住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが? 作:赤月ヤモリ
自宅に到着し、フラウを案内。
両親が帰宅するのを待ってから彼女を紹介すると、二人は戸惑いこそしたが特に何かを言うことなく、フラウが泊まることを許可した。
曰く『創が大丈夫って言うなら大丈夫だろ』。
とのこと。
これには付き添ってくれていた霜月さんも困惑し「ほ、本当にいいんですか?」と尋ねてしまうほどだった。最終的には「私がおかしいのか……?」と頭を抱えて帰ってしまわれたので申し訳ないことをしてしまった。
その後は四人で夕食を摂る。
子供の頃からの見慣れた光景にフラウが居るというのは何とも新鮮な光景だ。彼女はフォークとスプーンを使って母お手製の肉じゃがをぱくぱくと食べていた。
「……む、なんだ?」
「いや、何でも。料理口に合うか?」
「あぁ、美味い。創の家ではシモツキの作り置きか、『れーとーしょくひん』という食べ物しかなかったからな。それも十分美味かったが、出来立ての飯は久しぶりだ」
ニコニコしながら食事するフラウ。
そんな彼女を見て、母が微笑ましそうに口元を緩めたかと思うと、咎めるような視線が俺に飛んできた。ごめんって。
「お代わりたくさんあるから、遠慮なく食べてね」
「うちの息子が迷惑かけていたようで、すまないな」
母さんと父さんの言葉に、フラウはにこにこと笑みを浮かべながら返し、夕食時は終始和やかな空気で流れていった。
§
夕食を終えると、風呂に入って就寝となるのだが……そこで問題が発生した。
「創の部屋、掃除してないから埃塗れよ?」
「マジか」
三船ダンジョンを攻略してすぐの頃は、休日になると実家に顔を出していたが、ここ最近は色々と忙しくて三週間ほど帰っていない。放任主義な二人がわざわざ掃除するわけもなく……確認すると俺のベッドにはそこそこ埃が積もっていた。
寝れない訳ではないけれど、寝たい状況でもない。
「来客用の布団は一つしかないし……仕方ない。俺はソファーで寝るから、フラウは布団を使ってくれ」
「いいのか? 私は地べたでも構わないが」
「俺が構うって、それは」
「そうか……なら言葉に甘えるとしよう」
結果、フラウは客間に布団を敷いて寝ることになり、俺はリビングのソファーに身を預ける事となった。寝る場所が決まればさっさと就寝準備に取り掛かる。
父、母の順で風呂に入り、次に俺。最後にフラウという流れ。
本来ならお客さんである彼女に一番風呂を譲るべきなのだろうが、彼女のその種族上、入浴後は体毛が物凄いことになるから仕方がない。シャワーだけで済ますにしても、人間よりは掃除が大変なことになるので、必然的に最後だった。
「……ふぅ、上がったぞ」
バスタオルで身体の水気を拭いながら出てきたフラウを、俺はソファーに座りながら迎える。彼女は視線をきょろきょろと動かしてから小首をかしげた。
「ご両親は?」
「もう寝た。二人とも早寝早起きなんだよ」
時刻は十一時過ぎ。
明日は土曜日なので、大半の大人は夜遅くまで起きているかもしれないが、両親は生活リズムを崩したくないと言って休日だろうと平日と同じ時間に起床と就寝を行っているのだ。
俺には絶対できないな。
フラウは隣に腰掛けると、俺が見ていた深夜バラエティに視線を向ける。
深夜特有の下ネタトークが流れるが、フラウはテレビの音声を理解できないので特に気まずくなることはなかった。
「分からないのに面白いか?」
「普通だな。ただ、何となくエロいことを話しているのは分かる」
「そう言うのって世界共通なのか……?」
「後は……たまに知っている単語が出てくると、勉強の成果が実感できて面白い」
「なるほど。勉強熱心だな」
でも少し分かる気がする。
俺も友部さんから教えてもらった内容が学校の授業で出てきたら嬉しくなる。友部さんに対する好感度がカンストからのオーバーフローするのを感じる。好き好き大好き。最近会えていないの、割と本気で悲しい。松本さんとも会えていないの、とても寂しい。
(……いかん、このままじゃ人妻との不倫疑惑が本当になってしまう)
俺は不倫なんてしない。
彼女たちが不幸になるようなことは絶対にしない。
ただし、彼女たちが何かの原因で離婚した場合は全力で求婚するだけだ。
最低かな? 最低だね(自問自答)。
特に七規に求婚されてる現状でこんなこと考えてるのが一番最低だ。
「……なんで落ち込んでいるんだ?」
「ちょっと自己嫌悪。思春期男子は色々あるんだよ」
「そ、そうか。そうだな。そういえば確かに、キミが
「……何か勘違いしてない?」
「勘違い? ……別に自らを慰める行為は生物としておかしなことではないだろう」
「そりゃそうだけど、そうじゃなくて……」
「みな迄言うな。そう言う事なら私は席を外そう。おやすみ、創。後で換気しておくんだぞ」
「だから違うって……」
変な勘違いをしたままフラウは客間へと去っていった。
§
私、フラウは客間に準備された布団の上に座り、時計を眺める。時刻は現在深夜一時を十分ほど過ぎた頃。これを確認して、私は持って来ていた双剣を腰に装着し、布団を持って部屋を出た。
廊下に出ると、リビングの方角からはテレビの音。
(ふむ、本当にそう言った意味ではなかったのか)
なんて苦笑しつつ、私はリビングのドアを開けた。
するとソファーに腰掛けながら『しんやあにめ』を鑑賞していた創が驚いた様子でこちらを見た。
「どうした、こんな夜中に」
「少し眠れなくてな。一緒に寝ていいか?」
「い、一緒に? ……まぁ、フラウがいいなら俺は構わないが」
素っ頓狂な声を上げた創であるが、そこに嫌悪感は感じられない。
警戒心も、敵意も、何もかも存在しない。
強いて言うとすれば、一瞬私の胸元へと向けられた男子特有の視線ぐらいなもの。
これに気付かないふりをしつつ、私は首肯を返す。
「ならソファーの横に布団を敷かせてもらうとしよう」
そんな光景を、どこかそわそわした様子で眺めつつ、しかし意識的に気にしないようにして『しんやあにめ』に視線を戻す創。
その不器用な姿は年相応で、私は内心苦笑する。
「そう言えば双剣も持ってきたのか。寝るのに邪魔じゃないのか?」
その言葉に、私は一瞬ドキリとする。
が、感情を表に出すことは無く、冷静に、淡々と準備していた言葉を口にした。
「あぁ、何だろうな。これがないと落ち着かないというか、安心しないというか」
「あ~、なるへそ。そう言う系か」
「そう言う系、とは?」
「両親に聞いた話だが、俺も昔お気に入りのタオルを肌身離さず持っていたらしい。取り上げると泣きじゃくって大変だったとか。要はそう言う事だろ? 分かる分かる」
生温かい目を向けられて、どこか釈然としない。
まるで子ども扱いされている様で……というか、間違いなくされている。
「違う、これはきっと……あれだ。戦士としての本能的な……」
「戦士って……記憶ないんだろ?」
「それはそうだが……ぐぬぬ」
馬鹿だな~、と暢気に笑う創。
そこに、私を疑っている様子は欠片もない。
今の言葉だって、私が『記憶を失っている』と嘘を吐いていると捉えてもおかしくはないはずだ。否、むしろそれこそが正しいと言えるだろう。
しかし彼はまったく気にした様子もなく笑うだけ。
その姿を確認すると、私は徐に立ち上がってキッチンへ。
「寝る前に水を貰って構わないか?」
「あぁ。コップは好きなの使ってくれていいから」
「ありがとう」
そう答えて私はコップに水を入れて一気に飲み干し喉を潤すと、自分の布団へと戻るその足で創の背後へ近付く。
彼は特に気にしない。
私が背後に立っているにもかかわらず、『しんやあにめ』を見て暢気に笑っている。
(……すまない)
胸中で小さく呟くと、私は腰に下げた双剣を引き抜き――躊躇なく彼の首筋へと振り下ろした。