ありふれた癌 作:Matto
「ハイリヒ王国王女、リリアーナ様ご一行のお成りです!」
衛兵の朗々とした声とともに、謁見の間の重い扉が開かれた。
そこに入場してくるのは、王女リリアーナ、護衛の天之河と慧斗である。玉座で傲然と頬杖を突き、胡坐を掻いて座る皇帝ガハルドの前に、三人は揃って跪いた。
「ハイリヒ王国王女、リリアーナ・S・B・ハイリヒでございます。この度は、ガハルド皇帝陛下にお会いできて感激です」
「顔を上げな。――先日、父君エリヒド陛下が身罷られたらしいな。改めて弔意申し上げる」
「勿体ないお言葉にございます。お気遣いに感謝いたします」
顔を伏せたままのリリアーナの恭しい言葉に、ガハルドは大上段ながら弔いの言葉を述べた。少なくとも対魔人戦線で協力する同盟国である以上、最低限の礼儀は弁えるつもりらしい。
ガハルドは次に、“勇者”天之河に視線を向けた。
「……皇帝陛下……」
「いつぞやの勇者君か。元気そうで何よりだ」
「いえ……」
何やら慧斗の知らないところで面識があったらしい。エヒト神に召喚された勇者の代表、皇帝ガハルドの注目を引くのも当然だろうと、慧斗は聞き流した。
それはそれとして、ガハルドは最後に慧斗へと視線を向けた。
「で、お前さんが話題沸騰中の『Mr.測定不能』かい?」
「…………」
「皇帝陛下がわざわざ訊いてるんだぜ。さっさと答えな」
「何のことか分かりかねます」
「よーし衛兵とっ捕まえろ。そいつからステータスプレートを引っ張り出せ」
「そこまで言うなら出しますよ……」
本気で衛兵を呼びつけようとするガハルドに対し、慧斗はしぶしぶ立ち上がり、ステータスプレートを差し出した。衛兵越しにプレートを受け取り、内容を検めると、ガハルドはふんと鼻を鳴らしながらプレートを返した。
「ふん、やっぱり本物じゃねぇか」
「本心です。『話題沸騰中』なんて噂は存じ上げませんよ」
「“破軍の主”が、面白いことを言いやがる」
「…………」
「おぉ、怖い怖い。凄むなよ」
無言で睨んだ慧斗に、ガハルドはおどけてみせた。ジョークと本気の差を弁えているのは助かる。でなければ、衆人環視の元で皇帝撲殺という決定的な国際問題が生じるところだったからだ。
「――ところで坊主、珍しい白髪の兎人族を飼ってるってのは本当か?」
リリアーナの脇へと後ずさる慧斗に向かって、ガハルドが問うた。
「それが何か」
「俺様に寄越す気はねぇか?」
「何故?」
ガハルドの提案を、慧斗は目を伏せたまま切り捨てた。リリアーナが思わず青ざめる様子には目もくれず、ガハルドは玉座からぐっと身を乗り出す。
「ケイトさん……!」
「相場の十倍――いや、二十倍まで出す。どうだ」
「恐れながら皇帝陛下。このように衛兵がずらりと並んでいる中で商談とは、いささか意地が悪くていらっしゃる」
「手出しはさせねぇ。お前がどうしてもって言うなら、それまでだ」
「ではお断りします」
慧斗は即答した。大国ヘルシャーの皇帝をも恐れぬ大胆な態度に、当の皇帝ガハルドは興味深そうな視線を強めた。
「――ほぉ。そんなに気に入ったのかい」
「皇帝陛下。
「仲間ぁ? ……はっはっはっはっは!!」
涼しい顔で言い放った言葉に、ガハルドは心の底から驚嘆したようだった。心底愉快そうに、彼は盛大な哄笑を上げた。
「面白れぇことを言いやがる! 亜人族、それもウサギが仲間ぁ? がっはっはっはっは!
そういやお前さん、例の兎人族には首輪を付けてねぇらしいな! どうやら本心らしい! こいつは傑作だ、がっはっはっはっは!!」
衛兵たちも笑い声を零した。謁見の間を満たす嘲笑に、天之河は思わず拳を握ったが、慧斗は涼しい顔で聞き流した。
「いやぁ、面白い話を聞かせて貰った! 前座にはちょうどいい、助かったぜ!」
嘲笑なのか、本心なのか。どちらにせよ場を暖める程度の役には立ったようだ。慧斗はそれきり一言も発さなかった。
◇ ◇ ◇
「――リリィ、婚約ってどういうことだ! 一体、何があったんだ!」
「馴れ馴れしくすんなっ
別室にて一通りの会談を済ませ、大使館に戻ってきたリリアーナたち三人。帝国兵の目が無くなったところで、天之河はいよいよ堪らず叫んだ。慧斗の咎めは聞こえていないようだった。
何も聞かされていない女性陣には、寝耳に水の話のようだった。特に目の色を変えたのが、谷口とシアだ。
「こ、婚約!? リリィが!? いったい誰と!?」
「バイアス皇太子殿下です」
愕然とする谷口に、リリアーナが硬い表情で答える。誰もが愕然とする中、慧斗は無言で椅子に座った。
「ずっと以前から、殿下との婚約の話はありました。事実上の婚約者でしたが、今回のパーティーで正式なものとするのです。魔人の侵攻で揺らいでいる今だからこそ、というわけです」
「王国との調整が必要ではないのかの?」
「事後承諾ではありますが、反対はないでしょう。元々、そういう話だったわけですし。
それに、今の王国の実質的なトップは私です。ランデルは未だ形だけですし、お母様も前には出ない人ですから。今は何事も迅速さが必要な時なのです」
ティオの確認にも、了解済みのように言葉を並べるリリアーナ。弟も母も、別れの言葉も告げられないまま彼女を見送る形となってしまったのだ。
とはいえ、今後王国が苦しくなる選択だろう。重鎮が尽く殺害された今の王国を立て直すには、多大な時間を要する。唯一動きようのあるリリアーナが帝国に嫁いでしまっては、両国のパワーバランスが一気に傾くことになってしまう。
「……たとえ、狂った神の遊戯でも、魔人族が攻めてくれば戦わざるを得ません。
我が国の王が亡くなり、その後継が未だ十歳と若く、国の舵取りが十全でない以上、同盟国との関係強化は必要なことです」
リリアーナの主張に誤謬はない。裏でどこの何者が手を引いていようと、実際に魔人族が攻め込んできている以上、国を護るには力が必要で、その力を得るには帝国の庇護が必要だ。ハイリヒ王国は、そういう瀬戸際に立たされている。
しばらく、誰も口を挟めなかった。挟もうとしないのは一人だけだった。
「……王女様は……その人のことが、好きなんですか?」
「やめろ、シア」
「だって……!」
やがて口を開いたシアの問いを、慧斗が制した。その眼には、憤然とした感情を押し殺すような色があった。
「好き嫌いの話ではないのです。国同士の繋がりのための結婚ですから。
ただ、殿下には既に幾人もの愛人がいらっしゃるので、その方々の機嫌を損ねることにならないか、胃の痛いところです。
私の立場上、他の皇子との結婚というのは釣り合いが取れませんから、仕方がないのですが……」
「そんな話をしてるんじゃありません!」
まるで他人事のような説明に、シアが力強く反発する。それに便乗するかのように、天之河と谷口が続いた。
「な、なんで、そんな平然としているんだよ! 好きでもない上に、そんな奴と結婚なんて、おかしいだろ!」
「光輝さんたちから見ればそうなのかもしれませんが、私は王族で王女ですから。生まれた時から、これが普通のことです」
「普通って……リリィだって、女の子なんだ。ちゃんと好きになった人と結婚したいんじゃないのか?」
「そうだよ、リリィ! こんなこと――」
納得できず喚く天之河たちに、リリアーナはただ困ったような笑みを浮かべるだけだった。
王も平民も奴隷も関係ない。誰だって、好き合った者同士で添い遂げたい。それが少女として、人間として、当たり前の願いのはずだ。こんなことで否定されるなんて、間違っている。沈黙を守っているユエやティオも同じ考えのようだ。谷口がさらに言葉を続けようとして――
「――お前たちの脳味噌に『政略結婚』って単語は存在しないのか、この阿呆共!!」
いい加減苛立った慧斗が、だんと机を叩いて叫んだ。
どうしてこんな我儘を言える。どうしてこんな駄々を捏ねられる。誰よりも苦悩しているのは、他ならぬリリアーナだというのに!
「どうしようもないんだ。生まれる前から生き方を決められてるのも、顔も碌に知らない相手と添い遂げないといけないのも、国のために自分の幸福を全部投げ出さないといけないのも――お前たちが後から好き放題言って、困らせていい資格なんてないんだよ。正論ぶって否定して、辛い思いをさせる資格なんてないんだよ。
王も平民も奴隷も、産まれ方を選ぶことなんてできないんだ。それに従って生きないといけないのがこの世界で、この人の現実なんだ」
重苦しい沈黙が流れる中、慧斗はリリアーナに対し「馬鹿共がすみません」と小声で謝罪した。力なく項垂れる少年の言葉に、リリアーナは何も答えることができなかった。
◇ ◇ ◇
数日後。
大使館、リリアーナの私室にて。彼女は今宵のパーティに備えるべく、お針子と侍女たちに囲まれてドレスを選別していた。
「まぁ、素敵ですわ、リリアーナ様!」
「本当に……まるで花の妖精のようです」
「きっと、殿下もお喜びになりますわ!」
突然の到着にしては、備えがあって助かる。百合のようなドレスに身を包んだリリアーナに、侍女たちは手を叩いて喜んだ。くるりと回る様は、まるで百合が花開いたかのようだ。少女と女性の中間にある無二の魅力が、最大限に引き立てられていた。
「そう、ね。これにしましょうか。後は、アクセサリーだけど……」
リリアーナ自身、その姿に納得しながらも、どうしてもその所作は重かった。
皇太子バイアス・D・ヘルシャー。彼女の夫となるその男は、父に似た女好きで、すでに多くの愛人を囲っている。かつて一度だけ帝国で対面した際にも、まだ十に満たない彼女を舐め回すように見やる好事家だった。また王国に来た際は、『稽古』と称して下級騎士たちをいたずらにいたぶるなど、その実力に見合わない粗暴さを持ち合わせている。――それでも、夫となる人間だ。その正妻として、そしていずれ皇帝の伴侶になる者として、恥をかかせるわけにはいかない。また婚約パーティーの主賓として、それに相応しい姿を整えなければならない。
天之河たちに言われた言葉が脳裏に去来する。女の子なんだから、好きになった人と――そう夢想したことは何度もある。その度に迷いを掻き消すように頭を振り、しかし叶わぬ願いへの執着に枕を濡らした夜は何度だってある。それを打ち砕く現実が目の前に迫った今、もはや彼女は涙も枯れた気分だった。今更、「もしも」を願う気分にすらなれなかった。
ばん、と扉が開かれたのはその時だった。侍女たちがびくりと身を震わせる中、礼服をも狭苦しそうに身を包んだ大柄な男が、ずかずかと部屋に入ってくる。追い縋るように入ってきた近衛騎士のことなど、まるで意に介していない様子だ。
「ほぉ、今夜のドレスか……まぁまぁだな」
「……バイアス様。いきなり淑女の部屋に押し入るというのは感心致しませんわ」
「あぁ? 俺は、お前の夫だぞ? 何、口答えしてんだ?」
「…………」
皇太子バイアスその人。リリアーナの諫言を鬱陶しげに振り払うその姿は、数年前と変わらない、粗野で横暴な雰囲気だ。リリアーナのドレス姿を上から下まで舐め回すような視線に、彼女は悪寒を覚えた。
「おい、お前ら全員出ていけ」
そんな彼女をよそに、侍女たちをしっしと追い払い始めた。戸惑うお針子や侍女たち、さらには止めに入ったはずの近衛騎士たちをも締め出そうとする。近衛騎士たちは反抗するような目つきを見せたが、バイアスが剣呑な雰囲気を纏ったのを見て、しぶしぶと引き下がった。ここで皇太子に手を上げれば、国際問題待ったなしだ。それでなくとも、バイアス自身が彼らを上回る戦士である。
「ふん、飼い犬の躾くらい、しっかりやっておけ」
「……飼い犬ではありません。大切な臣下ですわ」
「……相変わらず反抗的だな? クク、まだ十にも届かないガキの分際で、一丁前に俺を睨んだだけのことはある。あの時からな、いつか俺のものにしてやろうと思っていたんだ」
あくまでも気丈に振る舞うリリアーナに厭らしい笑みを浮かべると、バイアスはいきなり彼女の胸を鷲掴みにした。
「っ!? いやぁ!
「それなりに育ってんな。まだまだ足りねぇが、それなりに美味そうだ」
「や、やめっ」
ぐにぐにと乳房を確かめるように揉みしだく。不躾で無遠慮な触り方に、リリアーナは苦痛を覚えた。その表情を見て、ますます興奮したように嗤うバイアスは、そのままリリアーナを床に押し倒した。乱暴に叩きつけられたリリアーナが悲鳴を上げるが、外の近衛騎士たちは気が付いていないようだ。
「いくらでも泣き叫んでいいぞ? この部屋は特殊な仕掛けがしてあるから、外には一切、音が漏れない。まぁ、仮に飼い犬共が入ってきても、皇太子である俺に何が出来るわけでもないからな。
何なら、処女を散らすところ、奴らに見てもらうか? くっ、はははっ」
「くっ……どうして、こんな……」
げらげらと下卑な嘲笑を響かせながら、バイアスはリリアーナの両手を掴み上げ、両脚にも膝を差し挟んで動きを封じた。まさかこんなところで、こんな形で辱めを与えるつもりか。青ざめた表情を浮かべながら、それでもきっと睨み返すリリアーナに、彼はさらに昂るような表情を見せた。
「その眼だ。反抗的なその眼を、苦痛に、絶望に、快楽に染め上げてやりたいのさ。俺はな、自分に盾突く奴を嬲って屈服させるのが何より好きなんだ。必死に足掻いていた奴らが、結局何もできなかったと頭を垂れて跪く姿を見ること以上に、気持ちのいいことなどない。この快感を一度でも味わえば、もう病みつきだ。
リリアーナ。初めて会ったとき、品定めする俺を気丈に睨み返してきた時から、いつか滅茶苦茶にしてやりたいと思っていたんだ」
「あなたという人はっ……」
「なぁ、リリアーナ。結婚どころか、婚約パーティーの前に純潔を散らしたお前は、どんな顔でパーティーに出るんだ? 破瓜の痛みに耐えながら、どんな表情で奴らの前に立つんだ? あぁ、楽しみで仕方がねぇよ」
旧い祖国を護るため。新しい祖国を護るため――そんな彼女の決意は、頬を伝う涙とともに崩れ落ちた。目の前の男は正しく、帝国皇太子だった。力で全てを征し、思うがままに暴虐と屈辱を与え続けるガハルドの嫡子で、その治政を継承する男なのだ。
嗜虐的な笑みを浮かべながら、バイアスはリリアーナのドレスを引き裂いた。力ずくで抑えつけられた彼女は身動きが取れず、なすがままにされていく。玉のような肌が露わになるのを、リリアーナは羞恥でいっぱいになりながら耐えた。ぐいと片手でリリアーナの顎を掴んだバイアスは、そのままゆっくりと顔を近づけた。情愛も風情もない接吻を、逃げられないその事実を突き付けるかのような目つきに、リリアーナはついに心が挫けた。
好きになった人と添い遂げる、そう願う資格はない。もしも普通に生きられたら、そう願う資格はない。――その代価が、こんな恥辱だというの?
(だれか、たすけて)
――ばりり、と紫光が迸ったのは、その時だった。
「
バイアスの手に鋭い痛みが走った。見ればリリアーナの周囲に、淡い紫色の光が纏わりついている。バイアスがそれに触れるたび、ばちりと鋭い電流が走り、その手足に痛みを走らせた。
「い、
思わず飛び退いたバイアスに、しかし追撃するように紫光が瞬き、その四肢に痛みを与え続ける。絶え間ない紫光の痛みに、もはや凌辱どころではなくなったバイアスは、逃げるように扉へと縋った。
「く、くそ。――今回は、引き下がってやる。今に見てろよ……
紫光の追撃を受け、ついでにドアノブの静電気に怯みながら、バイアスは逃げるように部屋を出ていった。
入れ替わるように飛び込んできた侍女たちが、リリアーナのあられもない姿に目の色を変えた。
「リリアーナ様! ご無事ですか!?」
「え、えぇ……」
駆け寄る侍女たちに、リリアーナはひとまず返事をした。
腰を少し痛めただけ。両手がすこし鬱血しただけ。ドレスを一着破かれただけ――それ以上の被害はない。リリアーナを包んでいた紫光は、跡形もなく消えている。
(……もしかして、ケイトさんが……?)
ここにいないはずの誰かを想い、リリアーナはきゅっと胸元を握りしめた。
◇ ◇ ◇
「――チッ。案の定、クソ野郎だったか」
一方、別室で同じようにパーティのために身支度をしていた慧斗。上着を壁に引っかけたままの彼は、不機嫌そうな表情で椅子に座り頬杖を突いていた。
「リリィの様子?」
「ちょいとお仕置きをしておいた。工夫すれば使えるもんだな」
「……覗き。変態」
「うるさい」
大使館へと急に馬車が入ってきたのを見て、何やら厭な予感がした慧斗は、念のためリリアーナを監視していた。案の定、バイアスがリリアーナを凌辱しようとするのを見て、慧斗は空間越しに魔法を放ち、追い払ってやった。蛙の子は蛙、親が親なら子も子だ。こんな事態にならなければ、とても関わり合いになりたくない連中だった。
そんな折、窓がこんこんと鳴らされた。シアが立ち上がり窓を開けると、そこにするりとハウリアの数人が滑り込んだ。マスクで人相を隠し、夜に溶け込むような藍色の装束に身を包んでいる。
「――ケイトさん」
ぎょっと目の色を変えるシアをよそに、ハウリアたちは慧斗に向かって跪いた。敬意を以て蹲るというよりは、隠密行動の癖のような状態らしい。
「状況はどうだ」
「作戦がまとまりました。ケイトさんとユエさんのご協力をお願いしたく」
「詳細は」
慧斗の問いに、ハウリアの一人が懐から数枚の紙束を取り出し、二人に見せた。帝都の地図に各地での作戦内容、そして二人に対する要請内容が書かれている。
「まあ、こんなもんかな。ユエ、準備はどうだ」
「もう済んでる」
「お前なんちゅう怖いことを……」
「暇だったから、作ってた」
具体的な作戦内容も教えてもらっていなかった段階で、この準備の良さ。しかも彼女の事だから、炸裂したときの火力も恐ろしいことになるはずだ。相変わらず恐ろしい小娘だ、と慧斗は戦慄した。
「ケイトだって、“小さな共鳴石”作ってたくせに」
「術式構成が割と単純だったし。どのみち要るだろうなって」
そう言うと、ユエは加工された魔晶石をごろごろと、慧斗もそれに合わせて小さな魔晶石の数々を取り出す。
「これで。今から番号を振るから、配置を間違えないで」
「分かりました」
そう言いながら、ユエは番号の魔法を刻んでいった。番号と配置が揃っていれば、あとは兎人族だけで発破ができる。そういう触媒として調整した。
“爆晄石”と“小さな共鳴石”を袋に詰め、「ありがとうございます」と短く礼を言うと、一枚だけ紙きれを残しハウリアたちは音もなく出ていった。
あとに残されたのは、帝城内外のトラップの所在が書かれたもの。これに従って工作をしていけば、ハウリアの想定通りの行動ができるだろう。よくもまあこの数日で、ここまで調べ上げることができたものだ。
「じゃ、あとはこれに従ってトラップ破壊だな。俺が裏で嗅ぎ回って、色々やっとく」
「私も手伝う」
「お前じゃ過剰火力じゃね?」
「大丈夫。調整する」
「本当に大丈夫だろうな……」
魔法技能そのものはともかく、慧斗にとってユエの魔法は、いささか過剰火力のきらいがある。トラップだけ破壊するつもりで、帝城の一角を爆砕――なんてことにならなきゃいいけどな、と慧斗は失礼な不安を抱いた。
「ふむ、今夜がパーティーというのは幸いじゃの。人が固まれば、色々動きやすいのじゃ」
「最終的にはパーティー会場に集まることになりそうですね。……上手くいくでしょうか?」
「やるしかない。ここがハウリアと、亜人族の分岐点だ」
不安げなシアに対し、慧斗はこきりと首を鳴らしながら答えた。事と次第によっては、帝国と人間族の分岐点にもなり得る。
装備:
小さな共鳴石
魔晶石に魔法を付与し、互いの声を届ける
原理は共鳴石と同じだが、音声が小さいため隠密行動に向く。