住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep16 後輩のおじい様

「せんぱい! 大丈夫!?」

 

 松本さんに事のあらましを説明し終え、彼女がギルドに帰っていったのと入れ替わるように病室に飛び込んできたのは見慣れた後輩の姿。

 

「七規、来てくれたのか」

 

「ごめんね、遅くなって。その、せんぱいに言われた通り学校に行ってて」

 

「来てくれただけで嬉しいよ」

 

「ほんと? えへへ」

 

 照れたように頬を掻く七規だが、その表情は相変わらず動かない。

 しかしそんな無表情にも慣れてきた。

 

 何て思いながら七規と話していると、病室の扉がノックされ、一人の老人が姿を現した。

 

 年のころは六十代から七十代と言ったところか。

 紺色の着物に身を包み、白髪をオールバックに撫でつけた彼は鋭い目つきで見つめてくる。

 

 ……だれ?

 

「あの、どちらさまで?」

 

「私のおじいちゃん」

 

「七規の、おじいちゃん?」

 

 という事はつまりあれか。

 あのくそ教師共が怖がっていたヤの付くおじい様ってことか。

 

 ……なんで?

 

「相馬創さん、ですな」

 

「は、はい」

 

「私は七規の祖父の、水瀬正元(しょうげん)という者です。相馬さんのことは七規からよく伺っております」

 

「ど、どうも。相馬創です。七規さんとは学校の先輩後輩として、そして探索者の先輩後輩として仲良くさせていただいております。よろしくお願いします」

 

「えぇ、今後とも是非に」

 

 渋い声と共に何とも言えない圧をぶつけてくるおじい様。

 妙な迫力があるじゃんね。

 

「ところで本日はどのようなご用件で?」

 

「当然お見舞いに。こちらお見舞いの品です」

 

「あ、どうも」

 

 フルーツの盛り合わせを貰った。

 美味しそう。

 

「ですが、実はそれだけではなく相馬さんにお伺いしたいことがありまして」

 

「俺……私に?」

 

「えぇ、孫娘の七規のことなのですが……はっきり言って探索者としてどこまで成長するか教えていただきたい」

 

「……何故でしょう?」

 

 大体想像できるけれど念のために尋ねると、やはりと言うか何と言うかまさにその通りの言葉が返ってきた。

 

「当然、才能がなければ辞めさせるためです」

 

「おじいちゃん!」

 

「七規は黙っていなさい」

 

 おじい様の言葉に抗議する七規。

 突発的に始まった家族喧嘩に俺はどうすればいいのか困惑。

 何故人生経験の浅い高校生にこんな修羅場を与えるのか。

 

 というか、なんで今?

 俺大怪我して入院中なんだけど……あぁいや、だからか。

 

 Aランク探索者が大怪我して入院しているからこそ、聞きたいと。

 

「でも、でも……私はせんぱいと一緒に探索者をやりたい」

 

「気持ちだけではどうにもならんこともある。特に、相馬くんは日本に十人しかいないAランク探索者にして、魔窟(・・)と呼ばれる三船ダンジョンを一人で守護し続ける『三船の守護者』。半端な実力では彼の邪魔になるだけだ」

 

「……っ」

 

 魔窟?

 三船の守護者?

 初めて聞く単語ばかりでちょっと困るけど質問できる空気じゃない。

 

 おじい様に言い負かされて唇をかみしめる七規。

 その視線は縋るように俺を見つめており……。

 

「七規さんの才能ですか……ありますよ、間違いなく」

 

「せんぱい……!」

 

「七規を庇っているのではないでしょうな?」

 

「そんなことしません。それこそ命にかかわる問題ですので。私は——俺はあくまでAランク探索者の相馬創として事実をお伝えします。七規さんに才能は有ります。Cランクは確実。努力次第でBランクにも届くでしょう」

 

「Aランクには?」

 

「それはなんとも」

 

「……そうですか」

 

 顎に手を当て考え込むおじい様。

 俺に出来るのは精々この程度。

 あとはおじい様と七規の問題だ。

 

「おじいちゃん……私、頑張りたい。せんぱいの下で」

 

「……そうだな。相馬くんが育ててくれるというのであれば」

 

「……」

 

 あれ?

 これそういう話だっけ?

 いや、別に育てるのは構わないけど、聞いてないんだけど?

 

 しかも話の流れ的に新人教育の範疇を超えて、さらに上のランクに上がるために育てる感じじゃない?

 

 それって、仕事が増えるって……ことぉ?

 

「相馬さん。孫娘をよろしくお願いします」

 

「……ま、任せてください」

 

 物凄い迫力でお願いされちゃった。

 断れるわけないじゃん。

 

「やった、せんぱい! これからもよろしくね!」

 

 ぴょんぴょんと跳ねて抱き着いてくる七規。

 女の子特有の柔らかさになんかいい匂いもする。

 おまけに彼女は美少女なわけで……まぁ、いっか。

 可愛い後輩だし。

 

 自分でもチョロいと思うが、俺童貞だし仕方ないよね。

 美少女のお願いとか断れんよ。

 

「……ところで、相馬さん」

 

「はい?」

 

 七規が離れるのと同時に、おじい様が耳打ちしてくる。

 どうやら七規には聞かれたくない模様。

 

 そんな彼は懐から小さな黒いケースを取り出し、手渡してきた。

 

「これは?」

 

 受け取りつつ箱を空けると、中には注射器が二本。

 貼られているラベルには『魔質増強剤』の文字。

 

 俺は堪らず閉口した。

 

「……これ、違法薬物ですよ」

 

「当然知っています」

 

 魔質増強剤。

 所謂ドーピング剤の一種である。

 一時的に魔力を活性化させて魔力量を増加及び魔法の威力を増強させる。

 

 別にスポーツでもないのだし、危険が減るのなら歓迎すべきことだが、問題なのはこの薬の副作用。

 

 乱用すると錯乱、発狂、魔力回路の蒸発、そして最悪の場合死に至る。

 

「持ってるだけでも実刑は免れませんよ」

 

「ですが、今回の一件で大怪我をしたと聞き、居ても立っても居られなくなりました。当然使わないに越したことはありませんが……もしもの時はお役立てください」

 

「……」

 

 その言葉に、俺は反論できなかった。

 確かに今回、俺は死にかけた。

 

 もっと魔法の威力があればナイトメア・オークの討伐も楽だっただろう。

 

 『インフェルノ』一撃で倒せていれば、あれほど苦労することもなかったのだから。

 

 ……最後の手段、ね。

 

「……わかりました」

 

「よかった」

 

「え?」

 

「自分勝手ながら、私は相馬さんに死んで欲しくないのですよ。あの異常であふれる三船ダンジョンから三船町の皆を守ってくれている相馬さんにはね。言うなれば、ふぁん、というやつなのですよ。応援しています」

 

「……ありがとうございます」

 

 おじい様の言葉に、俺はなんと言えばいいのかわからず、小さくうなずくのが精々であった。大人の経験値が羨ましい限りだ。

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