ありふれた癌   作:Matto

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13:反逆の物語

『試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?』

 

 

 青年は、奥の骸と同じローブを纏っていた。ローブの骸と、ローブの青年。関係性はなんだ?

 

 

「てめえ――」

『ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない』

 

 

 気色ばむ慧斗にかまわず、青年は話を続ける。何をふざけたことを、と構えた慧斗を、咄嗟に入室したユエが裾を引いて止めた。

 

 

「……嘘じゃない。これは、魔法で作った幻……」

 

 

 言われてみれば、確かにその姿は薄ぼんやりとしており、輪郭が朧げだ。言葉通り記録映像と判断した慧斗は、仕方なくグレートソードを担ぎ直した。

 

 

『だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを』

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 それは、狂った神とその子孫達の、戦いの物語。

 神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。人間や魔人、様々な亜人たちが絶えず戦争を続けていた。争う理由は様々だった。領土拡大、種族的価値観、支配欲――戦う動機は多々あったが、最たるものは『互いが“神敵”であること』だった。

 今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族と国が、それぞれに神を祀っていた。その神からの神託により、人々は争い続けていたのである。

 だが、そんな何百年と続く争いに終止符を打たんとする者たちが現れた。それが当時、“解放者”と呼ばれた集団である。彼らには共通する繋がりがあった。全員が、神代から続く神々の直系の子孫だったのだ。

 “解放者”たちを駆り立てたものは、神そのものへの憎悪だった。

 なんと神々は、人々を駒に遊戯(ゲーム)感覚で戦争を促していたのである。それを知った“解放者”のリーダーは、神々が裏で人々を操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり、志を同じくするものを集めた。

 彼らは“神域”と呼ばれる、神々がいるとされる場所を突き止めた。“解放者”のメンバーでも強力な力を持った――先祖返りと呼ばれた七人を中心に、彼らは神々に戦いを挑んだ。

 しかし、その目論見は戦う前に破綻する。神は人々を巧みに操り、“解放者”たちを『世界に破滅をもたらす神敵である』と認識させ、人々自身に相手をさせたのである。結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、『神の恩恵を忘れ、世界を滅ぼさんと神に仇なした』――すなわち“反逆者”の烙印を押され、“解放者”たちは討たれていった。

 最後まで残ったのは、中心の七人だけだった。世界を敵に回した彼等は、もはや自分たちでは神を討つことはできないと諦めた。そしてばらばらに別れ、それぞれ大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにした。試練を用意し、それを突破した強者に自分たちの力を譲ることにした。いつの日か、神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って――

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑んだ。

 

 

『君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。

 君に私の力を授ける。“生成魔法”――鉱物に魔法を付与し、新たな性質を持った鉱物を生成する魔法を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには揮わないで欲しい。

 ――話は以上だ、聞いてくれてありがとう。君のこれからが、自由な意志の下にあらんことを』

 

 

 そう話を締めくくると、オスカーの記録映像はすっと消えた。同時に、二人の脳裏に何かが侵入してくる。ずきずきとした痛みと引き換えに、とある魔法が刷り込まれていくのを、二人はじっと堪えた。

 やがて痛みも収まり、魔法陣の光も消える。一連の流れを終え、慧斗は大きくため息を吐いた。

 

 

「……一方的に送り付けといて、『君の自由だ』はないだろ」

「ん……デリカシーがない……」

 

 

 しかめ面をする慧斗の隣で、ユエも同じような感想を零した。せめて、受け取るかどうかの確認をさせる余裕があってもいいはずだが……

 渋面で顔面を固めたきり、何かを堪えるように立ち尽くす慧斗の裾を、ユエがくいくいと引いた。

 

 

「……ケイト」

「――……何だ」

「言いたいことがあるなら、言ってもいいよ」

 

 

 その一言で、慧斗の我慢は決壊した。ふう……と大きなため息を吐き、ユエに迷惑が掛からないよう距離を取ると、

 

 

「――……やっぱり裏があったじゃねえかちくしょうが――!!!」

 

 

 大絶叫した。

 

 

「なぁーにが『人間族を救うため』だ! なぁーにが『世界を救う勇者』だ! 一から十まで神サマの手の上じゃねえか! そんなもんのために何度死にかけたと思ってる!? 何度クソみたいな目に遭わされたと思ってる!? ブチ殺すぞ腐れ神に腐れ坊主共が――!!!」

 

 

 慧斗は思い切り地団駄を踏みながら叫んだ。グレートソードを振り上げ、八つ当たり気味に壁に突き立てる。手が痛くなっただけだった。

 あがあー――!! と声にならない大叫喚を上げ、その反響がわんわんと部屋中に響いた。それきり、慧斗は沈黙した。

 ひとしきり叫び終わり、がっくりと肩を落とした慧斗に向かって、ユエがふわりと浮き上がりながら近寄った。項垂れたその頭を、よしよしと優しく撫でてやる。

 

 

「……お疲れさま。よしよし」

「やめろ泣きそうになるわ」

「泣いてもいいよ?」

「マジでやめて。これまでの苦労に耐えられなくなる」

 

 

 今母性などに晒されたら、涙とか鼻水とか色々決壊しそうな気分だった。

 ともかく、ひとしきり叫んでストレス発散した慧斗は、今一度冷静さを取り戻した。

 

 

「それで……どうするの?」

「ぶっちゃけ関わりたくない」

 

 

 ユエの問いに、慧斗は八つ当たりで壁に突き立てたグレートソードを引き抜きながら言った。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

 

 

「エヒトなる邪神に目を付けられた時点で詰んでる。終わりもしない戦いに呑み込まれて、糞袋ぶちまけるまで逃げられない。帰る手段も、クソ邪神に依存しない方法はない。詰将棋の初手間違えた状態だ、もうどうにもならない。

 ――それでも、懸念があるとすれば……ふたつ、かな」

「ふたつ?」

 

 

 慧斗の不可解な言葉に、ユエは首を傾げた。

 

 

「俺さ、聖教教会との交渉やっちゃったんだよ。それで、『送り返されるまでは戦う』って条件で請けちゃったんだよ。同級生共を巻き込んでな。

 その辺の責任があるから、最低限ケツ拭かなきゃなーって思ってんだけど……さっき言った通り詰んでるから、どうしようって悩んでる」

 

 

 うーん、と慧斗は頭を掻きながら唸った。責任がどうこうと気負ったところで、とにもかくにも手段がない。この狂った異世界から逃げ出す手段も、それこそ神殺しを為す手段も。

 

 

「もうひとつは?」

「お前」

「私?」

 

 

 当然のようにユエを指す慧斗に、まさか自分のことだとは思わなかったユエは、もう一度首を傾げた。

 

 

「クソ邪神がお遊びで戦争ごっこやってると、お前の『自由な生き方』が邪魔されるだろ。それ放置すんのも忍びないよなーって。何とか邪神を始末しないと、お前の人生を謳歌させてやれないなーって」

 

 

 それは、もう二ヶ月以上前の話。「好きなように、自由に生きろ」と、ユエを励ますために送った助言。それを、この少年は未だ覚えている。

 胸の中心に暖かいものを覚えたユエは、ぎゅっと慧斗を抱きしめた。

 

 

「ケイトは、やさしい」

「えっ何それ。初めて言われたんだけど」

「みんな、節穴」

「唐突に大人数をディスるのやめてやれよ」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「それで、どうする?」

「どのスパンの話?」

「とりあえず、今この場」

 

 

 ユエの問いに、慧斗はぐるりと周囲を見渡した。“神代魔法”なるものを授けられた今、この場所にもう用はない。

 

 

「墓荒らしの続きでもやるか」

「ケイト、言い方」

「似たようなもんだろ」

 

 

 心ない言いように、今度はユエが閉口する番だった。どうしてこの子はこう……と視線を逸らした先に、オスカー・オルクスの遺骸があった。

 ただの白骨死体のはずなのに、何かが引っかかる。その正体に、やがて二人は行き着いた。

 

 

「この指輪……魔力、感じる」

「――ふぅーん?」

 

 

 ユエの言葉に、慧斗はあくどい笑みを浮かべた。

 

 

「開かずの間がいくつかあったろ。それ、持って行ってみるか」

「……死体漁り……」

「知らねえのか。こういう時は、『死人に口なし』って言うんだぜ」

 

 

 閉口するユエをよそに、慧斗は遺骨の指から指輪を引き抜いた。

 そのまま、二人は二階の書斎に戻った。封印された書棚に向けて指輪をかざすと、膜のように覆っていた封印ははらはらと崩れ、やがて跡形もなく消えた。

 

 

「……開いた……」

「ホレ、当たった」

 

 

 予感的中ににっと笑うと、慧斗は次に奥の扉へと指輪をかざした。同じように崩れ消えていく封印の先、扉の向こうは、錬金術師の工房だった。フラスコや試験管、薬品や触媒の入った瓶など、多数の実験材料が取り揃えられている。

 

 

「これは……ちょっとすごい、かも」

「錬金術師の工房ってか。そんなもんかねえ」

 

 

 思わず瞠目するユエとは裏腹に、慧斗はふーんと鼻を鳴らすだけだった。魔法使いとしての意識の差が、如実に表れた。

 しばらく中を見て回っていると、ユエが何かを見つけた。

 

 

「――ケイト!」

「どうした」

「これ、見て」

 

 

 実験台の上に置かれたそれは、一枚の紙だった。どうやらこの建物の設計図らしい。

 

 

「ここがこうだから、こうなると――あそこがそのまま『出口』になるわけだ」

 

 

 先ほどの三階の部屋、大魔法陣のことである。あれがそのまま、地上に施した魔法陣と繋がっているらしい。

 

 

「これも、その指輪が鍵みたい」

「死体漁り前提かよ。セキュリティ感覚どうなってんだ、この場所……」

 

 

 あまりにも杜撰な設計に、今度は慧斗が閉口する番だった。

 そしてもうひとつ、ユエは指輪を発見した。

 

 

「これは……」

「なに? また指輪?」

「“宝物庫”。中に、たくさんの物を収納できる」

「へー、便利いいー。貰ってくか」

 

 

 オスカー・オルクスには悪いが、ありがたく頂戴しよう。ここで腐らせておいても意味はない。

 

 

「じゃ、いろいろ分かったわけだし――しばらく、ここを拠点にするか」

「?」

「ここ最近、連戦で疲れたろ。休息には丁度いいし、準備がてら英気を養おうってな」

 

 

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