悪夢収集箱   作:灰音ヒビキ

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今宵もまた一つ、悪夢をあなたに。


地獄に響く祈り

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ある時、天から光が降り注ぎ、荘厳な音楽が鳴り響きました。

光の中から神様が現れ、人間たちに言いました。

 

「お前たちの信仰を叶えてやろう。

善なる者は楽園へ、悪しき者は地獄へ。

何の矛盾も綻びもなく、理路整然と、完全に。

望む者だけ、この扉をくぐるがいい」

 

神様がそう言うと、光輝く純白の扉が現れました。

人間たちは楽園へ行けると信じ、希望と喜びに満ち溢れながら、我先にと扉へと飛び込んでいきました。

 

光と幸せと希望に満ちた楽園──

そう信じて扉をくぐった人間たちが辿り着いたのは、

炎と痛みと恐怖に焼かれた地獄でした。

 

絶え間なく、心を砕くような悲鳴が響いていました。

その合間に交じる悪魔たちの笑い声──

それがやがて、不気味な音楽となって地獄を包み込んでいきました。

 

絶望の中でもがく人間たち。

その苦しみに飽きることなく、“遊ぶように”彼らを弄ぶ悪魔たち。

炎と灰と痛みと恐怖──ただそれだけで形づくられた地獄でした。

 

人間たちは叫びました。

 

「これは何かの間違いだ!

私たちは善人だ! 私たちが行くべきは、楽園のはずだ!」

 

そして、一人の人間が叫びました。

 

「こんなの嘘だ! 何かの間違いだ! 俺が行くべき場所は天国だ!」

 

その瞬間、地獄の空から、威厳に満ちた神様の声が響き渡りました。

 

「お前たちの信仰を、叶えてやろう。

矛盾はない。綻びもない。信仰の通りに。

 

間違いなど、どこにもない。

お前たちの信仰は、正しく、完全に実現された。

地獄を選んだのは、私ではない。お前たち自身だ」

 

言い終わると、人間たちは絶望で満たされました。

このままずっと地獄なのか? 永遠に?

救われることもなく、地獄で焼かれ続けるだけなのか?

 

そんな考えが、人間たちの頭をよぎります。

 

そして、一人の人間が震えながら、小さな声で言いました。

 

「きっと、再び神様が現れて……私たちを救ってくれる。

今度こそ、私たちは楽園へ行ける。

だから……神様を信じて……祈り続けよう……」

 

人間たちはその言葉を、最後の希望として縋りつきました。

 

こうして地獄は、人間たちの祈りの声で満たされました。

 

人間たちは祈りの言葉を唱え続けます。

 

「どうか私たちをお救いください。

私たちを、楽園へ導いてください……」

 

全ての人間たちが、同じ言葉を、一切の乱れもなく、何度も何度も繰り返します。

 

地獄には、静寂で満たされていました。

焼け焦げた皮膚の匂いと、灰になった命の気配。

音もなく、しかし燃え続ける地獄の業火。

 

けれどそのすべてを──

人間たちの祈りの声が覆い尽くしました。

 

一切の乱れもない、数百の声がまるで一人の祈りのように重なり、反響し、地獄を満たす。

それはもはや、歌でも言葉でもなく──

 

信仰の旋律だった。

 

これは、信仰によって祈りで満たされた地獄の物語。

これにて、おしまい。

めでたし……めでたし。

 

 

 

……どこからか、拍手の音が鳴り響きました。

 

 

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