ありふれた癌   作:Matto

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05:裏切り

 相川、畑山、そしてティオの三人が王宮に戻り、騎士団兵舎へと駆け付けたとき。

 

 

「これは……一体、どうなって……!?」

「おやぁ?」

 

 

 そこは、亡者たちの地獄と化していた。

 生徒の一人、中村(ナカムラ)恵里(エリ)を中心に、死んだような表情の騎士たちが生徒たちを拘束し、一部に至っては剣を突き立てている。生徒たちに同行していたリリアーナも、同じように拘束されている。異様な雰囲気に呑まれた相川と畑山は、思わず身動きが取れなかった。

 ――生徒の一人、中村(ナカムラ)恵里(エリ)が裏切ったのだ。彼女は騎士たちを全員殺害し、さらに降霊術の上位術“縛魂”によって、最低限の隠蔽を行っていた。そしてついに、魔人族と取引によって王都への侵攻を手引きし、こうして『勇者一行』が集ったところを、一斉に捕縛したのだ。全ては魔人族に勝利を売り渡し、天之河と二人きりの世界を手中にするために。

 突然の事態についていけなかった生徒たちは、その全員が騎士たちによって拘束されていた。唯一この場を警戒していたリリアーナが咄嗟に結界を張ろうとしたが、間に合わなかった。常人を超えた『チート能力』も、脳のリミッターが外れた屍たちには敵わない。

 

 

「――ノボルさん!」

「相川君! 先生!」

 

 

 そこに、拘束されたリリアーナと八重樫がそれぞれに叫んだ。はっと再起動した二人が最初に捉えたのは――背中から心臓を貫かれた白崎と、その刃を握る檜山。その凄惨な光景に、二人は愕然とした。

 

 

「ふむ……これは、仲間割れかの? それとも――?」

「気を付けて! 恵里と檜山君は敵よ!」

 

 

 ふむと状況を俯瞰するティオをよそに、八重樫が叫んだ。もはや同じ境遇で共に戦うクラスメイトではない。魔人族に内通して王国と人間族を裏切り、騎士たちを殺して上位降霊術“縛魂”で操り人形に変え、デモンストレーション代わりにクラスメイトの一人南雲を生贄に“縛魂”の様子を見せつけ、さらに今香織を殺害したこの連中は、もはや一刻も早く倒すべき敵だ!

 同時に、相川と畑山の目に人魂のようなものが見えた。“魂魄魔法”を習得した今、三人にはその正体が分かる。白崎の魂だ。

 

 

「――ほ、“捕獲”!」

 

 

 相川は咄嗟に手掌を突き出しその人魂を捕えた。まさに“縛魂”しようとしていた中村は、思わず目の色を変えた。

 

 

「相川君!」

「先生ごめん(これ)持ってて!」

「えっ!? えっと――“捕獲”!」

 

 

 そうして捕えた白崎の魂を、相川は半ば強引に畑山に押し付けると、腰に差していた剣鉈を抜いた。

 

 

「てめぇ、俺の香織を……」

「――檜ィィ山ァァァァッ!!」

 

 

 白崎の胸から剣を抜き、掴みかかろうとする檜山に向かって、相川は渾身の勢いで突っ込んだ。

 

 

「っぎぎぎ……!」

「てめぇ――!!」

 

 

 激情のまま剣鉈を押し込む相川と、思わず受け身に回った檜山。二人は剣戟を交わしながらもつれ合い、廊下へと流れていった。

 一方、一連の様子を静かに見守っていたティオは、まっすぐに中村の姿を捉えた。

 

 

「――ふむ。お主が首魁かのぅ?」

「あんたは、穂崎の……う~ん、厄介だなぁ。こんなヒトと相手するなんて……」

 

 

 口では困ったように言いつつ、中村がぴんと指を振るうと、騎士亡者たちが生徒たちを解放し、ティオに向かって剣を向けて歩み寄ってきた。生前ほどの動きの精彩はないが、数だけはいる。ティオを取り囲もうとしたその瞬間――

 

 

「吹き荒べ頂きの風、燃え盛れ紅蓮の奔流――」

「みんな! 伏せなさい!」

 

 

 ティオの詠唱に、八重樫が反射的に叫んだ。軽微な傷を負っているだけの生徒たちは、咄嗟に身を屈め――

 

 

「“嵐焔風塵”」

 

 

 ティオの振り払う手掌から、炎と嵐が吹き荒れ、騎士亡者たちを薙ぎ払った。複雑な思考ができない騎士亡者たちが、その炎に呑まれ絶叫を上げる。彼らは二度目の死を与えられ、そのまま起き上がらなかった。

 ティオの冷淡で凄惨な表情に、畑山も、八重樫も、生徒たちも、そして中村も恐れを抱いた。この女は、まるで容赦がない。敵だと判明すれば、遠慮なく排除する――ひとつ中村が幸運だったのは、そこに援軍が現れたことだろう。

 上空から極光が降り注ぎ、ティオと畑山を襲った。ティオは咄嗟に畑山を抱えると、兵舎の壁や廊下の屋根を盾に飛び退いて逃げ回った。三条の光は、辛うじて兵舎の一部を破壊するだけに留まったが――広場に降り立った白竜とフリードが、この上ない脅威として姿を現した。

 

 

「――そこまでだ、竜の女。この子供たちと王都の民をこれ以上失いたくなければ、大人しくすることだ」

「あ――あれは、まさか……!?」

 

 

 初めて見る敵に、畑山が動揺する。もしや、あれが魔人族。人間族の敵?

 一方フリードも、畑山の手の中に収まっている人魂を見て興味を示した。

 

 

「それは――新たな神代魔法か。もしや『神山』の? ならば場所を教えるがいい。逆らえばこの――」

 

 

 フリードがにやりと笑みを浮かべた。こちらには生徒たちという人質がいる。今まさに王都を襲っている味方もいる。これだけ不利な状況なら、いかな黒竜とはいえ手が出せま――

 

 

「風を纏い、雲を纏い、竜は彼方の天を駆る。これぞ我らが信仰、我らが栄光なり。吹き荒べや嵐の咆哮――」

「――っ!?」

 

 

 そんなフリードの期待を裏切り、ティオは朗々と詠唱を紡いだ。咄嗟に目の色を変えたフリードが、六足亀に障壁を張らせる。

 

 

「“嵐龍”」

 

 

 極大の風が炸裂した。生徒たちをも巻き込み、兵舎どころか王宮の一角を吹き飛ばさんばかりの嵐が、六足亀の障壁を突き破り、防御魔法を展開したフリードに向かって衝突した。

 嵐はすぐに止んだ。だが、趨勢は全く変わっていた。相変わらず厳しく睨み据えるティオと、暴挙に動揺するフリード、そして怯える生徒たち。

 

 

「てぃ、ティオさん!?」

「――何か勘違いしておるのぅ」

「なに……?」

 

 

 畑山の制止も聞かず、ティオは悠々と口を開いた。そこに、フリードの命令に従おうという意図はまるで感じられない。

 

 

「妾はあくまで竜、この世界を見届ける監視者。お主をここで討つためならば、()()()()()を伴うことも已む無し」

「ティオさん!」

 

 

 まるで、生徒たちを巻き込んででもフリードを討たんと言わんばかりのティオに、畑山と生徒たちが震え上がった。自分たちは殺されるのか? 突然現れた謎の美女に? この魔人の撃破と引き換えに?

 

 

「それに――ほれ、もうやってきた。『お主の死』が」

 

 

 ティオが首をしゃくった先から、どす黒い魔力が溢れ出た。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 一方、魔物たちの攻撃によって崩落しかけた廊下で、乱戦にもつれ込んだ相川と檜山。

 

 

「おらぁぁっ!」

「くっ!」

「邪魔なんだよ負け犬がぁぁ!! 俺と香織の邪魔をすんなぁぁ!!」

「くそっ――このっ――!」

「邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だぁぁ!! さっさと死にやがれクソがぁぁぁ!!」

 

 

 真っ先に突撃したはずの相川は、しかし檜山の圧倒的な攻勢に対し、防戦一方に追い込まれていた。

 腐ってもオルクス攻略組として最前線を走っていた檜山と、後方で畑山の護衛隊を務めていただけの相川。加えて元来戦斧士という重武器を操るのが基本の彼にとって、剣鉈はあまりに扱いづらい得物だった。まだ彼の首も腕も繋がっているのは、奇跡と言って差し支えない。

 それでも、相川は負けるわけにはいかなかった。

 

 

「――っくぁぁぁっ!」

「クソっ――」

 

 

 気合任せの一撃が、檜山の連撃を押し返す。

 こいつは裏切者だ。中村も、檜山も、俺たちの未来を閉ざす敵だ!

 

 

「おらぁぁっ!」

「ぐっ!」

 

 

 その気迫が脳内でアドレナリンを分泌し、檜山の剣にも構わず力ずくで突進させる。ぞぶりと剣が肉に食い込む感触もお構いなしに、力任せのタックルで檜山を突き飛ばした。

 異世界で得た『チート能力』とはいえ、身軽さが優先される軽戦士。人一人の渾身のタックルを躱し損ねた彼は、ぐらりと姿勢を崩した。

 その先に、魔物たちの攻撃で崩落した一角があった。

 

 

「えっ」

 

 

 思わず足を踏み外し、崩れた足場から転がり落ちていく檜山。ぐえっと痛みで呻いたその視線の先には、雄叫びを上げて襲い掛かる変成魔物たち。

 『人間族は敵』という認識しか与えられていない彼らに、檜山を助ける道理はない。目の前の獲物を始末するべく、彼らは一斉に飛び掛かった。

 

 

「ぎゃぁぁぁっ! たす、助けっ、助けてくれぇぇ――」

 

 

 檜山の声はすぐに聞こえなくなった。ぐちゃぐちゃと何かを貪る音がするのを、眼下から目を背けながら、相川は膝から頽れた。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 勝った。生き延びた。でも檜山は死んだ。魔物に殺された。自分のせいで死んだ。自分が殺した――

 ぐるぐると思考が錯綜し、自分も崩れた足場から滑落しそうになる相川。それを抱き留めたのは、無骨な籠手(ガントレット)を嵌めた腕だった。

 

 

「グッジョブ、相川」

「――えっ……?」

 

 

 雑な所作で相川を引き戻し、尻餅を突かせるようにへたり込ませるのは――全身に傷を負いつつ、涼しい顔で屹立する慧斗だった。

 

 

「ほ……穂崎……?」

「何か知らんが、よく頑張った。――ユエ、怪我を治してやれ」

「ん」

 

 

 ぽんぽんと相川の肩を叩きながらユエに依願すると、慧斗はそのまま歩き出した。目指すは、ティオのいる騎士団兵舎前。どうやらそこに、裏切者たちが集結しているらしい。

 慧斗は濃密な魔力を纏ったまま、だんと広場に踏み込んだ。

 

 

「遅かったのぅ、ご主人様」

「お、ちょうどいいところに。いたじゃん、例の醜男」

「良かった、これで擂り潰せる」

 

 

 ティオの軽口をよそに、慧斗はゆるりとグレートソードを担いだままフリードを見据えた。ユエとシアを伴って歩み寄るその姿に、フリードは苦渋を覚えた。先日対峙したときより、力が増している。更なる神代魔法を手にしたか、それとも――

 

 

『縺倥c縲∵焔譌ゥ縺冗援莉倥¢繧九°』

 

 

 慧斗のどす黒い魔力が、可視化されて溢れ出た。広場をあっという間に満たす津波のような魔力が形を成し、無数の獣たちとなってフリードらに襲い掛かる。ヘドロのように纏いつく黒い影が、フリードと白竜、そして中村を締め上げた。

 

 

「――くっ……こ、これは……!?」

「ぎゃ……っ!?」

 

 

 あっという間の展開に、なすすべもなく拘束される三者。フリードはぎりぎりと歯ぎしりしながら、髪と眼窩を反転させた目の前の怪物を睨み据えた。

 

 

『菴輔□縲√%縺ョ遞句コヲ縺九?』

 

 

 一方、その怪物こと慧斗は、影の津波を悠々と掻き分けながら歩いた。重苦しい魔力に息苦しさを覚え、酸素を求めて喘ぐ生徒たちをよそに、二人に向かって歩みを進める。

 

 

「くっ……生け捕りのつもりか……!?」

「ちょっとぉ~、何とかしてよ、魔人さ~ん」

 

 

 そのまま攻撃する様子もない慧斗に、フリードが苦悶の声を上げ、中村もまた困窮した様子でフリードに縋った。

 

 

「どいてケイト、そいつ殺せない」

 

 

 慧斗の後ろから、ユエが不満そうな声を上げた。呆れたように首を捻る慧斗は、それを無視して中村に視線を遣った。

 

 

『縺昴>縺、縺後◎縺」縺。蛛エ縺ォ縺?k縺ョ縺ッ縺ゥ縺?>縺?%縺ィ縺?』

「な、なんて言ってるか全然分かんないですぅ……」

「――ご主人様、その子供は裏切者じゃ」

 

 

 怪物化した慧斗の言葉は、余人には届かない。しかし何を尋ねたいのか察したティオは、即座に言葉を寄越した。

 まさにそれを待っていたかのように、慧斗は中村の前に歩み寄ると、グレートソードを高く振り上げた。

 

 

「穂崎君!」

 

 

 影の津波に揉まれながら、畑山が叫び声をあげる。慧斗はお構いなしにグレートソードを振り下ろし――

 

 

「“界穿”!」

 

 

 フリードへ意識を離していたのが仇となった。彼は素早く中村の襟首を掴むと、光の膜へ転げ落ちるように飛び込んだ。

 膜の先は、魔人たちが取り囲む王都周辺の一区画の上空だった。咄嗟の発動にしては上出来だ。フリードはそう思うしかなかった。白竜はあのまま犠牲にするしかないが、また新たに造れば――

 

 

「――なにっ!?」

 

 

 ぐい、と襟首を掴まれたフリードは、その視線の先、闇を垂れ流す怪物(ケイト)の姿に驚愕した。まさか、あの一瞬を追われ――

 

 

『豁サ縺ュ』

「がはぁっ!?」

 

 

 慧斗はそのまま、中空でフリードの心臓を貫いた。ダメ押しとばかりにその脊髄を両断し、勢いよく地面に叩き落とす。

 

 

「ぐぁぁっ……!」

 

 

 そのまま、フリードの亡骸と中村は地面に墜落した。落下の衝撃と痛みに呻く中村をよそに、慧斗は魔力を収めながらだんと着地した。空から急に落ちてきた三人に対し、魔人たちは咄嗟に反応ができなかった。

 

 

「ふ――フリード、さま……?」

 

 

 しばらく、沈黙が流れた。急に何かが降ってきたと思ったら、そのうちの一人が自分たちの将で、しかも胴を深く抉られて絶命している。何故? 何故? 何故? 何故? 何故?

 動揺する魔人たちは、焦燥に駆られ、異常に戸惑い――そして、フリードの返り血を浴びたグレートソードを担ぐ慧斗へと視線を集中させた。

 

 

「――おおぉぉぉっ!」

「フリード様の仇ぃぃぃッ!」

 

 

 幾人かの魔人たちが、慧斗を取り囲んで突撃した。この怨敵を、我らが将フリード様の仇を、何としても取らねばならない!

 

 

「――“火山衝”!」

「ぐはっ!?」

「ぎゃぁぁっ!?」

 

 

 そんな魔人たちの吶喊は、しかし慧斗の魔法によって撃ち落とされた。巨大な噴炎が周囲を焼き払い、取り囲んだ魔人たちを一斉に焼き焦がした。

 

 

「……て――撤退だ! 撤退するぞ!」

 

 

 その暴力を目の当たりにした魔人の一人が、そう叫んだ。

 

 

「馬鹿野郎、何を言ってやがる!」

「フリード様がやられたんだぞ!」

「フリード様が勝てなかった敵に、俺たちが勝てるはずがない!」

「しかし……!」

 

 

 周囲の魔人たちが反発するが、かと言って相対する勇気も持てなかった。相手はあのフリード様を斃した怪物だ。自分たちが総掛かりで当たったとして、敵うかどうか。

 

 

「――どうする。そっちがその気なら、いくらでもやっていいぞ」

 

 

 がちりとグレートソードを肩に担いだ慧斗が、その眼に闘志を滾らせながら言い放った。ただそれだけで、魔人たちは畏怖させられた。

 

 

「て、撤退するぞ!」

「急げ! 魔物たちを回収しろ!」

 

 

 魔人たちはこぞって逃げ出した。変成魔物に跨り、その群れを引き連れ、殿も何もなく逃げ出していく。偏に、慧斗に追走する気力がなかったのが幸運だった。

 とにかく、目の前の脅威は去った。残る問題は、あと一つ。

 

 

「……ほ――穂崎っ……!」

 

 

 怯えながら、後ずさりしながら這いずる中村に、慧斗は視線を向けた。その眼に恐怖をいっぱいにした中村を、慧斗は冷たく見下ろした。

 ――ぎゃりり、と慧斗がグレートソードを振るい、中村を取り囲むように地面を刻んだ。彼女は反射的に怯んだ。

 

 

「ひぃっ!?」

「一度だけ、チャンスをやる」

 

 

 四角に切り取られた荒い傷痕は、中村をぴっちりと囲い、指一本外に出せないぎりぎりの大きさだ。目の前を血みどろのグレートソードが駆け抜けた恐怖に、中村は動けなかった。

 

 

「俺たちが戻ってくるまで、そこから一歩も出るな。

 ――反論は許さない。違えれば、お前を殺す」

 

 

 慧斗は冷たく言い放つと、そのまま身を翻し、王宮へと跳んでいった。

 やがて、慧斗の気配が完全になくなったころ。ふと中村はフリードの亡骸に意識を向けた。神代魔法なる稀有な魔法を修めた超人、魔人族の将。今なら、何をしても気付かれない。降霊術で蘇らせるようかと考えたが――

 ()()()()使()()()()

 いかに稀有な魔法を修めた超人とて、“縛魂”してしまってはただの木偶の坊だ。そもそも生前、満足に役目を果たしてくれなかった。

 だったら、いっそ。

 

 

「――うふっ」

 

 

 中村は大博打に出た。誰もやったことのない、前人未到の試みだ。だが、必ず手に入れると決めたのだ。そのためなら、どんなことでもすると決めたのだ。

 

 

「うふふ、うふふふふふふふふ……!」

 

 

 中村の顔に浮かぶ狂気的な笑みを、誰も見ることはなかった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「ご主人様よ、首尾はどうじゃ?」

「上々――とは、言い難いかな」

 

 

 王都を飛び跳ねながら移動し、息を荒げて戻ってきた慧斗に、ティオが声を掛けた。

 フリードは殺した。魔人族も撤退させた。だが最後の一手、中村を放置せざるを得なかった――すでに限界を迎えていた慧斗は、がくりと膝を折った。

 

 

「ケイト!」

「ケイトさん!」

「――大、丈夫。ただの、ガス欠」

 

 

 咄嗟に駆け寄ったユエとシアに、慧斗は気遣うように返した。実際、致命傷は負っていない。一休みすれば、そのうち回復するだろう。

 

 

「穂崎君! 香織が……! 香織を……私……どうすれば……」

「……いや、俺に言われても……?」

 

 

 そんな横から、八重樫が白崎を抱えたまま涙目で駆け寄ってきた。治療ならば白崎に頼むべきだが、その白崎が死んでしまった以上、どうすることもできない。そもそも、魔法技能は普通以下の自分に頼られても。

 そこに、ティオが助け船を出した。

 

 

「手はあるかも知れぬ」

「っていうと……?」

「実はな、神山の神代魔法が“魂魄魔法”だったのじゃ。それで今は、カオリとやらの魂を繋ぎ止めておる」

「も、もう保たないです……ま、魔力が……」

 

 

 どうやら、白崎の魂を畑山が繋ぎ止めているらしい。となれば、器となる肉体を復元させれば、蘇生させることができるかもしれない。

 

 

「――ティオ、ユエ。再生魔法で、白崎の肉体を、復元しろ」

「復元?」

「心臓が止まると、脳が酸欠して機能停止、同時に各臓器の、腐敗が始まる。それを戻して、状態安定させろ」

「分かった」

 

 

 ユエとティオが、慧斗の指示通りに白崎の肉体を修復し始めた。とはいえ、肉体構成が元に戻ったところで、心臓が再び動かなければ、また酸欠と腐敗が始まる。時間勝負だ。

 

 

「――うむ、良いぞ」

「センセ、白崎の魂突っ込んで」

「は、はい!」

 

 

 ティオの言葉と同時に、畑山が白崎の人魂を肉体へと押し込んだ。しばらく、何も起こらなかった。心なしか、その顔の血色が戻ったように見えた八重樫は、堪らず白崎を抱きかかえた。

 

 

「……香織……!」

「呼吸と、脈拍を確認して」

 

 

 慧斗の言葉に、ユエが素早く反応した。呼吸――浅いが、確かに続いている。脈拍――とくんとくんと、確実に動いている。

 

 

「……どっちも、大丈夫そう」

「ありがとう……! 本当に、ありがとう……!」

「いや、今度こそ俺、何もしてないんだって」

 

 

 ユエの報告に、八重樫は涙を流しながら礼を言った。己に言うのは筋違いだろう、と慧斗は呻いた。ユエとティオ、あと畑山が協力してこそ成し遂げたことだ。

 これで一安心、と安堵しかけた畑山は、しかしもう一つ重大なことを思い出した。

 

 

「そ、そうだ! 檜山君と相川君が……!」

「――あいつのことはいい」

 

 

 きょろきょろと慌てて周囲を見渡す畑山の視界に、疲れた様子の相川が姿を現した。その顔は、どこか悄然としている。

 

 

「……相川君……?」

「檜山は、魔物の群れに落としてきました。まず生きてないと思います」

「そんな……!?」

 

 

 相川の吐き捨てるような言葉に、畑山は愕然とした。

 

 

「あいつも、裏切者だった。いま生き返ったとはいえ、白崎を殺した。そんな奴を、助ける必要なんて、ない」

「そんな――だって、でも……!」

「……相川君の判断は、正しいと思う。無事でよかった」

「八重樫さん……!」

 

 

 憎しみさえ滲ませる相川の言葉を、八重樫までも肯定し、畑山は言葉が見つけられなかった。生徒同士が殺し合いをするなんて――そんな言葉は、しかし今や何の意味もなかった。

 なしてしまったことは仕方ない。だが慧斗は、相川が虚勢を張っているように見えた。

 

 

「……それでいいのか、お前」

「いい」

 

 

 慧斗の短い問いに、相川は決然と返した。それ以上の言葉を紡ごうとしたら、何かが決壊してしまいそうだった。

 

 

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