住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep31 水瀬家にご相談

『渋谷ダンジョンが狙われる』

 

 そんなフラウの話を耳にした俺は、すぐに七規のおじい様へと連絡を取った。元々、本日会う予定だったので、その場にフラウも連れて行くことになり――時間になると周りに見られないようフラウを抱えて空を移動した。

 

 水瀬家に到着して客間に通されると、おじい様が若干警戒した様子で姿を現した。

 

「……では、お聞かせ願えますか?」

 

 おそらく言いたいことはたくさんあっただろう。

 しかし彼はそれを飲み込んで耳を傾けてくれた。

 その厚意に感謝しつつ、俺は本日に至るまでのあれこれをお伝えする。

 

 三十分ほどかけて説明を終えると、彼は考え込むようにしてからゆっくりと口を開く。

 

「その、渋谷ダンジョンが狙われるという話は本当なのですか?」

 

「フラウが見た二人が、夜叉の森ダンジョンに現れた異世界人――ルナリアとテスタロッサであることは間違いないと思います。私の記憶にある姿と、フラウから聞いた特徴が一致していますので」

 

「……なるほど。では、その上で話を進めます。といっても、流石にこればかりは私の方で動いても大したことは出来ません。なので、探索者ギルド本部に連絡し――そこの彼女の存在を見せて、信じて貰うしかないでしょう」

 

 鋭い視線を受けて、畳の上で胡坐をかいていたフラウの背筋が伸びる。

 ふわふわの尻尾もピンっと伸びていて可愛い。

 緊張するケモふわとても可愛い。

 

 しかし、そんな内心はおくびにも出さず、俺はおじい様に首肯を返した。

 

「そう……ですね」

 

「おそらく、彼女の存在が露呈することを恐れているのでしょうが、逆です。存在を晒してでも伝えなければならなかったことと捉えられれば、信頼は上がる。……実際、私も多少なりとも彼女のことを信じても構わないと判断しています」

 

 それはおそらくフラウを慮った言葉だ。

 現状、フラウを不安にさせる意味は無いのだから。

 

 ただ事前に想定していた以上に、おじい様がフラウの言葉をすんなり受け入れているというのもまた事実。

 

「分かりました。それじゃあ早速ギルド本部の方へ連絡を入れたいと思います」

 

「それがよろしいですね。いつ頃になるかは分かりませんが、それでも戦争において敵の出現位置が判明しているアドバンテージは大きい」

 

「はい」

 

 俺はすぐにスマホを取り出し、狸原さんへと連絡を入れる。

 電話には出なかったので、メールで緊急の用事がある旨のメッセージを送信しておいた。

 

「そう言えば、先日の配信の方、拝見させていただきましたよ。これまで相馬さんがどのように戦っているのか、ついぞ知ることはありませんでしたが、Sランク探索者というのは凄まじいですね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「正直、アレを見た後ではいらぬことだったのではないか、とも思ったのですが……」

 

 そう言うと、おじい様は懐から黒い箱を取り出す。

 何処か既視感のある小箱――受け取って開けると、そこには予想通り『魔質増強剤』とラベリングされた注射器が二本。

 

「昨日、お会いすることが出来なかったのはそれを受け取りに行っておりました。態々私が出向く必要はなかったのですが、誠意を見せなければ相手への口止めも難しいですからね」

 

「な、なるほど……」

 

 魔質増強剤は違法薬物だ。

 口止めを行ったという事は、相手も販売先がおじい様――昨今、相馬創と関係性が噂されていた元暴力団関係者というのを理解しているのだろう。

 

 知らないところで弱みを握られ、その対処をしてくれていた彼には本当に頭が上がらない。

 

「ありがとうございます。……それと、すみません」

 

「? 何がでしょうか?」

 

「フラウのことを、秘密にしていた件に関してです」

 

「それは……気にすることではありません。多少寂しい思いはありますが、相馬さんが考えていたであろう想定は、全くもって的を射たものですので。……と、これは少々意地悪が過ぎましたかな?」

 

 はっはっはっ、とまるでこちらの思考を読んだかのように笑うおじい様に、俺は内心で苦笑を浮かべた。

 

 亀の甲より年の劫。優秀な人が経験を積むと、凡人の頭では到底理解できない思考を行っているのだろう。将来的に七規もこうなりそうだ。

 

 すると、噂をすればなんとやら。

 

 部屋の襖がスッと開いて、黒髪無表情の美少女が顔をのぞかせた。

 

「楽しそうだけど、重要な話は終わった?」

 

 まだ狸原さんと電話をするという要件は残っているが、この場で出来る話し合いは一応終わったとみていいだろう。

 

 俺は七規が気付く前に魔質増強剤のケースを持って来ていた鞄の中へ。

 

 彼女は気付くことなく――というかその視線は俺よりもその隣で胡坐をかくフラウへと向かっていた。

 

「な、なんだろうか?」

 

「す、すみません。ただ、その……尻尾とか耳とか、本物……なんですよね?」

 

「? あぁ。触ってみるか?」

 

 ひょこひょこと尻尾を揺らしながら答えるフラウに、七規は首肯。

 おずおずと近付くと、優しく尻尾に触れる。

 

「ふわふわ……」

 

 顔はいつもの無表情だが、心地よさそうな声を上げる七規。

 そんな奇妙な姿にフラウは困惑しつつも、悪い気はしないのか尻尾がふらふらと楽しそうに揺れ、ぼふっと七規の顔面に直撃した。

 

「す、すまない」

 

「いえ、むしろありがとうございますというか何というか……せんぱい、天国はここにあったんだね」

 

「そこまで行くと変態みたいだぞ」

 

「だってぇ~」

 

 何て言いつつ、七規は尻尾を優しく撫でながらフラウと談笑を始める。

 最初は緊張した面持ちを見せていたフラウであるが、流石はコミュ強の七規。数分としないうちに二人は打ち解けており、会話に花を咲かせていた。

 

(まぁ、フラウは俺と同い年だし……そういう意味じゃ年の近い七規は安心するのかもな)

 

 などと静かに二人を観察していると――会話の内容はフラウが地球に来て以降、どう生活していたかに移り変わり……。

 

「……へぇ、せんぱいと、同居……へぇ」

 

 一瞬、空気が凍った。

 しかしフラウは細かな機微に気付かなかったのか、言葉を続ける。

 

「あぁ、最初は緊張したがこれがなかなか上手く行っていてな。楽しい日々を送っている」

 

「……へぇ」

 

 どこか照れた様子のフラウに対し、七規は瞳孔ガン開きで俺を見つめていた。おかしいな、可愛くて愛おしい大切な後輩からの熱視線というのは変わらないはずなのに、どうしてこんなに背筋が凍るのか。

 

「そっか。そっかそっか……まぁ、確かにここ最近はアピールできてなかったもんね、せんぱい」

 

「あ、いや、俺とフラウはそういう関係じゃ――」

 

「別にいいよ? 私とせんぱいは付き合ってるって訳じゃないし。怒ってない怒ってない。私はまったく怒ってない」

 

 怒ってない人はそんな風に言わないと思うんだ。

 言葉にはしないけど。

 

 すると七規はコホンと咳ばらいを入れてから、俺に提案を持ち掛けるのだった。

 

「ねぇ、せんぱい。これからせんぱいはきっと忙しくなるんだろうけど、それでも一つだけ、お願いしていい?」

 

「な、なんだ?」

 

「今度近所の神社で行われる夏祭りの日、一緒にデートしよ?」

 

「……」

 

 おう……何てことだ。

 『神社』『夏祭り』――そのワードに関連するイベントに関しては、生憎と先約がある。

 

 それ即ち我がクラスの委員長との約束だ。

 二人のうちどちらが大切かと聞かれたら、関係値の深さから七規を取る。

 しかし、約束しておきながら後からそれを反故にするのは心情的に不可能だ。

 

 結果として俺は、もじもじと上目遣いに見つめながらデートに誘ってきた七規に対し、彼女のおじいさんの前で「別の人と約束がある」と答えるのだった。

 

「せんぱいのばかー!」

 

 うがっ、と飛び掛かって来た七規をなだめるころには、狸原さんからの返事が届いていた。

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