ありふれた癌   作:Matto

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13:再会と別離

「団長さんの容態はどうだ?」

「間に合いそうになかったから、“神水”を使った」

「ば、おま……まあいいか」

 

 

 平然と答えるユエの言葉に、慧斗は一瞬目を剥いたが、まあ仕方ないと割り切った。使うべき時に使うのが物資運用の鉄則だ。あとは、それに見合う成果を出してもらうしかない。

 そんな慧斗を追って、問い詰めようとした天之河は、

 

 

「穂崎。なぜ、彼女を――」

「穂崎君。助けてくれて、ありがとう」

 

 

 ……未だ立ち上がれないものの、にこやかに微笑んで礼を言う白崎に遮られた。

 一方、慧斗は顔をしかめた。確かに彼女らを助けるのが依頼内容ではあったし、こんなところで死なれるのも困るのだが、それはそれとして礼を言われるための行動ではない。

 

 

「別に。お前たちに感謝される謂れなんかねえよ」

「なんじゃ、妙にしおらしいのぅ。ひょっとしてこういう娘が好みなのか」

「ブチ殺すぞクソトカゲ」

 

 

 後ろから付いてきたティオのからかいに、慧斗は振り向きもせずに罵声を浴びせた。この際、本当に斬り刻まれても喜びそうなのが癪に障る。

 

 

「穂崎君のおかげで、ハジメくんとの約束を破らずに済んだよ」

「は? クソどうでもいいことでクソどうでもいい感謝を押し付けてくんじゃねえよ恋愛脳のクソバカが。なに世迷言撒き散らしてんだ死ねよドカス」

「どうしたんじゃご主人様」

 

 

 白崎を見下しながら、人が変わったように罵声を浴びせる慧斗に、思わずティオがツッコんだ。何が彼の気に障ったのだろうか。

 再び慧斗を問い詰めようとした天之河は、

 

 

「っ穂崎。なぜ、彼女を――」

「穂崎君、いろいろ聞きたい事はあるけど……とりあえずメルドさんはどうなったの? 見た感じ、傷が塞がっているみたいだし呼吸も安定してる。致命傷だったはずなのに……」

 

 

 ……今度は八重樫に遮られた。

 

 

「特製の魔法薬(ポーション)で何とかした。二度はないぞ」

「でも、“治癒師”の香織でも治せない傷を……」

「つまり職歴半年未満のペーペーじゃねえか。何の参考になるんだ馬鹿者」

 

 

 八重樫の追及を、慧斗はヘンと鼻を鳴らして遮った。もちろん、「何度も助けてやる気はないぞ」と釘を刺したうえで。

 

 

「穂崎! なぜ、彼女を殺したんだ!」

 

 

 いよいよ堪忍袋の緒が切れた天之河が、大声で慧斗に詰め寄った。

 

 

「彼女? ――ああ、そこの魔人のことか? なんだ、ひょっとしてデキてたのか?」

「なっ――!? そんなんじゃない!」

「命のやり取りは地上で最も深い関係とも言うしな。なるほど、お前も色を知る歳か」

「はぐらかすなッ!」

 

 

 ようやっと振り返った慧斗の軽口に対し、その胸倉を掴む勢いで詰め寄る。

 

 

「『魔人は敵』だ。そう教わったろ?」

「無抵抗の人を殺すことをか!」

 

 

 真顔でそう切り捨てる慧斗に対し、天之河はついにその胸倉を掴んで叫んだ。それを八重樫が咄嗟に制止しようとする。

 

 

「ちょっと、光輝! 穂崎君は、私たちを助けてくれたのよ? そんな言い方はないでしょう?」

「だが、雫。彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。穂崎がしたことは許されることじゃない」

「あのね、光輝、いい加減にしなさいよ? 大体……」

 

 

 仲間同士の言い合いに、生徒たちはおろおろするばかりだ。リーダーシップを執ってきた天之河と、それを補佐する八重樫、そして突然現れた慧斗。仲裁しようにも、どこから割り込んだらいいのか分からない。

 最初に痺れを切らしたのは、ユエだった。

 

 

「……くだらない連中。ケイト、もう行こ」

 

 

 ふんと鼻を鳴らすと、慧斗の裾を引きながら、やや強引に歩き出す。つい毒気を抜かれた天之河の隙を突き、慧斗はその手を引き剥がした。シアとティオも、生徒たちの空気を気にしながらそれに追従する。

 気を取り戻した天之河は、慌てて待ったをかけた。

 

 

「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。穂崎の本音を聞かないと、仲間として認められない。それに、君は誰なんだ? 助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないなんて……失礼だろ? 一体、何がくだらないって言うんだい?」

「なー、そろそろその茶番終わらせてくんない?」

「……何だと?」

 

 

 天之河の言葉に、慧斗はようやく振り向いた。心底厭そうな表情を浮かべていた。

 

 

「何が仲間だ、何が本音だ。そんな悠長なこと言ってる場合かよ、寝惚けやがって。

 人死にが見たくねえなら、剣も鎧も返上しろよ。それは()()()()()()()()に与えられるもんだ。怪物退治で満足できる奴のための装備じゃねえ。勇者ごっこなら余所でやれ」

「ゆっ……!? ば、馬鹿にしてるのか!!」

「確認しなきゃ分からねえ話か? だったら正真正銘の馬鹿だな」

「この――!」

 

 

 子供扱いされ、思わず激昂する天之河。それを睥睨しながら、慧斗は冷酷な表情で言葉を紡いだ。

 

 

「どうせ、ただ()()()だけだろ」

 

 

 その言葉に、天之河は一瞬思考が停止した。

 

 

「殺すことに躊躇を抱いた。手を汚すことに忌避を抱いた。――それが優しさ故ではなく、正しさ故でもなく、ただ『自分が悪者になりたくなかっただけ』だと気付いてしまった。

 だから、もっともらしい理由をつけて『殺せなかった自分』を正当化している、それだけの話だ。通り一遍の道徳で俺を糾弾すれば、自分の脆さから目を背けられるとでも思ったか」

「ち、違う! 俺は正当化なんかしてない!」

「違ったとして何か解決するのか? 俺たちは『戦争だ』と最初に言われたはずだ。魔人共との殺し合いだと言われたはずだ。取りも直さず、それは『誰かが死ぬ殺し合い』なんだ。

 殺す覚悟も殺される覚悟もない者に、『勇敢なる者』を名乗る資格はない。安全圏でぬくぬくしながら、聖者ヅラして野次を飛ばす資格もな」

「何だと――!」

 

 

 思わず掴みかかる天之河を、慧斗は冷たく見下ろした。

 最初から認識がずれていたのだ。イシュタルらに教わるがまま「邪悪な怪物との戦い」という認識を刷り込まれていた天之河と、端から「地球における戦争と似たようなもの」と聞き流していた慧斗。その善悪論の差異に、お互いがようやく気付いた瞬間だった。

 そこに割り込んだのは、いい加減苛立ってきたユエの一言だった。

 

 

「戦ったのはケイト。恐怖に負けて逃げ出した負け犬に、とやかく言う資格はない」

「俺は――俺は、逃げてなんて……!」

「いやお前が批評できた口じゃねえだろ、倫理観パーのくせに」

 

 

 しかし、まさかの慧斗が反論してきた。

 

 

「私は違う。ちゃんと覚悟をもって戦ってる」

「嘘つけお前、『仲間のこと以外はどうでもいい』みてーな顔してるだろいつも。ていうか『どうでもいい』ならまだしも、『仲間以外は全部ゴミ』くらいに思ってんだろ。『何でこのゴミを始末しちゃダメなんだろう?』って考えなかった日がいくつあったか言ってみろ」

「ケイトさん、そんな意地悪言っちゃだめですよ。ユエさんが答えられるわけないです」

「シアのくせに生意気」

「いったい!」

 

 

 シアの茶々に、ユエが鋭いローキックを叩き込んだ。

 一方、慧斗の言葉に反論を諦めきれない天之河は、必死になって言葉を探した。

 

 

「でも――でも――それでも、忘れちゃいけないことがあるはずだ! 戦争だからって何してもいいわけじゃない! 人が人であり続けるために、守るべき道徳心があるはずだ!

 そ、そうだ! お前こそ、戦争を言い訳に誤魔化してる! 自分の人殺しを正当化してるだけじゃないか!」

 

 

 天之河の言葉は、苦し紛れではあるが、ある意味立派な正論だろう。戦争という鉄火場にあっても、最低限の道徳心は必要だと。

 

 

「なんだ、それは」

 

 

 ――だがその言葉こそが、慧斗の逆鱗に触れた。

 慧斗は素早くにじり寄ると、天之河の胸倉を思い切り捩じり上げた。

 

 

「うっ!?」

「『戦争だからって何してもいいわけじゃない』? 『人が人であるために守るべき道徳心』? 何をほざいてんだ貴様。

 ――そういうのを全部蹴飛ばした挙句に起きてるのが、『戦争』だろうが!!」

 

 

 唾を飛ばして激昂する慧斗の言葉に、天之河は言葉を失った。彼がまさに求めていたはずの、『穂崎の本音』に圧倒された。

 何が倫理だ、何が道徳だ。それで全てが解決するなら、『戦争という災害』は、誰にも求められない。『殺戮という非道徳』を肯定する異常事態は、何度も繰り返されない。

 

 

「貴様ら、ちゃんと世界史の勉強してきたか!? 七割がた戦争の歴史だろ!? 『人の歴史は一万年以上あるのに、どうしてこんなに戦争(ころしあい)ばかり起きてるんだろう』って思わなかったのか!? 時代を下るほど加速していくことに疑問を覚えなかったのか!? それが今自分たちの生きる現代まで続いてることを、ちょっとでも不安に思わなかったのか!?

 単語帳に書き並べて暗記した程度で、博識気取ってんじゃねえよ、使えねー連中だな!!」

 

 

 天之河の背後、生徒たちにも向けられた罵倒の数々に、彼らは思わず目を背けた。

 まったく意味の分からない連中だった。戦争に次ぐ戦争の繰り返し、いつまで経っても終わらない暴虐の連鎖。しかもそれが、自分たちの知らないところで現在進行形で続き、ともすれば自分たちにも襲い掛かるかも知れない情勢。慧斗の背筋を思わず凍らせたその現実を、この餓鬼共はただ『テストのための暗記』という形でしか認識していないのだ。

 

 

「――もうよせ、光輝」

「メルドさん!」

 

 

 そこでようやく、メルドの声が割り込んだ。意識が戻り、ようやく起き上がった彼の言葉に、慧斗は天之河を掴んでいた手を解いた。

 

 

「なんだもう起きたのか、練兵のいろはも知らない脳筋団長さんよ」

「ああ……すまない……本当に、耳が痛いな……」

 

 

 しかしその声は、相変わらず冷たい侮蔑を帯びていた。まるで言い返さないメルドに、戸惑ったのは天之河だった。

 

 

「メ、メルドさん? どうして、メルドさんが謝るんだ?」

「当然だろ。俺はお前たちの教育係なんだ……なのに、戦う者として大事な事を教えなかった。人を殺す覚悟のことだ。時期がくれば、偶然を装って、賊をけしかけるなりして人殺しを経験させようと思っていた……魔人族との戦争に参加するなら絶対に必要なことだからな……

 だが、お前たちと多くの時間を過ごし、多くの話しをしていく内に、本当にお前たちにそんな経験をさせていいのか……迷うようになった。騎士団長としての立場を考えれば、早めに教えるべきだったのだろうがな……もう少し、あと少し、これをクリアしたら、――そんな風に先延ばしにしている間に、今回の出来事だ……

 俺が半端だった。教育者として誤ったのだ。そのせいで、お前たちを死なせるところだった……申し訳ない」

 

 

 そんな思惑に、当惑する天之河たち。確かに、彼らの能力なら打倒するのは容易いだろう。だがその裏には、『人殺しができる精神性』を養うという昏い意図があったのだ。

 一方、慧斗はヘンと鼻を鳴らすだけだった。

 

 

「まったくだ。あんたには失望したよ」

「は、はは……死人に説教される日が来るとは思わなかったな……」

「いまさら倫理道徳を嘯く資格なんかねえだろ、戦争狂いのクソ馬鹿共が。教会やあんたらが何をしでかしてきたのか、きちんと思い出してからものを言いやがれ」

 

 

 ひとしきり罵倒を重ねると、慧斗は未だ立ち上がれないメルドを指差して、ティオの方を振り向いた。

 

 

「変態、団長さんを担いでやれ」

「妾は荷物持ちか?」

「仕事してねえだろ」

 

 

 まったくもうしょうがないのぅ、とぼやきながら、ティオは引き返すと、メルドを背に担いだ。美人におぶさることができて役得、などと考えるだけの気力は戻っていなかった。

 

 

「さあ、団長さんはこの通り無事だ。用は済んだろ。さあ出るぞ」

「待て! まだ話は――」

「終わりだ」

 

 

 再び詰め寄ろうとした天之河に向かって、慧斗は剣鉈を突き出した。目も合わせぬその一言は、もはや問答を許さぬという態度をありありと映していた。

 

 

「そもそも始まっちゃいねえんだよ、この糞馬鹿。勝手におっぱじめた友達ごっこに、俺を巻き込むな」

 

 

 それだけ言い捨てると、慧斗は改めて出口へと歩き出した。

 

 

「『世界も仲間も救う勇者サマ』が、とんだ期待外れだ。やってらんねー」

 

 

 とんとんと剣鉈で肩を叩き、失望の声を零しながら。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 オルクス大迷宮から引き揚げ、帰還する天之河たちに便乗して王宮に来た慧斗たち。まさかの慧斗生還に驚愕した王侯たちは、慌てて一行を迎え入れた。

 

 

「……ってなわけで、俺とあいつらが、お前の言う『調査対象』の正体。――たぶん、天之河が本命かな?」

「なるほど、助かったのじゃ」

 

 

 国王エリヒドや教皇イシュタルとの面会があるということで、応接室の一角に通された慧斗たちは、その間にティオへ一通りの説明をした。

 

 

「で、どうする? 観察が必要なら、口利きだけはしとくけど」

「あー……あれはのぅ……」

 

 

 慧斗の提言に、しかしティオは渋い顔をした。

 

 

「なんだ、妙に言い淀むじゃねえか。いまさら何を憚ることがあるんだ、このクソマゾ野郎」

「急に言葉責めなど始めんでおくれ。濡れるじゃろ」

「死ね」

 

 

 この女、隙あらば自分の情欲に従おうとする。無視して聞き流せない程度には、未だに慣れていない慧斗だった。

 

 

「――正直に言うと、『期待外れ』というところじゃ」

「おやおや? 齢五百の黒竜サマは、随分と辛辣でいらっしゃる」

「お主が言えた口ではないじゃろ? 同郷の輩、駆け出しの小僧と知っていながら、あそこまで責め立てることもあるまいに」

「まあな。俺も言い過ぎて悪かったとは思ってるよ」

「心にもないことを……」

 

 

 頬杖を突いて白々しいことを言う慧斗に、ティオは改めて渋い表情を浮かべた。

 

 

「まぁ、何が言いたいかはだいたい分かっておるじゃろ? ――あれは、ただ流されておるだけじゃ。

 自分が何をしているのか、何を()()()()()いるのか、まるで自覚がない。せいぜい『困っている人がいるから、自分の力を貸してあげている』――その程度の気概じゃ。お主が指摘した通り、殺し合いに対する覚悟が絶望的に足りん。しかも、あの分では他の子らも似たような有様のようじゃしな。

 善良ではある、だがそれだけじゃ。ただ利用されているだけの者に何を問い質したところで、何の参考にもならんよ」

「戦時でさえなけりゃ、それでも充分なんだがな。狡賢い連中にカモにされるのが関の山って気もするが、まあその辺は本人の人生だから、好きな死に方をすりゃあいい。

 だいたい、鉄火場にいきなり放り出されて、何の葛藤もなく殺し合いに馴染める方がおかしいんだ。そういうのは大抵、頭のいかれたサイコ野郎って相場が決まってる」

 

 

 まるで具体例を知っているかのように、慧斗はけっと吐き捨てた。誰のことなのか、ティオを含め誰も追及しなかった。

 

 

「問題は……心胆はあの()()だとしても、力はそれなり以上じゃ。将来性で言うなら、お主をも凌ぐじゃろうな。

 ――そんなものを異世界から喚び出し、魔人族と戦わせる意味とは? エヒト神が何を企てているのか? 勇者たちより、『この世界で起きていること』そのものを調べる方が重要じゃろうな」

「……ふん、脳味噌まで化石ってわけでもないらしい」

 

 

 そうして話がひと段落着いたところで、ばたばたと誰かが走る音が聞こえてきた。

 

 

「――ケイトさん!」

 

 

 ばたんとドアを開いたのは、ドレスを着、額に汗を浮かべた少女――王女リリアーナだ。その後ろに、教皇イシュタルが付いてきている。

 

 

「お久しぶりです、リリアーナ様」

「本当に……ケイトさん、なのですか……!?」

「ええ、まあ。プレートでもお見せします?」

 

 

 驚愕が抑えきれないリリアーナに対し、立ち上がった慧斗はあくまでもいつもの調子で答えた。その程度で済むと思っていた慧斗は、

 

 

「――ちょっと!?」

「……よかった……! ……本当に、良かった……!」

 

 

 思い切り抱き着いてきたリリアーナに戸惑い、思わず硬直した。今にも泣き出しそうな少女に、何と声を掛ければいいのか知らなかった。

 

 

「……相川から聞きました。ご心配をおかけしたそうで」

「いいんです。こうして、無事に帰ってきていただけて……」

 

 

 慧斗の言葉に、リリアーナはその胸に顔を埋めたまま答えた。とても一国の王女らしからぬ振舞いに、慧斗はどうすればいいのか分からなくなっていた。

 一方、それを見守っていたイシュタルが、無表情で口を開いた。

 

 

「よくぞご無事で。てっきり、奈落でお亡くなりになったものかと」

「そりゃどうも」

「勇者様ご一行に復帰されるということで、よろしいですかな」

「――はい、まあ」

「それは重畳。エリヒド陛下もお喜びになるでしょう」

 

 

 それだけ言い残すと、イシュタルはくるりと引き返し応接室を出ていった。慧斗の鋭い視線に追われていることに気付いていたか、どうか。

 応接室には慧斗たちと、リリアーナだけが残された。

 

 

「ケイト。この女、誰?」

「おい馬鹿不敬罪でしょっぴかれたいのか!?」

 

 

 あからさまに不機嫌なユエの言葉に、慧斗は思わずツッコんだ。

 

 

「説明したろ。このハイリヒ王国の王女、リリアーナ様だよ」

「何でそんな子が、ケイトと親しいの」

「大したもんじゃない。ちょっとお世話になった期間があっただけ」

 

 

 不躾なユエの言葉を咎めつつ、慧斗が説明していると、ようやく衝撃から立ち直ったらしいリリアーナが問いかけた。

 

 

「ケイトさん、こちらの方々は……?」

「あー……旅の途中でできた、仲間です」

「ユエ」

「し、シア=ハウリアですぅ」

「ティオ=クラルスじゃ」

 

 

 慧斗の説明に、三人が自己紹介をした。その面子に、リリアーナはようやく微笑みを浮かべた。

 

 

「ふふ、美人ばかり。選り取り見取りですね、羨ましい」

「そんな関係じゃありません……」

「違うの?」

「何でお前がブッ込んでくるんだよ!?」

 

 

 閉口する慧斗に対し、まさかのユエが爆弾発言を投下した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 その後、しばらく歓談を交わしたのち、慧斗はひとつの発言をぶち上げた。

 

 

「王女様。悪いけど俺、また旅に出ます」

「――え……!?」

 

 

 その言葉に、リリアーナが動揺する。せっかく戻ってきてくれたのに、という失望が隠せていなかった。

 

 

「ど、どうして……!?」

「ちょっと別件で。割と喫緊の課題なので」

「そんな……せっかく戻ってきて下さったのに……!」

 

 

 人間族の窮地、勇者としての使命遂行を差し置くような何かがあるというのだろうか。

 

 

「何があったのですか? 対魔人戦線に関わることであれば、王国からも協力を――」

「言えません」

「そんな……! それでは――」

 

 

 思わず声が大きくなるリリアーナを、慧斗がしっと制止した。そしてドアに向けて目配せをすると、リリアーナはそれだけで事情を察した。

 

 

「……詮索すら危険、ということですか」

「話が早くて助かります」

 

 

 ドアの向こうで、教会関係者が監視しているかもしれない。それを察したリリアーナは、声を殺して確認した。

 

 

「何か、お手伝いできることは……?」

「すみませんが、今のところ」

 

 

 きっぱりと答える慧斗の言葉に、リリアーナは落ち込んだ。目の前の少年はあちこち奔走しているというのに、それに対して何一つ支えることができない。

 

 

「……無力な王女ですみません。あなた方にばかり、苦労をおかけして……」

「そのお気持ちだけで充分です。あとは、自分でなんとか頑張ります。自分の人生ですから」

「……強い人ですね、あなたは」

「ただの乱暴者です。ちょっと打たれ強い程度ですよ」

 

 

 最後にそれだけ交わすと、リリアーナは外の監視に気取られないように退室することにした。

 やがて、慧斗たち四人が残った。当初の方針と食い違う話の流れに、疑問を抱いたユエが口を開いた。

 

 

「王国に用事があるんじゃなかったの?」

「思ったより警備が厳しそうだ。先に他を攻めよう」

「じゃあ、どこに行くんです?」

 

 

 シアの問いに、慧斗は迷いなく答えた。ミレディの言葉が正しければ、次に行くべき場所はほぼ確定している。

 

 

「グリューエン大火山――アンカジ公国だ」

 

 

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