ありふれた癌   作:Matto

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04:グリューエン大火山

「あ、ケイトさん!」

「よう、調子はどうだ」

 

 

 文官に案内された先、ゼェレンの医療院で、慧斗とユエはシアおよびビィズと合流した。

 

 

「すっごいですよー! なんかもう、右から順にばんばん吸い上げちゃって! あんなにあった魔晶石がみんな満タンになっちゃいましたよ!」

「やりすぎて衰弱させてねえだろうな」

「そ、それはないと思いますぅ。たぶん……」

 

 

 伝令に救急患者の運搬にと走り回っていたシアが、ずらりと魔晶石を見せた。慧斗が苦労して破砕し、ユエによって精製された魔晶石――その全てが、きらきらと輝く魔力を湛えている。

 

 

「何とか、試みは成功しております。“廻聖”による魔力抜き――盲点でした。上級僧官と術師の総掛かりで取り組んでいますが、多くの患者が容態安定しております」

 

 

 医療院の職員は、半ば興奮した様子で報告した。苦しむ患者たちを前になすすべもなかった苦境から、一気に光明が見えた分、喜びも一入といったところだろう。

 

 

「しかし、長くは保ちません。どこまでいっても対症療法ですから。やはり静因石がないことには、根治は難しいでしょう」

「それは聞いてる。具体的な期限は?」

「精製と運搬の手間を考えると――三日、いえ、二日かと」

「……厳しいな」

「普段はあまり求められない薬剤ですから、備蓄がないのです」

 

 

 医者の言葉に、ビィズは歯噛みした。日数を訂正したあたり、取り繕う余裕すらないということなのだろう。

 

 

「ここからは時間との勝負だ。縋るだけの我々が言えた台詞ではないが――ケイト殿、どうか」

「あい分かった。幸い、先遣は飛ばしている。すぐに発とう」

「私もお供します!」

 

 

 ビィズの言葉に、慧斗は即応した。ずっと動き回っていながらまるで疲労した様子のないシアも、それに付いていく。

 

 

「そういえば、どうやって行くんです? ティオさんに乗るんですか?」

「まさにその先遣に行ってもらってるけど」

「じゃあ、戻ってくるまで待ちますか?」

「それもなあ……採掘に時間を取りたいし……」

 

 

 うーんと悩む慧斗の後ろで、ふとシアの視線が冷たいものに変わった。

 

 

「――そういえば、さっきまでユエさんと水の用意をしてたんですよね。どうやって移動してたんですか?」

「いつも通り、ユエを抱えて、ばばーって走って……」

「…………」

「…………」

 

 

 無言で睨み合うユエとシアの雰囲気に、医療院全体が、何とも言えない沈黙に包まれた。

 

 

「――ずるいですぅ~~~!! 私もだっこされたいですぅ~~!!」

「ずるくも何ともないわ必要な作業だったっての!」

「じゃあ私もだっこしてください!! ダメならおんぶ!!」

「俺今貧血で倒れかかってんだけど!?」

 

 

 案の定、ぎゃいのぎゃいのと大騒ぎ。平時はその漫才に付き合ってやってもいいのだが、今慧斗は貧血で体力の限界である。

 

 

「じゃあユエの“来翔”で行こう! それでいいな!」

「くっ……さっきの魔法で、魔力が枯渇して……」

「今ここにある魔晶石捻じ込んでやろうか!?」

 

 

 しかもそれに主因(ユエ)まで乗ってくる。「何をぬけぬけと……!」という慧斗の怨み言は、しかし本人に全く届いていない。

 そんな三人の後ろから、ビィズがおずおずと口を開いた。

 

 

「……あの……こちらで馬車を手配するという手もありますが……」

「そういうの先に言って!!」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 急遽用意してもらった馬車で揺れること、一刻ほど。一行は、グリューエン大火山の入口へと辿り着いた。

 

 

『おお、着いたかご主人様』

 

 

 そこには果たして、竜姿で待っているティオがいた。一行の到着を見届けると、魔力を解き人間の姿に戻る。

 

 

「状況は?」

「うむ、とりあえず入口は押さえた。静因石もいくつか拾ってきたが……」

 

 

 そう言うと、ティオは“宝物庫”から薄桃色の小さな鉱石を取り出した。全部掻き集めてもティオの両手に収まるほどの量は、とても必要量には足りない。

 

 

「……どれも小さいですねぇ」

「うむ。事前に預けられた“宝物庫”がなければ、竜化と同時に落としてしまったかもしれぬ」

「量が欲しければ奥へ行け、っ()ーことか?」

「そうなるの」

 

 

 やっだなーと慧斗は頭を掻いた。本当なら万全の準備を整えて攻略したかったが、尻に火が付いている状況では泣き言も言っていられない。

 

 

「……その前に……あれ、どうするんです?」

 

 

 目の前のグリューエン大火山を――というより、その眼前の砂嵐を指さし、シアが言った。

 グリューエン大火山は、巨大な渦巻く砂嵐に包まれているのだ。その規模は、大火山をすっぽりと覆って完全に姿を隠すほどで、砂嵐の竜巻というより、流動する壁と形容するのが相応しい。どこぞの天空の城もかくやと言わんばかりの圧巻だった。

 

 

「妾は竜化で強引に突破したが……」

「それしか無くね? あとは、防御魔法とかで強引に相殺しながら押し入るか」

「魔力消費がきつそうじゃな」

「あと俺の貧血も危ない」

「……そうか……」

 

 

 慧斗の短い言葉に、ティオは色々と察した。というか、後ろでじゅるりと八重歯を見せているユエの姿が全てである。

 

 

『――では、掴まれ。振り落とされるなよ』

 

 

 ティオは竜化すると、三人をその背に促した。後はおそらく出番がないので、ここまで曳いてくれた馬車には帰ってもらうことにした。

 ティオの“風纏”とユエの結界で最低限の防護をすると、ティオは一気に吶喊した。強い負荷がかかる以上、のんびり飛翔している場合ではない。横殴りの風圧に耐えながら一気に突破すると、巨大な岩山の上に青空が広がった。まさに嵐の壁で守られた大火山だ。ちなみに嵐の中にはサンドワームをはじめとする複数種の魔物が生息しており、生身の冒険者たちはさらに苦難を負いながら突破させられる羽目になる。

 そのまま頂上にあるという入口まで飛翔すると、ティオは着地して竜化を解いた。ぐつぐつと煮え滾るような熱気に、三人はうんざりした表情を見せた。

 

 

「うわぅ……あ、あついですぅ」

「ん~……」

「砂漠の日照りとも違う熱だな。こりゃ時限に関係なく、さっさと攻略しちまうに限る」

「ふむ。妾には、むしろ適温なのじゃが……熱さに身悶えることが出来んとは……もったいないのじゃ」

「……溶岩風呂でも堪能してこい。あとでな」

 

 

 竜人族が元来熱に強いのか、本人の魔法適性ゆえに耐性があるのか、それとも別の何かなのか……三人は問い質す気力もなかった。

 無造作に乱立する大小様々な岩石を乗り越えた先、四人の目の前には、巨大なアーチを形作る岩石の奥に、内部へと続く大きな階段がある。これが、いよいよ大迷宮の入口か。

 

 

「作戦は?」

「作業を分担しよう。ティオが静因石を探す。俺とシアが掘削する。ユエが集める。ユエ、量の管理は任せたぜ」

「ん」

 

 

 それだけ言葉を交わすと、四人は一気に突入した。奇妙な縁でなだれ込むことになった大迷宮だが、ここを突破しなければ全てが崩壊することになる。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 大火山の内部構造に、四人――正確には、ティオ以外の三人――は驚愕している余裕もなかった。

 何しろ、溶岩が宙を流れている。うねるような流れは、いつ崩壊して降り注いでくるかという不安を煽る。さらに通路や広間の至る所に溶岩が流れており、挑戦者は地面と頭上の両方に注意しながら進まなければならない。

 

 

「うきゃ!」

「大丈夫か?」

「はぅ、ありがとうございます。いきなり溶岩が噴き出してくるなんて……察知できませんでした」

「お前未来予知はどうした」

 

 

 さらに、壁の至る所から、前触れもなく溶岩が噴き出す。ライセン大峡谷と異なり人為的なトラップでない分、察知は極めて厳しい。そもそもからして、この洞窟中を満たす熱気が集中力を削ぐのだ。並みの冒険者なら、入口付近で諦めるところだろう。現に、静因石の採掘跡と微小な残骸が残っていた。

 それでも、一行は奥まで進まなければならない。八層ほど降りたところで、ごおと強烈な熱風に煽られたかと思うと、一行の前に巨大な火焔が襲い掛かった。橙色の火壁が螺旋を描きながら突進してくる。

 

 

「“絶禍”」

 

 

 ユエの言霊とともに小さな重力球が顕現し、その火焔を呑み込んだ。その向こう側、射線の先に、襲撃者の正体――橙色の牡牛がいた。

 

 

「あれは……?」

「魔物か!」

「こんな場所にですかぁ!?」

 

 

 身には溶岩を纏い、立っているのも溶岩の上、呼吸の度に口から炎が漏れている。もはや熱耐性がどうこうとかいう次元ではない。ごうごうと溶岩を蹴り、今にも突進してきそうな溶岩牛に対し、ユエは重力球から圧縮した炎を放った。

 まさに突進しようとした瞬間を狙い、炎のレーザーがその顔面に衝突した。思わずのけぞった溶岩牛は、しかし大したダメージが見られない。

 

 

「むぅ……やっぱり、炎系は効かないみたい」

「ま、溶岩を纏ってる時点でな……お前も魔法の属性くらい考えて撃てや」

「ここは私が!」

 

 

 顔をしかめるユエの横から、シアが久々の出番とばかりに勢いよく飛び出した。とんとんと軽い調子で間合いを詰め、改めて突進してきた溶岩牛に合わせて鉄槌を薙ぎ払う。真正面から槌頭(ハンマーヘッド)に衝突した溶岩牛は、あえなく粉砕された。あまりの勢いに思わず()()()を踏み、溶岩に足を突っ込みそうになったのは内緒である。

 

 

「お、おおぅ……こんなに威力ありましたっけ……」

「お前も重力魔法に慣れてきたんじゃねえの」

「……ん。鍛錬の成果……」

 

 

 せっかくの出番だというのに、やや投げやりな褒め言葉を、しかし受け取る側のシアも言い返す余力がなかった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 そこから、さらに十層ほど。層を下るほどに熱気は厚く濃くなり、一行の気力を奪い続けていた。その間にも襲い来る魔物たちの存在も、集中力を削ぎ続ける。

 

 

「はぁ、はぁ……暑いですぅ」

「……シア、暑いと思うから暑い。流れているのはただの水……ほら、涼しい、ふふ」

「むっ、ご主人様よ! ユエが壊れかけておるのじゃ! 目が虚ろになっておる!」

「……成果を焦ってもしょうがねえ。少し休むか」

 

 

 唯一元気なティオが、三人を呼び留める。一行は手近な広間を陣取り、溶岩から遠い場所に座り込んだ。

 

 

「ユエ、氷塊か何か出せるか」

「ん……“凍柩”」

 

 

 慧斗の要望通り、ユエは一行を取り囲むように氷の塊を現出させた。これだけ疲弊していても、しっかり慧斗のオーダーに応えられるのだから流石だ。さらに気を利かせたティオが微風を起こし、冷気を循環させるように吹かせる。慧斗はついでに“水球”を展開し、冷却に一役買うことにした。

 

 

「はぅあ……、涼しいですぅ~、生き返りますぅ~」

「……ふみゅ~」

 

 

 久々に味わう清涼さに、ユエとシアが思い切り脱力する。

 

 

「オイそこの女子力不足共、汗くらい拭いとけ。冷えすぎると動きが鈍るぞ」

「は~い」

「了解ですぅ~」

 

 

 慧斗は荷物を解くと、二人にタオルを寄越した。滴る汗で強調される肢体は、並みの男たちにとっては垂涎ものの光景だが、さすがの慧斗もそこまで気にしている場合ではない。

 

 

「ユエ、量はどんなもんだ」

「まだ、全然」

「そうか……」

 

 

 ユエの返答に、慧斗は分かりやすく気落ちした。熱気の中の掘削作業はなかなかに堪えるのだが、まだまだ頑張らなければならないらしい。

 

 

「ご主人様は、まだ余裕そうじゃの?」

「半分以上バケモノだからな、色々()()もんだ。……まあ、それはそれとして堪える」

「ふむ、ご主人様でも参る程ということは……おそらく、それがこの大迷宮の『コンセプト』なのじゃろうな」

「コンセプト?」

 

 

 ティオの思わぬ言葉に、慧斗は首を傾げた。

 

 

「うむ。ご主人様やユエから色々話を聞いて思ったのじゃが、大迷宮は神に挑むための試練なんじゃろ? ならば、それぞれに何らかのコンセプトでもあるのかと思ったのじゃよ。

 例えばオルクス大迷宮は、数多の魔物とのバリエーション豊かな戦闘を経て経験を積むこと。ライセン大迷宮は、魔法という強力な力を抜きに、あらゆる攻撃への対応力を磨くこと。このそしてグリューエン大火山は、暑さによる集中力の阻害と、その状況下での奇襲への対応――そんなところではないかのう?」

「……秘匿のための罠じゃねえってことか?」

「神代魔法を託すということは、いずれ暴かれることが前提じゃろ。封印がてら資格者をふるいにかけ、それでも凌げる者はついでに鍛えようという魂胆なのじゃろうな」

「――鬼教官気取りってか? 何様だよクソが」

「何じゃご主人様、反骨精神の塊か?」

 

 

 だらだらと垂れる汗を拭いながら、しかし不快げな表情を見せる慧斗の様に、さすがのティオも閉口せざるを得なくなった。

 

 

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