ありふれた癌 作:Matto
一方、八重樫にリリアーナを押し付――もとい、託してきたシアは、とんぼ返りで城下町に戻ってきた。
「あぅぅ……もうドンパチやってるじゃないですかぁ……」
すでにフリード率いる白竜と、対峙するユエの攻撃が飛び交い、城下町はめちゃくちゃだ。この分だとユエは無事だろうが、今更自分が割り込む余地は伺えない。
そんな中、上空から多数の魔人族が降下し、シアの周囲を取り囲んだ。
「いたぞ! 兎人族の女だ!」
「フリード様の命令だ! 油断するな!」
即座に放たれた魔法の雨を、鉄槌で防御しながら突っ込んでいく。ユエによって“金剛”が付与された鋼鉄の塊は、幾多の魔法を浴びせられても傷ひとつ付かない。
「りゃぁあああ!」
「ぐわぁぁぁっ!?」
そのまま、数人を一斉に薙ぎ払う。超重量の一撃は、骨を砕き、肉を千切り、大地に赤い染みとなって放散する。
瞬間、シアは咄嗟にその場を飛び退いた。一瞬遅れて、氷の塊が轟音を立てて着弾する。
「貴様等だけはぁ! 必ず殺すっ!」
シアの視線の先――魔人族の男ミハイルが、憎悪でその眼をぎらぎらと輝かせながら叫んだ。
「そのヘラヘラと笑った顔、虫酸が走る。四肢を引きちぎって、貴様の男の前に引きずって行ってやろう」
「どこかで、会いました!? そんな眼を向けられる覚えなんて、ないんですけどっ」
無数の風の刃を凌ぎながら、シアは叫ぶように尋ねた。帝国領のさらに奥、ハルツィナ樹海で育ったシアに、魔人族との面識があるはずもない。
「赤髪の魔人族の女を覚えているだろう?」
シアは首を傾げた。ミハイルの額に青筋が浮かんだ。
「貴様らが、オルクス大迷宮で殺した女だぁ!」
「……ああ、あの人」
ミハイルの叫びに、シアは僅かに顔をしかめた。慧斗は「見上げた根性」と讃えていたが、大剣で首を刎ねられる光景を見せられた身としては、あまり思い出したくない。
「で、それがどうかしたんですか?」
「カトレアは、お前らが殺した女は……俺の婚約者だ!」
「――!」
そこでようやく、シアは動きを止めた。風の刃が鉄槌に当たり、かつんと甲高い音を残して消えた。
「よくも、カトレアを……優しく聡明で、いつも国を想っていたアイツを……! カトレアの仇共め、生きて帰れると思うな!」
悔し涙とともに言葉を荒げるミハイルを前に、シアはただ屹立していた。
――びき、と重い音が、内側から聞こえた。
シアは、何かの亀裂のようなものを幻視した。そこから、どろりと昏いものが溢れ出す。シアはその正体を知らぬまま、しかし全身に力が漲る感覚を与えられ、ぎゅっと鉄槌を握った。
「……つまり、なんですか。身内が殺されたから、自分には復讐する権利がある、と」
「そうだ! 貴様らは苦痛に狂うまでいたぶってから殺してやる! 泣き喚いて絶望しながら死――」
憎悪と憤怒と、無意識の自己陶酔で喚き散らすミハイルは、目の前の
「――なんですか、それ」
シアは一瞬で力を漲らせ、勢いよく突撃した。鋭い嘴がミハイルの右腕を抉り、勢いのまま引き千切った。
「ぐわぁぁっ!?」
咄嗟に魔法を撃とうとした別の魔人を、
「ぎゃああぁっ!?」
「あなたたちが勝手に起こした戦争の陰で、私たち亜人族がどれだけ迫害されてきたか知ってるんですか? 私たちが、家族や同胞を失った悲しみを何度味わってきたか知ってるんですか?
――ただ『
昏いものがぼこぼこと沸騰する。内側から灼けるような熱が迸る。全身が熱に冒され、鉄槌を握る力が増す。
「さんざん
鉄槌を振り回すたびに、それによって魔人族の四肢が潰れていくたびに、シアの激情はどんどん膨れ上がっていった。己の裡に滾る昏いものが、燃え上がるようにシアの総身を焼き、剛力となって振るわれた。
「な……なんだ、この女……!?」
「ほ、本当に亜人族なのか……!?」
「ええ、そうですよっ!!」
「がはぁぁぁっ!?」
ついに怯えて逃げ始めた魔人族を、数人まとめて叩き潰した。市街地ごと汚い染みになっていくのを見て、シアは憎悪とも歓喜ともつかぬ感情に呑み込まれた。
「死ねっ! あなたたち魔人族なんか、一匹残らず死ねっ! 今日まで流されてきた同胞たちの血を、お前たちの血で洗い流せぇぇぇぇっ!!」
ウサギには元来、声帯がない。逃げること、隠れることを生息手段とする被捕食者は、ただ声を殺して逃げ惑うことしかできない。
そんな兎人族のシア=ハウリアは、今や大喚声をもって魔人族を潰滅させていた。血を吐くような咆哮で、憎悪のままに虐殺して回っていた。
◇ ◇ ◇
「――んん?」
空を駆り、城下町の様子を見ていた慧斗は、ふとその一角に違和感を見出した。
城下町の一角が、円形に破壊されている。ユエの重力魔法のようにクレーターが生じているのではなく、まるで水平に抉られたかのような、工業機械による整地のような、不自然な円形だ。
「ぎゃひぃ……っ」
「さっきまでの威勢はどうしたんですかっ!? 私たちが受けた痛みは、こんなもんじゃないんですよぉっ!!」
その中心に、シアがいた。夥しい返り血を浴び、腰の抜けた魔人族を追い詰め、血みどろの鉄槌を持って荒れ狂う兎耳少女がいた。
「た、助け――」
「そう言ったらあなたたちは助けてくれたんですかっ!?」
「ごえっ」
魔人の悲鳴を、シアは文字通り叩き潰した。そのままずるりと引き摺った下では、赤黒い染みが残るばかりだった。
「どうしたんですか!? 早くかかって来てくださいよ! 恋人の仇なんでしょう!? 同胞の仇なんでしょう!?
いくらでも叩き潰してあげますよ! 手足を潰して、胴を潰して、その鬱陶しい被害者面を潰して! 憎い仇も討てない絶望の中で、肉も骨も擂り潰してあげますよ!!」
喚き散らすシアを前に、魔人たちはもはや這う這うの体だ。変成魔物を含め、元は何十といたはずの戦士たちは、たった一人の少女の激情によって殲滅されかかっていた。
失禁している手近な一人を叩き潰そうと、いよいよシアは鉄槌を振り上げ――
「――なにしてんだ、この馬鹿ウサギ」
最高点に到達する寸前で、割って入った慧斗に止められた。
「どいて下さい、ケイトさん! そいつらが殺せないじゃないですか!」
「なーにを熱くなってんだ、この馬鹿者。またケダモノ呼ばわりされたか?」
「あなたには分からない!」
軽口を投げる慧斗の手を振り払い、シアは叫んだ。空色の瞳を真っ赤な激情に染め、憎悪のままに喉を嗄らした。
「生きることすら許されない私たちの苦しみなんか、
そしてシアは、慧斗に向けて鉄槌を振るい――
「――っ!?」
「やめとけよ」
それより早く懐に入った慧斗に、ぎゅっと抱き締められた。
「自分でも大体分かってんだろ。そういうの向いてないんだよ、お前。どうせ正気に戻ったら後悔するに決まってんだから、この辺で頭冷やしとけ」
「やっ――やめて、下さい! 私は――私だって――!」
ぽんぽんと宥めるような手に、思わず顔が赤くなる。何とか力ずくで振り払おうとしたシアは、しかし強く抱き締める慧斗に、一向に抗えなかった。
「悲しいよな。苦しいよな。――そういう感情をこそ、大事にしてほしいんだよ。お前みたいな奴だからこそ。
誰かの悲しみに寄り添う優しさを、忘れないで欲しいんだよ」
ゆっくりと頭を撫でる。憎しみを宥めるように。恨みを解すように。その昏い炎に呑まれないように。
いつも元気で、笑顔で、明るくて。細やかな心配りができて、温かい感情を忘れないで、誰かの思いに寄り添うことができて――そんなシアが、彼は好きなのだ。そうであってほしいのだ。
「わた――私、は……」
「ごめんな、身勝手だろ。自覚はあるんだ。
勝手な理想を求めて、吐き出す場所を奪って。綺麗だ綺麗だって褒めそやして、それきりお前の感情を抑えつけようとしてるだけさ。お前の辛さを分かってやれない癖に、お前の意志を無視して『あるべき理想』を押し付けてるだけさ。
――それでもな。苦しむと分かってて暗がりに堕ちていく様は、見たくないんだ。だから、この辺で引き返しとけ」
きっと後悔する。きっと苦悩する。きっと囚われる。
だから、その前に止まって欲しい。逃れられない自分自身の影に、堕ちていかないで欲しい。
「……うぅっ――うぇぇぇん……」
やがてシアの内側から、昏いものの流出が止まった。燃え上がる炎が止んだ。堪らなくなったシアは、慧斗の胸に抱かれて、幼子のように泣き始めた。
――そんな二人の背後に、満身創痍のミハイルが迫った。
「死ねぇぇぇっ!!」
他ならぬ仇! 絶好の瞬間! 下らないお為ごかしに浸りながら、女とともに死んでしまえ――!
「“泥蛇”」
「がはぁっ……!?」
「うるさい三流。女が泣いてんだ、下品な喚声を聞かせるんじゃねえ」
その憎悪は、しかし突き上げるような泥の塊に打ち上げられて遮られた。
吐き捨てるような言葉と共に振り返る
「黙れ黙れ黙れぇぇぇぇっ! カトレアの仇が喋るなぁぁ!」
「……誰の話だよ? 名前だけ持ち出されても、誰が誰だか分からん」
ミハイルの絶叫に、しかし慧斗は首を捻るばかりだった。その傲慢な態度が、さらにミハイルの怒りを煽った。
「お前が! オルクスで殺した! 俺の婚約者をぉぉぉ!」
「……あー……? ああ、あの魔人族か!」
声を嗄らしながら叫ぶミハイルの言葉から、慧斗はようやくカトレアのことを思い出した。そういえば、魔人族との関わりと言えばあの女しかいない。やはり名を訊いておくべきだった。
「誰かと思えば、あの女の連れ合いかあ。いや、なかなかに肝の据わったいい女だったんだが、――男の趣味は良くなかったらしいな」
「黙れぇぇ! お前はぁ! お前だけは絶対に殺す! その女の前で、八つ裂きにしてやる!!」
「そういうとこ。まさしくそういうとこ」
ふんと鼻を鳴らし、侮蔑とともに見上げる慧斗の言葉は、とうに臨界を超えたはずのミハイルの激情を、さらに燃え上がらせた。その身を文字通り燃え上がらせ、泥の磔から強引に脱すると、ミハイルはそのまま吶喊した。
「死ねぇぇぇぇ!」
「お前がな」
目を血走らせるミハイルの
「“凍柩”」
「ぐあぁぁぁぁ――!」
ばきり、と咲いた氷の花がミハイルに触れたかと思うと、たちまち氷の牢獄となって顕現した。絶対零度が燃えるミハイルの激情を呑み込み、その命を凍り付かせた。
あとには、無窮の沈黙が残された。ようやく泣き止んだシアが、おずおずとミハイルの遺骸を見た。憎悪の火が最期まで翳ることがなかったのは、僥倖と言っていいか、どうか。
「……あの、ケイトさん」
「お、ようやく泣き止んだか」
躊躇いがちに問うたシアに、慧斗はけろりとした顔で問いかけた。そこには、復讐者を返り討ちにした達成感も、その憎悪を無碍にした罪悪感もない。
「こう……もうちょっと、手心というか、同情というか……そういうの、ないんですか?」
「え? やだ」
何とか言葉を選んだシアの問いを、慧斗はばっさりと切り捨てた。
「戦争なんだから、殺し殺されは勘定の内だろ。なにを悲劇の主人公ぶってんだって感じ。まして、あんな女の末路を汚すような醜態なんぞ。
そういうの何千回と繰り返されてきた歴史を知ってる身からすると、安直でありきたりで付き合いきれねえ」
「……ケイトさん、そういうところだと思うんですぅ……」
あまりに心無い物言いに、シアは閉口するしかなかった。これでも僅か一歳上である。
◇ ◇ ◇
一方、ユエは無数の灰竜とフリードの白竜との激戦を繰り広げていた。のべ二百を超える灰竜と黒鷺の群れは、今や半数以下に減っている。悠々と中空を滑翔しながら、ユエは圧倒的な火力で有象無象を殲滅していった。
まるで夜天に浮かぶ月のように空を踏みしめるその姿に、フリードは思わず見惚れそうになった。圧倒的な魔力、冷や汗一つ見せない歴戦、そして己をも超えかねない技量。その圧倒的な姿に、フリードは同胞の仇も、魔人族の誇りをも忘れて、敬服の念を抱きかけた。
「惜しいな……女、術師であるお前では、いくら無詠唱という驚愕すべき技を持っていたとしても、この状況を切り抜けるのは無謀というものだろう。
どうだ? 私と共に来ないか? お前ほどの女なら、悪いようにはしない」
「生まれ直してこい、醜男」
戯言交じりのフリードの勧誘を、ユエは冷たく切って捨てた。愚かな、とフリードは呆れた。
「殉教の道を選ぶか? それとも、この国への忠誠のためか? くだらぬ教え、それを盲信するくだらぬ国、そんなもののために命を捧げるのか? 愚かの極みだ。
一度、我らの神、“アルヴ様”の教えを知るといい。その素晴らしさに、その閉じきった眼も――ッ!?」
フリードの口上は、神速の風刃に遮られた。咄嗟に身を捻っていなければ、腕一本無くなっていたところだろう。こんな肩の浅傷で済んでいるのは、二つの大迷宮の試練を乗り越えた経験あってのものだった。
相変わらず中空に屹立するユエは、しかしその眼に執念の炎を燃やしながら手を掲げた。
「御託はいらない。ケイトが傷ついた分、苦しんで死んでもらう」
「聞く耳を持たないか。……仕方あるまい。掃射せよ!」
フリードの命令と、ユエの魔法は同時だった。
“嵐帝”によって生じる竜巻に、“凍獄”を重ねることで巨大な氷雪の嵐を顕現する。それに巻き込まれた灰竜たちが、ばきばきと身を凍らせながら豪風によって砕かれ、悲鳴も上げずに墜落していく。フリードはぎりりと歯噛みしながら、氷雪の嵐の外から極光を掃射させた。
夜天を斬り裂く無数の極光は、さながら流星雨。嵐を貫き、無防備な少女を射殺さんと殺到する死の輝きが突き立てられる――
氷雪の嵐が晴れた。取った、とフリードは確信しかけた。しかしその中心から現れたのは――四方を旋回する重力球に囲まれた、無傷のユエだった。極光を呑み込み、逸らし、ただの一撃も届かせない。
「ブレスが効かぬなら、直接叩くまで! 行け!」
フリードの号令とともに、灰竜たちが一斉に襲い掛かった。四方八方から襲い来る爪と牙に、ユエはただ瞑目し、集中する。いよいよ灰竜たちが無防備な少女を引き裂こうとしたその瞬間――
「“
世界が
絹を裂くような音とともに、断裂の光が一瞬だけ走ると、それに巻き込まれた灰竜たちがその身を両断され、びちゃびちゃと血と臓物を零しながら墜落していった。
空間魔法を利用した、空間そのものの寸断。問答無用の斬撃。その光景に、フリードは絶句しかけた。
「なんという技量だ……もしや、貴様も神に選ばれし者なのか! それなら、私の誘いに乗れぬのも頷ける」
神の寵愛、それ以外に考えられない。そうやって自分を納得させなければ、この圧倒的な技量を受け入れることができない。そんな思考に夢中になっていたフリードは、ユエの額に走る青筋を見逃した。
――得体の知れない悪寒が、フリードの背筋をなぞり上げた。白竜とともに咄嗟に飛び退いた彼は、変成魔物たちの指揮に遅れた。
「“
夜空より深い闇色の重力球が現れ、ずしん、と城下町を陥没させた。巻き込まれた灰竜と黒鷺たちがその身を圧壊され、血と臓物を撒き散らしながら叩き潰される。フリードと白竜が回避することができたのは、偏に積み重ねた戦闘経験による直感だった。
ユエはその姿を冷たく見下ろした。心の底から不快感を覚えた。
「
誰かの道具として使われるのは御免だ。自分は、ケイトのために戦う。彼が守りたいもののために戦う。大切な彼と、大切な仲間たちと並び立つために戦う。赤の他人の、見当違いな思い込みになぞられるのは我慢がならない。
正真正銘の癇癪だった。間違いなく過去最高にブチ切れていた。
「――よかろう。もはや何も言うまい。貴様を殺して、あの男の前に死体を叩きつけてやろう。さすれば、多少の動揺は誘えよう。その時が、あの男の最期だ」
「……よく回る口。黙って行動で示せないの? 醜男」
二人それぞれに吐き捨てたきり、再び極光と魔法の応酬が繰り広げられた。
◇ ◇ ◇
ユエと合流すべく走っていた慧斗とシアは、無数の魔法の応酬を目撃した。どかどかと、城下町をまるごと焦土に変える勢いで炸裂する魔法の嵐に、慧斗はすっかり呆れてしまった。確認するまでもなく、ユエの所業だろう。
「……あいつ、派手にやるなあ……」
「ケイトさんが言えた口じゃないと思いますぅ」
「不死身の魔力おばけと比べられても」
「悪口ですか? また怒られますよ」
「またまた。めちゃくちゃ褒めてる」
慧斗の軽口に、シアは思わず閉口した。バケモノぶりなら慧斗もいい勝負だし、そんな風に悪し様に言ったら、またユエを不機嫌にさせることだろう。……でも「褒めてる」って言えば、あっさり機嫌を直しそうな気がする。シアの中でも、ちょろいのかちょろくないのかよく分からない少女だった。
やがて一通り敵を撃滅したのか、ユエが二人の許へひらりと飛翔してきた。
「ケイト。シア」
「よう。無事そうだな」
「あの醜男はどこ?」
「あ?」
ユエの問いに、慧斗は首を捻った。誰の事だかさっぱり分からない。特にこの厚顔少女の場合、この世の男の九割九分が『醜男』に見えていそうな気がする。自分も含めて。
「グリューエン大火山で奇襲してきた、あの魔人ですぅ」
「こっちに逃げたはず。どこにいる?」
「知らねえ。逃げられたんじゃねえの?」
シアの補足に、慧斗はようやくフリードの事を思い出した。とはいえ、その姿は見かけていない。空間魔法の使い手でもあるし、混乱に乗じて逃げたのかも知れない。
詳しく聞くと、どうやら部下が囮になって彼を逃がし、その掃討に時間を割いた結果、本命を見失ってしまったらしい。珍しく執念に燃えるユエの気配に、慧斗は違和感を覚えた。
「何がどうした。いつもと雰囲気違うじゃねえか」
「あの醜男は私たちの絆を侮辱した。死をもって償って貰う」
「何がそこまでお前を駆り立てるんだ……」
いつもの三白眼のまま気炎を吐くユエの言葉に、慧斗は思わずたじろいだ。横で同じように戦意を漲らせているシアもなんか怖い。