住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep18 日常への帰還

 昨日書けていなかった日記を書きながらテレビを見ていると、お昼のワイドショーで探索者に関する話題が取り上げられていた。

 

『まず今話題のニュースから! なんとあのレイジさんが渋谷ダンジョン八十四階層に突入したとのことです! 先週八十三階層に突入したばかりだというのにこの速さ——専門家の道長さんはどう思いますか?』

 

 女子アナに話題を振られたのは、ぼさぼさの長い赤毛に、瓶ぶちメガネの野暮ったい印象の女性だった。

 

 紹介のフリップには『ダンジョン探索者専門家、道長』と表示されている。

 

 正直テレビ映えする容姿ではないが、彼女は気にせず眼鏡のブリッジを持ち上げ淡々と告げた。

 

『快挙、と言うのが適切でしょう。速さはもちろんのこと、八十三階層という深層でこの攻略スピードなのが異常です。しかしそれをやってのけているというあたりに雲竜礼司という人間の凄さが潜んでいるでしょう』

 

『なるほど。——世間では彼に国民栄誉賞が与えられるのでは、なんて噂されていますが、そちらはどう思いますか?』

 

『可能性に関して言えば、大いに有り得ます。このままダンジョンを完全攻略すれば世界に三人しかいないSランクの仲間入り。しかも最年少で。その偉業は後世にまで語り継がれる事でしょう』

 

 流石レイジだな。

 のの猫の件で死ぬほど嫌いだが、実力は折り紙付き。

 

 最速でダンジョンを攻略していくレイジに対して、俺は大怪我ではらわた全摘出ときた。

 

「はぁ……」

 

 大きくため息を吐くと、女子アナの声が聞こえてくる。

 

『一方で、こんなニュースも入ってきています』

 

 そうして表示されたテロップには——。

 

『【Aランク探索者、大怪我! 問われるAランクの資格】という見出しですが——こちらは先日三船町にある三船ダンジョンにてAランク探索者の少年が大怪我をしたという事に関して、探索者ギルドのAランクの選定が甘いのではないかという話題です。……道長さん。どう思いますか?』

 

『そうですね。はっきり言って、甘いと私も考えます。と言うのも、探索者は探索以上にモンスターが外に溢れないよう——つまりはデスパレードを抑える責任が与えられます。その代表と言えるAランク探索者が大怪我など、三船町に住む方々は不安で夜も眠れないでしょう。——ただ(・・)

 

 道長女史が何かを続けようとしたが、それを遮るようにゲストの芸能人が口を開く。

 

『三船町にも~! レイジさんを呼べば解決すると思うんですけどねぇ~!』

 

『はははっ、彼の唯一の欠点は一人しかいないという事だな!』

 

『この大怪我した探索者が管理する町なんて俺なら絶対いやっすね! むしろレイジが見てくれる渋谷ダンジョン付近以外に住みたくないまである!』

 

 わはは、と笑いに包まれるスタジオ。

 

 俺はそっとスマホを取り出すと、メモアプリを開くと『絶対許さないリスト』を作成。

 

「この番組に出てるメンツは絶対に許さないっ! くそっ、くそっ、あんなに頑張ったのに! 死にそうだったのにぃ!! ……うぅ」

 

 思わず涙がぽろぽろり。

 瞬間、病室の扉がノックされた。

 

「やぁ相馬くん、念のため最後にもう一度光魔法で回復を——って、ど、どうしたんだ!?」

 

 病室に現れたのは友部さん。

 はらわたを全摘出した後、再生してくれた文字通り命の恩人だ。

 

 俺は慌ててテレビを消し――。

 

「ちょ、ちょっと目にゴミが入っただけです」

 

「それは大変だ、見せるといい」

 

 言外にほっといてくれと伝えるも、彼女は優しい声色で話しかけてきた。

 

「……察してくださいよ」

 

「察してるから乗ってやっているんだろう?」

 

「……」

 

 これが亀の甲より年の劫というやつか。

 人生経験の差に涙が出そうだ。

 

「で? 凡そ想像は着くが……どうした?」

 

 彼女はベッドに腰かけ淡々と問うてくる。

 

「……いえ、ちょっとテレビで散々な言われようでして」

 

「大怪我したAランクってやつか。そのような物、気にする必要はない」

 

「無理ですよ。あんなぼろくそに言われたら」

 

「そうか。……なら、どこの誰かも知らない奴より、目の前の三船町の市民の言葉を信じるといい」

 

「……え?」

 

 顔を上げると、友部さんは柔らかい笑みを浮かべていた。

 

「私も旦那も、三船町に住んでいる。当然、キミの功績も、その身を挺して頑張ってくれていることも知っている。これでも私は感謝しているんだよ、キミに」

 

「友部さん……」

 

「他の誰が何を言ってキミを罵倒しようと、三船に住んでいる人間は皆キミのことが大好きだ。だから、改めて言おう。——他の、どーでもいい、関係ない外野の声なんか気にする必要は微塵もないのだよ。相馬創くん」

 

「……ありがとうございます」

 

「ふん」

 

 友部さんはどこか照れたように鼻を鳴らした後、回復魔法をかけてくれる。

 

 回復魔法は肉体的な怪我にしか効果はないのだけど、どこか心も癒されていくような、そんな気がした。

 

 

  §

 

 

 退院した。

 ちょっと仲良くなった友部さんともお別れである。寂しい。

 

 何ならちょっと惚れかけてた。

 でも人妻。

 悲しいね。

 

 それと俺の手術をしてくれたお医者さんが「ふぇぇ……もう歩いてるよ、あの子。一昨日まではらわたなかったんだよ?」と戦慄していたが気にしない事にする。

 

 お世話になった人に別れを告げて、いざ自宅へ——と、病院の前に見覚えのあるミニバンが止まっていた。

 

「迎えに来たわよ」

 

「松本さん!」

 

 俺は松本さんの車に揺られ自宅へと向かう。

 

「そう言えばダンジョンの様子はどうですか?」

 

「退院したばかりなのにもうダンジョンの心配? ワーカーホリックって奴?」

 

「異常が出てたら行かなきゃダメですからね。七規にはまだ早いですし」

 

「過保護ね。でも安心して。あれからダンジョンは驚くほど静か。なーんの異常も発生していないから」

 

「何も無いと、それはそれで不気味ですけどね」

 

「やっぱりワーカーホリック」

 

「やめてくださいよ」

 

 だらだら話しているとあっという間に自宅に到着。

 松本さんに別れを告げて玄関に向かうと、中から美味しそうな匂いが漂ってきた。

 

「ただいまー」

 

「おかえり主さま。ご飯にする? お風呂にする?」

 

「……『それとも』は無いんですか?」

 

 お約束を突っ込んでみると、霜月さんは一瞬ポカンとしてから歯を見せて笑った。

 

「かかっ、残念! 無いんだなこれが~! ……元気そうでなによりだよ」

 

「いやぁ、ほんと。初日から大変なところを見せてしまいすみませんでした」

 

「いーよ、別に。んじゃ飯にするから手ぇ洗ってこい」

 

「やったぁ! 霜月さんの飯だぁ!!」

 

 俺はルンルン気分で洗面所に向かうのであった。

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