ありふれた癌   作:Matto

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13:やめておけ!俺はやった!

「――いややりすぎ! 全損じゃねえかこいつ!」

「えぇっ!? そんなぁ、私は指示通りにやったのにぃ!」

 

 

 慧斗の罵声に、シアは悲鳴を上げた。確かに細かく伝達される余裕はなかったが、それでも言われた通り攻撃し、言われた通り核を貫いたはずだ。まさか怒られるなんて!

 

 

「――というわけで、遺言があるなら聞くけど」

『あは~、バレちゃってたかぁ~』

 

 

 グレートソードを拾いながら放たれた慧斗の言葉に、ユエとシアはばっと振り向いた。壊れたように眼を明滅させるミレディ・ゴーレムから、聞き慣れた声がする。思わず身構えるユエとシアとは対照的に、慧斗はグレートソードを担ぎ直すだけだった。

 

 

『ちょっと、ちょっと、大丈夫だってぇ~。試練はクリア! 君たちの勝ち! 核の欠片に残った力で少しだけ話す時間をとっただけだよぉ~、もう数分も保たないから』

「だったらせいぜい語るといいさ、“反逆者”。お前たちの末路を、その悔恨とやらを」

 

 

 慧斗の言いように気分を害したのか、ミレディがふんと不機嫌そうな声を上げる。そっぽを向く機能はもう残っていなかった。

 

 

『――ふーんだ。そういう言い方をするってことは、やっぱり“そっち”側なんだね』

「そっち? どっちです?」

「……この残念ウサギ」

「何で!?」

「神の手先だって言いたいんだろうさ」

 

 

 首を捻るシアと、悪口を浴びせるユエを横目に、慧斗はふんと鼻を鳴らした。

 

 

「信じる信じないは、興味ない。もう滅ぶやつの感想なんてな。

 どのみち、お前たちは“反逆者”だ。たとえ“解放”の意志が、その物語が本物だったとしてもな」

『……へぇ……?』

 

 

 慧斗の意外な論理展開は、ミレディの興味を引いた。

 

 

「邪神共がその通りの魂胆だったとして、それを斃したとして――その後はどうなる? 信仰と秩序を失った人々はどうなる? お前たち、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その結果が、俺たち“地球”の歴史だ。ありもしない秩序を妄信し、勝手な理想を掲げて他者を弾圧し、好き勝手に殺し合うだけの修羅道だ。

 お前たちが護りたかった、お前たちが殺せなかった『弱き人々』を、無秩序な世界に放りだすだけの蛮行だ。お前たちの企みは、『秩序への反逆』に他ならない」

 

 

 そんな慧斗の言葉を、ミレディは否定しなかったが――

 

 

『でもさぁ――その“弱き人々”を戦に駆り立てているのは、そのクソ神共が作った秩序なんだよ』

「…………ま、違いないわな」

 

 

 代わりに放った言葉は、慧斗の反論を奪った。

 どう転んでもどん詰まりだ。神様が敷いた秩序の中で戦わされるか、神様のいない無秩序の中で殺し合うか。その果ての滅びがいつになるかなど、誰にも分からない。

 

 

「だから関わらない。邪神共の思惑があろうがなかろうが、どうせ勝手に殺し合う禿猿共だ。いちいち干渉しない。

 俺たちは、俺たちのささやかな平穏のために戦う。俺の戦場は、俺が決める」

 

 

 きっぱりと言い放った慧斗の言葉に、ミレディは一瞬呆けた。

 正義ではない。大義ではない。ただ、生きていくために戦う。仁も義もない言葉は、しかしミレディをして認めさせたようだ。

 

 

『いーいなぁ、そんな格好いい台詞! 私も一度くらい言ってみたかったぁ~』

「無理じゃない?」

 

 

 一抹の後悔を込めた、しかしどこか振り切ったような言葉を、ユエが否定した。

 

 

「あんな嫌がらせばっかり。何がしたかったの」

『あはは、ごめんね~。でもさ……あのクソ野郎共って……ホントに嫌なヤツらでさ……嫌らしいことばっかりしてくるんだよね……だから、少しでも……慣れておいて欲しくてね……』

「知らねえっ()ったろ」

『……きっと、君は戦うよ。君が君である限り、必ず――君は、神殺しを為す』

 

 

 あくまでも持論を譲る気はないようだ。反論も面倒臭くなった慧斗は、黙ってかぶりを振ることしかできなかった。

 

 

『ふふ……それでいい……君は君の思った通りに生きればいい……君の選択が、きっと……この世界にとっての、最良だから』

 

 

 『最良』――それはまた、随分な重荷を背負わされたものだ。ただの学生上がりの慧斗の肩には、あまりにも重い。

 

 

『じゃあ、忠告だよ。必ず全ての迷宮を訪れて、私たち全員の神代魔法を手に入れること……君の望みのために必要だから……』

「その迷宮の位置が分からないんですけどぉ……」

『あぁ、そうなんだ……そっか、迷宮の場所がわからなくなるほど……長い時が経ったんだね……うん、場所……場所はね……』

 

 

 シアの言葉に、ミレディはぽつぽつと、残りの七大迷宮の所在を語り始めた。いよいよ、ミレディ・ゴーレムの声が力を失いつつある。どこか感傷的な響きが含まれた声に、ユエやシアが神妙な表情を浮かべた。長い時を、使命あるいは願いのために、意志が宿る器を入れ替えてまで生きた者への敬意を抱いていた。

 

 

『以上だよ……頑張って、ね』

 

 

 いつしか、ミレディ・ゴーレムの体は燐光のような青白い光に包まれていた。その光が蛍火のごとく、淡い小さな光となって中天へと登っていく。まさに死した魂が、天へと召されていくような光景だった。

 おもむろに、ユエがミレディ・ゴーレムの傍へと近寄った。既にほとんど光を失った眼を、じっと見つめる。

 

 

「――おつかれさま。よく頑張りました」

『――……ありがとね』

 

 

 それは労いの言葉。たった一人、深い闇の底で希望を待ち続けた偉大な存在への、今を生きる者からのささやかな贈り物。ミレディにとっても意外な言葉だったのだろう。呆然としたミレディは、やがて穏やかな声で礼を述べた。

 遥かに年下の者からの言葉としては、不適切かもしれない。だがこれ以外の言葉を、ユエは思いつかなかった。

 

 

『……さて、時間の……ようだね……君たちのこれからが……自由な意志の下に……あらんことを……』

 

 

 オスカーと同じ言葉を遺すと、“解放者”ミレディは淡い光となって中天へと消えた。辺りを静寂が包み、余韻に浸るようにユエとシアが光の軌跡を追って中空を見上げる。

 

 

「……最初は、性根が捻じ曲がった最悪の人だと思っていたんですけどね。ただ、一生懸命なだけだったんですね」

「……ん」

 

 

 どこかしんみりとした雰囲気で、ユエとシアが言葉を交わす。そんなものだろうか、と慧斗はいまひとつ乗れなかった。

 

 

「――さてまあ、やることやるか」

 

 

 とにかく、ここでやるべきことはあとひとつ。ミレディ・ライセンの住処に辿り着き、その神代魔法を手に入れることだ。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 首を巡らせた慧斗は、上方の壁の一角が光を放っていることに気付いた。三人は浮遊ブロックを足場に跳んでいこうと、その一つに飛び乗った途端、ブロックがすいと動き出し、光る壁まで運んでいった。

 

 

「わわっ、勝手に動いてますよ、これ。便利ですねぇ」

「……サービス?」

 

 

 まるで勝手に運んでくれるような浮遊ブロックの動きに、シアとユエが驚きの顔を見せるが、慧斗は何か厭な予感を覚えた。ふわりと光る壁の前まで進むと、壁はすらりと手前に抜き取られ、その奥にある白壁の通路へと動き出した。

 どうやらミレディ・ライセンの住処まで乗せて行ってくれるらしい。進路の先に、“解放者”たちの七つ文様が描かれた壁があった。これも見計らったかのように横へ埋まり、浮遊ブロックは止まることなく壁の向こう側へと進んでいった。

 くぐり抜けた壁の向こう、白い部屋には、

 

 

『やっほー、さっきぶり! ミレディちゃんだよ!』

 

 

 小さなミレディ・ゴーレムがいた。

 唖然として言葉もないユエとシアを横目に、慧斗は「結局こんなオチかあ~」と天井を仰いだ。薄々厭な予感がしていたが、まさかあの巨躯すら遠隔操作だったとは。

 

 

『あれぇ? あれぇ? テンション低いよぉ~? もっと驚いてもいいんだよぉ~? あっ、それとも驚きすぎても言葉が出ないとか? だったら、ドッキリ大成功ぉ~だね☆』

 

 

 乳白色のローブに白い仮面をつけたミニ・ミレディ・ゴーレムは、文字通り貼り付けた笑顔で三人に近寄った。喜色満面のにっこりマークなのが余計腹立たしい。

 ユエとシアが、ぼそりと呟くように口を開いた。

 

 

「……さっきのは?」

『ん~? さっき? あぁ、もしかして消えちゃったと思った? ないな~い! そんなことあるわけないよぉ~!』

「でも、光が昇って消えていきましたよね?」

『ふふふ、中々よかったでしょう? あの()()! やだ、ミレディちゃん役者の才能まであるなんて! 恐ろしい子っ!』

 

 

 うふふ一人悦に浸るミレディは、やがて二人の顔から、あらゆる感情が剥がれ落ちていることに気付いた。

 

 

『……え、え~と……』

 

 

 ようやく自分の過失を、起こしてはいけない怒りを呼び起こしたことに気付いたらしい。ふらりふらりと揺れながら迫りくる二人に、ミレディができることといえば、

 

 

『テヘ、ペロ☆』

「死ね」

「死んで下さい」

『ま、待って! ちょっと待って! このボディは貧弱なのぉ! ラーくん特製のこれが壊れたら本気でマズイからぁ! 落ち着いてぇ! 謝るからぁ!』

 

 

 ただひたすらに逃げ惑うことだけだった。

 ぼかぼかと衝撃が走り、白い部屋がしばらく揺れた。特に感慨の無かった慧斗は、ただのんびりと眺めるだけだった。

 

 

「ほれ、その辺にしとけ。そいつ殺したら神代魔法が手に入らんだろ」

「ケイトどいて、そいつ殺せない」

「退いて下さい、ケイトさん。そいつは殺ります。今、ここで」

「だから殺したらあかんっちゅーに」

 

 

 いい加減眺めるのも飽いた慧斗だったが、二人は未だ納得いかないようで、慧斗の背後でがくがくと震えるミレディを追い立てようとしている。説得にたっぷり十分要した。

 

 

「それで? お前は結局、何者なんだ?」

『私は私、ミレディ・ライセンだよぉ~。ラーくん特製の魔法で、魂をゴーレムに定着してもらったんだぁ~』

「本人には違いないってか。『ラーくん』ってのは?」

『そこまでは教えてあげな~い。頑張って残りの迷宮を攻略してね~』

 

 

 肝心な情報を伏せるミレディに、再び二人が構えかけたので、慧斗は慌てて止める羽目になった。迷宮の場所を教えてもらった以上、そこに行けば別の情報が手に入るだろう。

 

 

『じゃあ気を取り直して――神代魔法のお披露目だよぉ~!』

 

 

 ミレディの言葉と共に、白い部屋に黒い魔法陣が輝いた。脳裏に刻まれていく疼痛が止むと、三人はその魔法の正体を看破した。

 

 

「これは……なるほど、重力操作の魔法か」

「知ってた」

『そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね! ――といっても、君とウサギちゃんは全然適性ないなぁ~』

「まあ知ってた」

「えぇ~!? 私、すっごく頑張ったのにぃ!」

『まぁ、ウサギちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。金髪ちゃんは適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるよ』

 

 

 順当といえば、順当な結果である。そもそもの魔法適性を考えれば、シアは使えるだけマシといったところだろう。慧斗自身はまともに使いこなせる気がしない。

 

 

『それと、こっちは迷宮攻略の証ね。なくさないでよぉ~』

「あいよ」

 

 

 ミレディが寄越した指輪を受け取ると、慧斗はユエの持つ“宝物庫”へとしまい込んだ。これで、二つ目。

 

 

『じゃあ、事も済んだところで――』

「?」

 

 

 ミレディは、いつの間にか天井からぶら下がっていた紐を掴み、ぐいと下に引っ張った。

 途端、四方の壁から水が溢れ出した。鉄砲水の様に吹き出す大量の水が、瞬く間に部屋の中を激流で満たす。同時に、部屋の中心から魔法陣が消え、蟻地獄のように床が沈んだ。その中心にあるのは蟲ではなく、ぽっかりと空いた穴。

 

 

『嫌なものは、水に流すに限るよね☆』

「てめえに好き嫌いが言えた口か!?」

 

 

 にっこりマークのまま言い放ったミレディの言葉に、いよいよ慧斗も罵声を浴びせた。

 

 

「“来しょ――」

『させなぁ~い!』

 

 

 咄嗟に“来翔”で全員を飛び上がらせようとしたユエを、ミレディが素早く重力魔法で遮った。上から強引に蓋を被せられるような負荷が、流される慧斗たちから反抗の手段を奪う。

 

 

「ぎゃぁぁぁあああああ~~~っ!?」

 

 

 大絶叫を上げて呑み込まれていく慧斗たちを、小さなミレディ・ゴーレムが手を振りながら見送った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 ブルックへと続く街道のひとつを、一台の幌馬車(キャラバン)が緩やかに走っていた。

 

 

「ソーナちゃぁ~ん、もうすぐ泉があるから其処で少し休憩にするわよぉ~」

「了解です、クリスタベルさん」

 

 

 ブルックの服飾店店主クリスタベルと、マサカの宿の看板娘ソーナ・マサカである。それぞれの用事で隣町に出かけた二人は、護衛に雇った冒険者三人とともに、帰路についている最中だった。

 ブルックの町まであと一日といったところ。一行は、街道の傍にある泉で休憩を取ることにした。泉に到着したクリスタベルたちが、馬に水を飲ませながら自分たちも泉の畔で昼食の準備をする。ソーナが泉の傍で水を汲もうと甕を泉に浸けたその瞬間、泉の中央がごぼごぼと音を立てながら泡立ち、一気に水が噴き出し始めた。

 

 

「きゃあ!」

「ソーナちゃん!」

 

 

 思わず腰を抜かしたソーナを、咄嗟にクリスタベルたちが庇う。その間にも水柱はどんどん巨大化していき、呆然とする一行を濡らした。いよいよ五メートルに達しようかという時、

 

 

「どおうわあああーー!?」

 

 

 悲鳴とともに、三つの人影が吹き飛ばされた。

 ライセンの大迷宮から流されてきた慧斗たちである。流されるがまま噴き上げられた三人は、受け身も間に合わず、どっぼーんと泉に墜落した。

 

 

「げっほ、がほっ」

 

 

 しばらくあって、慧斗とユエが岸辺に辿り着いた。

 

 

「二人とも、無事か?」

「……ん、大丈夫」

 

 

 ぜーはーと荒い息を吐きながら、二人は岸に這い上がったが――

 

 

「……シア? シア、どこだ!」

 

 

 一人、いない。三人同時に流された以上、到達点は同じはずだ。

 

 

「まさか――」

「俺が見てくる!」

 

 

 泉の方を見、思わず青ざめるユエを置き去りにすると、慧斗はグレートソードだけ置いて泉に飛び込んだ。

 案の定だ。慧斗が潜り込んだ先、シアは苦しそうに藻掻いていた。鉄槌が水草に絡まって動けないらしい。

 

 

(ちっ――普通に帰せよ、あのクソ!)

 

 

 心の中でミレディに罵声を浴びせながら、剣鉈で強引に水草を切り、シアと鉄槌の両方を抱えて浮かび上がる。ぷは、と息を吐いたのは慧斗一人だった。

 急いで岸に辿り着き、シアを横たえる。その豊かな胸は、しかし呼吸運動をしていなかった。

 

 

「息をしてない……!」

「落ち着け、人工呼吸だ!」

 

 

 顔面蒼白になるユエをやや強引に押し退け、慧斗はシアに唇を重ねた。

 

 

「け、ケイト……!?」

 

 

 驚愕するユエの横で、慧斗はシアの唇越しに呼気を押し込んだ。柔らかな感触を味わっている暇はなかった。

 人工呼吸の知識は知っているが、実践したことはない。頭を持ち上げ、顎を反らせて喉を開き、押し込むように息を吐く――

 

 

「ケホッ、ケホッ!」

 

 

 何度か繰り返したのち、ようやくシアが息を吹き返した。ごほごほと肺と気管に入った水を吐き出し、苦しそうに蹲る。

 

 

「目が覚めたか、この駄ウサ――んっ!?」

 

 

 悪態を吐きつつ、ようやく安堵した慧斗は、突然抱き着いたシアに反応できなかった。

 

 

「んー!? んんんんん!?」

「あむっ、んちゅ」

 

 

 そのまま強引に唇を重ねられ、舌を絡ませて接吻を続ける。同じようにびっくりしたユエも、咄嗟の事態に動けなかった。

 

 

「わっわっ、何!? 何ですか、この状況!? す、すごい……濡れ濡れで、あんなに絡みついて……は、激しい……お外なのに! ア、アブノーマルだわっ!」

 

 

 その一部始終を見ていたソーナが、興奮しながらその様子を見守る。

 理性を取り戻したユエが怒気とともに立ち上がり、いよいよ魔法を放とうとしたその瞬間、慧斗がシアの形の良い尻をむんずと掴んだ。

 

 

「あんっ!?」

 

 

 予想外の攻撃に、シアが思わず嬌声を上げる。そのまま愛撫――とはならず、ぐいとシアの体を持ち上げた慧斗は、そのままシアを全力で投げ飛ばした。

 

 

「うきゃぁああ!」

 

 

 高い高い弧を描いたシアが、どっぼーんと泉に墜落する。

 

 

「ふざけんな、この発情ウサギ!」

「ケイトが悪い。淫乱」

「何でもかんでも俺のせいにしたら解決すると思うなよ!?」

 

 

 慧斗が思い切り罵声を浴びせる一方、ユエはそんな慧斗をじろりと睨んだ。

 

 

「うぅ~、酷いですよぉ~! ケイトさんの方からしてくれたんじゃないですかぁ~!」

「医療行為だっつーの!」

 

 

 一方、今度は無事に浮き上がってきたシアが、ぶつくさと不満を垂らしながら岸を上った。慧斗はもう一度蹴り落としてやりたい衝動に駆られた。

 

 

「実は意識が戻ってたとか言ったら殺すぞ」

「う~ん? いや、なかったと思うんですけど……何となく分かりました。ケイトさんにキスされてるって。うへへへへ」

「その気色悪い笑い方止めろ。百年の恋も冷めるわ」

 

 

 だらしない顔で笑うシアに、慧斗はもう何と声を掛ければいいか分からなかった。先ほど溺れかけた癖に、何とも元気のあるウサギだ。

 

 

「緊急時だったんだから仕方ねえだろ。含むところなんかねえ」

「そうですか? でも、キスはキスですよ。このままデレ期に突入ですよ!」

「そんなもんねえわ」

 

 

 きゃいきゃいとはしゃぐシアをよそに、慧斗はどっかりと腰を下ろした。どっと疲労が襲ってきた気分だった。

 ……とそこで、こちらをずっと見守るクリスタベルたちの存在に気付いた。

 

 

「お、お邪魔しましたぁ! ど、どうぞ、私たちのことは気にせずごゆっくり続きを!」

「待て。やめろ。何を吹聴する気だ!」

 

 

 興奮気味のソーナと、それを追い掛け回す慧斗との鬼ごっこがしばらく続いたことを、語るべきか、どうか。

 

 

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