住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?   作:赤月ヤモリ

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ep22 胸騒ぎ

 翌日の放課後も俺はギルドに来ていた。

 自主的にダンジョンに潜るため——ではない。

 

「え、消えた?」

 

「そうなのよ。小さかったけど、探知機が異常な魔力量を示したから電話したんだけど……一瞬で消えちゃって」

 

「他に変化は?」

 

「まったくないのよ。いったい何だったのかしら?」

 

 小首を傾げる松本さん。

 

 そう、俺が今日ギルドに来たのは仕事の依頼のため。

 何でも一階層(・・・)で異常な魔力を検知したから、すぐに来て欲しいとのこと。

 しかし電話の最中にそれが消えた(・・・)

 

 消えたのならそれでいいのだが、念のためこうしてギルドに足を運んだという訳である。

 

「可能性としては、異常を示したモンスターが転移トラップを踏んで奥の階層に転移した、とかでしょうか。以前そのようなことがあったと何かの記事で読んだ覚えがあります」

 

「それならいいんだけど……って、一階層に転移トラップなんてあったっけ?」

 

「いえ、三船ダンジョンは四階層の奥、十一階層の中間、あとは三十階層周辺にちらほらある程度です。……が、ゴブリン種の中にたまに生まれる『ゴブリンシャーマン』が仕掛けることがあると言われています」

 

「聞いたことなかった」

 

「あくまでも理論上あるというだけです。シャーマンは魔法を覚えますが、知能は普通のゴブリン同様高くありません。わざわざ直接攻撃に関係のない転移魔法を仕掛ける個体は居ないと判断されています。が——」

 

「可能性はゼロではない、と」

 

 首肯を返す。

 

「まぁ、とにかく念のため後で確認に向かっておきます」

 

「ありがとう」

 

 松本さんから感謝をいただいた丁度その時、ギルドに水瀬がやって来た。

 俺と同じく学校帰りにそのまま来たのか制服に学校指定の鞄。

 ギルドの外には友達と思しき女子の姿もあった。

 

「あれ、せんぱいだー」

 

 相も変わらず無表情な彼女は、しかし俺を見つけるなりてくてくと近付いてくる。

 その様まるで小動物のよう。

 

 ……くっそ可愛い。

 

「どうしたんだ、水瀬。ダンジョンに潜るのか?」

 

 内心悶絶しつつも尋ねる。

 出来れば今日はやめて欲しいというのが本音。

 流石にイレギュラー発生中に可愛い後輩(文字通り)をみすみす行かせるのは忍びない。

 

 実力があろうと、危険と分かっていて向かうのはただの愚行である。

 

 しかし彼女は首を横に振って、鞄の中から白い封筒を取り出した。

 

 封筒の表には——『遺書』の文字。

 

「あー、遺書ね」

 

「探索者としてやっていくなら、やっぱり必要だからねー。せんぱいも出してるの?」

 

「そりゃまぁ。自分で言うのもなんだが、俺はそこそこ稼いでるし、死ねば確実に遺産問題が発生するからな〜」

 

 遺書——それは探索者ギルドが行っているサービスのひとつである。

 

 事前にギルドに提出しておくと、探索者が亡くなった際その親族に渡してもらうことができる。

 

 弁護士や他のところに預けた遺書よりも効力が優先される為、探索者のほとんどはギルドに遺書を提出していた。と言っても、『真面目にやってる探索者』に限定されるが。

 

 高校生がバイト感覚で低階層に潜る場合などはもちろん使われない。しかし、探索者一本で生計を立てているような人間は、遺書をギルドに預けていた。

 

 気持ちを引き締める意味合いも込めて。

 

「まぁ、こんな歳から終活なんて考えたくはないけどな〜」

 

「だよねー、書き方よく分かんなかったからおじいちゃんに聞いたんだけど、途中から泣いてて私まで悲しくなったー」

 

 溺愛している孫から遺書の書き方を尋ねられたら誰だって泣くだろう。

 

 俺も水瀬から尋ねられたら泣くかもしれん。

 

「そんな訳で、はい、松本さん。よろしくおね――って泣いてる!」

 

「うぅっ! 分かってはいるけど、このサービス残酷過ぎるのよ〜!」

 

 そうして、目尻に涙を貯めながら「二人とも死なないでねぇ〜!!」と慟哭する松本さんを慰める俺と水瀬であった。

 

 

  §

 

 

 その後、水瀬は外に待たせていた女友達と隣町にカラオケへ。

 

 俺は探知機の示した異常を確認しにダンジョンへ。

 

 ……が。

 

「特に何も無かったな」

 

「どーした? 主さま」

 

 美味しい肉じゃがを頬張りながらボヤくと、対面で食事をしていた霜月さんが小首を傾げた。

 

 場所は自宅。

 時刻は夜の七時を少し過ぎた頃。

 

 普段彼女は自宅に帰ってから食事を摂るが、本日は旦那さんが出張らしく夕食を共にしている。

 

「いえ、最近ダンジョンの様子がおかしくて」

 

「そうなのか? 前より緊急の呼び出しが少なくなった〜って喜んでなかったか?」

 

「そうなんですが……」

 

 それがおかしいと思うのは職業病か。

 ほぼ毎日頻発していた異常が、あの大怪我の日以降まったくない。

 

 加えて今日の探知機の異常。

 

「いえ、神経質になり過ぎているだけかも知れません。新しい探索者の方もいらっしゃったので」

 

「あー、彼氏に言われて来たって話してた」

 

「はい。Cランクだそうですがかなりブランクがある様なので、変な事は起こらないで欲しいですね」

 

「命に関わるしな〜。そう言えば、明日レイジが生放送するって知ってるか?」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ、何でも八十五階層に到達する瞬間をDtubeとテレビで同時配信するんだってよ」

 

「さすが、人気者」

 

「もしかして主さま、レイジ嫌い?」

 

「嫌いですね」

 

「即答で草。私は結構すきだなぁ〜顔が」

 

「イケメンは滅びればいいのに」

 

「主さまも悪くないぜ? 一番はうちの旦那だけど」

 

「お熱いことで」

 

 パクパクと他所様の家庭の味を食す。

 美味い。

 ただの肉じゃがなのに何故こうも美味しいのか。

 

(……てか明日って笹木さん復活祝いでのの猫が配信する日じゃん)

 

 被っちゃうとはなんとも運が悪い。

 いや、時間をずらせば特に問題は無いか。

 

(久しぶりに、のの猫の配信見ようかな)

 

 とか何とか考えながら、俺は呑気に食事を終えるのだった。

 

 翌日、あんな事になるとは知らずに。

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