ありふれた癌   作:Matto

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04:湖畔の町

「はぁ、今日も手掛かりはなしですか……清水君、一体どこに行ってしまったんですか……」

 

 

 湖畔の町、ウル。肩を落として表通りを歩くのは、生徒たちとともに召喚された教員、畑山だった。

 

 

「愛子、あまり気を落とすな。まだ、何も分かっていないんだ。無事という可能性は十分にある。お前が信じなくてどうするんだ」

「そうですよ、愛ちゃん先生。清水君の部屋だって荒らされた様子はなかったんです。自分で何処かに行った可能性だって高いんですよ? 悪い方にばかり考えないでください」

 

 

 落胆する畑山を、愛子専属護衛隊隊長のデビッドと生徒の園部(ソノベ)優花(ユウカ)が励ました。その後に続く神殿騎士たちと生徒たちも、口々に畑山を気遣うような言葉をかけた。

 ウルの町近郊の農地調査と改善作業に取り組んでいた畑山とその護衛隊、そして生徒たちが独自で結成した『愛ちゃん護衛隊』は、ひとつの騒動に遭遇していた。生徒の一人、清水(シミズ)幸利(ユキトシ)が行方不明になったのである。畑山らは八方手を尽くして清水を探したが、その行方は杳として知れず、すでに二週間が経過している。当初こそ大騒ぎになったが、“天職:闇術師”である清水がその辺りの破落戸(ゴロツキ)に襲われるとは思えず、今では自発的な失踪と考えられていた。

 次々と掛けられる気遣いの言葉に、畑山は自分を叱咤した。生徒を守るべき教師が、生徒を気遣わせることなどあってはならない。彼女は両手で己の頬を叩くと、ぐっと気を取り直した。

 

 

「皆さん、心配かけてごめんなさい。そうですよね。悩んでばかりいても解決しません。清水君は優秀な魔法使いです。きっと大丈夫。今は、無事を信じて出来ることをしましょう。

 とりあえずは、本日の晩御飯です! お腹いっぱい食べて、明日に備えましょう!」

 

 

 半ば無理矢理に元気を出してそう言うと、畑山らは宿に戻った。『水妖精の宿』なる、この町で最高級の宿だ。数多くの農地改善の成果から“豊穣の女神”と祭り上げられた畑山は、このように最高級の宿をあてがわれるほどの好待遇を受けていた。

 いつも通り、全員が一番奥のVIP席に座り、夕食に舌鼓を打っていると、オーナーたる老翁がやってきた。

 

 

「皆様、本日のお食事はいかがですか? 何かございましたら、どうぞ、遠慮なくお申し付けください」

「あ、オーナーさん」

「いえ、今日もとてもおいしいですよ。毎日、癒されてます」

 

 

 生徒や畑山の言葉ににっこりと笑うと、しかしオーナーの表情が憂いを帯びた。

 

 

「実は、大変申し訳ないのですが……香辛料を使った料理は今日限りとなります」

「えっ!? それって、もうこのニルシッシル食べれないってことですか?」

「はい、申し訳ございません。何分、材料が切れまして……いつもならこのような事がないように在庫を確保しているのですが……ここ一ヶ月ほど北山脈が不穏ということで、採取に行くものが激減しております。

 つい先日も、調査に来た高ランク冒険者の一行が行方不明となりまして、ますます採取に行く者がいなくなりました。当店にも次にいつ入荷するかわかりかねる状況なのです」

「あの……不穏っていうのは、具体的には?」

「何でも魔物の群れを見たとか……北山脈は山を越えなければ比較的安全な場所です。山を一つ越えるごとに強力な魔物がいるようですが、わざわざ山を越えてまでこちらには来ません。

 ですが、何人かの者がいるはずのない山向こうの魔物の群れを見たのだとか」

「それは、心配ですね……」

 

 

 畑山が不安そうな声を上げる。残りの者も沈んだ様子だ。オーナー「食事中にする話ではありませんでしたね」と切り替えると、ひとつの朗報を伝えるべく続けた。

 

 

「しかし、その異変ももしかするともうすぐ収まるかもしれませんよ」

「どういうことですか?」

「実は、今日にでも新規のお客様が宿泊にいらっしゃる予定なのですが、何でも先の冒険者方の捜索のため北山脈へ行かれるらしいのです。フューレンのギルド支部長様の指名依頼らしく、相当な実力者のようですね。もしかしたら、異変の原因も突き止めてくれるやもしれません」

 

 

 それに示し合わせたかのように、からからとドアベルが鳴った。

 

 

「しかし、こんな高級店を指定されてもねえ……」

「まだ気にしてるの?」

「いいじゃないですか、お金はギルドで持ってくれるんですし」

 

 

 男一人に女二人の若い三人組のようだ。どこかで聞き覚えのある声に、生徒たちは小さな違和感を抱いた。

 

 

「おや、噂をすれば。きっと彼らですよ、騎士様。もしお話になるのでしたら、今のうちがよろしいかと」

「そうか、わかった。しかし、随分と若い声だ。『金』に、こんな若い者がいたか?」

 

 

 神殿騎士たちは、その声音に奇妙さを覚えた。『金』といえば冒険者ランク最高であり、その道数十年の限られたベテランがようやく到達する域だ。まだ若さの残る青年たちが獲得しうる領域ではない。

 そんな会話は露知らず、カウンターに戻ったオーナーに向けて、その声は再び発せられた。

 

 

「あんたが店主か? 俺は()()()()、フューレンのギルド支部長よりの使いで来た。これが紹介状だ」

「ええ、はい。確かに承りました」

「さっそくで悪いが、食事の用意を頼めるか? ニルシッシルとやらが美味いと聞いているが」

「ああ、それなんですが……」

 

 

 生徒の一人、相川が反射的にカーテンを開いた。その向こう、カウンターに立っていたのは――

 

 

「――ほ、穂崎……!?」

「……んん? ――相川?」

 

 

 男こと慧斗は、見覚えのある顔に首を傾げた。何故こんなところで? というのは、お互いが同時に抱いた感想だった。

 その姿に度肝を抜かれたのは、相川だけではない。残りの生徒たちや畑山も、愕然とするばかりだった。

 

 

「ほ、穂崎君!?」

「センセまで。何してんの、ここで?」

 

 

 当の慧斗といえば、不思議そうに首を捻るだけだった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「……というわけで、みんな心配していたんですよ。みんなのために頑張ってくれた穂崎君のことを」

「そりゃどうも」

 

 

 畑山らのVIP席に強引に連れ込まれた慧斗たちは、ひとまず料理を食いながら畑山の話を聞いていた。腹が減っていたので、返答は割とおざなりである。

 

 

「君、愛子に向かってその態度はなんです」

「ち、チェイスさん!」

 

 

 そんな態度に苛立ったのか、親衛隊の一人チェイスが不愉快そうに口を開いた。畑山が慌てて止めようとするも、肝心の慧斗がまるで気にした様子がない。

 

 

「神殿騎士ともあろうものが情けない。自分に関心のないことはさっぱり覚えられない性質(たち)なのかね?」

「ケイトさんが言っていい台詞じゃないと思いますぅ……」

 

 

 呑み込んだ隙にさらりと吐いた毒舌に、同じように炒飯(らしきもの)を頬張っていたシアは閉口した。なおユエは「いつものこと」と黙殺している。

 

 

「そ……それで、結局、どこにいたんですか? オルクス大迷宮にいたはずなのに、どうしてこんなところに?」

 

 

 何とか誤魔化そうとした畑山の言葉に、慧斗はようやく明確な反応を示した。といっても、「どうやって誤魔化そうか」という思考が露骨に顔に出ている。

 

 

「――あー…………色々、アリマシタ」

「――……それだけですか?」

「ハイ。ソレ以上ハ喋レマセン」

「それで納得できるはずがないでしょう!?」

「ソレ以上ハ喋レマセン」

「ロボットみたいなこと言わない!!」

 

 

 慧斗のいい加減な返答に、畑山はついに怒り出した。といっても、頬を膨らませてぷりぷりと怒るばかりで、威厳も迫力もない。「いや成人女性がしていい怒り方じゃねえよ」と慧斗が内心思ったのを咎めていいか、どうか。

 

 

「おい、お前! 愛子が質問しているのだぞ! 真面目に答えろ!」

「ケイト、ちょっとこっち来て」

 

 

 親衛隊隊長デビッドの怒声に対しても、「というか誰?」とどこ吹く風。見かねたユエが、慧斗を引っ張りカーテンの向こう側に移動した。

 

 

「……あの人たちが、例の同級生?」

「そ」

「……あのアイコって人も?」

「あれは教員。一応」

 

 

 向こう側に聞こえないように、ひそひそと額を突き合わせながら会話する。

 

 

「彼らは、役に立つ?」

「無理だと思う」

 

 

 ユエの決定的な質問に、慧斗は断言した。一瞬の躊躇いもなかった。

 

 

「連中の基礎性能(スペック)に騙されるな。『戦争しなくていい国』から来た連中ってのは、お前たちが考えてるよりも遥かに甘くてすっトロい。『死に物狂いで生き延びる』って感性がまるでできてねえ。心構えは、あのハウリア共より下だと思え」

「……同郷じゃないの?」

「だからこそ、だ。どれだけ快適なぬるま湯だったか、よーく知ってるのさ」

 

 

 良くも悪くも、『殺さなくていい』どころか『殺してはいけない』が基本の社会だ。野生生物の狩りどころか、家畜を殺す瞬間すら見たことがない。皮を剥ぎ、骨と内臓を掻き出し、精肉された後のものを見るのがせいぜいだ。そんな子供たちを、たかが数ヶ月練兵しただけで戦争に用いるなど、およそ正気の沙汰ではない。――それが邪神のお遊びだと裏付ける、最大の根拠とも言える。

 

 

「じゃあ、秘密にしといた方がいいと思う。“地球”に帰る手段を見つけるまで」

「そうなんだけどさあ……問題は、それまでどう保たせるかって話なんだよ」

 

 

 ユエの提言に同意しながらも、慧斗はがりがりと頭を掻いた。

 

 

「連中、交渉事もヘタクソだからさ。何でこんな後方にいるのか知らないけど、上手いこと前線参加を引き延ばすって難しいんだよ」

「……教会に使われてるんでしょ? そっちから抱き込むのは?」

「それこそ無理。だいたい、あの話を信じるかどうかも怪しい」

 

 

 ユエの提案を、慧斗は即座に却下した。何しろコネがない。トップである教皇がエヒト神への信仰に厚い以上、無頼漢に片足を突っ込んだ慧斗の立場で、その実権を動かすのはほぼ不可能に近い。

 

 

「ヒトは、単純で都合が良くて『真実っぽいこと』を好むイキモノだ。『自分たちの信仰している神が、実は自分たちを操って遊んでいる』なんて不都合な事実より、『あいつが嘘を言っている』という甘い嘘に流される。俺たちだって、例外じゃない」

「でも、ケイトは信じた」

「そんな御大層な人間じゃない。さらにひっくり返す謀略があったら、完全に騙されるよ」

 

 

 慧斗が信じているのは、あくまでも慧斗が知っている情報だけだ。そこに嘘偽りがあれば、巧妙に仕組まれた何かがあれば、真相に気付くことはできない。“解放者”だか“反逆者”だかの陰謀である可能性は、未だに否定できないのだ。

 

 

「とにかく、真相を伏せたまま、連中を上手いこと前線から遠ざける必要があるんだが、そのための案がない。本来最前線に立たせる予定の連中だからな。

 つかこういう交渉事なんて、センセの仕事なんだよ本来。なんで俺が頭悩まさないといけないんだよ……」

 

 

 うがあーと慧斗は再び頭を掻いた。たかが二十五歳の若輩に任せるには重責ではあるのだが、慧斗とて本来、口が出るより手が出る方が圧倒的に早い人間だ。何とかしてほしいという心理は止められない。

 そうして頭を抱える二人は、ふとカーテンの向こう側の異変に気付いた。

 

 

「……なんだ?」

 

 

 カーテンの向こうが、がやがやと騒ぎ出す。慧斗はさっとカーテンを引いた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 慧斗とユエがカーテンの向こうに消えた直後。慧斗の知り合いばかりの空間に一人残されたシアは、おずおずと口を開いた。

 

 

「……あ、あの! 皆さんは、ケイトさんとどんな関係なんです?」

「喋るな。卑しい獣ふぜいが」

「じ、ジェイドさん!」

 

 

 だがそれを、ジェイドが冷たく切って捨てた。他の親衛隊たちも、同じように嫌悪の感情を向けている。それこそ、彼らが懸想している畑山の制止を差し置いてまで。

 

 

「まったく――愛子の教え子だと聞いていたが、まるで礼儀がなってないね。僕たちと奴隷なんかを同じテーブルにつかせるなんて。獣臭いったらありゃしない」

「クリスさんまで!」

「おまけに大飯喰らいで意地汚い。どうしてエヒト様がお前たちをお創りになったのか、理解に苦しむよ」

「う、うぅ」

 

 

 次々に罵声を浴びせられ、シアはすっかり委縮してしまった。普段とは打って変わって冷酷な言いように、生徒たちもおろおろしているばかりだった。亜人族が被差別種族なのは知っていたが、ここまで強烈な侮蔑感情があるとは思っていなかったのだ。

 

 

「せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ? 少しは人間らしくなるだろう」

「それを捨てるなんてとんでもない! ……いや、何でもないです」

 

 

 これ見よがしに佩剣を鳴らすデビッドに、誰も口を挟めない。シアは怯えた兎のように縮こまり、生徒たちは初めて目撃する差別に戸惑いを隠せない。畑山の必死の制止など、誰の耳にも入っていなかった。

 ざっとカーテンが開いたのは、その瞬間だった。

 

 

「――人の連れが何だって?」

 

 

 そこに現れた慧斗の形相に、生徒たちは震え上がった。その瞳を赫怒で滾らせ、ぎりぎりと拳を握りしめている。穂崎慧斗、噂話でしか聞いたことのなかった暴力の塊――その殺意が今、自分たちに向けられている。

 

 

「人が席外してるのをいいことに、俺たちの連れを『獣』呼ばわりした禿猿はどれだ?」

「笑わせるな、小僧。貴様なぞ、『愛子の教え子』という身の上さえなければ――」

「お前か?」

「ぐはっ!?」

 

 

 ふんと鼻を鳴らすデビッドの言葉を待たず、慧斗の拳がその顔にめり込んだ。問答無用の一撃に、デビッドが思い切り吹き飛ばされる。

 

 

「貴様――!」

「それともお前か?」

「がぁっ!?」

 

 

 咄嗟に立ち上がったチェイスの顔面を掴み、片手で持ち上げる。みしみしと頭蓋を軋ませる痛みに、チェイスが苦悶の声を上げながら足を振り乱す。

 

 

「何をしている、この小僧――!」

「“水球”」

「がはぁっ!?」

 

 

 いよいよ佩剣を抜いたジェイドを、ユエの水球が弾き飛ばした。だんと壁に叩きつけられたきり、彼はそのまま失神した。

 がたがたと席を揺らす騒乱に、席は一触即発の空気に満たされた。無傷のクリスも立ち上がって佩剣に手を伸ばし、今にも抜刀しようとしている。

 

 

「や、やめて下さい、ケイトさん、ユエさん!」

 

 

 それを止めたのは、涙目のシアだった。慧斗の腕にしがみつくその姿を見、彼はようやく手を離した。チェイスはがたんと頽れたきり、痛みに立ち上がることができなかった。

 

 

「もう――やめて――くださ、い。わ、私の、ため、なんか、に」

 

 

 見る見るうちにその眦に涙を溢れさせ、ぽろぽろと堰を切ったように零し始める。すんと洟を啜りながら、震え声で二人を止めた。

 

 

「い、いいんです! 私なんか! 薄汚くて、意地汚くて、大飯喰らいの、醜い獣なんです! お、お二人と一緒にいる、し、資格なんか、ないんです!」

 

 

 涙声で震えながら、必死に叫ぶシア。しかしその姿は、初めて会った時よりも惨めで儚げで、

 

 

「――全員表出ろ。もれなくブチ殺してやる」

 

 

 慧斗の堪忍袋の緒を切った。

 グレートソードに手を掛け、今にも斬殺せんばかりの殺意を振り撒く。それに動揺したのは生徒たちだ。問答無用で皆殺しにすると言わんばかりの赫怒に怯み、二の句を継ぐことができない。ユエも無言で、しかし怒気を孕んだ眼光で親衛隊の騎士たちを睨んでいた。

 

 

「お、俺たちは!」

「違うだろうな。知ってるよ。貴様らはいつもそうだ。()()()()()()()。――傍観者に用はない、失せろ」

 

 

 辛うじて弁解をしようとした玉井(タマイ)淳史(アツシ)にも一瞥したきり、吐き捨てるような言葉をぶつけるだけ。辛うじて生徒たちは見逃す――というより見捨てるだけのような物言いは、しかし「親衛隊は皆殺しにする」という宣言も同然であり、生徒たちをいっそう震えさせる効果しかなかった。

 

 

「ま、待ってください!」

 

 

 そこに、畑山が割り込んだ。

 

 

「そ、その、この人たちにも非がありますけど、あの――」

「――『悪気はない』とでも?」

 

 

 両手を広げて立ち塞がる畑山を見下ろす視線が、冷たい侮蔑に変わった。この面はよく知っている。通り一遍の安い道徳で、薄っぺらい説教を並べる教員共の面だ。

 

 

「言葉はよーく選べよ、()()。あんたの一挙手一投足が、そこの餓鬼共の情操教育に繋がる。『このくらい言っても許されるんだ』『このくらいやっても許されるんだ』――あんたが思うより、こいつらは悪どい生物だぞ。

 それで? 人の連れ泣かせたクソ共には、どういう始末をつけたらいいと思う?」

「そ、それは……」

「それとも何か? あんたがこいつらのケツ持ってくれるのか?」

「愛子に手を出――」

 

 

 咄嗟に食って掛かったクリス。その髪を慧斗が掴み、頭ごと勢いよくテーブルに叩きつけた。どごん、と低い音が響き、生徒たちと畑山を怯ませる。

 

 

「頭が高えんだよ」

 

 

 ぞっとするほど低い声で、慧斗が言い放った。クリスはピクリとも動かなかった。

 

 

「な、なにやってるんです、あなた方」

 

 

 そこでようやく、騒ぎを聞きつけたオーナーがやってきた。第三者の登場にようやく興が冷めた慧斗は、仕方なくグレートソードから手を離した。同じように、ユエも戦意を緩ませる。

 

 

「――部屋を汚して済まない、店主。少ないがこれを」

「え、え?」

「勝手を承知で申し訳ないが片付けは任せる。あとすぐに部屋を用意してくれ」

 

 

 懐から銀貨を数枚取り出すと、半ば押し付けるようにオーナーに握らせた。戸惑うオーナーに要望を捲し立てると、生徒たちや畑山、親衛隊の全員から背を向け、未だ泣き止まないシアの手を引きながら歩き出した。

 

 

「最悪の気分だ。これ以上ここにいると、マジで全員殺しかねない」

 

 

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