ある小学校の校則   作:青ヤギ

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某オカルト雑誌掲載 短編「入学案内」

 

「変な小学校の入学案内がずっと届くんです」

 

 Aさん夫妻は一時期、奇妙なハガキに悩まされていた。

 結婚式を済ませ、新居に引っ越してからというもの、ポストに同じ内容が書かれたハガキが定期的に投函されるようになったのだという。

 

『お子さんを是非、我が校に入学させてください。お待ちしております』

 

「それだけ書かれたハガキでした。でも学校の名前も住所も表記されていないんです。すぐにイタズラだと思いました。そもそも当時はまだ子どももいませんでしたからね。最初はあまり気にしていなかったんですけど、ほぼ毎月ポストに入っていたので、さすがにイライラしてきちゃって。イタズラでポストに投函する人が毎回我が家に来ているわけですからね。妻も気味悪がっていました」

 

 Aさん夫妻は近所の了承を得て玄関に監視カメラを設置することにした。

 数日後、ハガキはいつものようにポストに入っていた。

 

「すぐに監視カメラを確認しました。それらしき人物が映っていたら警察に突き出してやろうと思ったのですが……」

 

 しかし、ポストに投函するような人物は映っていなかった。

 Aさんが最後にポストの中身を確認して以降、郵便屋が来たらしき映像も残っていなかった。

 Aさん夫妻は目を見合わせて、震え上がったという。

 

「その後もハガキはポストに投函されました。そのたびに監視カメラを確認したのですが、やはりポストに何かを入れているような不審者は映っていなかったんです。妻はすっかり怯えてしまって『もう見ないで!』と監視カメラを外すようにお願いされました」

 

 Aさん夫妻は気味悪く思いつつもハガキが投函されること以外は実害もないので、しぶしぶ静観することにした。

 ハガキに変化が起きたのは、第一子である娘が生まれてからだった。

 

『ご出産おめでとうございます。是非アカリちゃんを我が校に入学させてください』

 

「ハガキの内容がそう変わってたんです。はい、娘の名前はアカリって言います。どうして出産したことや娘の名前を知っているのか。親戚やご近所の人くらいしか知らないはずなんです」

 

 普通ならば悪質なストーカーの仕業だと思うところだが……かつて監視カメラにそれらしき人物が映っていなかったことを思い出し、Aさんは混乱した。

 変化はさらに続いた。

 

「それからはハガキではなく入学案内の資料らしきものをまとめた封筒が投函されるようになったんです。正直、開けて見る勇気はありませんでした。妻なんて少しヒステリックになってて、封筒を見たら汚いものでも扱うように捨ててました。一応警察に相談はしたのですが……やはり不審な人間の目撃情報がないと動いてはくれませんでした」

 

 ところが奇妙な入学案内は突然ピタリと来なくなった。

 成長したアカリちゃんが地元の小学校に通い始めてから、まったく投函されなくなったそうだ。

 

「不思議には思いましたけれど僕も妻もひと安心しました。結婚してからようやく穏やかに暮らせるって」

 

 やがてAさんの奥さんは第二子を妊娠する。二人目は男の子だった。

 

「男らしい名前にしよう、って妻と話し合って『タカシ』って決めました。……ちょうどそのタイミングだったんです。パタン、ってポストに何かを入れる音が聞こえたのは」

 

 Aさんは恐る恐る外に出て「まさか」と思いつつポストを確認した。

 

「また入っていました。あのハガキが」

 

 やはりポストに投函されていたのは例の入学案内だった。

 そしてそこに書かれていた内容にAさんは戦慄した。

 

『タカシくんを是非我が校に入学させてください。今度は期待しています』

 

「名前を決めた直後ですよ? どう考えても普通じゃありません。妻はこれを機に精神的に不安定になって、体調を崩すようになりました」

 

 結果、二人目の子は悲しくも流産してしまったという。

 

「流産のあと、妻に言われました。『ごめんなさい。もう子どもは産みたくない』って。辛くはありましたが、僕も賛成しました。これ以上、あの不気味な入学案内に振り回されるのは嫌だったんです」

 

 流産後、ハガキが来ることはなかった。

 Aさんはこれでようやく終わったと思った。

 ところが六年後、また例のハガキは届いた。

 

『タカシくんは無事に我が校の生徒になりました。必ず「イイコ」として育てます。卒業後ご立派な姿でお返ししますので、期待を持ってお待ちください』

 

「最初にそれを見つけたのは妻だったようです。娘から『お父さん、助けて』とメッセージが来て慌てて家に帰ると、妻は半狂乱で家中のものを壊して泣き叫んでいました」

 

 それからというもの、Aさんの奥さんは錯乱することが多くなり、とうとう娘に暴力をふるうようになった。

 

「彼女とは離婚しました。冷たいと思うでしょうが……とてもではないですけど、もう一緒に暮らす気にはなれませんでした。とにかく娘を守ることが最優先でした」

 

 現在Aさんは娘のアカリさんと二人暮らしをしている。

 

「仕事と家事の両立は大変ですが、なんとか娘と力を合わせて頑張っています。それなりに幸せな日々を送っています。あのハガキも、あれっきり来ることもありません。ただ……ひとつだけ気になっていることがあるんです」

 

『卒業後ご立派な姿でお返ししますので、期待を持ってお待ちください』

 

 あのハガキにはそう書かれていた。

 それが、ずっと頭から離れないのだという。

 

「もしも息子が無事に産まれていて、小学校に入学していたら……ちょうど今年が卒業の年なんです」

 

 流産したはずの息子が謎の小学校の生徒になった。そんなありえないことが書かれたハガキが届いてから、六年以上の歳月が経っていた。

 

「もしも息子が戻ってくるのだとしたら……いったい、どっちに行くんでしょうね? 僕か、別れた彼女のほうなのか」

 

 玄関の扉を見ながら、Aさんは消え入りそうな声で語った。

 

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