住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep14 ドキドキ同棲生活

 そうして俺とフラウの『バレたら(色んな意味で)終わり! ドキドキ同棲生活!』が始まった訳だが……。

 

「おい創! これはなんだ!? 薄い板の中に人が……人がいっぱい入っている!」

 

「それはテレビ。人が入っているんじゃなくて、映像を映す機械だ。テレビを見る時は部屋を明るくして、テレビから離れて見てね」

 

「キミが何を言っているのか一つも分からないが凄いな! 魔法なのか!?」

 

「あー、似たような物だな」

 

 高度に発達した科学は魔法と見分けがつかないと、どこかの誰かが言っていた気がする。俺にとってはテレビもスマホも魔法と変わらないぐらい不思議なアイテムだ。

 

 アレどうやって動いてるの?

 一生掛かっても理解できる気がしない。

 

「よく分からないが凄いな!」

 

 俺の言葉を適当に流し、興味津々でテレビにかじりつくフラウ。

 

 現在放送している番組は朝の情報ニュースバラエティ。どこそこのお店が今人気と女子アナが言っていた。そんな内容を、しっぽをぶんぶん振りながら見つめるフラウであるが、数秒もするとその表情が曇り始める。

 

「どうした?」

 

「こいつら何言っているのか分からん」

 

 そりゃそうだ。

 現在俺とフラウが会話できるのは、俺が着用している言語理解の魔道具のおかげ。

 

「ならこれ付けてみるか? テレビ相手に効果あるのかは知らないけど」

 

 チョーカーを外して渡すと、フラウはウキウキしながら装着。容姿も相まって完全にペットの様相である。絶対に失礼なので口にはしないけど、とても可愛らしい。

 

 俺がサディストの変態ならリードを付けたくなる感じだ。

 わんわん、って言わせたい。

 いや、狐だからこんこんか?

 

「あーあー、ちゃんと通じるか?」

 

「あぁ、理解できる」

 

「よしっ!」

 

 俺とコミュニケーション可能なことを確認すると、彼女はふんすっと鼻息荒くテレビに向き直ってウォッチング再開。

 

 果たしてその効果の程は……シナシナと萎れていくしっぽを見れば、言葉にせずとも一目瞭然であった。

 

(文字に対して言語理解の力が働かなかった時点で予想はしていたけど、やっぱり無機物相手だと無理なのか)

 

 推論を立てるとすれば、おそらくこの魔道具は『言語理解』ではなく『意思疎通』を可能にすると言った能力なのだろう。言語を理解するというのはあくまでも意思疎通の過程――副次的効果と考えれば合点がいく。

 

「何もわからなかった……」

 

「こればっかりは仕方ないな」

 

 しょんぼりするフラウ。

 この獣人、本当に感情表現豊かだな。

 

 どこかの愛しい後輩は『感情豊か』でこそあるが『表現』自体は苦手なので、足して割ったらいい感じになりそう。

 

「まぁ、仕方がない。それに今の私には暇な時間が潰したくなるほどあるんだ。これを機に、この国の言葉を覚えるとするさ。それまでは手助けの程よろしく頼む」

 

「あぁ、そう言う事ならもちろん」

 

 まっすぐな視線に、胸中で感嘆の息を零す。

 この状況で見せる向上心は、尊敬に値する。

 

 ――或いは、言葉を覚えるというのが目的なのか。

 

(……はぁ。何を考えているんだ。俺が彼女を信用しなくて、一体だれが信用する? 手を差し伸べると決めたなら、疑うな)

 

 どれだけ格好を付けても胸中に浮かぶ猜疑心。

 それをぐっと飲み込むのと同時、フラウのお腹が『ぐぅ』と空腹を訴えた。

 

「す、すまんっ」

 

「いや、そう言えば朝ごはんまだだっけ? 霜月さんが来るのは明日だし……」

 

「私は何でもいいぞ? 昨日のふわふわのパンでもいい!」

 

「悪い、昨日食べたので全部だ」

 

「ぐぬぬっ」

 

 シオシオと萎れるしっぽ。

 余程パンが気に入ったらしい。

 

「……仕方ない。たまには自分で作ってみるか」

 

 そう言って俺は、久しぶりの料理に挑戦するのであった。

 

 

  §

 

 

「……黒いな」

 

「ごめんちゃい」

 

 三十分後。テーブルに並んでいたのは失敗に失敗を重ねた料理たちだった。

 

 見た目からして酷い有様。

 普段最高級料理(by霜月さん)を味わっている身からすると、穴があったら入りたい気持ちになる。

 

 料理って思ってた以上に難しいね。

 料理男子がモテる理由が分かった気がする。

 

「因みにこれは何を作ったつもりなんだ?」

 

「オムライスです」

 

「それは難しい料理だったりするのだろうか?」

 

「比較的簡単な部類ですね」

 

「……なるほど」

 

 じっ、と黒いオムライスを見つめるフラウ。

 

「す、すまん。やっぱりこれは止めておこう。すぐに外で何か買ってくるから、それはキッチンの方に戻して――」

 

「バカか。そんな勿体ないことしない。創が作ったのなら食うさ」

 

 フラウはスプーンを手に取ると、黒いオムライスを一口。

 身体に悪そうなそれを口に放り込み、もぐもぐごっくん。

 

「……ふっ」

 

「え?」

 

「ふふっ、ふふふっ」

 

 一口食べた後、彼女は口元を抑えながらくすくすと笑い、それから一緒に提供していた水をがぶがぶと飲み干してから告げた。

 

「マズいな!」

 

「そこは美味しいって言ってくれる流れじゃないの~?」

 

「ふふっ、マズいものはマズいから仕方がないだろう? これは……穀物の上に(とり)の卵を焼いたものか? よくここまで失敗できるな!」

 

「そこまで言わんでも……」

 

「創も食べてみろって!」

 

 言われて俺もぱくっ。

 ……苦っ!?

 何だこれくっそ苦い!

 

 堪らず自分の分の水をがぶがぶ。

 

「……っぷはぁ! マズい!」

 

「だろう? 火力が強すぎるんだ。もっと弱火からじっくりと焼いて行くのが正解なんじゃないか?」

 

「だな。間違いない」

 

 何て話している間も、フラウは黒焦げオムライスをぱくぱく。

 

「いや……無理しない方がいいんじゃないか……?」

 

「先ほども言っただろう? そんな勿体ないことしないと。それに、慣れない人間が頑張って作ったんだ。それを残すようなことはしない」

 

「でもマズいし……」

 

「ふっ、次上手くやればいいだけの話だ」

 

 かっけぇな、この人。

 霜月さんや友部さんに通ずるものを感じる。

 思えばフラウも記憶は無いが推定既婚者。

 結婚をすると人は皆格好よくなるのだろうか?

 

 いや、格好いい人だから結婚すると言った方が正しいか。

 

「……なるほど。そう言う物か」

 

「そう言う物だ」

 

 小さく頷き合い、俺たちはオムライスをパクり。

 うん、やっぱりくそマズい。

 今度霜月さんが来た時に、少し料理を教えてもらうとしよう。

 

 

  §

 

 

 食事を終えたら、遅ればせながら我が家を案内。

 我が家には使っていない部屋がいくつかあったので、フラウにはその一室に住んでもらうことにした。広くは無いが狭くもない。至って平均的だ。

 

「私はこの『オシイレ』というところでもいいが?」

 

 ドラ〇もんかよ。

 と、思いつつ却下。

 彼女には出来るだけストレスなく過ごしてもらいたい。

 

 次に洗面所や風呂、トイレの使い方などをレクチャー。

 

 それらが終わってから、ふと気付く。

 

「服も買わなきゃだな」

 

「それは……その、出来れば頼む。匿って貰っている身の上で贅沢な話かもしれないが、やはり男と同じ服を着回すのは……女として抵抗がある。あと下着も」

 

 間違いないね。

 彼女は十七歳のお年頃。

 色々と必要になるのだろう。

 

「……まぁ、通販で買うか」

 

「『ツウハン』?」

 

「そそ。……せっかくだし、一緒に見ながら注文するか」

 

 俺はパソコンを立ち上げ、大手通販サイトのページを開く。

 そこで女性物の服や下着のページを表示させ、フラウと一緒に買い物に勤しむ。

 

「これ! このデスベアー(・・・・・)みたいな絵が入った下着がいい!」

 

 クマさんイラストの下着を選択するフラウ。

 デスベアーって何?

 とても怖い雰囲気がするのだけど。

 

 そんな思いは、しかし楽しそうにしっぽを揺らすフラウを見て口にしないのだった。

 

 

  §

 

 

 結局その日は俺が近所の個人商店まで冷凍食品を購入しに走り、昼食と夕食を済ませ――翌日の昼。

 

「それじゃあフラウ。俺は今からとても重要な話し合いを行わなければならない。一生のお願いだから静かにしていて欲しい」

 

「出会って二日の奴に一生のお願いなどと馬鹿なのか? ――と聞きたいが、昨日一日キミを観察して、キミが相応以上の馬鹿であることは理解している為、その願いはしかと聞き届けよう」

 

「なんで罵倒されたの? ねぇ、なんで今罵倒されたの?」

 

「それで、相手は誰なんだ?」

 

「えっと……憧れの人というか、好きな人というか……」

 

「……ふっ、青春だな」

 

「異世界にもあるんだ、青春って概念」

 

 とかなんとか思いつつ、俺は憧れの人――のの猫と通話を始めるのであった。

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