ありふれた癌 作:Matto
とにもかくにも、進まなければ話にならない。三人は松明を点けなおし、再び暗がりの洞窟に挑んだ。
しかし、とかくミレディ・ライセンの嫌がらせが凄まじい。ぐるぐる回った挙句最初の部屋に戻ること七回、致死性のトラップに遭遇すること四八回、全く意味のないただの嫌がらせ百六九回。当初こそ苛立ちを募らせていた三人だが、のべ三十回を過ぎたあたりから怒る気力もなくなり、淡々と道を歩むだけになった。疲労で思考力が低下したともいう。
それらをようやく乗り越え、最後に辿り着いた騎士像ゴーレムの部屋。ゴーレムたちは、いつの間にか元の位置に戻っている。先と全く同じ状況で、ひとつ異なることといえば――
「――今度は開いてる……?」
「どうします? また罠かも知れないですよ?」
「行くっきゃねえだろ。変化があるなら、それを見極めるだけだ」
祭壇の黄色水晶を鍵としていたはずの大扉がなく、その奥は広い通路となっていた。少なくとも、スタート地点に強制送還される心配はなさそうだ。
「とりあえず駆け足! 急いですっ飛ばすぞ!」
「あっ、ユエさんずるいですぅ! 私もだっこされたい!」
「後にしろ!」
「後ならしてくれるんですか!?」
「……それも含めて!」
慧斗はユエを抱え、部屋を突っ切るように走り出した。文句を言いながら付いていくシアとともに、部屋の中央を駆け抜けた途端、ゴーレムたちががしゃんと動き出す。しかし種が知れている以上、対応は逃げの一手だ。駆け抜けるように扉をくぐった慧斗たちは、さしものゴーレムも追って来れまいと踏んだが――
ゴーレムは何事もなかったかのように扉をくぐり、四方八方に別れて追跡してきた。そう、
「天井走り!? 何だその掟破りは!?」
「……びっくり」
「重力さん仕事してくださぁ~い!」
シアの悲鳴も知ったことかとばかりに、壁や天井に別れて迫ってくるのである。確かに魔法さえあれば壁走りも飛翔も難しくはないが、ここは相変わらず魔法無効化の空間、そして重そうな
驚愕はさらに続いた。天井を走っていた個体がぴょんと跳躍したかと思うと、急加速で迫ってきたのである。
「!?」
動揺しつつも、慧斗はグレートソードを振り下ろし、迫りくるゴーレムを両断した。一撃で真っ二つになったゴーレムは、そのまま兜、胴鎧、腕部、脚部と破片にばらけ、勢いを殺すことなく突っ込んできた。
「んっ」
「わきゃ!」
間一髪で躱したユエとシアは、それらの破片が壁や天井、床に激突しながら前方へと転がっていくのを目撃した。
「何だありゃ、まるで……」
「ん……
「重力さんが適当な仕事してるのですね、わかります」
どこでそんな表現を覚えたのか、シアが疲れた声で呟いた。なかなか正鵠を射ている、などと感心する気にもなれなかった。
それを合図とするかのように、ゴーレムたちが一斉に
「とにかく突っ走る! シア、遅れんなよ!」
「はいですぅ!」
無論、迎撃している場合ではない。鉄槌を盾替わりに構えたシアを殿に、慧斗たちは走り出した。
「ずぇいッ!」
「やぁぁっ!」
先に
飛び込んだ奥は、球状の巨大な空間になっているようだった。ブロックを繋ぎ合わせたような隙間が見える。三人は急勾配を伝いながら滑り降りていった。角度が緩やかになったところで、後を追ってきた騎士たちを飛び退いて躱していく。そこでようやく周囲を見回す余裕ができた三人は、その光景に度肝を抜かれた。
「これは……」
「あはは、常識って何でしょうね~……全部
大小、形も様々なブロックが宙を浮き、ふよふよと彷徨っている。そんな空間を、ゴーレムたちもまた縦横無尽に飛び回っていた。
「たぶん、この空間自体に魔法がかかってる……それも」
「それも?」
「たぶん、神代魔法」
ユエの推測に、なるほど、と慧斗は呟いた。神代魔法を保管し、その使い手に足るかどうか試練を与える者――候補は、ひとつしかない。
「ここに、ゴーレムを操っている主がいるってことか」
「――きっと、そう」
慧斗の言葉に、二人は表情を引き締めた。
ゴーレムたちは先ほどと打って変わって、襲ってくる様子もなく、ぐるぐると三人の周囲を旋回していた。主はどこかに隠れているのだろうか。改めて周囲を見回そうと首を巡らせた瞬間、
「逃げてぇ!」
シアの声が響いた。
慧斗とユエは即座に飛び退いた。その数メートル先、通りがかった浮遊ブロックに捕まったまま距離を取る。ユエとシアも同じように離脱していた。
――直後、三人のいた場所が衝撃を伴って砕かれた。赤熱化する巨大な何かが音速で飛来し、軌道上のブロックともども床の一部を砕いたのだ。
「助かった、シア」
「……ん、お手柄」
「えへへ、“天啓視”が発動して良かったです。代わりに魔力をごっそり持っていかれましたけど……」
“天啓視”。正式な儀式によって占う“未来視”の亜種で、直近の危機を察知することができる固有魔法。略式で速効性がある代わりに、魔力消費が激しく、連発が効かない。それでも、ほとんど不意討ちだった一撃を躱すことができたのは大きい。
慧斗は改めて砕かれた床面を見た。飛来したそれが埋もれたまま、じゅうじゅうと金属を焼く音がする。ばこん、と再び破砕音を鳴らして戻っていくそれの視線を追った先、巨大なナニカがそこにいた。
「これは、また」
「……すごく……大きい」
「お、親玉って感じですね……」
三人の前に現れたのは、宙に浮く巨大なゴーレム騎士だった。
三人を取り囲むようにゴーレムたちが飛来し、整列して敬礼をとった。まるで王とその騎士であるかのような振舞いだ。取り囲まれた慧斗たちにも、いっそう緊張感が走った。辺りに静寂が満ち、まさに一触即発の状況。誰から動くか、何から動くか。その瞬間、互いの命を懸けた決死の
『やほ~! はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~』
「……は?」
「……え?」
そんな空気を、巨体ゴーレムのふざけた挨拶が破った。
凶悪な装備と全身甲冑に身を固めた眼光鋭い巨体ゴーレムから、やたらと軽い声がする。まるで意味が分からない。ユエとシアも、包囲されていることを忘れてぽかんと口を開けている。そんな硬直する三人に、巨体ゴーレムは不機嫌そうな声を出した。声質は女性のそれだ。
『あのねぇ~、挨拶したんだから何か返そうよ。最低限の礼儀だよ? 全く、これだから最近の若者は……もっと常識的になりたまえよ』
「いやゴーレムが常識を説くな」
「……はっ!」
慧斗の反射的なツッコミに、ユエとシアが再起動した。慧斗は改めてブロックによじ登ると、巨体ゴーレムに向かってグレートソードを突き付けた。
「で? 貴様、何者だ」
『へいへぇ~い、最近の若者は耳も遠くなったのか~い? 皆大好きミレディ・ライセ――』
「それは嘘だ」
巨体ゴーレムもとい自称ミレディの言葉を、慧斗はきっぱりと否定した。
『へ?』
「オルクスの手記には、ミレディ・ライセンは人間の女として登場していた。第一、貴様のような意志を持つゴーレムなんぞ聞いたことない。
だったら――貴様か、オルクスか。どちらかが嘘をついていることになる」
『んん? 今、オルクスって言った? もしかして、オーちゃんの迷宮の攻略者?』
「オスカー・オルクスのことを指してるなら、そうだ」
『へぇ~……』
慧斗の返答に、自称ミレディは三人を値踏みするように睥睨した。何かを期待するような視線だった。……ゴーレムの感情など読めないので、あくまで推測である。
『それってやっぱり、神殺しのためかな? あのクソ野郎共を滅殺してくれるのかな? オーちゃんの迷宮攻略者なら、事情は理解してるよね?』
「それを決めるのは俺たちだ」
『……へぇ?』
慧斗の毅然とした言葉に、自称ミレディは挑戦的な態度を見せた。
「生憎、こんな異世界のために骨身を削って戦ってやる義理なんてない。クソ邪神がどんな企みをしていようと、そんなもんは知ったこっちゃない。
連中が俺たちに手を出すなら、それを叩き潰すまでの話。そうならないなら、知らん。禿猿同士、勝手に殺し合ってろ」
『へぇ……あいつ、ついに異世界にまで手を出したのかぁ~』
自称ミレディの眼光が強くなる。あくまで軽い調子の言葉は、しかし底冷えするような憎悪を感じさせた。
とはいえ、彼らと邪神の因縁に興味はない。慧斗が最優先で求めるのは、あくまでも地球に帰るための魔法だ。
『ふぅ~ん。つまり君は、私たちを
自称ミレディのねっちこい(印象を見せる)視線が、慧斗を捉えた。その言葉に、慧斗は何も返せなかった。
“解放者”オルクスの語った神代の物語を、真実と証明する手段はない。だが慧斗は、それを事実と認定し始めている。それを前提に動いている。その事実を突かれた慧斗は、話を逸らすことしかできなかった。
「いいから黙って、吐くもん吐け。貴様が何者なのか、ここにある神代魔法は何なのか」
改めてグレートソードを突き付けた慧斗に対し、自称ミレディは朗々と語り始めた。
『私は、確かにミレディ・ライセンだよ
ゴーレムの不思議は全て神代魔法で解決!
もっと詳しく知りたければ、見事私を倒してみよ!
――って感じかな』
「俺説明しろって言ったよなあ!?」
『ははは! そりゃ、攻略する前に情報なんて貰えるわけないじゃん? 迷宮の意味ないでしょ?』
「じゃあ死ね!」
いち早く飛び出した慧斗に対し、ミレディ・ゴーレムがフレイルを
重力操作の作用が慧斗たちに向かないのは幸いだ。接近戦が中心の慧斗とシアにとって、
「おりゃ!」
周囲のゴーレムが一斉に動き出した。取り囲まれたシアが、鉄槌を振り回してゴーレムたちを薙ぎ払う。超重量、加えてシアの増強された筋肉が、ゴーレムたちをまとめて粉砕した。
「せいっ!」
慧斗もまた、周囲に迫るゴーレムを叩き落しつつブロックを飛び跳ね、縦横無尽に跳ね回った。ミレディ・ゴーレムがその姿を捉えて攻撃しようとするも、慧斗はブロックを飛び跳ねながらその攻撃を凌ぎ、返礼とばかりにその装甲を斬り抉った。
『あはは、やるねぇ~、でも総数五十体の無限に再生する騎士たちと私、果たして同時に捌けるかなぁ~』
ミレディ・ゴーレムはあくまでも余裕を崩さない。その言葉通りゴーレムを巧みに操りつつ、慧斗たちに迫る。しかし慧斗は動じなかった。無限再生する以上、有象無象のゴーレムたちに用はない。遠距離攻撃手段がないなら尚更だ。むしろ足場代わりに跳躍を重ね、慧斗は目にも止まらぬ高速機動を重ねた。
それにしても、身体が軽い。身体強化を施しているとはいえ、数多のトラップから逃げ回っていた時とは大違いだ。何が起きている?
「やぁぁっ!」
そのゴーレムの群れを超えて大跳躍したシアが、ミレディ・ゴーレムに向けて鉄槌を振り下ろした。嘴側を突き立てられた左腕が、ごり、と重い音を立ててひしゃげる。ミレディ・ゴーレムは構わず腕をぶんと振るうと、シアを吹き飛ばした。
「きゃぁああ!!」
「シア!」
悲鳴を上げながら吹き飛んだシアは、しかし空中で身を翻すと、だんとブロックの一角に着地した。あの適応力は、鬼教官ユエのしごきで鍛え上げられたものだろうか。
ゴーレムたちがユエに迫りくるのを見て、慧斗とシアは同時に飛び出した。魔法が使えないユエには、迎撃能力がほとんどない!
「――ユエ!」
「ユエさん!」
一方、ユエは回避行動のひとつも見せることなく、悠然と立っていた。
「耳、塞いで」
「え?」
「“絶叫”」
慧斗が咄嗟に耳を塞いだ瞬間、ユエの口から重い衝撃が放たれた。びりびりと響き渡る衝撃がゴーレムたちをまとめて破砕し、勢いよく吹き飛ばした。
「……さすがだな」
「むふー」
耳から手を離した慧斗の言葉に、ユエは得意げな表情を見せた。
一方、反応に遅れたシアはしっかり耳をやられてしまったようで、ひぃぃと悲鳴を上げながら蹲っていた。
「ウサミミがぁ~、私のウサミミがぁ~!!」
「だから耳塞げって言ったろ……」
「え、何ですか? 聞こえないですよぉ」
「……ホント、残念ウサギ……」
シアの耳には、きぃーんという甲高い残響が残るばかりだった。しばらく聴覚には頼れないだろう。何とか復活するまでフォローしてやるか、うっかり被弾しないことを祈るしかない。
『ふぅ~ん、少しはやるみたいだねぇ~』
一方、ミレディは悠々とそれを眺めつつ、破砕されたゴーレムを再構築し始めた。再構築の速度が向上したわけではないが、障害物の減衰にさえならないのはもどかしい。
「くそったれ――きりがねえ!」
「
慧斗が歯噛みする一方、ユエは静かに宣言した。この大峡谷に入って以来ずっと燻っていた戦意を漲らせ、ミレディ・ゴーレムを力強く見据える。
『ちっちっち~、虚勢を張っても――』
「虚勢は、そっち」
『んん?』
甘い甘い、と嘲笑おうとしたミレディ・ゴーレムは、しかしユエの言葉に引っかかった。
「ここでは、魔法の分解効果が働かない。
「――なるほど、そりゃいいことを聞いた!」
にっとあくどい笑みを浮かべた慧斗は、左手を突き出し詠唱を始めた。
「
破片と塵を巻き上げながら、ごおと渦巻く巨大な嵐が生じる。それはゴーレムと浮遊ブロックを巻き込み、重力を無視してぐるぐると巻き上げた。
――その断片を飛び跳ねながら、シアが再び跳躍した。狙いは一点、嵐に目を晦ませたミレディ・ゴーレムの
『見え透いてるよぉ~』
「くぅ、このっ!」
しかし、横合いから
「“破断”」
ユエの指先から流水の斬撃が溢れ出し、ミレディ・ゴーレムの脚を切り裂いた。ぐらりとバランスを崩したミレディ・ゴーレムの眼前に、黒鉄のグレートソードを振り上げた慧斗。
「ふぅんッ!」
慧斗の振り下ろしがミレディの甲冑に食い込み、その一部が斬り裂かれた。両断にはとても至らない浅い斬撃だが、まさかこの一撃での勝利は期待していない。
「――見えた! 左胸!」
慧斗の目が、甲冑の奥に光るものを捉えた。ゴーレムの急所、魔力核である。
あとは攻撃を集中させ、核を露出させて破壊するだけだ。ユエも戦力となる以上、勝率はぐっと上がる。慧斗とシアはいよいよ激しい機動を重ね、ミレディ・ゴーレムを撹乱した。
「“緋槍”」
ユエの放った火焔の槍がミレディ・ゴーレムの胸に衝突し、爆発を起こしてその装甲を剥いだ。そこには、露出した球状の輝き。ミレディ・ゴーレムの急所を隠すものは、いよいよなくなった。
好機とばかりに慧斗が飛び出す。グレートソードを掲げ、一気に振り下ろそうとした慧斗は――
「!?」
『操れるのが騎士だけとは一言も言ってないよぉ~』
視界外からぎゅんと迫りくる浮遊ブロックに叩き落とされそうになり、慌てて機動を逸らして回避した。
いよいよ弱点が露わになったミレディ・ゴーレム、ただで攻撃されるつもりはないようだ。飛来する浮遊ブロックと挟み込むように迫る赤熱の右手を回避しながら、慧斗は慎重に機会を伺った。
「“凍獄”」
同じように迫りくる浮遊ブロックに対し、ユエは氷の花で周囲を凍り付かせた。自在に動く浮遊ブロックも、氷で固定されては容易に動かせまい。
その隙を縫って、再びシアが吶喊した。そこに、ミレディ・ゴーレムが赤熱の右手を突き出す。
『パワーでゴーレムが負けるわけないよぉ~』
シアの鉄槌と、ミレディ・ゴーレムの右手が衝突し、轟音とともに衝撃波を撒き散らした。その余波で周囲の浮遊ブロックが吹き飛んでいく。
「このぉぉ!」
気合を入れて押し込もうとするシア。しかし絶対的な体格差を前に、力負けしたのはシアの方だった。
「きゃああ!!」
鉄槌ごと赤熱の右手に殴りつけられ、悲鳴を上げながら吹き飛んでいくシア。その先に浮遊ブロックはない。あわや壁に衝突、という時に、
「“風壁”」
「ありがとうございます!」
ユエが風の障壁を展開し、その衝撃を和らげた。そこに向けて、ミレディ・ゴーレムがフレイルを
――その集中が仇となった。たまたま近くに引き寄せていた浮遊ブロックのひとつに、慧斗が立っていた。彼はグレートソードをぐっと横薙ぎに構えると、核めがけて一気に薙ぎ払った。
「――
『中々のコンビネーションだねぇ~』
がぃぃん、と甲高い音を立てて弾かれた。ミレディ・ゴーレムが赤熱の右手で掴もうとするのを飛び退き、離れた浮遊ブロックへと退避する。
慧斗の視界の先、核の周囲を黒い装甲が覆っていた。黒曜石のような漆黒の輝きに、慧斗は思い当たるものがあった。
「――アザンチウムか……!」
『おや? 知っていたんだねぇ~、ってそりゃそうか。オーくんの迷宮の攻略者だものねぇ、生成魔法の使い手が知らないわけないよねぇ~』
世界最高の硬度を誇る鉱石、アザンチウム。生成魔法の使い手オルクスの研究記録にあったそれは、世界で最も加工が難しい鉱石である一方、単体で最上位防御魔法である“金剛”をも超える頑強さを誇る。こんなものできっちり防御されていては、容易に突破できない。
『さぁさぁ、程よく絶望したところで、第二ラウンド行ってみようかぁ!』
「――ケイトさん、ユエさん! 避けてぇ!
シアが叫んだ途端、空間全体が鳴動し始めた。低い地鳴りのような音が響き、天井からパラパラと破片が落ちくる。破片だけではない。天井そのものが崩落しようとしているのだ。
「――まさか!」
『ふふふ、お返しだよぉ。騎士以外は同時に複数を操作することは出来ないけど、ただ一斉に
得意げなミレディ・ゴーレムの挑発に、慧斗はどうすべきか判断に迷った。球状空間の全体を覆うブロックは、その一つ一つがトン単位の超重量を誇る。それが一斉に振り落とされれば、ひとたまりもない。
ユエの魔法に頼る? 駄目だ、重すぎて逸らし切れない。慧斗と連携する? 駄目だ、慧斗程度の技量では焼け石に水だ。
どうする。何をする。何なら凌げる。やれることは何だ――
「二人とも集まれ!」
慧斗は反射的に叫んだ。地面に降りた慧斗に駆け寄った二人を、慧斗は抱きしめたまま蹲った。その頭上から、巨岩が雨霰と降り注ぐ。
轟音とともに、三人は巨岩に埋まった。少なくとも、それを見ていたミレディ・ゴーレムにはそう見えた。悪あがきを試みたようだが、流石にあの大質量の雨は凌ぎきれなかったか。僅かな落胆とともに、巨石群にかけていた“落下”を解いた。
『……う~ん、やっぱり無理だったかなぁ~、でもこれくらいは何とかできないと、あのクソ野郎共には勝てないしねぇ~』
巨石群の落下に呑み込まれ、地に落ちていた浮遊ブロックが、天井の残骸とともに浮かび上がる。そこには当然、三人の潰れた死体が――
『――Aaaaaaahhhhhh――!!』
『!?』
澄んだ大叫喚とともに膨大な魔力が噴き出し、巨岩とブロックが吹き飛んだ。
ずわりと、空間を覆い尽くすような無色の魔力が拡がっていく。その中心にいるのは――全身に赤黒い線を走らせ、眼窩を反転させながら叫喚を上げる慧斗。
神代魔法――違う。それよりも荒い。粗暴で、単純で、純粋な力の流動。
『轤弱?讒阪h縲∵?縺梧雰繧定イォ縺――“緋槍”!』
無色の魔力に浮遊ブロックや騎士ゴーレムが押し退けられる中、慧斗のグレートソードの先に、火焔の槍が迸った。本来、そのまま飛翔していくはずのそれは――
『縺ェ縺顔㏍縺医h縲√%縺ョ謇九↓!』
グレートソードに宿ったまま、その輝きを増していった。
慧斗が大跳躍した。その先には、露出したミレディ・ゴーレムの核。中空で浮遊ブロックを踏みしめた慧斗は、真正面から突進した。
音速を超える突進がミレディ・ゴーレムに衝突し、極大の衝撃とともに緋炎が炸裂した。光が晴れた後――アザンチウムの装甲を突き破り、核へと突き立てられたグレートソードがあった。
しかし、ミレディ・ゴーレムの目から光は消えない。がたがたとスパークを散らしながらも、確かに床を踏みしめて立っている。
『ハ、ハハ。どうやら未だ威力が足りなかったようだねぇ。だけど、まぁ大したものだよぉ? 四分の三くらいは貫けたんじゃないかなぁ?』
「――ま、充分だろ」
辛うじてせせら笑うミレディ・ゴーレムに対し、慧斗はだんと着地しながら言い放った。その姿は、元の人間の姿に戻っている。
「“凍柩”」
『くっ……こんなの――』
ユエの手から放たれた氷の花が、ミレディの全身を凍り付かせた。力尽くで振り解こうとしたミレディ・ゴーレムは、ひとつの姿を見落とした。
「――残りは任せたぜ、
最後の力を振り絞った慧斗のトスで跳び上がり、鉄槌を振りかぶるシアの姿を。
「あぁあああああ!!」
力いっぱい振りかぶったシアの一撃が、刺さったままのグレートソードを押し込んだ。ばきり、と感触が返ってきた。まだ足りない。鉄槌の柄を軸に、シアは空中で身を捻り、ハンマーヘッドへと蹴りを叩き込んだ。
ばきん、と甲高い音を立てて、グレートソードが貫通した。ミレディ・ゴーレムの胴を貫いた黒鉄の大剣が、その向こう側の空間に突き飛ばされ、かつんと軽い音を立てて転げ落ちる。
がくん、と揺れた後、ミレディが墜落した。糸が切れた人形のように、がっくりと膝を折り、そしてどうと轟音を立てて倒れた。
「やりました!」
一歩遅れて着地したシアが、二人に向けてピースを決めた。
技能:
固有魔法:魔力放出
魔力を放出し『本来の姿に戻る』ことで、全能力を向上させると同時に、周囲の空間を支配する。