ある小学校の校則   作:青ヤギ

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■友人、堺とのやり取り①

 

 ──鶴賀(つるが)、すごいネタ見つけてきたぞ。

 

 そうメッセージを送ってきたのは大学時代からの創作仲間である堺創介(さかいそうすけ)だった。

 彼とは卒業後も個人チャットで雑談や近況報告を繰り返していた。

 そして学生時代から変わらず作家を目指しているボクのために、小説のネタになりそうな情報をたびたび集めてくれていた。

 今回も、そういう流れだった。

 チャットにはメッセージと一緒にいくつかのファイルが添付されていた。

 

 オカルト雑誌と女性週刊誌の切り抜き。

 SNSのリンクとスクリーンショット。

 TV番組の一部分を切り取った動画ファイルと新聞記事。

 ネット掲示板の過去ログ。

 

 そして、ある小学校の生徒手帳の中身を撮影したらしき画像データ。

 そこには、到底正気とは思えない異常な校則の内容が書かれていた。

 

「……」

 

 ファイルのすべてを確認したボクは言葉を失っていた。

 これは、何だ? こんな偶然があるのだろうか?

 それぞれ形式もバラバラの資料は、一見すると関連性がないもののように思える。

 ところが、どの資料にも共通する文章があった。

 

《学校へ行きましょう》

《皆さん「イイコ」になりましょう》

 

 その他にも「ナリタイモノ」「イミキラワレル」等々、散見される共通語……どれもが謎の生徒手帳に記されているものだった。

 とても偶然とは思えなかった。

 繋がっている。どの資料も「ある小学校の校則」について。

 

「どうだった? びっくりしたろ」

「うん。正直、いまも困惑してる」

 

 ボイスチャットから堺の弾んだ声が聞こえてくる。よほど興奮しているらしい。

 もともとホラー愛好家である彼は、この手の不気味な話題になると異様な行動力を発揮するのだが、今回はその熱量が尋常ではなかった。

 

 堺から渡された資料の数々を改めて見回す。

 正直、いまもこれらが実在するものなのか疑いたくなる。それほどまでに、気味の悪い繋がりにボクは怯えていた。

 

「堺。これ……全部本当のことなのか?」

「俺も最初は最近流行りのモキュメンタリーホラーのフェイク記事かと疑ったよ。けどモキュメンタリーホラーの本格的なブームは2023年からだ。俺が集めた資料はだいたい2021年周りのものばかりだ。このSNSの投稿だって、俺が偶然見つけたのは2021年当時のことだ」

 

 堺の言うとおり、送られてきた資料のひとつである「SNS、ある投稿でのやり取り」の書き込みは2021年の4月と表記されている。

 

──────

 

あにま@anima04・2021年4月4日

 

ブラック校則が問題になって9割の学校が校則見直されたってニュースあったじゃん

俺が通ってた学校も結構ヤバかった

 

「男女交際禁止、授業以外で異性と話すな」

 

いま思うとありえねw

他にもヤバいブラック校則あったら教えて!

 

──────

 

「モキュメンタリーホラー自体は映画とかでずっと昔から題材にされていたが、いまみたいにそこまでメジャーじゃなかった。だから俺も当時は『変な書き込みだな』って程度に思って画像だけ保存してスルーしてたんだよな。けど……まさかそれが後々で貴重な資料になるとは考えもしなかった」

 

 当時の堺は、偶然見かけたこのSNSの投稿の返信欄に貼られたリンクを開き、そこに掲載された謎の写真画像を「いつか創作に使えるかも」と保存したという。

 

 ……それこそが、異常な校則が書かれた生徒手帳。その中身を撮影したらしき画像だった。

 

──────

 

《この投稿は、投稿した作成者により削除されました》

 

──────

 

あにま@anima04・2021年4月5日

 

え?

これマジですか?

 

──────

 

ムスカルゴ@2HT/Ew4qD・2021年4月5日

 

貼られたリンク見たけど

これはさすがにネタでしょ

 

──────

 

ヤジホース@showa1111・2021年4月5日

 

はいはい嘘乙

構ってちゃんかわいいね~www

 

──────

 

いまいま@J9DwtQ・2021年4月5日

 

これ学校っていうより危ない宗教団体じゃね?

何か祭ってるっぽいし

 

──────

 

みこる@aiaiai9180・2021年4月5日

 

なにこの校則?

キッショ

見なきゃよかった

 

──────

 

蜜柑寺@76MUYYO・2021年4月5日

 

誰かー!

寺生まれの例の人呼んでこーい!

 

──────

 

AMO@gGNJ9Gm2・2021年4月5日

 

あるわけないじゃんこんな学校

生徒手帳までそれっぽく作ってご苦労なこった

 

──────

 

雨坂@rainT777・2021年4月5日

 

びっくりした

生徒手帳に書かれてるから本当にこんなヤバい学校があるのかと思った

なるほど作り物ね~

 

──────

 

 そして現在、その写真が掲載されたリンクは投稿自体が削除されたため見る手段がない。

 堺が偶然にも保存した写真画像は、まさに貴重な資料となった。

 

 それにしても……何度見ても常軌を逸した校則だ。

 いや、もはや校則なのかも怪しい。

 

「堺は信じてるのか? こんなバカげた小学校が本当にあるなんて」

「この写真だけなら俺も作り物としか思わなかったよ。でも……これだけ謎の校則に関連してると思わしき資料があるんだぜ? ただの偶然で片付けるほうが無理ってもんだぞ」

「それは……そうだけど」

「俺も関連性に気づいたのは、つい最近なんだ。お袋に『アンタこういうの好きでしょ?』って女性週刊誌を渡されてさ。ほら『七夕特集』の記事だよ。夏に発売された号だからかホラー系の記事が多くてな。その中に例の記事があったわけだ」

 

 化粧品会社に勤めるBが半屋内テラスに設置された七夕飾りを眺めていたら、奇妙な短冊ばかりを目にするという話。

 その記事には確かに、例の校則に関連する内容が書かれているのだ。

 

『「カワリノモノ」になったパパとママをかえしてください。はんせいしています』

『山の「ジュウニン」になったトモダチが人にもどりますように』

『「すずり様」によばれませんように』

『「そごてぐ」に食べられませんように』

『ザザにかみつかれませんように』

 

「これを読んで、昔に保存した不気味な生徒手帳の写真のことを思い出したんだ。さすがに飛び上がったぜ。あの生徒手帳にしか書かれていないような言い回しが女性週刊誌に載ってたんだからな」

 

 それから堺は定期的に購入しているオカルト雑誌のことも思い出したという。

 

「昔に読んだ怖い話に『確か似たような内容がなかったか?』って気づいて、本棚から古いオカルト雑誌を引き抜いたんだ。……案の定、書かれてたんだよ。『イイコ』とか『ナリタイモノ』とか『カワリノモノ』とか」

 

 堺が送ってきたオカルト雑誌の切り抜き『片思い』と『入学案内』……そこにも確かに、ある小学校が関わっているらしき内容が書かれている。

 

「これはもう偶然じゃないと思ってな。ネットで片っ端から調べることにしたんだよ。そしたら次から出てくるわ出てくるわ……ネット掲示板でも、それっぽい書き込みがあるときたもんだ。もう笑うしかなかったぜ」

「……」

「おっと鶴賀、さてはまだ疑ってるな? 全部、俺がわざわざ用意したフェイク記事だと思ってるんだろ?」

「いや、そういうわけじゃないけど……なんかやっぱり実感が湧かないというか……」

「でも、この新人アイドルが起こした殺人事件はさすがの鶴賀でも知ってるだろ?」

「確かに……一時期ニュースで話題になったよね」

「そう。こればかりは紛れもないノンフィクションさ」

 

 堺から渡された動画ファイル、バラエティ番組「思い出の給食を食べよう!」……この番組自体は視聴していなかったが、新人アイドルが起こした凄惨な事件については芸能界に疎いボクでも知っていた。

 

「この事件、一部のオカルト界隈でも話題になってたみたいでさ。番組の切り抜き動画がいくつか投稿されてて、考察するサイトがあったんだよ。ほら、モロに心霊映像っぽいのも映ってるしさ」

 

 心霊映像……確かに番組の趣旨とは明らかに雰囲気を異にする不気味な映像が、送られてきた動画には映っている。

 新人アイドルが聞きなじみのない給食のメニューを口にした後、その背後に一瞬だけ映った赤いワンピースを着た黒髪の少女……制作者側が意図して挟んだとは思えない、異質な映像だった。

 

「考察サイトでは『この少女の霊に取り憑かれて事件を起こしたんだ!』って盛り上がってたけどさ……俺が注目したのは遺書のほうなんだ。ここでも出てくるだろ? 『学校に行きましょう』『皆さん「イイコ」になりましょう』ってさ」

 

 某新人アイドルは凶行を起こした後、遺書を残して自殺している。

 そこでも謎の校則を想起させる言葉が書かれていた。

 

「このアイドルと『片思い』に登場するAちゃん。二人には共通点がある」

「……自分の小学校のことを、覚えていない?」

「その通り。そして二人とも何かの拍子で小学校のことを思い出したことで様子がおかしくなっている。『学校へ行きましょう』……この言葉を口にしてな」

「つまり……彼女たちは同じ小学校に通っていた?」

「きっと、そうだ。ナニカを祭っている、異常な校則で縛られた、ある小学校にな」

 

 堺は相変わらず楽しげに話す。ワクワクしてしょうがないとばかりに。

 

「なあ鶴賀。この小学校を題材にしたホラー小説を書いたら、すごいのができると思わないか?」

「え?」

「お前に是非書いて欲しいんだよ。だからこうしてネタを集めてきた。まだ作家になる夢、諦めてないんだろ?」

「ん、まあ、一応ね」

「だったらホラーを書け! いまはモキュメンタリーホラーが一番熱いんだ。書店に毎月のようにモキュメンタリーホラーの新作が入荷してくるんだぜ? デビュー狙うならこの波に乗るしかないって!」

「いや、でも……モキュメンタリーホラーってフィクションをドキュメンタリー形式でそれっぽく演出するホラーでしょ?」

「おう、その通りだが?」

「……この小学校は本当にあるかもしれないんだよ? それを題材にして大丈夫なのかな?」

「なんだ、そんなこと気にしてんのか。だからいいんじゃないか! 『よく見るモキュメンタリーホラーかと思いきや実はガチネタだった』……こんなの、すっげー話題になるじゃん!」

 

 堺は脳天気にそう言う。

 

「あくまでモデルにすればいいんだよ。細かい用語とか設定とかは変えればいいんだしさ」

「いや、でも……」

「それに、最近はネタが思い浮かばなくて悩んでたんだろ?」

「それは、そうなんだけど……」

 

 堺の言うとおり、いまのボクは新作のネタがなかなか思いつかず、ずっと行き詰まっていた。

 今年に入ってまだ一作も書けておらず、焦りとフラストレーションが溜まるばかりだった。

 だから、このタイミングでネタの提供はありがたくはあったのだが……。

 

 実在するかもしれない小学校をモキュメンタリーホラーの題材にすること。

 不気味な怪異現象に関わることへの恐れ。

 そしてなにより……友人が集めたネタを無償で使わせてもらうことへの申し訳なさ。

 それらが決断を鈍らせた。

 

「やっぱり、やめとくよ。だって堺が集めたネタだろ?」

「はは、俺はいいんだよ。とっくに作家になることは諦めてっから。ていうか仕事が忙しすぎて創作に打ち込めるほど余裕もないって」

「やっぱり書店のマネージャーって大変なんだ」

「そりゃもう毎日激務だよ。上の指示には従わないといけないし、スタッフの面倒は見ないといけないし、売上と睨めっこしながら商品の管理しないといけないし……まったく世の中の兼業作家ってどういう生態してんだぁ? よく働きながら小説なんて書けるよなぁ」

 

 堺は大学卒業後、書店でアルバイトをしながら創作を続けていた。

 だがどの作品もデビューには繋がらず、キッパリと断筆をして社員として入社し、現在は東京店舗のマネージャーをやっている。

 思いきりのいい彼らしい決断と進路だった。

 

「なあ鶴賀。お前は俺と違って才能あるんだからさ、諦めずに書いてくれよ」

 

 友人の何気ない言葉が、チクリと心に刺さった。

 

「本当に才能があったら、とっくにデビューしてると思うけどね」

「いや、鶴賀の場合はもう運次第だって。だって昔にWebで連載してた作品、累計ランキングにも載って、読者たちからファンアートまで描いてもらったんだろ? ちゃんと実力ある証拠じゃん!」

「それでも書籍化打診は来なかったけどね。たぶん編集側が欲しい内容じゃなかったんだよ」

「だったらあとは編集が欲しがるような題材で書くだけじゃん。そこでモキュメンタリーホラーなんだよ! 頼むよ、鶴賀。このネタ使ってやってくれ。それでデビューを決めろ!」

「確かにボクもホラーは好きだけど……モキュメンタリーホラーなんて書いたことないし」

「いいや、お前ならできるって。絶対に俺が書くよりもすごい作品が書ける。頼むよ鶴賀。俺の夢をお前が代わりに叶えて欲しいんだよ!」

 

 そう言われると、断るに断れきれなくなった。

 断筆することを宣言した堺は「俺の夢をお前に託す!」と、そうボクに伝えた。

 だというのに、ボクはいまだにデビューすらできていない。

 それどころかWebで連載していた作品の更新も止まり、新作も書けずにいる。

 

 正直ボクもこのまま断筆するかに思えた……だが、もしかしたら、ここが転換点なのかもしれない。

 ホラー作品ならば、商業でも通じるものが書けるのではないだろうか?

 流行りのモキュメンタリーホラーに挑戦してみたい気持ちも、あるにはあった。

 

 ……やってみよう。これが最後の執筆のつもりで。

 

 久しく消沈していた創作意欲に、火が灯った気がした。

 

「わかった。やってみるよ」

「さすが鶴賀! そう言ってくれると思ってたぜ! 任せろ! 今後もこの小学校について調べて資料を集めるからさ! 飛びっきり怖いの書いてくれよな!」

 

 嬉しそうにはしゃぐ堺といくつか会話を交わして、通話を切った。

 

「……」

 

 椅子に体重をあずけながら、送られた資料に再び目を通す。

 

「イイコ……ナリタイモノ……カワリノモノ……イミキラワレル……そして……」

 

 アカシ様。すずり様。

 謎めいた存在を中心に回る、奇妙な小学校。

 もし、本当にこんな小学校が実在するとして……いったい、どこにあるのだろう。

 そしてボクは……本当にこの小学校を題材にして、書いていいのだろうか?

 

 

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