ありふれた癌   作:Matto

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12:後始末

「何てことをしてくれるんですか、ケイトさんっ!」

 

 

 その夜。逃げ帰るように大使館に戻ってきた一同の中で、リリアーナが真っ先に口を開いた。

 

 

「いやーいやー穏便に収まってよかったですね、はっはっは」

「どの辺が穏便!? 大事だって鈴でも分かるよっ!?」

 

 

 貼り付けた笑みで白々しく言い放つ慧斗。皇太子バイアスを含むパーティー参加者の過半数が死亡し、複数の軍施設が破壊され、帝国は大慌てで奴隷解放の布告とその補填の段取りを進めている。どう考えても穏便な決着ではなかった。

 

 

「この後の調整が大変なんですよ!? どうしてくれるんですか!!」

「でも、リリアーナ様も手伝ってくれるって言ったじゃないですか」

「こんな大事件は想定していませんっ!!」

「それはまあ、そうでしょうね……」

 

 

 怒髪天を衝かんばかりのリリアーナの剣幕に、さすがの慧斗も言い返せるほど厚顔ではいられなかった。リリアーナが想定していたのは、せいぜい兎人族の奪還のための裏工作を握り潰す程度で、間違ってもこんな大規模テロの後始末ではない。

 

 

「ん。ちょっとどきどきした」

「やっぱりユエさんも噛んでたんですね!」

「結果オーライ。民間人の被害は出さなかった」

「全然オーライじゃありませんっ!!」

 

 

 そんな二人を横目に、ユエが少し興奮した様子を見せていた。この少女は、慧斗以上に帝都や臣民に対して無関心だ。その気になれば触媒による遠隔爆破に頼らず、自ら市街地の攻撃まで参加してそうで危なかったな、と慧斗は失礼なことを考えた。

 

 

「まぁ、リリィがあんなろくでなしに嫁がなくて済んだのは良かったけどぉ……」

「まぁ……それは、そうだな……」

 

 

 天之河と谷口は、まだバイアスのことが引っかかっているらしい。皇室として品性の欠片もない輩だったが、ああした凄惨な死を迎えるべき悪党だったのか、どうか。

 

 

「お前ら、奴のこと何も知らなかったろ」

「あんなの一目で分かるよ! 気に入った女の人を、とっかえひっかえしてる女の敵だって!」

「真相はそれ以下だったりするが」

「穂崎、何か知っていたのか!?」

「秘密でーす」

 

 

 天之河の追及を、慧斗は適当にはぐらかした。まさか「反抗的な女を凌辱して屈服させるのが趣味の女の敵でした」などと明かすわけにはいかない。

 

 

「はぁ……とにかく、王国も帝国の決定を支持し、国内の亜人奴隷を解放するよう働きかける――ということでよろしいですね?」

「本当ですか!?」

「それでお願いします。念のため、フューレンにも冒険者ギルドを通じて連絡しておきますが」

「……お願いします……」

「ありがとうございます、リリィ!」

 

 

 すっかり疲れた表情を見せるリリアーナに、シアは思い切り抱き着いた。そんな不敬を誰も咎めない程度には、それぞれの意味で疲弊していた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 翌朝、偶然リリアーナに遭遇した慧斗は、「少し話が」と促されるがままに別室に入った。

 

 

「――……ありがとうございます」

「何ですか、藪から棒に」

 

 

 大方ギルドへの連絡関係だろう、と踏んでいた慧斗は、予想外の言葉に目をぱちくりさせた。

 

 

「……少なくとも、あなたのお陰で……女としての幸せは、捨てずに済みました」

「実行犯は奴らなんですけど……まあいいか。()()が帝位を継ぐようじゃ、今後の王国との関係も危ういところだったでしょうし」

 

 

 これだけ派手な損害を被り、さらに亜人奴隷という労働力を失った帝国は、王国と同程度の窮地に陥っている。つまり空白になった皇太子との結婚どころではなく、それぞれの復興に尽力しなければならない状況だ。何より、あのバイアスが仮に生き延びていたとして、そんな窮状を適切に理解できる脳味噌があったとは考え難い。

 

 

「……しばらくは、帝国と協力し、対魔人戦線を維持します。その間に、あなた方は残りの神代魔法を集め――邪神との、戦いを」

「分かりました」

 

 

 紆余曲折あったが、ここまでは既定路線だ。形がどうあれ帝国との協力関係が結べる今、課題が増えたわけではない。ここから先は、慧斗たちの戦いに懸かっている。

 

 

「……もし……」

「?」

「もし、すべての事が済んだら……あなたは、どうなさるのですか?」

 

 

 リリアーナの問いに、慧斗は一瞬だけ息を呑んだ。

 

 

「……先日語った通り、優先順位があります。一番は生徒を送り届けること。次にユエの人生を解放すること。シアやティオは、自動的に元の生活に戻ることができるでしょう。リリアーナ様と王国はしばらく苦境が続きますが……いずれ魔人族も牙を折り、停戦協定を結ぶことも可能でしょう」

「あなたは?」

 

 

 リリアーナの決定的な詰問に、慧斗はしばらく沈黙した。――内心ではずっと、目を背けてきたことだった。

 

 

「――……()()()で、後始末をしてきます。俺のせいで死んだ生徒がいる。助けられなかった生徒もいる。これから殺す生徒もいる。その家族全員へ――謝罪をしてきます。そのけじめは、つけないと」

「そんな……あなたの責任では、決して……」

「俺が教会との交渉を持ちました。生徒たちが戦う未来を決定しました。だったら最後までケツ拭くのが、俺の責任です」

 

 

 庇おうとするリリアーナを振り切り、慧斗は言い切った。

 どれだけ目を背けても、決して逃げられない。この魂に、文字通り刻んでしまったから。

 清水の死を。檜山の死を。南雲の死を。魔物たちの死を。獣たちの死を。兵士たちの死を。魔人たちの死を――その全員が、慧斗の()()から彼を見ている。

 見られている。見られている。見られている。見られている見られている見られている見られている見られている見られている見られている見られている見られている見られている。

 

 

「――……それが、終わったら……もしも、将来を選ぶことができたら……

 王国に留まってくれることは、できますか」

 

 

 リリアーナの絞り出すような問いに、慧斗は初めて目を背けた。

 

 

「……今のは聞かなかったことにします」

「ケイトさん……! 私は……」

「それ以上言わないでください。これ以上あなたを失望させたくないし、したくない」

 

 

 リリアーナの追及を、慧斗は強引に遮った。

 この人とはもう、住む世界が違う。かつても、今も、そしてこれからも。同じであってはいけないのだ。

 

 

「俺はもう、正真正銘の化物です。帰るべき場所なんてない。行くべき場所なんてない。生涯を彷徨い続ける、永遠の不死者(ノスフェラトゥ)。俺はもう、そういうものなんです」

 

 

 慧斗の()()でうごめき、彼を見つめ続ける無数の目が、その幸福を許さない。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 夜中に突然叩き起こされ、亜人奴隷の解放と即日送還という大騒ぎから未だ立ち直れない、帝都の昼下がり。

 

 

『……また君は、無茶を言ってくれるね……』

「ちゃっかり人のランクを操作してた奴が何言ってやがる」

 

 

 慧斗は帝都ギルド本部に赴き、連絡用魔導具(アーティファクト)を借りてフューレン支部長イルワと通信していた。ギルドでも大混乱の最中に突然現れ、「フューレンの支部長と話したいから連絡させてくれ」と半ば強引に魔導具(アーティファクト)を奪い取られた、目の前のギルドマスター:ゼスト・ロータスも渋い顔をしている。

 

 

『君も知っての通り、奴隷市場は決して小さくないんだ。その大部分が、亜人族と言っても過言ではない。それがまるごと取引禁止となると……』

「帝国はもう布告を出した。王国も支持する予定だ。放っておいても、自然消滅する」

『闇オークションの拡大と引き換えにね』

「――だろうな」

 

 

 すべての亜人奴隷の解放――ハウリアたちはそれを成し遂げたと考えているだろうが、実際に完遂される日は来ないだろう。いつの世も、倫理道徳を無視した好事家はいるものだ。そしてそういう輩に限って、法の網を掻い潜り、あの手この手で掌中に収めようとする。

 天網恢恢疎にして漏らさず――そんなものは嘘っぱちだ。どれだけ公正に厳正に取り締まろうとも、必ずそれを犯す者が現れる。未来永劫、尽きることなく。

 

 

『正義の光が強いほど、悪の闇は濃く深くなる。私たちは、まさにその転換点にいるわけだ』

「こればっかりは、どうしようもない。歴史ってのは血で血を塗り潰し、新しい色に見せかけた同じ色の繰り返しだ」

『その立会人として、何か弁明はあるかい?』

「連中がやりすぎた。俺のせいじゃない」

『いけしゃあしゃあと……』

 

 

 あくまでしらばっくれる慧斗だが、誘致したのも協力したのも事実だ。物的証拠が挙がれば、絞首刑どころでは済まされない。

 

 

『まぁ、いい。いずれ避けられない流れだったということにしておこう。

 ――ところで、神山との連絡が取れていないと、各地の教会から苦情が挙がっているそうなんだ。何か知ってるかい?』

「何かやらかした前提で訊くのやめてくんないかな」

『どうせやらかしたんだろう?』

「三分の一くらいは」

 

 

 慧斗は空とぼけた。侵攻を目論んでいたのも事実だし、実際に壊滅させたのも事実だが、あそこまで破壊的な被害を与える想定は誰にもなかった。

 

 

『で、どう処理すべきかな? 君を槍玉に挙げて、それで各地の不満が収まると思うかい?』

「欠片も。何だったら今の方が健全まである」

『ほぅ……神山で、何か裏があったと?』

「生臭共の巣窟だった。()()()()も、嘘と傲慢まみれだ」

『……何だって……!?』

 

 

 意図的にぼかした慧斗の説明に、イルワは驚愕の声を上げた。流石、頭の回る男は話が早くて済む。言葉の裏側を――すなわちエヒト神そのものに対する疑念を、素早く感じ取ったのだ。目の前の本部長ゼストも同じような表情を浮かべている。

 

 

「これ以上深いことは伝えられない。――何とか、始末をつける。それまであんたたちは、民衆と社会を守っていてくれ」

 

 

 彼らにできることは多くない。この世界の未来は、自分たちに懸かっている――それを改めて感じながら、慧斗は通信を切った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 帝都中の亜人奴隷を掻き集め、それを運搬するには、膨大な数の馬車が必要となる。当然、その御者も、道中の食糧等々も。

 それらはすべて亜人たちに与えることになり、運搬にかかる一切に帝国関係者を関わらせないことにした。馬車はそのままフェアベルゲンが接収、馬の()()も亜人族の取り扱いとなる。これらは、すべてリリアーナを通じた慧斗の発案だった。こんな一方的な意見のごり押しは、彼とハウリア氏族の繋がりを示す立派な状況証拠だが、しかし物証が出ない以上、帝国重鎮も思い切った態度を取ることができなかった。帝国にとっては、代価どころかフェアベルゲンの情報収集さえできない莫大な損失となるが、賠償金替わりと思えば安いものだろう。

 手枷足枷に首輪を外され、ようやく自由を実感した亜人たちによる大行列が、フェアベルゲンの樹海に到着するまでに、丸三日を要した。

 

 

「……またお前た――うおぉぉ!? どうなってるんだぁ!?」

「俺もよく分からん」

「それでいいのかてめぇ」

 

 

 それを出迎えたのは、虎人戦士団ギル率いるフェアベルゲン第二警備隊である。もはや三度目ともなれば、お互い慣れたもの――と厚顔に振舞えるのは、慧斗の方だけだった。何しろ先の襲撃で捕縛された数よりも、遥かに多くの同胞たちが帰ってきたのだ。虎人戦士団も驚きや喜びを通り越して、白昼夢でも見ているかのような錯覚に襲われた。

 そんな慧斗の姿を見ながら、両手を拘束されたガハルドが呆れていた。大胆なのか、厚顔なのか、それとも何も考えていないだけなのか。多くの人間を――主に挑戦者として――見てきた彼でも、ちょっとよく分からない人物だった。

 

 

「まぁこういうこったから、さっさと案内して!」

「お、おぅ! 皆喜ぶぞ!」

 

 

 慧斗の呼びかけに、虎人戦士団は急いで伝令を飛ばした。もともと樹海に棲む亜人たち、道案内など必要ない。久々の故郷に、元奴隷たちは恐る恐る歩みを進めた。

 未だ立て直しも完了していない、痛ましい姿の故郷に、多くの元奴隷たちが心を痛めた。だが、最も深刻な人的被害が、今この瞬間にほぼ解消された。深い霧を払うフェアドレン水晶の結界の中で、亜人たちは――フェアベルゲン側の生き残りも、元奴隷たちも――夢でも見ているような心地だった。

 

 

「……ザック? ザックかい……?」

 

 

 未だ困惑から抜け出せない亜人たちの中で、犬人族の中年女性が、恐る恐る前に進み出た。もう失ったものと諦めていたはずの我が子を見つけると、少年もまた駆け出した。

 

 

「母さん!」

「ザック!」

 

 

 親子の感動の再会――それを皮切りに、亜人たちは歓喜に包まれた。家族が、友人が、恋人が帰ってきた。また逢うことができた。歓喜の声が、フェアベルゲンの大森林を揺らした。

 

 

「――見えるか、皇帝陛下」

()()()()()

「……ちっ。食えねえおっさんだ」

 

 

 慧斗の出鼻を挫いたガハルドの言葉に、彼は閉口した。決して弁論に長けている彼ではないが、しかし機先を制されたのはこれが初めてだった。

 家族や同胞との再会に喜びを分かち合う――それは、人間族でも容易く共感できる感情だろう。だがその光景から、ガハルドは意図的に目を背けている。()()()()()()()()()、目を背け続けている。亜人族への差別感情、奴隷を取り上げられた不満、生活が変動する不安――それらが燻っていると、己が身で代弁しているわけだ。……それはそれで、ひとつの誠意なのかも知れない。

 そんな二人の元に、長老衆の一人アルフレリックが進み出た。

 

 

「少年よ、こんな形で再会するとはな」

「お出迎えどうも」

「大体の事情はカムから聞いている。俄かには信じられない事ではあるが、どうやら本当に同胞たちは解放されたようだ。

 おそらく今、私たちは歴史的な瞬間に立ち会っているのだろう。まずは、フェアベルゲンを代表して礼を言わせてもらう」

「え、割と暗い未来だよ」

「なに?」

 

 

 喜色を隠し切れないアルフレリックだったが、釘を刺すような慧斗の言葉に目の色を変えた。

 

 

「ハウリア共がだーいぶ無茶したせいで、帝国内の反感はものすごく高まってる。そこのガハルド皇帝陛下の顔みればわかるだろう? このおっさんの治世が続く限りは、この状況が守られると思っていいが――いずれ時間とともに崩壊するのは目に見えている。あるいは、国家転覆という形で爆発するかもしれん。このおっさんは、それを容認する治世を敷いてきたからな」

「それは――」

 

 

 思わずガハルドを見やったアルフレリックに対し、当のガハルドはふんと鼻を鳴らすだけだった。

 帝国側からの働きかけではない。政治交渉の成果ではない。ハウリア氏族による、一方的な暴力的政治活動(テロル)によるものだ。帝国側としては、いきなり便利な()()を取り上げられたも同然だろう。その反感も、いずれ時とともに融和する――などという期待は、しない方がいいだろう。どんな形で発現し、どんな被害をもたらすか、それは誰にも分からない。

 差別が根絶された社会を、慧斗は知らない。燻り続けるものが、あるいは反転したものが、鉄風雷火となって飛び交う世界からやってきた人間だ。

 

 

「歴史的な転換点であることは間違いない。だがそれが、好転か暗転かは分からない。予断を許さない状況だ。

 ゆえに、せいぜい備えろ。次が生じたとき、誰かが助けてくれる保証なんてない」

 

 

 ゆえに慧斗は、警告を残す以外の方法を知らない。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 中央樹の一角『長老の間』にて、長老衆と慧斗たち、そしてガハルドが対面していた。

 

 

「ふん。よくも一人でのこのこと来られたものだな。貴様は我らの怨敵だぞ。まさか、生きて帰れるとは思っていないだろうな?」

 

 

 虎人族のゼルが、不遜な態度を崩さないガハルドを憎らしげに睨んだ。今にも飛び掛かり、その爪牙で八つ裂きにしそうな気迫だ。手枷を嵌められている今なら――という眼光を浴びせられても、当のガハルドはふんと鼻を鳴らすだけだった。

 

 

「はぁ? 思っているに決まっているだろう。まさか、本気で俺を殺せると思ってやしないだろうな。だとしたら、フェアベルゲンの頭はとんだ阿呆ということになるぞ?」

「なんだと、貴様!」

「ゼル、よせ。気持ちはわかるがな」

 

 

 激昂するゼルを、アルフレリックが抑える。彼は憤怒の遣りどころを失い、だんと円卓に拳を叩きつけた。

 

 

「ガハルドがここに来たのは、我らにハウリア氏族の成した事と誓約の効力を証明するためだ。それ以上でも以下でもない。

 ここで殺してしまっては、ハウリア氏族が身命を賭した意味がなくなってしまう」

「『殺しちゃいけない』ってのが約束だ。このおっさんの首が繋がってないと、それこそ全面戦争に発展する」

「くっ……」

 

 

 付け加えられた慧斗の諭しに、長老衆はぎりぎりと歯噛みしながらも、誰もガハルドに手を出さなかった。

 そして改めて、ガハルドは長老衆を前に、件の誓約を言い放った。その態度には、言葉ほどに亜人共(フェアベルゲン)への敗北感を滲ませていない。我々帝国が負けたのはハウリア氏族であって、お前たち亜人族ではない――そんな意思を言外に滲ませるガハルドの態度に、長老衆は露ほども達成感を得られなかった。

 ともかく、これでハウリア氏族との約束は達成だ。やれやれと慧斗は肩の力を抜いて立ち上がると、ガハルドの襟首を掴んだ。

 

 

「――よし、あんたもういいぞ。さっさと帰れ」

「あ?」

 

 

 思わず、色々なものが剥がれ落ちて素っ頓狂な声を上げるガハルド。長老衆も目を点にしている。

 

 

「ユエ、()()()

「ん」

 

 

 唯一その意を汲んだユエが、光の膜を作り出す。その先にぼんやりと映る景色は、見覚えのある帝城の一角。ずるずると引き摺る慧斗に、ガハルドはようやく目の色を変えた。

 

 

「お、おい! まさか、本当にこのまま送り帰す気かっ! ちょっと待て、折角フェアベルゲンまで来たってのにっ、色々知りたいことがっ! それにお前のことも――って離せ! こら、てめぇ! 俺は皇帝だぞ! 引き摺るんじゃねぇよ!」

「だからこそだよ。我儘言ってないで、いち早くご政務に戻っていただかないとね。リリアーナ様との会談もあるんだから」

「あの姫さん放り出してる奴が言えた資格じゃねぇだろ!」

「帝都内での身辺警護は大使館とおたくらの責任なのでー」

 

 

 白々しいことを言いながら、慧斗はずるずるとガハルドを引き摺り、光の膜へと押し込んだ。その態度に、もはや皇帝に対する敬意は欠片もない。

 

 

「この野郎がぁぁぁ――!」

 

 

 憎らしげな残響とともに、皇帝ガハルドは光の向こうに消えた。それを見届けると、ユエは光の膜を消失させる。

 

 

「よし。これで面倒事が減った」

「ぐー」

「……つくづく、敵に回したくないな……」

 

 

 まるでごみ処理でも済ませたかのようにぱんぱんと手を叩く慧斗と、反論ひとつ挙げずサムズアップするユエに、長老衆はただただ閉口するしかなかった。

 

 

 

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