私は子供の頃、大好きな人形がいました。
親の転勤が多く、友達がいなかった私は、いつもその人形と一緒に遊んでいました。
本当の友達のように、大切にしていました。
そんなある日、私に初めて“本当の友達”ができたのです。
その子も、私と同じように転校が多く、なかなか友達ができなかったそうです。
私たちはすぐに打ち解けて、毎日のように一緒に遊ぶようになりました。
ずっと欲しかった、本当の友達。
それができた嬉しさから、私は自然と人形に構わなくなっていきました。
それから季節はあっという間に過ぎていきます。
春には一緒に花見をして、夏には夏祭りで花火を見て、秋には――
私は、そんな日々がこの先もずっと続くのだと、無邪気に信じていました。
人形のことなど、もうすっかり忘れていたのです。
……少なくとも、私の方は。
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ある夜、ふと目を覚ますと、体が動きませんでした。
なんとかしようと力を込めても、びくともしない。
金縛り――そう理解するより先に、恐怖が襲ってきました。
そのときです。
ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ……
足音が聞こえてきました。
それは、少しずつ、少しずつ、私の部屋に近づいてくるようでした。
私は必死で体を動かそうとしました。
けれど、やはり動かない。目すらそらせない。
足音は止まりません。
ついに、私の部屋の前で足音が止まり、ドアが――開きました。
誰かが、部屋に入ってきました。
私は恐怖で震えていました。けれど、すぐに気づきました。
それは、あの子でした。
私の、たった一人の“友達”のあの子。
安心がこみ上げました。怖いものじゃなかった、と思ったのです。
でも……おかしい。
なぜ、こんな夜中に、あの子が私の部屋に?
今日は遅くまで一緒に遊んでいたわけでも、私の家に泊まったわけでもない。
そんなことを考えている間に、あの子は――いつの間にか、私のベッドの前に立っていました。
ずっと俯いていたその子が、ゆっくりと顔を上げました。
そして、私は――呆然としました。何も考えられなくなりました。
否定しました。必死で心の中で叫びました。
違う!違う!こんなの嘘だ!
でも、それは変わってくれませんでした。
あの子の顔は――もう、“顔”ではありませんでした。
そこには、ぽっかりと、空洞が開いていました。
何もない。ただの、黒い穴。
その穴の中に、笑っている人形がいたのです。
私が忘れていた、あの人形が。
かつての“本当の友達”が。
そして――人形は、私に向かって言いました。
「一緒に遊ぼう?」