住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep24 緊急事態は突然に

「……居ねぇか」

 

 カラスが押し入れの戸を開けると、そこには誰の姿もなかった。

 彼は僅かに鼻を擦った後、小さく息を吐いて追って部屋に入って来たキツツキに肩をすくめてから問いかける。

 

「そっちは?」

 

「いや、人が隠れられそうな場所はあらかた探したけど居なかったよ。その様子じゃカラスの方も?」

 

「あぁ、悪いな。どうやらお前の推測通りエアコンは付けっぱなしにしてただけで、俺の勘違いだったらしい」

 

「別に謝るな。カラスのその慎重な性格はお前の美点なんだからよ」

 

「はんっ、臭い台詞吐くんじゃねぇ。まぁいい。兎に角さっさと金目の物の捜索に戻るぞ。幸い、ここは相馬の部屋だろうし、何かしらあるだろ」

 

 そう言って創の部屋を物色しだす二人の男を、私はベランダに干されていた布団の下から覗いていた。見つかるのも時間の問題と判断した私は、隠れている場所を移動しておいたのだ。

 

 相手は金目の物を捜していることを考えれば、ベランダに出て来ることは無いだろう。故に、こうして隠れ潜んでいれば彼らをやり過ごすことは難しくないだろうが……問題が一点。

 

(ぁ、暑い、暑い暑い暑い暑い暑いっ! なんだこの国は!? あの『えあこん』とかいう魔道具が無ければまともに生活することもままならないじゃないか!?)

 

 ただでさえ高い気温に加えて、干してある布団の熱と自身の体毛が一気に身体の温度を上げていく。生物としての体温調節など無意味に思える程の熱に、脳が茹ってくる。

 

(死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ! 早く帰れ! 頼むから! 早く、早く早く早く――!!)

 

 するとそんな願いが通じたのか。

 

「チッ、この部屋には何もねぇな」

 

「鍵のかかった引き出しも見つけたけど、中身は雑誌の切り抜きだしな。なんでこんなもんを後生大事にしまってるんだか」

 

「おい、別の部屋に行くぞ」

 

「わ、わかった」

 

 そう言って創の部屋を後にするカラスとキツツキ。

 これを受け、フラウは即座に窓に張り付き、そっと開ける。

 瞬間、エアコンで冷やされていた室内の空気が流れ出て来て、何とか九死に一生を得た。

 

(オーガの群れに追われた時より死を感じたぞ……)

 

 そうして涼んでいる間も男たちは家の中を物色し、しかし目的のものが見つからないからか次第に声を荒げ始める。

 

「くそっ、どうなってんだ!」

 

「カラス、この家何もないぜ!? まさか入る家間違えたんじゃ……」

 

「んな訳ないだろ。今朝この家から相馬が出て行ったのを一緒に見ただろうが!」

 

「なら、なんで……」

 

「考えられる可能性は、あいつが高価なものに全く興味が無いか……或いは、ここは奴が一人暮らししてる家みたいだからな。実家の方なら置いてるかもしれねぇ」

 

「だったらそっちに――」

 

「……いや、そっちの下調べはしていない。後日出直すにしてもこの部屋を見れば警戒してまず不可能。……はぁ、最悪だ。最悪だが、まぁ仕方がない。少し早いが引き上げるぞ」

 

「わ、分かった」

 

 カラスとキツツキが帰ることを聞き、私はそっと胸をなで下ろす。部屋の中は滅茶苦茶に荒らされたが、これに関しては一緒に片付けるとしよう。何はともあれ今は熱中症を回避できたことを喜ぶべきだ。

 

 何て、楽観視したのが間違いだったのかもしれない。

 

 ――ガチャ、と玄関の鍵が開く。

 

 ゆっくりと扉が開き——聞こえてきたのは私も聞いたことのある声。

 

「主さまが帰ってくる前に、今日は一層美味い飯作ってやらないとなぁ~」

 

 ベランダに居る都合、その姿を確認することはできないが創が雇っているお手伝いさん――『シモツキ』で間違いないだろう。

 

(マズい――)

 

 と思ったのも束の間。

 

「……え、誰だお前ら——っ!?」

 

「そりゃこっちの台詞だが……丁度いい。二、三聞きたいことがあるから、大人しくしてもらおうか」

 

「……っ!」

 

 ドタバタと暴れる音が数秒響き、大人しくなると同時にカラスの乾いた声が聞こえる。

 

「はっ、ヤンママ家に連れ込むとか相馬もヤることヤってんじゃねぇか。そういや、人妻趣味って一時期噂になってたなぁ……」

 

「か、カラスどうするんだ?」

 

「あぁ? そりゃあ金目の物がある場所を吐いてもらうに決まってんだろ。あぁ、安心しろよ。俺たちだって強殺はしたくねぇ。だけど、あんまり口が堅いようじゃ死なない程度に皮を剝いでいくから……利口にした方が賢明だぜ? 不倫妻さんよぉ」

 

 ゲスな言葉を受け、私の心は冷え切っていく。

 静かに、冷静に――私はこれからどう動くべきかを思案する。

 

 双剣を両手に構えながら。

 そして――。

 

 

   §

 

 

 のの猫とコボルト・キングの戦闘は、想像以上の激戦を繰り広げていた。

 

 魔速型で加速し、一切速度を緩めることなく細剣を振るうのの猫に対し、コボルト・キングは筋力で対抗。ジェネラルの時に振るっていたバトルアックスを片手に、大立ち回りを繰り返す。

 

(戦況は拮抗している……ように見えるが、のの猫の方が僅かに優勢か)

 

 実力の問題というより、相性の問題だ。

 バトルアックスはその特性上、攻撃するにせよ防御するにせよ大きな隙が生じる。斧を振る速度自体は早いが、予備動作が分かりやすく魔速型ののの猫が相手では、例え天地がひっくり返ろうと直撃することは無いだろう。

 

 ただそれでも身体を覆う筋肉や毛皮がのの猫の攻撃の威力を削いでおり、致命傷を与えることが出来ない。

 

 結果として、眼前の激戦が生まれていた。

 

(……まぁ、それも直ぐに決着がつくだろうが)

 

 俺の推測通り、一分もしないうちに大振りの攻撃を回避したのの猫が、魔速型の最高速を生かして突貫。コボルト・キングの頭蓋を貫いて討伐を成し遂げた。

 

:すげぇええええ!

:くーっそかっこいー!

:魔速型ってマジで動画映えするよなww

:マジ堪らん♡♡

:猫ちゃんLove……

 

「わかる」

 

:草

:後方腕組彼氏面やめろ定期

:彼氏じゃなくて師匠なもよう

:何でもいいけど後方腕組やめろww

:ガチで腕組みながら見てる奴があるかww

 

 コメントを横目に、激しく肩で息をするのの猫を見つめる。彼女は今まさに自分が討伐したコボルト・キングの魔石を回収しているところ。

 

 疲れは見えるが、怪我はない。

 のの猫の実力を思えば当然だろう。

 

(当然だが……話に聞いていた以上に種族進化した直後のモンスターは強力だったな……)

 

 通常種のコボルト・キングであれば、今の彼女なら容易に討伐しただろう。それこそ肩で息をすることも無かったはずだ。俺はそれほどまでにのの猫の実力を買っている。

 

「どうだった!? ……あ、どうでしたかにゃ?」

 

「とってつけたような『にゃ』がとても可愛いです」

 

「そうじゃなくて! って言うか、とってつけたって言わないで!」

 

「見惚れるような、素晴らしい戦いでしたよ。コメント欄も大絶賛です」

 

「ほ、ほんと!?」

 

「えぇ、ただ反省点があるとすれば戦いに集中し過ぎて周囲に対する警戒がおろそかになっていた点と、攻撃パターンの分析を進めるために『意図して攻撃を引き出す』という事をしなかった点、あとは——」

 

「……まだあるの!?」

 

「まだまだありますよ」

 

 答えると、あからさまに肩を落とす猫ちゃん。

 可愛い。

 

「それってつまり、全然だめってことにゃ?」

 

「いやいや、素晴らしい戦いだったにゃー」

 

「にゃ~!? もう何言ってるか分からないにゃ!」

 

「うーん、にゃんと言えばいいか……」

 

 逡巡した後、自分の考えを口にする。

 

「俺は、完璧な戦闘なんてないと考えています。どれだけ上手く立ち回れたとしても、一つの怪我も無く勝てたとしても、どこかに必ず反省点がある、と」

 

「にゃるほど?」

 

「なので戦闘が終われば振り返って、反省点を模索して——より理想の完璧な戦いができるように目指します。ただ、それはそれとしてその未完成な戦闘に対して評価もします。先程の猫ちゃんの戦闘は、紛れもなく素晴らしかった。反省点を述べたのは、褒める点が多すぎて挙げられなかったからです」

 

「……んむぅ」

 

 どこか不満そうに口をへの字に曲げつつも、一応は納得した様子ののの猫。彼女は「言いたいことは分かったけど」と前置きしてから、俺を見つめて問うた。

 

「じゃあさっきの戦い、何が一番良かった?」

 

「猫ちゃんが世界一可愛いのが良かったです」

 

「それ戦いと関係ないにゃー!!」

 

 うがー! と怒りながら猫パンチを繰り出してくる彼女に苦笑しつつ、俺たちは配信を締めに掛かるのだった。

 

:こいつら絶対付き合ってるだろ

:全世界にいちゃいちゃを晒すカップル

:さっきのコンビプレー見てたらくっそお似合いなんだよなぁ

:のの猫ガチ恋勢ワイ、嫉妬でハゲそう

:もうハゲてるくせに

:……先輩いちゃいちゃしすぎ

 

 最後、何か見覚えのある雰囲気のコメントが流れた気がしたけど、きっと気のせいだろう。

 

 気のせいだろうけど、今度七規に会いに行こう。そうしよう。

 

 胸中で固く決意しつつ、配信は終わりに近づく。

 

「それじゃ、切りもいいから今日はこの辺で! 因みに相馬さんはこれからも配信やっていくにゃ?」

 

「配信に関してはまだ決めていませんが、Twitterは始めました。あまりツイートすることも無いと思いますが、出来るだけ動かせるよう頑張りますので、フォローのほどよろしくお願いします」

 

:おっけー

:あれ、影†猫アカウントなかったっけ?

:↑公然の秘密なんだよきっと。

:アカウント見に行ったらフォローしてる相手がのの猫だけで草

:↑ほんと隠す気あんのかこいつ

:おつかれ~

:面白かったww

:魔速型くっそカッコよかったぜい!

:ワイも探索者目指してみよかな~

 

「「それじゃ、本日はありがとうございました〜」」

 

 そう言って、配信は終了。

 笹木さんが合図したのを確認して、俺は安堵の息を吐いた。

 

「お疲れ、相馬さん」

 

「猫ちゃんもお疲れ様です。今回はいろいろとありがとうございました。笹木さんも――」

 

 と、二人に感謝と労いの言葉を掛けて、今後の活動に関して相談していると……不意にスマホが震えた。

 

 彼女さんから配信の感想でも届いたかな? と思いメッセージに目をやると、それは霜月さんからの連絡。

 

(なんだろう? 面白かったとかかな?)

 

 なんて思いながらスマホを確認し――。

 

【たすけて】

 

 一瞬で心が凍り付いた。

 

「……すみません。急ぎの用事が出来ました。お話はまた今度でお願いします」

 

「ぁ、え? 師匠――」

 

 のの猫の声を聞き終える前に、俺は自らに身体強化を施し大地を砕く勢いで駆け出した。

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