせながら――眠った。
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翌朝。
私はいつものように制服を着て、学校へ向かった。
憂鬱だった。
今日も、またあれが続くのか。
そう思うと、胃が重くなった。
でも、どうしようもない。
そう自分を奮い立たせて、教室のドアを開けた。
「おはよう!」
聞こえたのは――
笑顔と、明るい声。
……理解できなかった。
私をいじめていた彼女たちが。
私を遠巻きに見ていた“友達”が。
私を避けていたクラスメイトたちが。
みんな、私に笑いかけてきた。
まるで、何もなかったかのように。
私はぎこちなく返事をして、席についた。
周囲は少し驚いていたが、「体調でも悪いのだろう」と勝手に納得し、気に留めなかった。
私はほっとして、深呼吸をした。
状況を整理しようと考え始めた。
――都市伝説。
あれが、本当だったのなら?
そのとき、教師が教室に入ってきた。
ホームルームが始まる。
まずは点呼。
……ただ一人、呼ばれない名前があった。
あの子の名前が、呼ばれなかった。
私は思わず声をあげた。
「先生、○○さんは?」
教師も、クラスメイトたちも、ぽかんとした顔でこちらを見た。
誰もが――口を揃えて言った。
「そんな名前の生徒はいないよ」
……ありえない。
そんなはずが、あるはずがない。
でも、誰もその言葉を否定しなかった。
私は教室を飛び出した。
止める声も無視して、走った。
あの場所へ――あのトイレへ。
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全力で走った。
息が切れても、足がふらついても。
私は、3番目の個室の前に立った。
そして――
ドアを3回叩いた。
『お願いします。あの子を、帰してください』
もう一度、3回叩いた。
これで大丈夫。お願いが消えて、あの子が戻ってくる。
そう思って、私は胸をなでおろし、トイレを出ようとした。
そのとき。
声が聞こえた。
――誰もいない、3番目の個室の中から。
あの子の、声だった。
『じゃあ、次はあなたの番ね』