住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep11 嵐の前は静からしい。

 翌朝、目が覚めると霜月さんの姿があった。

 キッチンの方からいい匂いが漂っているので朝食を作りに来てくれたのだろう。

 

「おはようございます」

 

「はよ、ご主人様」

 

「そのご主人様って言うのやめてください。むず痒いです」

 

「んー、じゃあ(あるじ)さま?」

 

「あんま変わってねぇ〜」

 

「ははっ、まぁ気にすんなって! 別に誰が聞いてる訳でもないんだし! それより顔洗ってこい。目ヤニついてんぞ〜」

 

「ういっす」

 

 洗顔と歯磨きを終えてリビングに戻ると、彼女は何かを咥えながら料理を並べていた。

 

 あの白い筒みたいなの……え、タバコ?

 

「あの霜月さん。タバコはちょっと……」

 

「ん? あぁこれ飴だよ飴。だいぶ前に辞めたんだが、たまに口が寂しくてな。流石に他人の、それも未成年の家で吸わねーよ」

 

「そうでしたか」

 

「それより飯食ってくれよ! 個人的に南野さんにも負けてないと思ってるんだぜ?」

 

 そう言われて並べられた料理をちらりと見れば、ご飯に味噌汁、焼き魚。海苔とそれに浸ける醤油まであるじゃないか。

 

「めっちゃ和風!」

 

「あれ、パンとかのが良かった?」

 

「いえ、ただ珍しかっただけで……いただきます!」

 

 まずは魚をぱくり。

 ……美味い。

 脂もノっているし身もホロホロ。

 味噌汁もご飯もインスタントではなくすごく美味しい。

 海苔もご飯とたいへんマッチしている。

 

「……どうだ?」

 

「毎日俺の味噌汁作って欲しいです……っ!」

 

「そりゃよかった。でも私は結婚してるからなぁ〜悪ぃなぁ〜」

 

「きぃ〜旦那さんが羨ましい〜」

 

「へへっ、そこまで言われると悪い気はしねぇな。学校の弁当も準備してるから楽しみにしてろよ」

 

「弁当! やったぁ!」

 

 心の底から歓喜しつつ、俺は朝食を堪能。

 制服に着替えて、カバンと弁当を持ちいざ出発! という所で、スマホが着信音を鳴らす。

 

「……」

 

「出ねーの?」

 

「だって、この番号……探索者ギルドからなんですもん」

 

「それがどうかしたのか?」

 

「この時間に電話ってことはまず間違いなくお仕事の依頼なんですよね……そしてほぼ確実に学校には間に合わない」

 

「あ〜そりゃ大変だな」

 

「でも、俺がやらないと割とガチで三船町の危機という……」

 

 嫌だなぁ。

 面倒くさいなぁ。

 でも、見過ごせないよなぁ。

 

 などとうだうだしていると、霜月さんに背中を叩かれた。

 

「ならサクッとやって来い! 私の弁当はダンジョンの中だろうと絶品だからそれ食って頑張れ!」

 

「……っ! はい!」

 

 どうしよう、霜月さんの善性が眩しすぎる。

 彼女を守るために仕事頑張ろうとすら思えてくる。

 

 俺は意を決して電話に出た。

 

「もしもし?」

 

『あ、やっと出た! 相馬くん! 大変なの! 計測器が突然大きな反応をキャッチして……これ、多分ドラゴン(・・・・)かも!』

 

「まじですか〜?」

 

 松本さんから告げられた言葉に俺はがっくしと肩を落とすのだった。

 

 

  §

 

 

 私、のの猫は渋谷ダンジョン十階層にて、カメラに向かって笑みを浮かべた。

 

『飼い主のみんな、こんねこー。今日はダンジョンの十階層に来てるよー』

 

:こんねこ〜

:こんねこねこ〜

:復帰早い!

:ほんと無事でよかったよ〜

:レイジとやった女だw

:ねこちゃんおかえり

:今日は浅め?

:レイジハーレム

:あれ、一人でカメラ?

:笹木さんは?

 

『笹木さんはまだ怪我が治ってないんだよね。でも、すぐ治るから心配しないで〜って言ってたから大丈夫! 今日は復帰戦だし一人だしって事で十階層をブラブラ無双しようかなーって』

 

:よかった

:笹木さん無事で安心

:無双は草

:まぁ、実際余裕やろ

:レイジのち〇ぽ気持ちよすぎだろ!

:↑滑ってんぞ

:構うな

:自治厨わらわらで草

:猫ちゃん無理だけはしないでね

:今日もかわいい

 

『みんな、ありがと〜!』

 

 面倒なコメントで一部荒れているが、許容範囲。

 レイジは確かに尊敬に足る探索者ではあるが、それとこれとは別問題。

 

 それよりも私はある人からのコメントを待ちつつ十階層のモンスターを切り刻んでいく。

 

:サラマンダー瞬殺で草

:キャーかっこかわいいぃぃ〜!!

:Cランクなら当然やろな

:このモンスター、ドラゴンみたいでかっこいい

:実際こいつの上位種がドラゴンって言われてるしな

 

 ダンジョン攻略が始まると、先程までの荒らしが少なくなり、比較的落ち着いたコメントが流れ始める。

 

『確かにドラゴンに似てるね〜。まぁ、本物はホントのホントにレベルが違うんだけど』

 

:あっ(察し)

:そう言えば泣きながら逃げたことあったね

:伝説の鼻水配信の話はやめるんだ!(URL www.mytube......)

:うらるサンクス

:かわいい

:URL見た瞬間露骨に顔顰めてて草

 

『だってぇ〜』

 

 それは今から二年ほど前のこと。

 当時Cランクになりたての私は初めて訪れた五十六階層でレッドドラゴンに遭遇した。

 

 ドラゴンは特殊なモンスターで階層を移動することがある。

 

 本来の生息地は八十階層近くなので、当然Cランクの私が勝てる訳もなく……涙と鼻水、あとちょっと漏らしながら敗走したという苦い過去があるのだ。

 

『ドラゴンはそれこそAランク探索者がパーティー組んでようやく勝てるかどうかのモンスターだし、生きてるだけラッキーって感じだね〜』

 

 視聴者に説明しつつ、私はスパチャ欄を確認。

 いくつかスパチャは飛んでいるが、そこに見なれた指示厨の名前は無い。

 

 ……影猫さん。

 

 自称Aランクの視聴者である。

 普通ならそんな人の言うことなど信じない。

 

 けれど、影猫さんは世間にあまり知られていないゴブリンロードの倒し方を正確に理解していた。

 

 あの後レイジさんに確認も取ったから間違いない。

 

 つまり、そんな彼の指示を受ければ私も更に強くなれる……そう、思ったのに。

 

 見慣れた長文赤スパは流れない。

 

 おそらく彼(彼女かもしれないが)は、私のガチ恋勢だ。

 だから、もしかすればレイジさんとの一件で離れたのかもしれない。

 

 悔しい。

 やっと、強くなる道を見つけたのに。

 

 それに……これまでのことを謝りたかった。

 あの絶望的な状況で、適切な指示をしてくれた影猫さんに……。

 

 何とか誤解を解きたいけど、露骨に否定すればレイジさんのファンに燃やされる+さらにあらぬ噂を流されるかもしれない。

 

 どうすればいいの。

 影猫さん。

 

『一生、最推しなんでしょ?』

 

 そんな呟きはマイクにも乗らず、ダンジョンの中に消えていった。

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