ある小学校の校則   作:青ヤギ

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某女性週刊誌掲載 「七夕特集」から一部抜擢

 

 化粧品会社に勤めるBさんは入社一年目の7月7日、七夕の季節に奇妙なものを見たという。

 

「いつもお昼休憩で使っている半屋内のテラスで七夕飾りが設置されていたんです。テーブルには縦長の画用紙とマーカーが置かれていて自由に願い事を書けるようでした。近所の子どもたちが書いたのか、ひらがなが多めの願い事がいっぱい飾られていました。『サッカーせんしゅになる』って王道な内容はもちろん『おとうさんがやせますように』とか『ピーマンをこのせかいからけしてください』なんて微笑ましいやつもあったりして」

 

 ちょうどいい気分転換になると思い、Bさんは願い事が書かれた短冊を眺めていたという。

 

「子どもが書く願い事って思わずクスリって笑っちゃうようなシュールなのがあるじゃないですか? SNSとか動画とかで紹介されてバズったりもして。行儀悪いとは思いましたけど私もバズり狙いで『何かネタになりそうな願い事を見つけられないかな~』って探してたんです」

 

 おもしろい願い事はいくつかあった。

 

『きりんになりたい』

『マンガのせかいにいけるマシンをつくってほしい』

 

 といったものや、

 

『しょうらい、かいごしなくてもよくなりますように』

『おかあさんみたいなオトナになりませんように』

 

 と中にはブラックな内容も含まれていた。

 

「最近の子どもって結構達観してるんですかね。わりといまの社会問題を意識したことを書いているのが多くて、びっくりしました。『ちゃんとがっこうをそつぎょうできますように』とか『「イイコ」になれますように』とか『ふとうこうになったトモダチがもどってきますように』みたいな願い事もあって。それを見てたら、他人の願い事をSNSのネタにしようとしている自分がだんだんと恥ずかしくなりました」

 

 写真撮影をして投稿することは諦めたBさんは、純粋に感心したまま子どもたちが書いたらしき短冊を引き続き眺めることにした。

 

「やっぱり学校に関する悩みが多いんでしょうかね。『わすれものをしませんように』とか『こうそくをぜったいにまもれますように』とか『にがてな子とも、なかよくなれますように』とか書かれていたんですよ。いまの小学生ってみんな真面目だな~って思っていたんですが……」

 

 しばらくするとBさんは奇妙な願い事が書かれた短冊を目にしたという。

 

『「モッテイカレル」ことになったボクのなまえをとりもどせますように』

 

「……どういう意味かわかりますか? わかりませんよね。私も見たときは混乱しました。まあ子どもが書くことですから深い意味なんてないんでしょうけど……でも、アレを書いた子はたぶん真剣に書いていたんじゃないかなって。すごい丁寧な字だったんです。ふざけて書いたようには見えませんでした」

 

 そこから連鎖的にBさんは他にも似たような短冊を見つけていった。

 

『「カワリノモノ」になったパパとママをかえしてください。はんせいしています』

『山の「ジュウニン」になったトモダチが人にもどりますように』

『「すずり様」によばれませんように』

『「そごてぐ」に食べられませんように』

『ザザにかみつかれませんように』

 

「どれもまったく意味がわかりませんでしたが、すごく気味が悪いと思いました」

 

 もはや願い事なのかも怪しい短冊もあったという。

 

『がっこうにいきたくない』

『まいにちこわい。でも、てんこうできない』

『ホンモノのおにいちゃんをかえせ』

『そつぎょうしたい。ホンモノの神さま、たすけて』

『あんながっこう、なくなってしまえ』

『もういやだ。あんな学校に入学させた父さんと母さんがにくい。コロしてやりたい』

 

「子ども特有の丸っこい文字で書かれた過激な内容に、背筋が寒くなりました。これを本当に子どもが書いたのかって。生ぬるい風が吹いて、笹の葉と短冊が揺れる様子が本当に不気味に見えました」

 

 これ以上見てはいけない。Bさんが直感的にそう思ったときだった。

 

「笹の向こうから強い視線を感じたんです。いやな視線でした。ねっとり舐め回されるような、生理的に気色の悪い感じで、怖くて動けなかったんです」

 

 吹き抜ける風がまるで何かの吐息のようにも感じられ、Bさんは鳥肌が立ったという。

 

「そのときです。風で揺れる笹の隙間から一枚の短冊が見えました。赤い画用紙で、まるで隠すように奥側に吊るされていたんです」

 

 その短冊には、こう書かれていた。

 

『学校へ行きましょう』

 

 それを見た瞬間、Bさんはようやく体が動き、逃げるようにその場を去ったという。

 

「その短冊が一番不気味でした。内容以前に……字の形が異質だったんです。まるで日本語を初めて見た人が模写したかのような不自然さがあって、それでいて機械的に整いすぎてもいて……ひと目見ただけで具合が悪くなるような文字でした」

 

 それ以来Bさんは昼休憩にそのテラスを利用することはなくなり、しばらくしてから別の化粧品会社に転職したという。

 

「いま考えてみると、アレは子どものフリをした誰かのイタズラだったんじゃないでしょうか。だって、あの辺はオフィス街で学童が通うような小学校は無かったはずなんです。土日に家族連れで買い物に来た子どもたちが書いたにしては数が多すぎましたし……きっとSNSでネタにされたい人の演出だったんでしょう。いまは、そう思うようにしています」

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