モンハンのハンターがオラリオに来るのは間違っているだろうか 作:ハーメルン初心者
ただそれだけの自己満足。
世界が――揺れていた。
がたん、ごとん。
木の車輪が土を踏む音と共に、荷台がゆるやかに上下する。
その揺れに身を任せながら、アイルーののんびりとした鼻歌が耳をくすぐっていた。
「ニャー♪ 今日も元気にネコタク搬送〜、ハンターさん達は寝ててもOKニャ〜♪」
荷台には、ハンターと、その両脇に従うオトモたちの姿があった。
アイルーは毛布に包まれて、すやすやと寝息を立てている。
ガルクは毛布の端に顎を乗せ、わずかにまぶたを動かしていたが、緊張の気配はない。
どちらも完全に、旅の最中のいつもの姿だ。
彼は小さく息を吐き、目を閉じる。
(……装備は完璧。狩技は、どれを使うか……)
これから向かう狩猟地は“雪山”。
寒さには注意がいるが、ホットドリンクも5本あるし、問題はない。
数多あるコレクションから選んだ装備も、手に吸い付くように馴染む。
他のハンターの装備を見ると、自分も同じのが欲しくて堪らなくなるのが性分だが、今回のクエストは実用優先で作った装備で向かう。
アイルーの唄。荷台の揺れ。オトモの気配。
全てが、彼にとっては“狩り前の平常”だった。
――眠るには、十分すぎる環境。
意識が、ふわりと沈んでいく。
そして――
目を覚ましたとき、そこは自分の知る雪山フィールドではなかった。
*
「……ここは……?」
静寂。
風の音が、耳を撫でた。
視界の先に広がるのは、果てしない草原。
草がそよぎ、太陽が降り注いでいる。
遠くに、大木が一本。草の匂い。陽光の温度。
見慣れたようで、決定的に――“知らない”。
――そして、あまりにも静かだった。
焚き火の音も、獣のうなりも、聞こえない。
“狩場”にあるべき、殺気が、ない。
彼は起き上がり、あたりを見渡す。
ネコタクは……ない。荷台も、轍も、消えていた。
ただ、すぐ傍らに、アイルーとガルクがいた。
アイルーは仰向けで、変な寝相のままぐうぐう眠っている。
ガルクは既に起きていて、耳を立て、鼻をひくつかせていた。
(……お前ら、順応早すぎだろ)
思わず内心で苦笑する。
だが、笑いは一瞬だった。
(……違う)
この空気。この大地の匂い。
彼の長年の“狩人”としての本能が警鐘を鳴らしていた。
(ここは、俺の知っている“世界”じゃない)
(気配が……違う。モンスターの圧力がない。これは――)
双剣の柄に手をかける。
すぐには抜かない。ただ、確認するだけ。
知らない場所。
知らない空。
知らない命の気配。
だが、やることは変わらない。
知らぬ地でも、獣はいる。
何かしらの脅威はある。
人がいるかもしれない。
食料も、水も、手に入れねばならない。
そのすべてを観察し、解析し、適応する。
それが、ハンターとしての“生き方”だった。
「……さて。とりあえず――探索してみるか」
風が吹いた。
一人と二匹。
名も知らぬ世界で、静かに歩き始めた。
それが、後に“運命”と呼ばれる物語の幕開けだった。
*
三日目、夜。
満天の星空の下。
焚き火もなく、ただ岩壁に背を預けて座る。
その横で、ガルクは静かに身を横たえ、アイルーは毛布にくるまったまま小さく寝息を立てていた。
彼は空を見上げながら、ぽつりと呟いた。
「……やっぱり、違う」
この世界の星は、見慣れた配置じゃない。
月も、どこか違って見える。
風の匂いも、草の質感も、微妙に違う。
そして何より――
“狩り”ができない。
モンスターの痕跡がないのだ。
動物はいる。小型の草食種に近い生き物も見た。
だが、大型の獣の足跡は皆無。
たまに襲い掛かってくるのは、小鬼のような異形の存在ばかり。
奇妙な骨格に、鈍い動き。
一匹倒したとき、そいつは爪ほどの黒い石を落とし、それは空気に溶けるように塵と化した。
(……モンスターですらない。素材にもならない、ただの幻影のような何かだ)
携帯食料は、アイルーとガルクの分も含めて急速に減っていく。
現地調達を当てにしていたのが仇となった。
水も同じだ。川も泉も見当たらない。
地図もない。方角もわからない。
果実は見かけたが、未知の世界の植物だ。
一口で命を落とす可能性がある。
(俺の知識も、通じない。……俺は“ハンター”じゃない。この世界ではただの――“漂流者”だ)
焚き火の代わりに、ガルクの体温が背を温めている。
隣で眠るアイルーは、夢の中でも何かしゃべっていた。
「ニャ……、ポポの肉……こんがり焼けてないニャ……」
そんな寝言に、少しだけ笑みがこぼれた。
それでも、現実は変わらない。
(……生き延びるなら、人だ。人がいる場所を見つけなければ)
彼はそう判断した。
獣と戦うだけでは、生きられない。
“文明”に接触する。それが、今できる最善。
ガルクの頭を軽く撫で、アイルーの毛布を整える。
「行くぞ。……限界が来る前に、街を見つける」
そう呟いて、彼は立ち上がった。
星が、静かに瞬いていた。
***
十日目の朝――
霞む丘の先。そこに、それはあった。
「……壁?」
遠くに見えたのは、巨大な石造の壁。
まるで、要塞のように広がる灰白の壁面。
無骨で、古くて、それでも……人の手によって築かれたとわかる。
街だ。
人の、文明の匂いがする。
ガルクが微かにうなり、アイルーが目を細める。
「……ニャ? あれは……」
ハンターは腰のポーチに手をやり、残っていた最後の携帯食料の欠片を取り出した。
アイルーに半分。ガルクに半分。自分には、もう残っていない。
だが、それでいい。
命を繋ぐべきは、仲間だ。
彼は足を進めた。
空の水筒が腰で揺れる。
風が砂埃を巻き上げ、一本道の先に、街の壁が近づいてくる。
(……あれが、この世界の“拠点”なら――)
彼は静かに、しかし確かな意志を持って歩みを進めた。
そして、それが――“オラリオ”という名の物語の中心へと、彼を導いていくのだった。
*
陽が傾く。
空の端が、ほんのりと朱に染まり始める。
オラリオ西門の前――一本の道を、影が歩いていた。
一人と、二匹。
彼は全身に砂埃をまとい、足取りは重く、肩で息をしていた。
背には双剣。
腰のポーチは擦り切れ、装備もあちこちが風化している。
その姿は、戦士というより――流浪の遺民のようだった。
隣には、痩せたガルクが一歩ごとに体を揺らし、
アイルーも疲弊した足取りでしがみつくように彼の後ろを歩いていた。
門を守る警備の一人、ガネーシャ・ファミリアのアーディ・ヴァルマは、その姿に目を留める。
「……誰?」
警戒しつつ、彼女は制止の手を掲げた。
「すみません。ここはオラリオ西門、進入には許可が――」
言い終える前に、男が、膝をついた。
「……ッ、ちょっと!」
慌てて駆け寄るアーディ。
近づいて初めてわかる、男の状態。
肌は乾き、唇は割れている。
目の焦点が揺れ、体は極限まで消耗していた。
その傍らで、ガルクもへたりこみ、アイルーもぐったりと倒れ込んでいた。
(……人だけじゃない、連れている獣たちも――もう限界だったのか)
「あなた、どこから来たの? 聞こえる? 名前は?」
問いかけに、男はかすかに顔を上げる。
だが、出てきた声は――
「……△◆……、◇……っ……」
掠れ、意味をなさない。
言葉が、通じない。
それでも彼は、空になった水筒をゆっくりと掲げてみせた。
それだけで、十分だった。
アーディは即座に振り返り、仲間に声をかける。
「水と食事を! 急いで! ……尋問は後! 今は、命を繋がなきゃ!」
こうして彼は、城壁の内へと――“人の世界”へと足を踏み入れる。
それが、後に続く無数の運命を引き寄せる、最初の一歩だった。
*
守衛詰所。
簡易ベッドに横たわる男に、水袋が差し出される。
持っていた武器は全て預けられ、身体には粗末ながらも布がかけられていた。
「……飲める?」
アーディの問いに、彼はわずかに頷く。
一口。ごくり。
水が喉を通る音が、異様に大きく聞こえた。
「……△×……」
異国の響きを帯びた呟き。
だが、それは“礼”の気配を纏っていた。
アーディはそれを感じ取り、小さく微笑む。
「名前……聞いても通じないかな」
男は首を振る。
音としての反応はあるが、会話にはならない。
(言葉も通じない、装備も見たことがない……けど)
アーディはふと、その目を見つめる。
その瞳には――鋭さがあった。
戦場を渡ってきた者の、それも尋常ならざるものの目。
扉の外から、甲冑の擦れる音が聞こえた。
「アーディ? 門で誰か保護したって聞いたけど、何があったの?」
現れたのは、赤髪の少女――アリーゼ・ローヴェル。
その背に控えるのは、数人の戦士たち。アストレア・ファミリア。
アーディが頷く。
「言葉が通じない流れ者。……でも、ただの旅人じゃないと思う」
アリーゼが男に目を向ける。
視線が合う。
彼は動じない。ただ、観察するように見返してくる。
「……この人、どうするの?」
「応急処置はしたけど、ギルドに回すには弱りすぎてる」
少しの沈黙の後――アリーゼは静かに言った。
「……じゃあ、うちで預かる。うちなら、少しは安全に休めるはず」
正義。それは、強さだけではなく――
目の前の命を見捨てないという意志のことでもあった。
アーディが、ほっと息を吐いた。
「名前、聞いても通じないし……今は“旅人さん”でいいかな」
アリーゼがそう言うと、男はほんのわずかに――頷いた。
まるで、それが“受け入れられた”ことを意味するかのように。
これが、始まりだった。
“正義の眷属”と、“異邦の狩人”。
二つの道が、静かに交わる、最初の夜だった。
というわけでプロットも何もない見切り発車小説です。
全ての展開を考えたわけじゃないから、続くかどうかもわからないですが、それでも良いという方は読んでやってください。更新は気分次第ですが、いいアイデアが降ってわいてきたら早くなるかもしれません。