ありふれた癌   作:Matto

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07:ティオ=クラルス

『ぬ、抜いてたもぉ~、お尻のそれ、抜いてたもぉ~』

 

 

 北の山脈地帯の中腹、薙ぎ倒された樹々の中心で、女の泣き声が響いた。声帯を動かしているのではなく、念話のようなものらしい。

 しかし、根本的におかしい。人語を操る魔物など存在しないはずなのだ。ましてこれだけ強大な魔物、人界に知られていないとは思えない。考えられるとすれば、完全に未知の領域である五つ目の山脈の存在か――

 

 

「……まさか、竜人族?」

『む? いかにも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ。偉いんじゃぞ? 凄いんじゃぞ? だからの、いい加減お尻のそれ抜いて欲しいんじゃが……そろそろ魔力が切れそうなのじゃ。この状態で元に戻ったら……大変なことになるのじゃ……妾のお尻が』

 

 

 その答えは、ユエがもたらした。慧斗の記憶に間違いがなければ、確か竜人族は五百年ほど前に滅んだという話だが……

 

 

「……なんで、こんなところに?」

『いや、そんなことよりお尻のそれを……魔力残量がもうほとんど……ってアッ、止めるのじゃ! ツンツンはダメじゃ! 刺激がっ! 刺激がっ~!』

 

 

 とててと歩み寄ったユエが尋ねた。彼女にとっても、伝説上の存在だ。興味が惹かれたのはいいとして、グレートソードをつつくのはやめてやった方がいいのではないだろうか。

 

 

「抜くっ()ってもなあ……結構奥深くまでブッ刺したぞ。抜いたら出血多量で死ぬんじゃねえ?」

『あっ、くっ、ぐりぐりはらめぇ~なのじゃ~。は、話すから! 話すからぁ!』

 

 

 グレートソードの柄を握りしめても、容易に抜けそうにない。ついでにぐりぐりと捩じ回したせいで、奥まで刺激が伝わってしまったようだ。

 

 

『妾は、操られておったのじゃ。お主らを襲ったのも本意ではない。仮初の主、あの男に、そこの小僧共を見つけて殺せと命じられたのじゃ』

 

 

 黒竜の言葉に、慧斗たちは顔を見合わせた。

 

 

「どういうことだ?」

『うむ、順番に話す。妾は……』

 

 

 この黒竜は、ある『調査』のために竜人族の隠れ里を飛び出した。数ヶ月前に、大魔力の放出と『何か』がこの世界にやってきたことが観測されたため、その正体の調査と対処の検討である。『竜人族は表舞台には関わらない』という掟があるのだが、前代未聞の大事に議論が紛糾した結果、調査に赴くことが決定された。その役目を負ったのが、目の前の黒竜である。

 本来は山脈を越えた後は人型で市井に紛れ込み、竜人族であることを秘匿して情報収集に励む予定だったのだが、その前に一度しっかり休息をと思い、一つ目の山脈の手前で休んだ。当然、周囲の魔物を追い払うために、竜人族の代名詞たる固有魔法“竜化”を用いて。

 そうして睡眠に入った黒竜の前に、黒いローブの男が現れ、眠る黒竜に洗脳や暗示などの魔法を多用して、徐々にその思考と精神を蝕んでいったのだという。

 当然、そんな事をされれば起きて反撃する。が、ここで竜人族の悪癖が出た。例の慣用句の元にもなったように、竜化して睡眠状態に入った竜人族は、まず起きないのである。それこそ、尻を蹴り飛ばされでもしない限り。

 それでも、竜人族は精神力においても強靭なタフネスを誇るので、そう簡単に操られたりはしない。では、なぜああも完璧に操られたのかというと、

 

 

『恐ろしい男じゃった……闇系統の魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな。そんな男に、丸一日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった……』

「調査に来といて、丸一日爆睡してたってだけの話じゃねえの? というか途中で起きろよ」

 

 

 慧斗の至極まっとうなツッコミに、一行の竜を見る目が何となく冷たくなった気がした。

 それはさておき。

 その後ローブの男に従い、二つ目の山脈以降で魔物の洗脳を手伝わされていたのだという。そしてある日、一つ目の山脈に移動させていたブルタールの群れが、山に調査依頼で訪れていたウィルたちと遭遇した。群れは目撃者を消せという命令を受けていたため、これを追いかけたが、うち一匹がローブの男に報告に向かった結果、万全を期して黒竜を差し向けたらしい。

 で、気がつけば一行に袋叩きにされており、生存本能からパニックを起した。それがあの魔力爆発である。その後、尻に名状しがたい衝撃と刺激が走り、ついでに奥深く差し込まれた衝撃で完全に正気を取り戻したらしい。

 

 

「……ふざけるな」

 

 

 絞り出すような声が、拳を握りしめるウィルから漏れた。怒気を孕んだその瞳は、震えながらも黒竜をまっすぐに睨んだ。

 

 

「……操られていたから……ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」

 

 

 それはウィルの個人的な怨恨であると同時に、正論だろう。操られていたのが事実だとしても、実際に手を下したのはこの黒竜だ。その罪が完全に消えることはない。

 

 

「大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」

『……今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない』

 

 

 黒竜の態度が気に入らないのか、なお言い募ろうとするウィルに、ユエが口を挟んだ。

 

 

「……きっと、嘘じゃない」

「っ、一体何の根拠があってそんな事を……」

「竜人族は高潔で清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も、より身近なもの。彼女は『己の誇りにかけて』と言った。なら、きっと嘘じゃない。

 それに……嘘つきの目がどういうものか、私はよく知っている」

 

 

 ユエの瞳が冷たいものに変わった。その胸には、三百年前の裏切りが去来しているのだろう。

 一方、黒竜の方もユエに興味を示した。

 

 

『ふむ、この時代にも竜人族のあり方を知るものが未だいたとは……いや、“昔”と言ったかの?』

「ん。私は、吸血鬼族の生き残り。三百年前は、よく王族のあり方の見本に、竜人族の話を聞かされた」

『何と、吸血鬼族の……しかも三百年とは……なるほど、死んだと聞いていたが、お主がかつての“吸血姫”か。確か名は……』

 

 

 黒竜の言葉を、ユエが手を突き出して遮った。

 

 

「ユエ……それが私の名前。大切な人に貰った大切な名前。そう呼んで欲しい」

 

 

 胸に手を当て、心底大事そうに語るユエに、慧斗はがりがりと頭を掻いた。そこまで重く取られても困るのだが……完全な照れ隠しだった。

 

 

「で、どうする? こいつの言を信じるか、魔獣の戯言と切って捨てるか」

「私は信じる」

「えっと、私も。嘘は言ってない気がしますぅ」

 

 

 慧斗の問いに、ユエは迷いなく答え、シアもおずおずと肯定した。

 

 

「……それでも、殺した事に変わりないじゃないですか……どうしようもなかったってわかってはいますけど……それでもっ! ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって……彼らの無念はどうすれば……」

 

 

 判断材料のない畑山らは答えられなかった。それでも、ウィルの脳裏には先達の顔が忘れられないらしい。

 

 

「ウィルさん。これ、ゲイルって人の持ち物ですか?」

 

 

 そういえば、と宮崎がひとつのロケットを差し出した。

 

 

「これ、僕のロケットじゃないですか! 失くしたと思ってたのに、拾ってくれてたんですね。ありがとうございます!」

「え、あんたの?」

「はい、ママの絵が入っているので間違いありません!」

「……ママ?」

「ツッコむな。ツッコむなよ、ユエ」

「その、お母さんにしては、若い気がしますけど……」

「だからツッコむなってシア!」

「せっかくのママの絵ですから、若い頃の一番写りのいいものがいいじゃないですか」

「そ、そうですか……」

 

 

 揃って覗き込んだロケットの中には、確かに若い女性の絵姿がある。仮にも冒険者として飛び出したというのに、わざわざ母親(ママ)の、それも若い頃の絵姿を持ち歩くというのは、なんというか……一同は、何とも言えない気持ちにさせられた。

 

 

『操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで。

 あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか』

 

 

 黒竜の言葉に、自然と慧斗へと視線が集中した。

 

 

「……え、俺が決めんの?」

「え、このパーティーのリーダーはあなたでしょう?」

「余計な連中が色々混ざってんだけど……」

 

 

 合計十人以上の雑多な視線に囲まれ、慧斗は思わず閉口した。なんでこの連中のケツ持つような扱いになるのか。

 

 

「まあいいや、まずは事実確認だな。で、ここで死なせるわけにもいかない。異存は?」

「……ありません」

「決まりだな」

 

 

 慧斗の冷淡な確認に、ウィルは絞り出すように答えた。それを見届けた慧斗は、改めてグレートソードに手を掛けた。

 

 

「ユエ、抜いたら即座に治癒魔法を」

「了解」

『や、優しく頼むぞぉ~』

 

 

 黒竜の言葉を半ば無視し、慧斗はぐっとグレートソードを握りしめると、一気に引いた。

 

 

「せえ――のッ!」

『はぁあん! ゆ、ゆっくり頼むのじゃ。まだ慣れておらっ――あふぅうん。やっ、激しいのじゃ!』

「んー、何かすげえぐっさり刺さってんな! 馬鹿力発揮しやがって、この駄ウサギ!」

「そこで私のせいになるんですかぁ!?」

『こんな、ああんっ! きちゃうう、何かきちゃうのじゃ~』

 

 

 力強い括約筋のせいか、刀身が挟まって上手く引き抜けない。慧斗はぐりぐりと手探りで引き抜いていく。わんわんと強くなっていく黒竜の嬌声は無視する。

 

 

「ふんっ」

『あひぃいーーー!!』

 

 

 慧斗がずぶりとグレートソードを引き抜いたのと、黒竜の絶叫は同時だった。

 

 

「“快気”」

 

 

 だらだらと血を溢れ出させる傷口に向かって、ユエが回復魔法をかける。あっという間に傷が塞がった尻に、しかし黒竜はもじもじと体を揺らした。

 

 

『す、すごいのじゃ……優しくってお願いしたのに、容赦のかけらもなかったのじゃ……こんなの初めて……』

 

 

 訳のわからないことを呟く黒竜は、その体を黒色の魔力で繭のように包み完全に体を覆うと、その大きさをスルすると小さくしていく。ちょうど人一人分くらいの大きさになると、一気に魔力が霧散した。

 黒い魔力が晴れたその場には、両足を揃えて崩れ落ち、片手で体を支えながら、もう片手で尻を押さえて、うっとりと頬を染める黒髪金眼の美女がいた。腰まである長く艶やかなストレートの黒髪が薄らと紅く染まった頬に張り付き、ハァハァと荒い息を吐いて恍惚の表情を浮かべている。

 見た目は人間族換算で二十歳と少し、身長は慧斗と同じくらいだろう。その見事なプロポーションは、息をする度に乱れた衣服から覗く双丘を強調した。シアがメロンなら、黒竜はスイカといったところか。何がとは言わないが。

 黒竜の正体がやたらと艶かしい美女だったことが、特に男子の興味を買った。思春期真っ只中の男子生徒三人は、若干前屈みになっている――というか明らかに身を屈め、何かを見ようとしている。このままだと四つん這い状態になるかもしれない。女子生徒の目つきが、ゴキブリを見るそれと大差なくなった。

 

 

「ハァハァ、うむぅ、助かったのじゃ……まだお尻に違和感があるが……それより全身あちこち痛いのじゃ……ハァハァ……痛みというものがここまで甘美なものとは……」

「何か感想変じゃない?」

 

 

 慧斗のツッコミは果たして正しかったのか。ともあれ、女はすっくと立ちあがり、凛然としたようで口を開いた。

 

 

「面倒をかけた。本当に、申し訳ない。妾の名はティオ=クラルス。最後の竜人族、クラルス族の一人じゃ」

「そんで? その魔物の大群ってのは、今どんな状況だ」

「奴は魔物の軍勢を作り、町を襲う気じゃ。この山脈の向こう、ウルの町とやらを」

「えっ……!?」

 

 

 黒竜、もといティオ=クラルスの言葉に、顔面蒼白で呟いたのは誰だったか。少なくとも、畑山と護衛隊は含まれていた。

 ティオに曰く、その数は既に三千から四千に届く程の数だという。何でも、二つ目の山脈の向こう側から、魔物の群れの主にのみ洗脳を施すことで、効率よく群れを配下に置いているのだとか。

 

 

「ま、魔人族の力でしょうか……?」

「それはない。あれは人間族、それもまだ子供じゃった」

 

 

 畑山の推測を、ティオはきっぱりと否定した。何でも黒ローブの男は、黒髪黒目の人間族で、まだ少年くらいの年齢だったという。それに、黒竜たるティオを配下にして浮かれていたのか、しきりに「これで自分は勇者より上だ」などと口にしていたらしい。

 黒髪黒目の人間族の少年で、闇系統魔法に天賦の才がある者、そして勇者の関係者――ここまでヒントが出れば、とある人物が浮かび上がる。畑山らは一様に「そんな、まさか……」と呟きながら動揺の表情を浮かべた。信じたくない、否定したい話ではあるが、限りなく黒に近い。

 

 

「“糸伸ばし・束”――……げ」

 

 

 一方、慧斗はティオの言葉を確かめるべく、“糸伸ばし”で探知を試みたが――

 

 

「どうした?」

「三千? 四千? ふざけんな、()()()()()()()

「桁って――えぇ!?」

 

 

 顔をしかめる慧斗の言葉に、園部が驚愕の声を上げる。

 

 

「しかも進軍中だ。まっすぐウルの町に向かっていってる。一周回って壮観だぜ。どうやってかき集めてきたんだか」

「な、何だと!?」

 

 

 続く慧斗の言葉に、親衛隊のジェイドが驚愕の声を上げた。

 

 

「は、早く町に知らせないと! 避難させて、王都から救援を呼んで……それから、それから……」

「もう遅い。人間の足より速いから、避難中を襲われるのが関の山だ。数が多すぎて、遅延戦術も利かないな」

 

 

 狼狽える畑山の提案も、ほとんど役に立たなかった。機動力も頭数も優れた相手では、逃走も容易ではない。どこかで堰き止める手段がなければ、津波の如く呑み込まれてお終いだ。

 

 

「……ケイトさんならできるのでは?」

「俺のことなんでも屋だと思ってる? 殲滅力そんな高い方じゃないんだけど」

「で、でも! 何とかしないと、町が……!」

 

 

 ウィルの言葉に、慧斗は再び顔をしかめた。万を超える大軍を抑えろなど、無茶振りもいいところである。後ろで騒いでるだけの畑山らは使い物にならない。

 

 

「……どうする?」

 

 

 ユエの問いに、慧斗は考え込んだ。

 

 

「……町を潰されると困るのは事実だ。ここら一帯の農耕地も全滅、連鎖的に王国の補給線が危うくなる……

 ただ、絶対的な手が足りない。お前があと三人は要る。そもそもこんな足場の悪い場所で、迎撃戦なんぞできっこない」

「じゃあ、見捨てる?」

「そ、そんな!」

「お前さらっとえげつないこと言うな……」

 

 

 さらりと言い捨てるユエに、悲鳴を上げる菅原。その容赦のなさに、慧斗は閉口した。

 ともあれ、町を守るとするならば――できることは――

 

 

「……町に攻め入る以上、その軌道は平野に出るはずだ。――そこに集中してきたのを、まとめて叩けば……」

 

 

 慧斗は意を決した。

 

 

「――俺らで魔物共の足止めをやる。あんたらは急いで町に戻って、迎撃準備でもさせとけ」

「わ、私たちがですか?」

「厭ならお前一人でも戻っていいけど」

「ん。私たち二人で何とかなる」

「じゃ、じゃあ私も……!」

「しんどい戦いだぞ、気合入れろよ」

 

 

 そう言って、ユエとシアを鼓舞する。他の連中は使い物にならない。この三人で、全力で擂り潰すしかない。

 

 

「俺たちは、どうしたらいい」

「あ、相川……?」

 

 

 そこに口を挟んだのが、毅然と立つ相川だった。戸惑う玉井をよそに、慧斗はまっすぐ見返して言った。

 

 

「必ず()()()()()が出る。それを凌ぐために全力で戻って、万全の準備をさせとけ。町の安全までは責任持てねえぞ」

「分かった」

「全力疾走だ。バテんなよ」

 

 

 これで万が一の対応になる。あとは――

 

 

「んで、ティオとやら。そいつを連れて、あとふん縛っとけ」

「ふん縛られるほうが好みなのじゃが」

「なんて?」

 

 

 ウィルを指して言った慧斗の言葉に、ティオはよく分からないことを返した。

 

 

「とにかく動かないように拘束して、ギルド職員に引き渡せ」

「ぼ、僕だって戦うことくらい――」

「邪魔。大人しくしてろ」

 

 

 震えながらも反論するウィルを、慧斗は即座に否定した。

 

 

「俺たちの依頼は、あんたの保護だ。フューレンに戻るまで、あんたの安全を保証する義務がある。余計な真似するな」

「そ、そんな! 皆さんが戦うのに、僕だけ――!」

「『そこの黒竜には勝てなかったけど、雑魚を倒すくらい』――そう思ってるのなら、あんたが戦士やってく資格はない」

 

 

 慧斗の鋭い言葉に、ウィルはうっと口ごもった。

 

 

「一匹の強大な魔物を倒すことは、確かに困難だ。でもな、それ以上に『数の暴力』ってのは厄介だ。たとえ雑魚といえどな。

 ましてや、相手は万を超える大軍だ。一匹二匹斬ってお終い、とはいかない。襲い来る全ての脅威を根絶やしにしなければ、あの町が朝日を迎えることはできない。その程度のことも分からん素人に、背中を預けることはできない」

「う、うぅ……」

 

 

 ついにウィルが何も言えなくなったのを見届けると、慧斗はグレートソードをがちゃりと担いだ。

 

 

「――ああ、そうだ。センセ」

「な、なんですか?」

()()()()()()()()()()()?」

「――っそ、それは!」

 

 

 それだけ言い捨てると、動揺する畑山を置いて、慧斗はずかずかと歩き出した。ユエとシアもそれに続いていく。

 一方、相川が畑山の肩に手を置き、引っ張るように歩き出した。

 

 

「行こう、愛ちゃん先生」

「でも――清水君が!」

「見間違いかも知れないです」

「妾を疑うのか?」

「あんた、爆睡してたんだろ。風体が正確に分からなかった可能性もある」

 

 

 ティオの言葉も、あくまで冷静に言い返す。清水の可能性は高い。そうではない可能性もある。とにかく今は、そんなことを気にしている場合ではない。

 

 

「穂崎はもう往った。倒すべき、殺すべき敵を見定めた。あとは――清水が遭遇しないことを祈るしかない」

 

 

 いずれにせよ、その末路は殺戮しかあるまい。

 

 

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