住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep41 準備を整えて――。

 氷の足場で高速移動を開始した俺が向かったのは、東京――ではなく、シャルロッテさんの家だった。

 

 一分もかからずに上空に到着すると、身体強化を使って急降下。地面を抉りながら着地すると、間髪容れずにインターホンをプッシュした。

 

 或いはまだシャルロッテさんが帰っていない可能性も考慮したが……ほんの数秒ほどで、浴衣姿のシャルロッテさんが玄関から顔を出した。手首には祭りで購入したのかブレスレット型のサイリウムが装着されている。とてもかわいい。

 

「! 早かったわね、相馬」

 

「すみません。この後すぐに東京に向かうことになりまして……まず間違いなく戦闘が発生すると思われますので『No.1アルファ』を受け取りにきました」

 

「戦闘って……」

 

 困惑した様子で目を見開く彼女だが、俺の顔を見ると小さく首肯を返し「上がって」と言って家に招いてくれた。

 

 リビングに向かう途中で言語理解の魔道具を渡してくれる。

 その気づかいに感謝しつつ、俺は魔道具を首に装着してからリビングに入った。

 

 クラウディアさんは俺に何か世間話をしようとして――しかし、いつもと様子が違うことに気が付いたのか、言葉を引っ込める。

 

「すみません、クラウディアさん。この後すぐアルファが必要になりそうです」

 

「……わかった。相馬創さん。装着しながら調整するから、機能の説明はシャルロッテから聞いてくれる?」

 

「はい」

 

 小さく返事をしてから、俺は左腕の義手を外す。

 そして身体強化魔法を使いながら『No.1アルファ』を装着する。

 それと同時に、クラウディアさんが魔石式機構に調整を加え始め、その反対側で椅子に腰かけたシャルロッテさんが、説明書らしき文書に目を通しながらアルファの機能を伝えてくれる。

 

 大まかな内容は以前聞いたが、細かな調整後の機能や、カートリッジの残量、危険信号や、安全装置、その他諸々の重要事項が告げられる。

 

 俺は一切聞き落としが無いように頭に叩き込みながら、時たまクラウディアさんからの「指を動かしてくれる?」「ずれは感じる?」「動かしやすさに違いは?」といった質問に答える。

 

 同時進行で行なった結果、ものの十五分ほどで調整と説明は終了した。

 

「基本的には問題ない! けど、本当はもっと慎重に調整したかったし、今回はあくまでも初期設定が終わっただけっていうのを忘れないで」

 

「はい、無理はしませんし、させませんよ」

 

 ――できるだけ。という言葉は飲み込んだ。

 

 すると、右手を小さな手に包まれる。

 その手の主は当然シャルロッテさんだ。

 

 彼女は俺の手を握ると、鋭い視線で睨みながら告げた。

 

「気を付けなさいよね」

 

「はい。心配して下さり、ありがとうございます」

 

「べ、別に相馬のためじゃないんだから!」

 

 なら一体誰のためなんだい?

 とツンロリに内心ツッコミを入れようとして――その前に彼女は続けた。

 

「ななお姉ちゃんのためなんだから」

 

「……そうですね。気を付けます」

 

 俺は出来るだけ優しい笑みを浮かべながら、彼女のさらさらとしたプラチナブロンドを撫でる。擽ったそうにしつつも、しかし決して拒絶しないシャルロッテさん。

 

「私からも、気を付けてくださいね。相馬創」

 

「はい。それじゃあ、行ってきます」

 

 そう言って、俺はシュヴァルツコップ家を後にするのだった。

 

 

  §

 

 

 次に俺は我が家へと向かう。

 事前にまとめていた荷物を手に取り、中身を軽く確認。

 特に……おじい様から受け取った魔質増強剤は忘れてはならない。

 

(使わないに越したことはない。けど……)

 

 最悪を想定するならもっていかない選択肢はなかった。

 

 次に向かったのは七規の家だった。

 玄関に降り立ちインターホンを押すと、中から黒服さんが現れる。

 何度か顔を合わせたことのある人なので、特に断られることもなく家の中に入れてもらった俺は、そのままおじい様とフラウが居る広間へと向かった。

 

「むっ、創じゃないか~! 凄いぞこの家の料理は! どれも美味い!」

 

「相馬さん、お早いお迎えでしたね。まさか七規より先に帰ってくるとは思いませんでしたよ」

 

 その言葉通り、同所に七規の姿は見受けられない。

 おそらくシャルロッテさんを家まで送り届け、こちらに向かっている途中なのだろう。思えばシャルロッテさんもついさっき帰ってきたばかり、といった様相であった。

 

「……どうかしたのか?」

 

 ふと、フラウが心配そうな表情で顔を覗き込んできた。

 顔に出していたかと自省しつつ、俺は二人に先ほど狸原さんから受けた電話の内容を伝える。

 

「先ほど狸原さんから連絡がありました。渋谷ダンジョンにて異常な反応を探知したので、直ぐに来てほしいと」

 

「……異世界人、ですか?」

 

「まだわかりませんが……おそらく。だからフラウ、一緒に来てくれ」

 

「わかった」

 

 静かに頷いて立ち上がるフラウ。その瞬間、テーブルの上の刺身を一つ摘まんで口に運んだのを俺は見逃さなかった。

 

 そんなに気に入ったのだろうか?

 なら、今度高級なお寿司屋さんにでも連れていくかな、なんて思いながらも、俺は水瀬家を後にしようとして――丁度その時、玄関の戸が開いて七規が帰ってきた。

 

「ただい――って、せんぱい! デート切り上げて私に会いに……」

 

 元気だった口調は、しかし俺の表情と左腕の『No.1アルファ』を見た途端に勢いを弱め……七規の瞳が静かに見開かれる。

 

「……大丈夫、だよね? せんぱい」

 

「あぁ、大丈夫だ。絶対に帰ってくるよ」

 

 短く言葉を交わした後、俺はフラウを抱えて全身に身体強化を施すと――大きく跳躍して夏の夜空に舞い踊る。氷の足場を生成すると、スマホでマップアプリを表示させ、フラウに持ってもらう。

 

「じゃあフラウ、向かう方角がズレ始めたら教えてくれ。それまでは、全力で直進するから」

 

「わかった。任せてお――」

 

 け、と言い切る前に、俺は大きく跳躍。

 氷の足場を踏み砕きながら、全速力で東京へと向かうのだった。

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