住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

126 / 133
ep35 邂逅

 移動の途中、妙な視線が向けられているのに気付いた。

 相手は富岡さんの娘さんである沙耶さんだ。

 

 彼女は俺たちから少し離れた最後尾を歩きながら、ジッと背中を睨み付けていた。

 

 これに対し、隣を歩いていたフラウが耳打ちしてくる。

 

「創、彼女に何かしたのか」

 

「いや、初対面だし何もしてないと思うけど」

 

 首を横に振ると、沙耶さんがチッと舌打ちを零す音が聞こえてきた。おさげ髪に眼鏡と、一見して御淑やかな雰囲気を醸し出す容姿をしているのに、中身は中々に攻撃的なご様子。

 

 思えば、富岡さんや狸原さん、宮本さんと言った大人組が、少なくとも表面的には敵対心を見せなかったのに対して、彼女は終始俺とフラウに敵意を向けていた。

 

 そんなことを思い出していると足音が近付いてきて――振り返ると、苛立った表情を隠すこともなく、沙耶さんが距離を詰めていた。俺はそれとなくフラウを庇いつつ問いかける。

 

「な、なんでしょうか?」

 

 どうしよう。

 とても怖いぜ。

 

 よく考えれば、彼女は都会の人間だ。

 もしかしたらヤンキーとかそういうたぐいの人種かもしれない。

 実力的には俺の方が圧倒的に上だろうし、何があっても問題ないと理解しているはずなのに、とげとげした雰囲気の女子は、何とも恐ろしい雰囲気を放っている。

 

 ごくりと生唾を飲み込むと、沙耶さんは俺とフラウを交互に睨みながら吐き捨てた。

 

「私は、絶対に認めないから」

 

「えと……」

 

「異世界人とかよく分かんないけど、こんなモンスター……絶対に信用しない。その味方をするなら相馬創のことも信用しない」

 

「えぇ……」

 

「ふんっ」

 

 困惑する俺たちを他所に、沙耶さんは再度距離を取る。

 一体何だったのだろうと思うけど、とにかくフラウのフォローをしておこう。

 

「フラウ、気にしなくていいからな」

 

「問題ない。少し面食らったが、獣人を知らないこちらの世界からすれば、この身が異質なのは理解している。万人から好かれるとは思っていないし、それに……別に誰が敵になろうと、創が味方なら私はそれでいいからな」

 

「信頼が嬉しいね。俺は絶対にフラウの味方だよ」

 

「だといいのだがな」

 

「信じてないのかよ……」

 

「もちろん信じている。創が私の敵になることはなく、何があっても守ってくれる、と。そう……創が私の味方でもある(・・・・)ことはちゃんと理解している」

 

 その言葉に、俺は疑問符を浮かべる。

 言っていることが理解できるようでできない。

 彼女の言葉の真意が読み取れない。

 

「気にするな。創が理解する必要はないし、むしろして欲しくない話だ」

 

「ますます分からん」

 

「私は創のことを信頼している、ということさえ分かっていればいい」

 

「そ、そうか? ……分かった」

 

 彼女がそういうのなら従おう。

 周りを見ると、松本さんや宮本さん、富岡さんや沙耶さんも理解していない様子。

 ただ一人、狸原さんだけはどこか納得した様子でフラウを見つめていた。

 

 なんで俺よりフラウとの付き合いが短いくせに分かってるんだよあの人。凄すぎない?

 

 胸中で若干ショックを受けていると、会話が途切れたタイミングを見計らって富岡さんが声を掛けてきた。

 

「相馬さん、フラウさん。先程は娘が失礼しました。どうかご容赦頂けると幸いです」

 

「い、いえ。俺は気にしてませんので」

 

「私も気にしていない」

 

 俺たちの言葉に、富岡さんは安堵の笑みを見せる。

 

「寛大なお言葉、ありがとうございます。娘も、おそらく悪気あっての言葉ではないのです。その昔、私は彼女の目の前で大怪我をしてしまいました。その時、対峙したモンスターが、二足歩行の獣型だったため、似た容姿のフラウさんに拒否反応を示しているのだと思われます」

 

 そう言って、失われた左目を抑える富岡さん。

 彼はかつて、モンスターに襲われ目を負傷。

 回復が間に合わず、隻眼となっている。

 

 おそらくはその時の出来事なのだろう。

 

 二足歩行の獣で思い出すモンスターは、先日のの猫とダンジョン配信を行った際に戦ったコボルト・キングだ。言われてみればフラウと似てなくもないが、フラウの方がもっと人間らしい。身体の肉付きとか。

 

「モンスターと一緒にされるのはさすがに気に食わんな。……だが、そういうことなら仕方あるまい」

 

「いいのか?」

 

「あぁ……それに、今回私たちは『敵ではない』と伝えるためにこの場を訪れたのだ。ゆっくり誤解を解けばいいさ」

 

 確かに。

 同い年なはずなのに、どこか大人びた彼女の言葉に納得しつつ、俺たちは廊下を進んだ。

 

 

  §

 

 

 その後、エレベーターを乗って辿り着いたのは、探索者ギルド本部の最上階付近の会議室だった。

 

 部屋の中心には楕円形のテーブルが鎮座し、その周囲を高そうな椅子が囲っている。

 カーテンが開けられた窓からは東京の景色が一望できた。

 

「それではもうしばらくお待ちください。今回の話し合いにあたり、他にも数名の者に声を掛けておりますので」

 

 狸原さんの言葉を受けて、俺たちはそれぞれ椅子に腰かけ待機。

 現在同所には、俺、フラウ、松本さん、そして富岡さんと沙耶さん、狸原さんの六名が居た。先程まで同行していた宮本さんは、途中で離脱している。おそらくは狸原さんの言う声を掛けた数名の到着を待ち、ここに案内するのだろう。

 

 そうして待つこと数分。

 

 徐に会議室の扉がノックされ、宮本さんと二人の男が姿を現した。

 

「……っ」

 

 現れた男たちを見て、俺は一瞬息を飲む。

 そこにいたのは筋骨隆々の巨漢と、爽やかなイケメン。

 

 見紛うはずもない。

 彼らはこの日本でもっとも有名なAランク探索者。

 

「皆さんご存じとは思いますが、こちらAランク探索者の米山一成さんと雲龍礼司さんです。今回の話し合いは彼らも交えて行わせて頂けたらと存じます」

 

 因縁の相手、雲龍礼司がそこには居た。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。